46話 レッツ搭乗
金持ちの威権を仰ぎ見ながら俺たちは飛空挺に乗るまでの1週間で旅の準備をすることにした
「…つっても何準備すればいいんだろうか」
時は夕日が完全に落ち切った頃
場所は俺の家の隣
そう。アズサ姉さん宅だ
アズサ姉さんの作る食事が美味しすぎてついつい来てしまうのだ
用意してもらった夕食をどかどか食いながら呟く
因みにルゥは留守番だ
一目見てアズサ姉さんを苦手と言い切り、あまり関わりたくないと宣言したのだ
しかもそれを本人に直接言うもんだから本人涙目だったよ
当の本人は絶賛食べている俺をニコニコと眺めている
「なんかついてる?」
アズサ姉さんの行動に疑問を持ちつつ水の入ったコップを口につける
「いえいえ何にも…ただ……ヒモだなぁ…と」
ブフッ
俺は口に含んだ水を盛大に吹いてしまった
あっ……顔面にダイレクトアタック…だぜ!…
「ご!ごめんなさい!」
「いえいえ、私怒ってませんから」
自分から怒ってないって言うって絶対怒ってるじゃん!
アズサ姉さんは置いてあった布切れで顔を拭う
「あぁそうでした。リュウカさん。料理に何かアクセントが足りないと思いませんか?私1つ具材を入れ忘れてしまいましてね」
そう頰ずきながら台所から野菜を1つ浮かばせると、浮遊している野菜は一口大に、または細切りに、またはみじん切りにカットされてゆき、俺が食べている全ての皿に満遍なく入っていく
あぁっ!!これとんでもなく苦い奴じゃん!
「さぁ、いいアクセントも加わりましたしいつもみたいに完食されますよね?」
許してよぉ
子供の味覚は敏感なんだよぉ
「そういえば先ほど何か準備されると言ってましたねぇ。どこか行かれるのですか?」
メソメソチマチマ食べていた俺はそのことについて思い出す
「ああうん。ちょっと南の方にあるドメ…ロ…ベヌ…ベヌ…」
「ドメロベヌシアですか?」
「そうそうそれそれ!そこに行くことになったんだけどさ。なにせ1ヶ月もあって…何を持っていけばいいか分からないんだよね」
この地名とんでもなく覚えづらいな
「持っていくもの…ですか。そうですねぇ…服と路銀と隠し芸さえあれば大方大丈夫ですかねぇ」
「隠し芸?」
「はい。便利ですよ」
「……服と路銀はーー」
「流さないでくださいよぉ!本当に役立つんですから!」
「…聞くだけ聞くよ」
アズサ姉さんは自信満々に席を立ち、部屋の扉付近に立つと対角線上に歩き出した
二歩歩くと一歩下がる二歩歩くと一歩下がるを繰り返す
やがてこちらのそばを少し通り過ぎてから立ち止まり振り向く
「ほしん運動です」
「………ええと?」
「守る方の保身と歩く進むと書いて歩進です」
終始だらしないドヤ顔をこちらに見せつけてくる
「……なんか体冷えて来たな…帰って寝よっと」
体感冷えて来たしちょうど夕飯も食べ切ったし。帰ろ
「ちょっと帰らないでくださいよぉ!リュウカさ〜ん!」
家を出るすんでのところでしがみつかまれ、リビングに引きずり戻された
椅子に座らされると、今度は果実らしきものが小皿と共に宙を浮遊し、8等分された果実は小皿に盛られて机に置かれる
「よかったら食べてください」
シャリシャリ
もぐもぐ…こんな果実で…もぐ…俺を釣れると…シャリッ…思うなよ…!
「美味しいですか?」
「うめぇ」
うめぇ
「それで、ドメロベヌシアはかなり遠方にありますよねぇ。どういった経路で進むつもりなんですか?」
「飛空挺だよ。空から行くことになった」
「飛空挺ですか…私、1つ面白い話を知っているんですが、お話してもいいですか?」
先ほどは、まぁ…置いておいて、アズサ姉さんの話すことはいつも面白いのだ
なんだろうか。気になるな
「おばけ…お存知ですよね。それを信じて眠れない夜も一度や二度はありますよねぇ」
怪談系か?この手の話は初めてだな
とりあえず首肯する
「真昼間、逃げれないところで出たらさぞかし怖いでしょうねぇ」
こくこくと頷く
アズサ姉さんは俺の後ろに回り込むと視界を奪い、しばらくして手をどける
やっと周りを見れるようになった俺の目に顔面を上から迫らせ、おどろおどろしく喋る
「出ちゃうんですよぉ!おばけがぁ!」
ブルッ!ブルルルルッ!
