プロローグ・赤ん坊生活はじめました
俺の名前は神代速雄かみしろはやお。
しがない30歳のリーマンさ。
ある日、俺がよく遊んでいるアプリゲーム「ヒロイックオンライン」、略してヒロオンを会社のビルの屋上で遊んでいたら、突然晴れなのに雷が降って、俺は死んだ。
目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。
「あぁ?」
じんわりと汗ばむ背中が不快感を醸し出し、ここはどこだと疑問に思いながら身を起こそうとして、失敗した。
(は? はぁ!? なんだこれ、体が、くそ重い?)
頭が重すぎて持ち上がらない。
目を見開き、周囲を見渡すと、古びた木造の天井が目に入った。
どう見ても会社のビルの屋上ではない。
え、俺は会社のビルの屋上でヒロオンをしていたよな? 一体、何が? あぁ!? 雷に撃たれたかも!? 全身やけどの重症とか!?
……落ち着け、俺。
まるで筋繊維がマシュマロになってしまったみたいに動かない、しかも妙に重たい。
未知の体験のせいか、何だか息苦しさを覚えて焦りが募る。
気合を入れて身をよじる。
視線を定めることもできない俺の目に入ったのは、ハムのようにムチムチ変わっていた俺の腕。
「あぅあ?」
言葉が出なかった。
声は出るが、思った五十音を発声できない。
パニックに陥りそうになる自分を必死に抑えた。
衝撃的な事実を前にした俺は、背後から迫る、俺以外の人物に気付かなかった。
「あ、起きたのね。おはよう、アダスちゃん」
「あぅ?」
俺の視界には、見知らぬ女性。年齢は20代後半から30くらいか? 美人さんだ。柔らかい微笑みを浮かべている。
「あうあー?」(誰だ?)
「ん~? どうしたのかな~?」
俺は必死に自分の現状を説明したが、女性はニコニコ笑うだけで、何も答えてくれなかった。
不安が入り混じり、頭の中は混乱していた。
(……いや、ちょっと待て。今俺のことをアダスって呼ばなかったか?)
なるほどな、だいたいわかった。
ヒロオンの夢を見てるってことだな? こんなにリアルな夢は初めてだが、これもゲームの影響かもしれない。
ヤりすぎはいかんなうん……。
「あぅー」
俺はそう判断し、夢から覚めるのを待つことにしたが、それは叶わなかった。
「アダスちゃーん。おむつ替えましょうねー」
「あぅー!」(やめろぉ!)
俺の抵抗もむなしく、おむつを替えられた。
俺は絶望した。
俺をあやしている母親であろう女性の瞳に映った自分の姿は、赤ん坊だった。
夢じゃない……どうやら、本当に転生してしまったらしい。
俺は赤ん坊として、新しい人生を始めることになったのか?
あぁ、夢なら覚めてくれ。
「あぅー」
俺はそう願いながら、新品のおむつのゴワゴワする不快感を我慢した。これからどうすればいいのか、全くわからないまま。
それから数ヶ月が経ち、俺の現状がなんとなく把握できるようになってきた。
(どうやら俺は、アダスってヒロオンで作成したゲームキャラと名前が同じ赤ん坊みたいだ。いや、キャラそのものか?)
そして、ここはヒロオンの世界ではないこともわかった。何となく両親の会話を聞くにゲームとは違う国の名前や地名が聞こえた。それに、母親が指に魔法の光を灯してるのも見たし、父親らしき男が剣を持って外を歩いてるのを見るに、ヒロオンの世界ではないが、異世界ファンタジーは確定。
………うん。 悪くない。悪くないな。
さて、自分が赤ん坊の姿であることに驚いたなぁ。前世の記憶、30歳のオッサン人生が鮮明に頭に残って、母親の授乳とかオムツ替えはいまだに戸惑っちまう。 まぁ、それも半年も経てば慣れちまったけど。
「あぅー!」
「アダスー!おむつ替えましょうねー」
「あぁぁぁぁ!」(やめろぉぉぉぉ!)
俺の抵抗もむなしく、おむつを替えられた俺は絶望した。
「ばぶぅっ」(くそがっ)
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