Cランク試験
次の日、朝日が昇り始めるころ、俺はサラに起こされた。試験当日の朝は緊張するかと思っていたが、目覚めは良好だ。隣で跳ね回るサラが、その緊張を感じさせないほど元気だ。
「アダス兄、早く起きるにゃあ!今日は試験日だにゃ!」
「分かった、分かった。まったく、お前は朝から元気だなぁ。」
俺はベッドから起き上がり、軽くストレッチをして身支度を整える。朝食は昨日買ったパンと果物だけにして、気持ちを集中させる。サラも同じように簡単な朝食を済ませた。肉がないのにブーブーと文句を垂れてはいたが、準備万端だ。
ギルドに向かう途中、村の広場を通る。昨日と同じく、村は賑やかで活気に満ちている。サラは相変わらず店を見回しながら歩いているが、今日は流石に俺の試験のことを気にしている様子だ。
「アダス兄、今日は絶対に合格するにゃ。ウチ、美味しいご飯を食べれることを信じてるにゃ!」
「飯の心配か!!おう、任せとけ。」
ギルドに到着すると、既に試験を受ける他の冒険者たちが集まっていた。彼らの顔には緊張の色が浮かんでいるが、俺は堂々と歩く。
試験官が登場し、試験の概要を説明し始める。
「今日のCランク試験は、指定された魔物を討伐し、その証拠を持ち帰ることです。対象の魔物は森の奥深くに生息しているグリルボア。皆さんにはこのグリルボアを倒して、その牙を持ち帰ってもらいます。制限時間は夕方です。」
グリルボアとはイノシシ系の魔物で、その肉体からとれるルビー色の肉はとても美味しい肉として有名だ。グリルボアの肉は高価で取引されることが多い。
おし、絶対肉をゲットしてやる!!
「各自、準備が整ったら森に向かって出発してください。安全を第一に考え、無理をしないように。」
試験官の言葉を受けて、俺はすぐに出発の準備を整える。サラも最後まで俺を見送ってくれる。
「アダス兄、頑張ってにゃ!ウチ、グリルボアのお肉を待ってるにゃ!」
「ははは……あ、ありがとうサラ。すぐに肉捕って戻るからな。」
俺は苦笑しながらサラに手を振り、森へと向かう。他の冒険者たちも次々と出発していくが、俺は彼らとは別のルートを取ることにした。なぜかって?そりゃあ、グリルボアを独り占めしたいし俺のチート的な能力を隠すためだ。
森に入ると、冷んやりとした空気が肌を包む。木々の間を慎重に進みながら、耳を澄まして周囲の音を確認する。森の中には様々な動物の鳴き声や風の音が混ざり合っているが、俺はそれらの音の中から特定の音を探し出す。グリルボアの唸り声だ。
まずは地面に目を凝らし、グリルボアの足跡を探す。重い体重のせいで、彼らの足跡は深く刻まれているはずだ。しばらく歩くと、やっと土に残る大きな蹄の跡を見つけた。これは間違いなくグリルボアのものだ。足跡を辿りながら、少しずつ奥へと進む。
途中、木々の間からこぼれる日差しが視界を遮ることもあるが、俺は焦らずにゆっくりと進んでいく。獣道のような場所に出ると、そこには新しい足跡が幾つも重なっていた。どうやらこの道はグリルボアが頻繁に通るルートらしい。周囲の草木も擦れた跡があり、彼らがここを通るたびに植物を押しのけて進んでいることがわかる。
耳を澄ませながらさらに進むと、ついに低い唸り声が聞こえてきた。これはグリルボアだな。音の方向に向かって慎重に進み、木陰から様子をうかがう。そこには一匹のグリルボアが立っていた。大きな体と力強い足、そして鋭い牙が特徴だ。どうやらその立派な牙を木の幹に擦り付けて研いでいるらしい。
俺は一瞬の隙も与えず、迅速に動いた。グリルボアに気づかれる前に接近し、一撃で仕留めるつもりだ。グリルボアの背後に忍び寄り、力を込めて拳を振り下ろす。
ドスッと鈍い音を響かせ、俺の拳がグリルボアの後頭部に命中した。グリルボアはその場に崩れ落ちた。
あまりに簡単すぎて拍子抜けするほどだったが、俺は慎重な男だから油断はしない。(キリリ)
周囲を確認し、他のグリルボアがいないことを確認してから、倒したグリルボアから牙を剥ぎ取る。
残るグリルボアの体は『ボックス』の中に入れた。
「うん、これで任務完了だな。肉も手に入ったし」
俺は剥ぎ取った牙を鞄にしまった。
しかし、早くすませたせいで全然時間が余ったな。
うーん。森の中を散策しながら、他の冒険者たちの様子をうかがってみるのもいいかもしれない。




