間話「トールの忙しい日々」
ハルゴン領は、中心都市オキベルを囲うエイラ村を含めた3つの街と村で構成されている。
月に一度、トールはオキベルに行きエイラ村周辺で討伐した魔物の素材を換金する。
その金を宿泊費にし冒険者ギルドに寄って手頃な依頼を受け、そこで儲けた金で村では調達できない塩や砂糖、酒、オリバーに頼まれた本を買って帰る。
その月もいつも通り依頼をこなして帰るはずだった。
エイラ村に帰る途中、煙が見えた。
焚き火で出るような煙ではない。
火事か?
急いで煙の方へ走る。
村だ。村が燃えている。
生きている人は?
「おーい!誰かいないのか。くそっ、こんな時にルークがいれば」
煙で視界が悪く、呼吸もしづらい。
生きている人間がいれば、倒れているはずだ。
薙ぎ払うか。
「ふんっ!」
凄まじい剣圧で火は消え視界が晴れる。
瓦礫の下で倒れていた人を3人見つけた。
脈を取ったが2人死んでいた。
「おい、大丈夫か?」
生き残りの男は目を覚まさない。
こんな時どうしたらいいんだっけなぁ。
ルークなら…。
とりあえず、火傷に初級回復薬を塗りこむ。
このあとは——
意識を取り戻さないため、とりあえず顔に水をかけた。
すると、げほっげほっと咳をして男が目を覚ました。
「おっ、目を覚ましたか。大丈夫か?」
「ここは——ま、まずい!」
「落ち着けって、とりあえず水でも飲め」
「娘と女房が!」
男は目を覚ますなり、泣きながら訴えた。
「何があったんだ」
話によると、盗賊団が村を焼いて若い人だけを連れ去ったらしい。
「見たところ腕の立つ方とお見受けしました。失礼を承知でお願いいたします。娘と女房助けてください。」
「まぁ顔上げろ、困った時はお互い様ってな」
「ありがとうございます…」
さぁて、魔力の痕跡は消してるな。
女子供を連れて街道を歩くわけないし、行くとしたら森だな。
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やっぱりな車輪の跡がある。
痕跡からして時間は経っていない。
近いな。
辺りを見渡し痕跡を辿る。
見つけた。
盗賊7人と村人が12人ほどか。
あの歩き方、どう見ても素人だな。
7人なら、すぐにやれる。
トールが魔力を込めて投げた小石が見事に御者の頭に命中し気絶した。
盗賊の足が止まる。
「なんだ?誰だ!」
盗賊の1人がそう叫んだ。
次の瞬間、瞬きをする間に残りの6人の首が落ちた。
「大丈夫か?」
「あ、あ、あなたは?」
村人は顔を真っ青にして怯えている。
「焼かれた村で助けた男から頼まれて助けに来た」
「そ、そうでしたか。ありがとうございます」
安心したのか深いため息をついている。
「村まで送ろう」
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村人たちを送り届けると聞き飽きるほど感謝された。
エイラ村に来ることを勧めたが、生き残ったものたちで村の復興を目指すらしい。
とりあえず一件落着と言いたいところだが。
「おい。お前らのアジトはどこだ?」
気絶させておいた御者に尋ねる。
「俺が仲間を売ると思ってんのか!さっさと殺せ!」
こういうやつは生かしてやると言えば、すぐに仲間を売る。
思った通りすぐに居場所を吐いた。
後は、逃げられないように足と手を縛り、煮るなり焼くなり好きにしなと言って村人たちに渡した。
エイラ村に被害が出る前に、こいつらのアジトを潰さなきゃだな。
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森の奥。
ここらへんか?
騒がしい声がする。
「みーつーけーたー」
あいつら呑気に宴を開いている。
茂みから様子を伺っていると、後ろから肩をとんとん叩かれた。
俺が後ろを取られただと?
恐る恐る後ろを見る。
「しーっ!静かにしてください、私ですよ」
「ルーク、何でここに…」