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あまはし  作者: 第六感
7/8

エレベーター運行試験

私はエレベーターを待っていると、父とこんな話をしたことを思い出す。

「そこでやりたいことはできるのか?やりたいことはなんだ?」

父は私にそう言った。

やりたいことなどないと即座に返答しようかと思ったが、そういう子供じみた行動をとることは難しかった。就活真っ只中の梅雨頃のことだった。


「ペネトレートの内定については、おめでとう。お疲れ様」

実家に就活の終了を告げた。父は私をねぎらった。母より心配している様子だったので、まず父に言おうと決めていた。

「ありがとう」

しかし、といって父は言葉を続けた。

その仕事は、本当にやりたい仕事なのかということを聞かれた。面接で聞かれるようなことを言う。正直に言って私は、うんざりした気持ちになった。

「何しているところか知らないの? この会社の業績といえば月まで届くんですよ」

「そういうことじゃない」

「どういうことさ」

「やりたいことはやれるのかということを聞いているんだ」

そこで私は、どうだったかな。面接で回答したことを説明することにしたんだったかな。

「そうですね、この会社に期待することは2つあります」

「それは興味深いね」

「ペネトレートでやりたいことができることと、大人数が所属する大手であること。順番に言うと」自分がスーツをまとって面接官と会話したときのことを想起した。「私は、会社同士の契約よりも、インフラ整備に興味があり、役に立てると考えている。あまり一人でやると儲からない不採算分野について給料を得つつ活動できる分、御社、じゃなくてペネトレートが最適だと思います」

「なるほど、次は」

「また、僕は人とかかわることが得意ですが、どうしても合わない人も出てくるし、徐々に合わなくなることもあります。そのため、僕と合う人たちの事務所を探すよりも、大人数と働く方がいいんです。」

「なるほど、大人数の環境はその点でメリットがあるね」

「こういうことであったましたか?」

「いや、違う」父は目を伏せながら首をひねった。「パイロットになるのはもういいのか?」

「………」


パイロットになることもできる。役所で技官として働くこともできる。それから民間で働くこともできる。そういう道が開かれた資格を取った。険しい道だった。

UFOを動かしたくて取った資格。それが活かしきれないかもしれない。そういう現実を見つめることは大変に苦しいものだった。


そうそう、みんなにUFOパイロットになるための道を説明しなければならないね。航空宇宙資格を取ると、一年間の研修期間を経て、上記Ⅲ種の就職する道が開かれる。一年間に資格試験に合格するのは1000人未満。そこから1割程度がパイロットを養成する部署に採用される。昨年は85人だった。定員割れを起こしても、能力が足りなければ容赦なく採用人数を下回るようなところなのだ。研修が終われば、二度とこの方法で採用されることはない。


職業の位階としては、5年間は一人でUFOを動かすことはできない、5年目から特例操縦士として一人でレバーを握れるようになる。10年経てば、立派な操縦士だ。各地の港に大体12名くらい常駐する操縦士の一角を担うことになるだろう。


さて、つまり1000人の中の90人に選ばれなければならない。それが険しい道の終端にある、狭き門の正体だった。


狭き門って表現は好きだ。狭き門とは、その通れる人数のことを言っているのではない。同時にくぐることができるのは、本人ただ一人であることを言っている。志を同じくする友人は一緒にくぐれないということである。


そもそも、航空宇宙試験の受験者数は1万3,004名で合格者は1081名だった。合格率は8%となって、1000分の90すなわち9%を下回る。では、簡単な選抜になったのか?

問題は、その合格者の中から更に90人に選抜されることだ。受験者の1万3千人だって自然科学系の大学院を卒業していることが条件であるため選抜を勝ち抜いた人数なのだから、恐れ入る。つまり何のことはない、競争の連続であったということだ。それを勝ち続けることが必要で、そして、その競争に追いつけなくなってきていた。

その、私は、置いて行かれ始めた。


将来の夢を作文にする経験はだれしもあるだろう。将来は無限の可能性がある。将来というのは、無限に枝分かれした可能性の塊だ。そして、それの内の一部が閉塞していく。例えば、味覚を鍛えなかったので、シェフの道は閉ざされた。運動能力を伸ばさなかったのでスポーツ選手にはなれなくなった。そうやって、可能性は閉ざされていく。

無限の可能性というのは、一つの現在に収束する。

私は、いま、夢の終端であり、突き当りのある丁字路に立っている。


「そうだね、父さん」私は、小生意気なことを言った。面接官になぞらえるのはもうやめた。「ペネトレートに期待するのは、もう一つあるよ」

「なんだい」

「これが一番重要なんだ。これからもパイロット選抜に挑戦できること。もしダメだったときにも、行き場に困らないし、なれたときも大人数採用なのでこの会社に迷惑をかけることがない」

「…。なるほど」父は思案するように顎を撫でた。親指の腹でなぞるように一度指を滑らせた。「がんばりなさい」

そういって、くれた。


今では、僕は、あまはしを運行させている。おや、軌道エレベーターが来ましたね。じゃあ、また後で話しましょう。


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