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異なる世界のソリチュード  作者: 人見知り颯良
第一章 『成長の片鱗編』
3/9

第二話「1人の時間」

 その日は、朝から家の中が騒がしかった。

 10日ほど外出をしていたトールが帰ってきたようだ。

 どうやら今日が俺の1歳の誕生日らしい。

 

 「今日も可愛いなぁオリバー」


俺のほっぺをツンツンしながら、トールがぎこちない笑みで呟いている。

 俺だって前世は20をすぎた大人だ、何だか照れ臭い。

 それでも忌み子だと思われないよう全力で赤ん坊を演じていた。


 「暇ならお酒を買ってきてくださいよ」

「えぇー俺帰ってきたばっかだぜ、今日くらいゆっくりさせてくれよ。なぁオリバー」


俺の頭を撫でながらトールがぶつぶつ言っている。


 「いいから早く行ってきてください!」

「おぉー怖い怖い、わかりました。行ってまいります陛下」


仲の良さそうな2人が少し羨ましい。


 それはそうと、この2人が俺の誕生日を知っていることに疑問が浮かんだ。 


 人間は女性から生まれるものだ。

 俺には、母親がいるはずだし、

 だとするとルークとトールどちらが父親なんだ?

 

 2人は愛し合っていて俺を養子に迎えたのだと、考えたこともあった。

 一年の間、2人を見ていたが、

愛し合ってるような素振りは見当たらなかった。


 その夜は、普段酒を飲まないトールが飲み過ぎでゲロを吐いた以外、何事もなく終わった。


--------------------


 俺は3歳になり話せるようになっていた。


 「オリバー!今度はどんな本が欲しい?」


相変わらず大きな声でトールが叫んでいる。


 トールは時折、長期間外出をし帰りに本を買ってきてくれた。

 これまでは、文字を覚えるために色んな絵本を買ってきてもらっていた。

 外で何をしているか聞くと、魔物退治の仕事だと言う。

 まだ村の外に出たことはないが、やっぱり見たことのないものは信じられない。


 「魔物の図鑑?があれば欲しいです」

「魔物図鑑か!魔物に興味があるのか?」

「見たことがないので興味があって」

「そうかそうか!まだ3歳なのに図鑑が欲しいとは感心感心。よし、探してみよう」


そう言うと、トールはいつものように少ない荷物で出かけた。

 

 楽しみが一つ増えた。


 トールが外出をすると嬉しいことが、もう一つある。

 1人で外に出ることができるのだ。

 トールは過保護で家から出る時には絶対に付いてくる。

 トールがいない間は広い庭で1人で遊ぶことができた。

 だが、不思議なことに庭から出ようとすると、すぐにルークにバレて家に戻された。

 

------------


トールが出かけて10日以上経つ、いつもより帰ってくるのが遅い。

 仕事に手こずっているのか、『魔物図鑑』がなかなか見つからないのか?

 

 「オリバー、トールの帰りが遅いので、僕は少し村の周りを見てきますね。魔物が集まっていないか確認もしてきます。1人で待てますか?」


 ルークが放った言葉に驚きを隠せなかった。

 この3年間、いつもルークかトールがそばにいて、1人になったことなんて一度もなかった。


 「ま、待てます!」

「オリバーは本当に賢くて偉い子ですね」


ルークは、ふふっと微笑みながらそう言って頭を撫でた。


 「いいですか、僕が戻るまでこの指輪を外さないでください、あと絶対に外に出ないこと!」


そう言うと小さな赤い宝石がついた指輪を俺の指にはめた。

 3歳児の細く小さい指にフィットする指輪だ。

 ルークが作ったのか?


 「行ってきますね」


軽く微笑んでルークは出かけた。


------------


「フッフッフ、ハッハッハ!」


 広い部屋に声が響く。

久しぶりの1人だ。

 1人の時間というのは、人間になくてはならないものだと思っている。

 家中を走り回ったり、逆立ちをしたり、この小さな体を存分に生かして動き回った。

 

 夕方になってもルークが戻らない。


 あんなに楽しかった1人の時間も、

 すぐに飽きが来て、寂しさが心を埋めようとしていた。

 2年間も一人ぼっちだったのに、何だか情けない。


 外に出てみるか…。

 いや、ルークとの約束がある。

 村の中なら危険なことなんてないだろう。

 様子を見に行くだけだ。

 

 自分にそう言い聞かせ、俺は外に出た。

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