2.確か……サンド、少尉?-あなた方の背中を預けて頂ければ-
全44話予定です
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祝賀パーティーを開いてもらってカズも缶ビールを飲んでいる。レイリアはアルコールが苦手なのでソフトドリンクを飲んでいる。
「大尉殿」
そんなカズに声がかかる。もちろん今までいろんな人間がカズに声をかけてきた。それはクレイグ艦長をはじめとしてこの船の船員だったのだが、
「確か……サンド、少尉?」
そう記憶している。
「はっ。サンド・ギルベルト少尉であります。その節は大変お世話になりました」
――どの節?
とカズが考えていると、
「私の機体に搭載されているコンピューターの事であります。非常に助かっております。それもあって少尉にして頂くことが出来ました」
と改めて頭を下げられる。
「情報には目を通してある。その、すまなかったな」
と視線を外して下を向く。
カズの言っている[すまなかった]それは脱出装置の事である。最新鋭機には、元々付いているはずのパイロットの脱出装置が付いていないのである。更に言えば、帰還困難とコンピューターが判断した場合、自爆するように出来ている。パイロットたちはそれを知らされていなかったのだ。
サンドはそれで、過去にジョナサン・マクラーレンという親友を、僚機を自爆で失っていたのだ。
「昔のオレなら一発殴っているところではありますが、あれから時間が経ち、改めて自分の周りの事を考えられる時間が出来ました。その、最新鋭機の中身については、自分は詳しくは分かりませんが、この作戦にあたって上官から貴方が配備なさった、と聞かされています。人型の隊長が配備を指示した、となれば必然、その関係の研究もなさっているのだろうという推測が成り立ちます」
サンドの言葉にカズはあえて口を挟まない。
「聞けば人型のパイロットは爆薬を積んで出撃されているとか。まぁ、これは内緒で聞いた話でありますが、それだって推測が付きます。何と言っても我が軍の最重要兵器、そのパイロットですから。確かにジョン……いえ、ジョナサン・マクラーレンの死はとても悲しいものではあります。ですが、だからと言ってそれを責めるつもりはありません。そこで、お願いがあるのです」
そこまで言って一息つき、
「私にも、貴方がその背中に背負っているものを少し分けて頂けませんか? こんな事を言うのは僭越ではあるのですが、乗り掛かった舟、私も痛みを知ったものとして、貴方のその背中に、肩にかかっているものを少しでも分けてほしいのであります」
サンド少尉の目は真っすぐカズを向いている。それは一緒に同伴しているレイリアにも分かるほどだ。
「申し出はとてありがたいよ。現状ではこれ以上の秘密を明かすことは出来ない、あくまで現状では、ね。すると、それは我が隊の援護に当ってくれる、という事でいいのかな?」
カズかそう問いかけると、
「貴方の、いえあなた方の背中を預けて頂ければ」
そう応えるサンドの目は、やはり真っすぐカズを向いていた。
――そうか、そんな風に思ってくれる人もいるんだな。
サンドの言った意味をカズは考える。
彼の言った通り、何も伝えられずに親友を失った事はとても大きいだろう。それこそサンドの言葉ではないが[一発殴っているところ]ではすまないはずだ。だが、サンドはそのあとよく考えたのだろう。
これから自分はどうすればいいのか、と。
痛みを知って初めて周りが見える、若い人間によくある話だ。歳をとってくると、物事にそう急いてはなくなるものだ。という事は彼もまた[痛みを知って周りが見えるようになった]という事か。
「ありがとう、こちらこそこれからもよろしく頼みたいんだが」
そう言うとカズはサンドに手を差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って握り返したサンドの手は少しだけ湿っていた。
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