俺は全身、つまの先から体毛、髪の毛の先にいたるまで余すとこなく激しく震わせた
正直言うと話に震えたわけではない
アズサ姉さんの表情、オーラ、立ち位置、その全てが俺の全細胞に死を意識させた
どんなに強くなっても勝てない。敵いもしない。戦ってすらいないのに潜在意識に世代を跨ぐ勢いで深く刻まれてたみたいだ
「リュウカさん?どうしましたか?まさか、そんな怖かったんですかぁ?リュウカさんもまだまだ子供ですねぇ」
「うん…怖かった…」
一向に鳴り止まないうるさく動く鼓動を落ち着かせるの必死で姉さんの煽りに反応する余裕などなかった
「やけに素直ですねぇ…大丈夫ですよぉ!おばけが出る可能性なんて本当に少ないんですから。ほぼゼロです!」
見当違いの補足で俺を宥めようとしてきた
先ほど感じた死はほんの一瞬で、もう今は感じない
…うん。今日はルゥと同じ布団だな
服やら荷物入れなどを調達していたら、授業がない筈なのに一瞬で1週間の時が経過した
出発の朝、準備が出来たルゥが天井からドタッと降りてくる
遠出なんて今生初めてなもので、もたもたしながら荷物入れに服セットを3着ずつ入れていく
3着買うと1着無料という安売りをしていたためにワンピースは3着とも同じものだ
俺はワンピースが好きだ
なぜならパンツ、ワンピース、靴下と3つしか着なくていいため、とても楽なのだ
しかし最近になっての話なのだが、シイナにそれがばれてしまいインナーパンツなるものを履けと強制されてしまった
うぅ…面倒くさい…
「おっけー準備できたよ〜」
準備が完了した俺たちはシイナに指定されたある場所に向けて街を出た
とは言っても他の街に向かうわけではなく、あるだだっ広い高原があるそうなのでそこを目指して歩く
「この街出たの初めてかも」
無限に広がる畑と奥の方に見える山々をただ茫然と眺めながら進む
「綺麗だね〜」
日本ではなかなか見れない光景だから、なんだか一段と綺麗に感じる
そのまましばらく歩いていると道の両隣に土の塀が出てくる
2メートルはくだらないだろう
「ここら辺は高低差が激しいのかな…景色が見えない…ルゥならこの高さなんてひとっ飛びだね」
「…今は無理」
そうなの?
屋根裏に飛んだ時の方がよっぽど高いと思うんだけどな…
「どうして?」
「今あの魔法は構築する理論から組み替えてるから使えない」
理論…
頭痛くなって来た
魔法は…魔術はどれも習得するのにその構築された理論を正しく理解しなければならない
そうしなければ魔法は発動せず、しても不完全で発動してしまい甚大な魔力を消費することになるのだ
一度理解して発動できるようになれば次回から省略できるという謎のお助け機能はあれど、1つの魔法を覚えるのにもそれなりに時間がかかる
ちなみに基礎的な魔法に理論を覚える必要はないらしい
数学で言う公式暗記と同じだ
そして俺は数学が嫌いだ。まさか魔法が数学の如く面倒だとは思わなかった
俺が使える熱魔法や風魔法やらは基礎だから『魔法の入門書』とかいう教科書で頑張って覚えた
話を戻そう
……ん?
「ええと…いつから…?」
「学年が変わってから」
おや?矛盾が発生しだぞ?
「おかしくない?だったらなんで天井登れるの?別の魔法?」
「魔法は使ってない」
ルゥはあっけらかんと答えた
???
俺が自分の顔に疑問符を塗りたくっていると、ルゥが口を開けた
「リュウカはレベルって知ってるよね?」
「うん。鑑定板使った時に出て来たり鑑定する時に画面に表示されるやつだよね」
「画面…?」
「ほら、鑑定を発動した時にさ。目の前に現れるじゃん」
俺の説明を聞いても依然としてルゥは疑問符を浮かべたままである
おや…?雲行きが怪しい…
これは仮説なんだが、俺とルゥ…抽象的に取ると転生者とそれ以外ではレベルとかそこらへんの可視化された概念が少し機能が違うのか…?
