第四話「静かな夜」
外でゲラゲラと笑い声がする。
デリンジャという男が灯りを持って行ってしまったため、何も見えない。
今は夜なのか?
朝が来れば、こいつらは村を焼きに行く。
どうすればいいんだ。
脱走……いや、絶対に無理だ。
もし、ここを出られたとしても、この体ではすぐに追いつかれる。
第二の人生は奴隷暮らし?
悪い冗談だ。
神様は、そんなに俺のことが憎いのか。
いや。この状況も前世のことだって全部、自分のせいだ。
途方に暮れていた時、外の雰囲気が明らかに変わった。
「助げてくれぇぇ」
激しい叫び声が闇の中に広がる。
なんだ?
何が起きた?
「あ゛ぁ ぁ ! 」
バンッ!とドアを開け誰かが逃げ込んできたようだ。
誰だ?
「ここか?何も見えねぇな」
「退いてください。ーーー」
火とは違う、月明かりのような光が広がる。
目の前には、汗だらけの腰を抜かしたデリンジャがいた。
「た、助けてくれぇ!お、お、おい坊主、俺はお前に何もしてないよな。な!腹を空かした、お前にパンを食わせてやったし。お前からも何とかいってくれよ!」
なんだ、こいつの焦り様は。
何が起きているんだ。
「オリバー!!!無事だったか!本当に良かった」
そこにはルークとトールの姿があった。
2人の顔を見た途端、涙が滲み出た。
「なんで…」
「心配しましたよ。さぁ帰りましょ」
「っと、その前に」
トールが持っていた剣を振り上げた。
やばい、全身の毛が逆立つほどの殺気だ。
俺にもわかる、デリンジャを殺す気だ。
「待って!その人の言ってることは本当だよ!
たぶん、悪い人じゃない」
「本当か?」
「うん…」
「そうか」
そう言うと、トールは振り上げた剣をデリンジャに目掛けて振り下ろした。
寸止めだ。
デリンジャは失禁しながら気絶している。
「ハッハッハ!びびっただろオリバー!」
いつものトールに戻った。
初めて、あのようなトールを見た。
「オリバーすぐに出してあげますね。トール開けてください」
「へいへい」
軽く返事をすると、トールは鉄格子を素手でこじ開けた。
何て腕力だ。
普通の人間じゃ絶対に無理だ。
「さぁ帰りますよ!お話は家で聞きますね」
トールに抱えられて牢屋から出た。
地下の入り口から星が見える。
「トール、オリバーに見せないようにしてください」
「わかってる」
そう言うと大きな手で、あの時のように俺の目を塞いだ。
トールの剣を見て大体の察しはついていた。
やっぱり、この世界での最初の光景。
あれも夢じゃなかったんだ。
「おーい!ここまでやっといて、どこに行くんだ?」
あいつの声だ、デリンジャを殴り飛ばした、多分こいつらのボス。
「ルーク、オリバーを頼む」
「小便に行ってる間に、よくもまぁここまで荒らせたもんだ。やっぱり、そこら辺のクズを集めただけじゃダメだな。何者だお前ら」
「この子の親だ!お前はダルフォンの手の者か?」
「ダルフォン?何の話だ?まぁいい。おまぇ」
キン!
瞬きをした瞬間だった。
トールと男が剣を押し付けあっている。
「っぶねぇ」
男は後ろに下がり距離を取る。
「ほぉ、今のを防ぐか。素人ではないな」
トールはこの距離を一瞬で移動したのか?
30mはあるぞ。
「この人数をやっただけあって強いな。後ろの奴も出来ると見た。それなら…」
男は、ボソボソと呟いている。
「俺は、天飆流のダグラス・エルヴィン。1人の剣士として、お前に決闘を申し込む」
天飆流?何を言い出すんだこいつは。
「いいだろう。その決闘、受けて立とう」
悪党に名乗る名などない、とか言うところじゃないのか。
しかし本当に大丈夫なのか?
「焔雷轟剣流、トール・アクスヴィア」
静かな夜だ。
心臓の音だけが聞こえる。
パキッ。
木が軋む音が鳴った瞬間、ダグラスが先に動いた。
速い!
ダグラスの湾曲した剣をトールが受け止める。
「ルーク!!!」
トールが叫んだ瞬間、俺の前が光った。
何だ?
ルークが何かしたのか?
「くそ、これならどぅだぁぁ!」
ダグラスが袖から出した短剣を、腕ごと切り落とすトール。
「覚悟しろ」
俺がおかしいのか、トールの動きがほとんど見えなかった。
静寂が訪れた。
時が止まったかのようにダグラスは動かない。
トールが血がついた剣を振り納刀するとダグラスの首が落ちた。
「ーーー・ーーー」
ルークが何か言った。
目の前が暗くなる。
また…これか…。