3.思ったより暑いわね-まぁ、そうボヤくなよ-
全44話予定です
曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップ予定です(例外あり)
※特に告知していなければ毎日投稿です
各船団はそれぞれに空母群と合流し、一路日本近海を目指していた。
「思ったより暑いわね」
トリシャがそう呟く。
彼女が受け持つ佐世保は、トラック諸島から向けてちょうど一番大陸寄りに進まないといけない。大陸に近いという事は、それだけ警戒が厳しいという事を意味している。
[どの航路を取るのですか?]
合流した時に旗艦の艦長に挨拶した際聞いた事を思い出す。
[太平洋上を真北に進んだあと日本のレーダー圏に入る手前で北西に進路を取り、九州と沖縄の間を通る進路だ。おそらく、我々が一番厳しい戦いを強いられることになると思う。何せ航空支援が全くないのだからな]
そう言われた。トリシャもそれは十分承知している。なので、
[最善を尽くします]
としか言葉にならなかったのだから。
トリシャの船には、クリスのように特別誰かを乗せて、というような事はない。その代わりに、
「まぁ、そうボヤくなよ。あらかじめ暑いって言われてたんだから」
腕時計から声がする。相手は、ゼロツーだ。
出航前にエルミダス港の職員から、
「この時計を使うように、との指示がありました」
と言われて受け取ったその時計からは、人目が消えたところで声がするのだ。
初めて[トリシャっ]と言われた時は心臓が止まるかと思ったものだ。だって、誰もいない自室でちょっと[物思い]をしようとしていたまさにその瞬間だったのだから。
「ほんっとに心臓が止まるかと思ったわよ」
と悪態をつくトリシャに、
[あんときは悪かったよ。あーしだってあんたの姿が見えてる訳じゃあないんだから。アクティブセンサーと、その時計につけられた発信機でだいたいの位置を特定して、頃合いを見計らってるだけなんだからさ]
次の日、また一人になった時にそう謝られた。
「しっかし、よくこんなの許可が出たわね」
トリシャは腕時計に話しかける。
「あーしも言われた時はビックリしたよ。思わず[いいの? 喋ってていいの?]って聞き返したくらいだからな」
カズがトリシャにした配慮。それは一番話しやすいであろう[ヒト]との会話、である。ゼロツーとの会話を許可したのである。その代わり、その腕時計は一度嵌めたらカギがない限り外せない。そういう仕掛けになっているのだ。
それは機密保持の観点から当然と言える。発信機が内蔵されている、というのもある。それに何よりレイドライバーの中核と直接話が出来るのだから。その機密はパイロットだって例外ではない。万一、失くしては大ごとでは済まないのだ。
トリシャは、いや他のパイロットも皆そうなのだが、何があってもいいように常にパイロットスーツを着て生活している。
約半年、シャワーは使えるがそれもスーツ越し、である。せいぜいが顔と髪の毛を洗っておしまい、そんな生活環境である。もちろん、軍服を上から着る、という手もあるが[もし、寒くなかったら軍服は上から羽織るだけにしておいて]とカズに前々から言われている。それは[自分たちは別の世界で生きている]という事を他の人に、もっと言えば自分自身に言い聞かせる意味を持つ。
パイロットなのだ、と。
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