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8.首輪の代わりだよ-あんたもいいこと言うのね-

全44話予定です


曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップ予定です(例外あり)

※特に告知していなければ毎日投稿です

「で、現在に至る、という訳さ」


 そうゼロツーはトリシャに言って聞かせた。


「さらわれた姉妹は……御免なさい、聞かない方がいいわね」


 と口にしたが、


「今も行方不明さ。多分、身売りされてるかあるいは……」


 とまで言って黙る。それ以上はお互いに想像がつく。二極化したこの世界情勢はそんな形で彼女たちに向き合っているのだ。


「それはそうと、あんた本当に自分に向けて撃ったの?」


 話題を変えようとトリシャが言うと、


「ああ、撃ったよ。それは痛かったさ、声が出ないほどには。でもな、それだけ教えられたことは絶対って事にもなる。あーしらにしてみればマスターは生きる意味なんだ。それに、三発目の弾丸であーしは一度死んだんだ。死人からしてみれば脳だけになるなんてそんなに不思議じゃあないしな」


 ――あぁ、達観しているんだな。


 トリシャは、少なくとも彼女にはゼロツーがそう見える。あれだけ[調律]だの教育だのをされ、挙句自分に向かって銃を撃つなんて、考えてみれば常軌を逸している。


 だけど。


 ではトリシャは?


 自分がまともなのか? と問われれば[ハイ]とは言い難いだろう。何せ自分も人に、カズにその身を預けた一人なのだから。


 トリシャは時々考える。


 ――カズは、彼本人は一体誰が支えるのだろう? カズの周りに支えになる人物などいるのだろうか。


 研究所の所長という、ある意味異常な空間で人の死に何度も直面し、それでも兵器となるものを開発運用し、挙句、自分たちのマスターに、ご主人様にさえなるなんて。常人では到底こなせそうにない。それでも、それが分かっていてもトリシャは依存を止められない。カズの隣に対等に立つ自信が全くないのだ。それはクリスだって、もしかしたらレイリアだって同じだろう。


「私が隣に立てればいいんだろうけど」


 ボソッとそんな独り言が口を衝く。


「何が隣に立つんだって?」


 どうやら聞こえていたらしい。


「何でもないわ。それよか、話は変わるけど本当に通信の類はないの?」


「ああ、レイドライバーの通信機器を使っても入ってこないな。今回ばかりは本当にタイムテーブル通りに進めないといけないみたいだぜ」


 同盟連合の中枢が決めたタイムテーブル。それに沿って日本への接近、攻撃、上陸、占領、撤収が行われなければならない。話ではこの上陸作戦は[漏れていない]そうだ。同盟連合の中でも一部の、それこそ中枢の人間と現場の人間くらいしか知らされていないそうだ。それは乗船している兵士にも言える。彼らは今、自分たちが何処へ向かっていて何をするのか知らされていないらしい。


「まぁ、そう言う意味では私たちは事情を知っている分まし、か」


 ――でも、近くにカズがいないのはやはり心細い。私はいつからそんなに弱くなったんだろう?


 自分でも分かっている疑問。その答えはあのテントの中からというのは分かっている。でもこうして時々浮かんでは消え、を繰り返しているのだ。


「前も言ったけど、あんた、本当に強いのね」


 ゼロツーにそう語り掛ける。


「あーし? 別に強くなんかないよ。もう既に一度死んだ人間だからな、なんだって出来るしやってやるぜ」


 今はゼロツーかとても頼もしく見える、これだけはトリシャの隠さざる本心なのだ。


「頼りにしてるわよ。そして」


「そして?」


「必ず無事にアルカテイルまで戻りましょう」


 トリシャの顔に笑みが浮かぶ。


「そうだな、マスターからも[無事に帰って来るよう]に言われてるし。まっ、もっとも帝国の、それも一般兵器なんかに負けてたまるか」


 そう言ったゼロツーの言葉はそれだけでトリシャを少しばかり安心させてくれるものに聞こえる。


「その腕時計、どんなのか知らないけど良いデザインなら貰っちゃえば? もちろん帰ってからだけど」


 そんな事をゼロツーが言う。


「え、何で?」


 と尋ねるトリシャにも少しその先の答えが分かった。


「首輪の代わりだよ。そうだろ? あんたにはあの人が必要なんだろ? 他にもライバルがいるんだろ? じゃあ素直になればいい」


 ――そうね、それがいいかも。


 トリシャは腕時計をさすりながら、


「あんたもいいこと言うのね」


 そう返していた。


全44話予定です



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