第一話「目が覚めると?」
目の前は真っ暗で何が何だかわからない。
ガタガタと振動が伝わる。
俺は死んだはずじゃ?
実は生きていて、
救急車で移動でもしているのか?
「ーーー.ーーー」
聞いたことのない言葉が聞こえる。
英語でも中国語でもない。
男が2人で話しているようだ。
片方は剛担という感じで、
もう1人は、なよなよとした雰囲気が口調から伝わってくる。
「ーーーーー!」
「ーーーーー.ーーーーー」
目を開いても何も見えない。
何か箱のようなものに入れられてるようだ。
止まった。
外から怒鳴り声が聞こえる。
どうして体は動かない?
手足の感覚はあるが起き上がれない。
真っ暗で状況が掴めない。
誰かここから出してくれ。
そう思った時、
真っ暗で狭い空間に光が差した。
やはり箱に入れられていた。
目の前に見えたのは、若く茶色い髪をした男。
アジア系の顔ではない。
ゲームやアニメに出てくるような鎧を着ている。
コスプレか?
「ーーーーーー!」
男が何か言っている。
やっぱり、日本じゃないのか。
見慣れない装飾の部屋だ。
救急車でもないし…
そうだ!夢だこれは夢に違いない。
と思っていると、ドアが開いた。
男は、成人男性である俺を軽々と持ち上げ外に出た。
どうやら馬車で移動していたらしい。
さらに訳がわからなくなる。
もう1人の男の第一印象は、髭もじゃ大男。
見るからに怖そうだ。
「ーーーー.ーーー」
「ーーーーー.ーーー」
男は俺の目を手で塞いだ。
指の隙間から、何となく見えたのは、
泥と血に汚れた死体の山だった。
眼前に広がる、光景に俺はただ唖然としていた。
___________________
1ヶ月ほど経っただろう。
どうやら俺は、生まれ変わったらしい。
短くなった自分の手足を見て、すぐに気づいた。
落ち着いた雰囲気の広い家。
今だに2人の話している言葉はわからないが何となく、わかったことがある。
若い方はルーク、髭もじゃはトールという名前らしい。
そして俺はオリバーと呼ばれていた。
ルークは母親のように、世話をしてくれていた。
何かの乳を煮込んだ汁をフーフーと冷ましてから丁寧に食べさせてくれたり、
俺の体を拭いてくれたり。
トールは本を読み聞かせてくれた。
何を言ってるわからなかったが、ゴツゴツとした体に見合わない優しい口調で安心感があった。
悪い人たちではないけど、自分の親ではなさそうだ。
________________
半年が経った
ルークとトールの話している言葉もわかってきた。
赤ん坊である俺に2人は何度も話しかけ可愛がってくれた。
そのおかげなのか、単に若いこの体の物覚えがいいからなのか。
俺は当初、誘拐されたと思っていた。
目に焼き付いている、あの日の光景
よく考えれば誘拐犯が、こんなに親切に赤ん坊の世話をするはずがない。
まだ死体の謎は解けていないけど。
「オリバー!外に出てみるか!」
トールが馬鹿でかい声で叫んでいる。
トールの口から初めて「外」という言葉を聞いた。
ルークとトールは度々、外に出ていたが俺は外界から遮断されていた。
日光に当たったら蒸発する病気だったりしてと心配していたが。
「あーー、うーー!」
久しぶりに外に出れる喜びを全力で表現してやった。
「そうかそうか、嬉しいか!」
トールはご機嫌そうにそう言うと、
丸太のように太い腕で俺を抱き上げた。
物心ついてから初めて出る外の世界。
目の前には前世では縁のなかった小麦畑が広がっていた。
黄金色に染まる麦の中に住居が何個かあった。
「トールさん、こんにちは!」
初めて見る2人以外の人間。
「こんにちは、今日もご苦労様です」
「トールさんがこの村に来てから平和だからね。仕事も捗るよ」
「私は自分に出来ることをしているだけですので」
トールは強面な顔から笑顔を振りまいている。
その後も何人かの村人に声をかけられていたが、話の内容から、ここはハルゴン領のエイラ村で、
トールは村の周りの魔物?を駆除しているらしい。
魔物なんてゲームじゃあるまいし、クマとかだろ。
ライオンとか出たりして。
家に帰るとルークがトールに遅いと怒った。
ルークはぺこぺこキャラだと思っていたのに怒ると怖いのか。
その夜、トールは俺をベットに寝かせると、いつも通り絵本を読み聞かせた。
何度も見た本だ。
1人の英雄が大陸を支配していた大悪魔を討伐したことで十天帝に数えられるようになった話だ。
正直、四天王みたいで厨二病心をくすぐる
書いてある地名はどれも聞き覚えがないもので、どうやらこの世界には大陸が6つあるらしい。
引きこもりぼっちだった俺の第二の人生の目標は、
とにかく友を作ること!
そしてこの広い世界を自分の足で見て回るんだ。
久しぶりに外に出て疲れたのか、その日はすぐに寝てしまった。