4.この仕組みは一体誰が考えたのだろうか-まるで首輪ね-
全44話予定です
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この仕組みは一体誰が考えたのだろうか。
カズが中心的な役割をしているのだろうが、もしかしたら軍部が離反を恐れて強制した、とも思える。パイロットスーツはそれだけの拘束力があるし、それを他人に見せつける事で、ある意味[見世物]として扱われているのだ。
そこに、この腕時計である。
それは、一度腕時計を嵌める事で、カギを持つ人間に次に会うまでパイロットスーツを脱ぐ事が出来ない、という意味を持つのだ。
だが、トリシャはそうと知っていて自分からためらうことなく嵌めたのである。
――まるで首輪ね、飼い主がペットに付けるように。ご主人様が従者に付けるように。
そんな腕時計をトリシャは自ら付けた。それはある意味彼女の中で[スイッチ]が入ったようにも感じられたのである。
――貴方とつながっていられる。
そうトリシャは感じた。だからこそ、次にその[ご主人様]に会うまで外せないその時計を自分からしたのだから。
もちろんゼロツーにもその事は言ってある。
彼女には、
[あーしが聞いてたのとちょっと違って見えるな、今のあんたは]
と言われた。それはそうだ、あのテントの中で緊急のオペを受けた時、クリスと一緒に[儀式]をした時からトリシャの一番は自分でなくなってしまったのだから。一番は他にいて、自分はその一番に頼る存在。一番だった自分の背負っていた何かまで一緒に預けてしまったのである。
だから、その話をした時に、
[笑ってくれていいわ]
と返したのだから。
だが、
「あん時言ったろ? 躰が無いあーしが言うのもなんだけど、あんたは自分の力で歩けるじゃあないか。想い人の傍についていられるだろ? 躰のないあーしなんかには、今どんなに願ったって出来ない事なんだぜって」
そんな話を、ちょっと前の思い出話をゼロツーとしていた。
ここは船室の中だ。そしてパイロットであるトリシャには個室が与えられている。これは戦場の船乗りにしてみれば破格の待遇なのだ。少尉といえばかろうじて士官に該当はするもののいわゆる下士官である。そんな身分の人間が個室、である。何故ならここは旅客船ではないのだ。
だが、それを口にするものは一人もいなかった。何故なら、そういう扱いである、と徹底されていたのもあるが、それ以外は普通の士官と何ら変わりない扱いだからだ。ただ[機密保持の観点]から個室が与えられている、そう伝わっているのだ。
ちなみに、カズはレイリアと二人部屋である。
「あんたの事、もう少し教えてくれない?」
トリシャは自分の過去を少し話したあとにゼロツーにそう言う。
「あーし? ああいいぜ。あんたの話を聞いておいてあーしだけダンマリってのはフェアじゃあないからな」
そう言ってゼロツーはゆっくりと身の上話をし始める。もちろんカズにはあらかじめ許可は取ってある。トリシャだってそうだ。
それはこの船に乗り込むのよりもっと前、ゼロツーと初めて対面した時に全体会合の際[それぞれのパイロットとサブプロセッサーはもし機会があればお互いに話をするといい。その許可は出すから]と言われていたのだ。
ゼロツーは三人姉妹の長女だった。両親とも戦争で失くしている。そんな小さかった三人はスラムで暮らしていた。
そう言う意味では境遇はレイリアに似ているのかも知れない。
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