「い…いや!ごめんやっぱり何でもなかった!昔の記憶に補正がかかってただけだった!」
我ながら上手い言い訳に納得したルゥは話を続ける
…これ、この手の話になったら少し配慮して話した方がいいかもな
「…結論から言うけど、レベルが上がると身体能力とか色々上がるじゃん。それ」
「え?そうなの?」
反射的に返事をしてしまったが、レベルが上がったらステータスも上がると言う話は珍しくもないか
逆にただ数字が上がるだけだったらそれこそ概念の可視化をしているだけだしな
「リュウカはレベルが上がったことがない?」
「うん。魔物は全部ルゥが倒してくれるからね…今レベルは幾つなの?」
ルゥはえっへんとピースをする
「はぐらかさないでよ〜」
ツンツンとルゥを突く
それがくすぐったかったのか、ルゥはすぐさま避難してしまった
「はぐらかしてない。私のレベルは2」
…うーんと?またもや矛盾が生じましたな
「おかしくない?だってルゥさ。あそこの魔樹海根絶やしにするぐらい魔物狩ってるじゃん。普通はもっと上がってるはずじゃない?」
レベルが上がるのあまりに遅くはないか?
「普通はよく分からない。私あまり人と接していないから…」
俺もこの世界での普通というものは何なのかよく分からないため何にもいえないかもしれない
そしてカウントされないクラスメイトたち…おいたわしや…
「まって…!?ルゥ!!あそこ見てよ!!」
ルゥと話をもっとこの話を続けたかったのだが、空に浮かぶ飛空艇を一目見てしまったからにはもはやあれ以外の話題を続けることなど不可能に等しいだろう
「かっこいい…」
「分かる…あんなかっこいいんだ。飛空艇」
遠くに浮かぶ飛空艇を目にしてしまった俺たちはまるで飛空挺に制限されたかのように感嘆することしか出来なくなってしまい、その場に立ち尽くしてしまう
しばらく茫然と見ていたんだが…
…あれ?これ急がなきゃやばいやーつでは?
「ルゥ…見惚れてたい気持ちはすっごい分かる。私だって見惚れてたいもん。でもさ。ちょっと急がなきゃいけなくない?」
俺の言葉を受けても、ルゥは依然として動く気配がなかった
聞こえてない…!?
危機感を感じた俺はルゥをゆっさゆっさと揺らしながら声をかけた
「ちょっと〜!!??ルゥ!!現実に戻って来てよぉぉっっ!!」
しばらくゆすっていると、流石に現実に戻ったルゥからストップがかかったため止める
「急がないとっ!!」
俺の言葉を聞いてもなおルゥは動こうとしない
「平気。落ち着いてリュウカ。飛空艇はここに停まる」
こんな何も目印のないところに…?
俺が不安がっていると後ろから声が聞こえて来た
「2人とも〜!!早いね〜〜!!」
俺たちの姿を捉えてから走って来たシイナもやはりここで止まった
後ろからマオスもついて来た
全員揃ったな
「前教えたところピッタリじゃない?やるねぇ〜」
シイナはルゥにツンツンしようとしたが、さっきやられたことを既に学習してかすんでのところで避けた
「本当にここなの?」
俺は心配そうにシイナに聞く
「リュウカちゃん。場所教える日いなかったもんね。何でだっけ?行く途中に服が安売りしていたからルゥに任せて来なかったんだっけ?」
「申し訳ない限りです…」
「何買ったの?」
「ワンピースを買ったんだ。同じの3着。今日持ってきた着替え全部それだよ」
それだけ聞くとシイナはこちらを見てはぁと小さくため息をつく
「リュウカちゃんさ…何ていうんだろう…乙女力が全然足りないよ!もはやゼロだよっ!」
ゼロだってぇ〜!?ゼロは流石に堪えるな
「いや!待って!シイナ、それは早計かもよ!?ワンピースは白色なんだよ!?」
「リュウカちゃん」
「はい!」
「色は関係ないよ」
「はい…」
俺の中にある乙女心が全否定されていると、飛空艇がいよいよ近づいてきており、俺たちは飛空艇の大きな影に飲まれた
飛空挺は道の傍にある大きな平地に着陸すると、地面に近い胴体部分にある扉が開いて中から梯子が垂れてきた
その梯子を1人の男性が降りてきてこちらに近づいてこいと声をかけてきたため、梯子付近まで接近する
「おはようございます。4名様。ちょうどいらっしゃいますね。申し訳ないのですが、ここは正規の着陸地点ではありません。なのでこちらで用意しました。緊急用の梯子を登って頂きます」
早く乗りたいと梯子に手をかける俺の手をシイナが掴んで制した
「もしかしてシイナ、1番最初に乗りたいの?いいよ全然。譲るよ」
「リュウカちゃん、ぜっんぜん違うよ。あの男の人まだ登ってないでしょ?リュウカちゃんのパンツを男の人に見せるってことだよ…!?」
お門違いも甚だしかった
「困りましたね。船長には安全のため、お客様が登りきったのを確認してから登るように指示されたのですが…」
船のスタッフが困っていると、ルゥが前に出てきた
「いい魔法がある」
ルゥの言うとっておきの魔法とは…!?




