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異なる世界のソリチュード  作者: 人見知り颯良
第一章 『成長の片鱗編』
1/9

プロローグ


 俺は昨日22歳になった、ぼっち日本代表の大学生。

 

 もちろん親以外、誰からも「おめでとう」の連絡は来なかった。

 人と会わなくなって2年余り、

 家で寝腐りながら漫画やアニメを見漁ってたおかげで、太らない体質だと思っていた俺は小太り無精髭の引きこもりに大変身。

 

 大学生最後の長期休暇。スマホを開けば前まで仲の良かったヤツらの楽しそうな日常が目に入る。

 自分が死んだら悲しんでくれる人っているのかな。なんてことを考えてしまう。


 ――外にでも出てみるか…


太ったことを気にしていたこともあって、なんとなく体を動かしたくなった。


 当然の如く崩壊した生活リズム。

 深夜2時、マスクに帽子の完全不審者装備で道路沿いを練り歩く。

 久しぶりに波打つ地面を掴む足裏の感覚。

 寝腐っていたせいで歩き方はぎこちなかった。


 酔った男女が喧嘩をしているのだろうか、

 遠くの方でそんな声が聞こえる


 ――あの時、どうしたらよかったんだ


 街灯が点滅していて薄気味悪い道。

 幽霊とか通り魔とか宇宙人でもいいから俺のこと…。

 今の俺なら、飲酒運転の車に轢かれて死んだとしても、

 天国で「ラッキー!」と言って喜べる。

 

 部屋の鍵は閉めないで泥棒に期待したり、風邪を引いた時に薬を飲まなかったり。

 何をするにも親の顔が浮かぶし、

 こんな事じゃ死なないという自信があった。


 1人になったのは2年前、親友に金を貸したことから始まった。


 大学はオンライン授業。友達はできない。

 部活の推薦で地元を離れた県外の高校に通っていた俺は親友以外と疎遠になっていた。


 親友が架け橋になり、中学で仲の良かった友達と遊ぶ機会も増えた。

 

 そんなある日、生活費が足りないからお金を貸してくれと親友に頼まれた。

 彼の家は裕福でないことを知っていて、1人夢を追いかけて県外の高校に行った俺には罪悪感があった。

 2万円を渡したが、あいつを見たのはそれが最後だった。


 あいつの事情を知っているからこそ、自分から金を返せと連絡するのも気が引けた。


「ごめんごめん!返すの遅れたわ!」


とか言って、そのうち連絡してくるだろ

 週に何度も来ていた、親友からのメールは途絶えた。


 「チャリンチャリン!!!」


ふらふら歩いてた俺の横を猛スピードで自転車が横切った。

 後輪につま先を踏まれた。


 「痛ぇなクソ。夜中だからって調子乗ってスピード出しやがって」


 声を出したのは久しぶりだった。

道路を走るトラックの音にかき消された悪口は、思っていたよりヌルッと口から出た。


「そろそろ引き返すか。あの自転車そこら辺で転けてればいいのに」


人がいないから思ったことを割と大きい声で言ってやった。

 独り言は気持ちがよかった。

 思ったことを溜め込まずに口に出すだけでこんなにもスッキリするのか。


 「金返せ!クズ野郎!友達だと思ってたのにがっかりだわ!あーよかったよかった。お前の本性が2万円で知れたもんな!安いもんだわ。」


自分から連絡しようとせず、1人になったことを親友のせいにし、引きこもって親の脛を齧っていた。

 この2年で知れた自分の本性。

 

 「なんだよ…全部自分に返ってきてるじゃん。」


言葉と共に感情が溢れ出る。

 下を向きながら誰もいない夜道で1人孤独に涙を流した。


 (今から英語でも勉強して就職先は海外にしよう)


そんなことを考えながら歩いていると、

 歩道橋横の街灯の下で乗り捨てられている自転車が目に入った。

 さっきの自転車を思い出し、一発蹴りを入れてやった。


 つま先を踏まれた方で蹴ったため、少し痛かったが、

 悲しさでモヤモヤしていた気持ちも、なんとなくスッキリした。

 足をつくと痛みで少しよろけてしまった。


 「強く蹴り過ぎたかな、絶対爪割れてるわ」


 足元を見ると、よろけた拍子に虫を踏んでしまっていた。


 「最悪だ」


 街灯を見上げると虫の大群の奥に人影が見えた。

 歩道橋の手すりの上に人が立っている。


 考えるより先に足が動いていた。


つま先の痛みを堪えながら、太った体で歩道橋を登る。

 俺は、この馬鹿野郎の足を掴んだはずだった。

 

 (えっ?)


誰かに背中を掴まれた気がした。

 気づいた時には、体が宙に浮いていて…


 (道づれにされた?)


時間がゆっくりと流れる。

 歩道橋が遠くなっていく。

 表現し難い、ものすごい衝撃。

 体は動かないのに不思議と意識だけがあった。


 ――死にたくねぇな…


 と思ったが、目の前に迫るトラック。

なぜか1人ではないという安心感があった。

 意識が朦朧とする中、近くにいるはずの馬鹿野郎を探した。

 どこにもいない。

 一緒に落ちたはずなのに…。


 ここで俺の寂しい人生が終わった。

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