7.きみは手術を受ける事になったよ-もし、弾が入っていたら-
全44話予定です
曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップ予定です(例外あり)
※特に告知していなければ毎日投稿です
それからどれくらい経ったのだろうか、ある朝、
[これからきみは手術を受ける事になったよ]
職員の男にそう言われた。
――これから何をされるんだろう。
そう思って[手術?]と聞き返すゼロツーに、
[きみはこの身体とはおさらばする事になったんだ]
そう続けるとその男は手で器を作ってくっつけ、それを開く動作をしながら、
[まさしく脳を取り出して、脳だけになるんだ]
そう聞かされた時、不思議と反抗心は芽生えなかった。それは孤児院での[調律]が効いたのだろう。更には記憶消去術のお陰ともいえる。姉妹の事はもちろん頭にはあるが、不思議と[憎い、悔しい]という感情は湧かなかった。
カズ[たち]とはそこで知り合う事になった。
孤児院で[調律]を受けていた頃から、特定の人物の言う事は絶対に聞かなければならないという事は嫌というほど、嫌と言っても教わっていた。
先ほどの人物はカズ[たち]をゼロツーに紹介した。カズの隣にいた人物、それがクリスチャン・ガルシアである。
「あーしは何をすればいいの?」
そう聞くゼロツーに、カズはある物を持って近づいていく。
「きみの事はよく知っている。本名もね。だけど、今はきみの名前は二五四被検体、つまりは二五四号だ。こことは別のところに行けば新たに名前が割り振られる事になるだろう。だが、その前に」
カズはそう言ってゼロツーに手に持っていたものを渡す。
「これは?」
そう尋ねた記憶がある。渡されたもの、それはオートマチックの軍用拳銃だ。
――これ、は?
「この中には実弾が入っているかもしれないし、入っていないかもしれない。それはオレたちしか知らない。装弾数は全部で三発だ。もし実弾だった場合、それだけあればオレたちに致命傷を与える事が出来る。三発全てが実弾だったら施設からの逃亡も、もしかしたら可能かもしれない。だが、きみは[調律]を受けてここにいる。オレたちの命令には絶対服従してもらわないといけない。そこで、だ」
そこまで言うとゼロツーに渡した拳銃を一旦受け取ってコッキングしてもう一度渡す。
「今、ここで現実から、オレたちから逃げないという意思を示してほしいんだ。そして死ぬ覚悟がある、とも。初めの二発は自分の両脚を、そして最後の三発目は自分の口を狙って撃つんだ。出来る?」
そう言ったカズの声はかなり真剣だったことを覚えている。
――逃げられないように、両脚を撃てって事なんだな。
ゼロツーは電極が付けられたまま虚ろな目で銃をしばらく眺めていた。この男の言う通り、実弾だった場合、上手くいけば三人を行動不能にすることが出来る。扉の鍵はかかっていない事は既に分かっている。何故なら半分空いているから。
――これは何かの試験なの、か?
そう思ってもみたが、カズたちは無言のまま立ってこちらを見ている。先ほど説明していた男もカズの傍らで立ってこちらを見ている。誰も銃を構えたりしない。
――これを使えば……。
一旦はその虚ろな瞳を傍らで立っている三人に向けた。銃口は下げたままだ。銃口を彼らに向けようとしたのだが、頭の中で何かが邪魔をする。銃を[向けてはならない][してはならない]と頭の中で繰り返し[自分の声]で囁かれるのだ。
そんな[自分の声]に導かれるように、次に考える時にはゼロツーは銃口を自分の右太ももに当てていた。
そして、
[バンッ]
音がしたが、脚は無事だった。そして間髪入れずに左太ももに銃口を向けて、
[バーン]
銃弾は貫通こそしなかったが、確かに発射された。激痛で声が出なかった。思わずその痛みでうずくまる。しかしお姉座りになりながらも、血だまりが出来たその場所にへたり込みながらも両手で三発目を、硝煙の残る銃口を自分の口に咥えた。
――もし、弾が入っていたら、これで楽になれるのかな。
そう思ったゼロツーは、泣いていた。それは痛みから来るものではない、たった一度だけ、たった一度彼女が願った、掴みかけた自由への渇望、そこから来るものだった。
[バンッ]
引き金を引いたが、弾は出てこなかった。空砲とはいえ口の中が煙たかった。思わずその硝煙でむせる。
「直ぐに止血を。そのまま[準備]だ」
クリスチャンと呼ばれた男が傍らにいた人間に指示する。そして直ぐに表れた別の人間が、撃った左脚の治療をしていた。そのまま担架に乗せられてある部屋へと連れて行かれた。
そこでゼロツーはあとから追ってきたカズに、
「よくやってくれたね。これできみは[こちら側]の人間だ。さっき言ったけどこれからきみは[モノ]になるんだ。そして軍隊で活躍してもらうよ」
そう言われた言葉に、
「はい、マスター……」
そう応えたのが自分の口で喋った最後の言葉だった。
全44話予定です