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ビセア  作者: クルッポー
準備編
38/48

36話 姉妹と親とベトベトと

ルゥが懐いてからどれぐらいが経過しただろうか


秋めく空を望みながら、地上約12mといった所か

今日も今日とて飯を食う


いつぞやのぼっち少女はあれから見る影も無く…

といっても教室の隅にいるのはいるのだがな


すっかり日常と化した俺ことリュウカ、ルゥ、シイナの3人で囲む食間は言わずもがな禁足地で、まだ教師にはバレてはいない


ルゥに懐かれて以来しばらくはベッタリと俺から離れようとはしなかったが、ある日すぐに抱きつくのを止めて、何があったのか聞いてみると

「リュウカ成分は補充した。もう離れてても私は生きていける」

だそうだ


正直よく分からなかったが、子供が急に親離れをしだした感覚に近いのだろう

少し頻度がなぁ。と思っていたものの、急に減るとそれはなんだか物悲しいような…

なんとも強欲なものだなと、それを表に露わにしないよう自分を戒めている次第だ


「そういえばシイナ進展はどう?」


定期的に聞かねばシイナが拗ねてしまう文言

言わずもがなそれはシイナの色恋沙汰だ


「それがね!私今日田中くんのところに話に行くつもりなの!」


ほぉ…


全くもって意外に思えない

なぜかと言うと、これまた定型分であるからだ

このセリフでは決まってシイナは結局尻込みをして話に行けないのだ


ところで聞いて欲しいのだが

ここ数ヶ月女子たちと話しているせいか、俺の脳みその中に少女の思考回路が形成されつつあるのだ

子供と…クラスメイトと話す機会はそれなりにあり、幼子と会話するたびにいちいち考えるのが手間に思えたのか、思考回路が形成されたのだ


なんと表せばいいのだろうか

そうだな…恐らく、一人称が勝手に変わり、語彙を減らしているのだろう

恐怖恐縮がこわ〜いだったり

驚愕愕然がうわ〜!びっくりしたぁ〜!だったりだ


…これは大して今の思考回路でも差異はないな…まぁいい


「田中くんって本当にカッコいいの。宿題とかサボっちゃう時もあるけど、そこもワイルドでカッコイイの!」


それはだらしな…

恋する少女に物言いは不要だ


シイナが熱く語っている最中、ルゥが小声で俺に話しかける


「いよいよ今日。1週間の成果の見せ所」


「うん。絶対喜ぶよ」


シイナの目を盗んで…と行くまでもなく、普通にルゥは鞄から丁寧に包装された箱を取り出す

もちろんシイナは気づかない


俺はシイナがひとしきり語った隙を突いて声をかける


「どうしたの?…あれ?ルゥの持ってるのって…」


「「誕生日おめでとう!!」」


「わぁ〜!!ありがとう!!」


「これ、プレゼント。シイナ絶対喜ぶよ!」


プレゼントを受け取ったシイナは嬉しそうに顔を綻ばせる


ちなみに中身はヘアゴムで、シイナがいつも使っているヘアゴムにアクセントを加えんとして2人で秘密裏に選んでいたのだ


で、なぜ1週間も掛かったかと言うと、それはゴムは高価なものの為だ

全額をルゥの貯金から出すのを渋った俺は金額の半分を受け持つことにして、働いて稼ぐことにしたのだ

この世界に子供が働いちゃいけないって法律はないからな

稼ぐ方法は簡単で、アズサ姉さんとロリコン受付嬢に懇願してギルドに振ってくる簡単な任務をやらせてもらうというものだ

ペット探しや農作業の手伝い、荷物の輸送など多岐に渡る任務を受け持った結果、ヘアゴムの購入に至ったと言うわけだ


え?いつもそうやって働けるじゃんかって?

いやいやないない。わざわざ子供の頃から働きたくないし、そんな簡単な依頼はあまりないからね

え?なんか前金が欲しいとかいってたって?

よく考えたら無用かなぁと


「2人ともありがとう!家に帰ったら開けるね!」


箱を胸に感動でか涙ぐんでいた


「そうだ!今日私の家でパーティーをしましょう?」


俺たちは快く受け入れ、放課後、シイナの家にいる


シイナの家は途中で帰って以来だ

あの時を若干引きずっているらしいシイナは何かを話している時も聞いている時も時々、若干の不安が顔に出ておりーー


まぁ…なんだろう…決して、決して趣味とかではないんだが、少し可愛く見えてしまった


可哀想は可愛い…っていかんいかん

俺の意識と俺の体の主の意識が混ざっているのか知らないが、最近今までなかった考え方とかが生まれてきている

少女型思考回路も然り、なんだか変だ

人間、血を入れ替えたりしたら性格がガラッと変わるみたいな話を聞いたことがある


俺が俺で無くなるかもしれない…俺という人格が消えてしまうかもしれない


それも自然に気が付かぬうちに

人と接する頻度が増してからその傾向が顕著になってきている感覚がある


せめて心の中では前世と変わらずに、芯だけは残すよう努めなくてはな

人格の消失は、それ則ち俺という人間の死に等しい

死にたくはないねぇ


ーーっと、話を戻そう


「私、今日お泊まり会がしたいなぁ…」


シイナがこちらに懇願するように小声でぼそっとこちらを見上げる


「うん!お泊まり会しよっ!今日は絶対大丈夫だよ」


「私も」


「本当にホント?」


「ホントだよ!」


シイナはまだ不安そうな顔をしていたが、完全に日が落ちれば流石に安心するだろう


コンコン


扉から入ってきたのは執事で、なにやらとろとろとしているジュースを持ってきていた


「こちらは柚子蜂蜜の炭酸和えでございます」


………


え!?


この世界に炭酸があったのかっ!

まじで?

この世界の世界観どうなってんだ?

炭酸………

魔法を使って再現可能か?

風魔法で空気を圧縮して容器の中にぶち込めば一応可能か?


飲んでみると…


…!!!


炭酸がガッチガチに決まってやがるっ!


とろとろとシュワシュワを同時に味わえるとはまさに新発見

新体験に新感覚、まさにコスミック


あぁ……


コーラ飲みてぇなぁ


「どう?2人とも…これ美味しいでしょ?」


「マジでうまい!最高すぎる」


「………」


ルゥは無言で飲み続けている

分かる

うまいもんなぁ


シイナがもう一度飲もうと手を伸ばすとーー


「きゃあっ!!」


バシャッ


コップは俺の方向に倒れてしまい、俺は水浸しになってしまった

いや、蜂蜜浸しか。ベタベタしている


……服舐めようかな…


「リュウカちゃん!!!ごめんなさい!!えと、えと……」


「へーきへーき、…ではないな…全然怒ってないよっ!」


「ごめんなさい!えと…服!洗うから!ジュデル!来てきて!!」


ジュデルとは恐らくこのジュースを運んできた執事で、シイナ御用達の初老紳士であろう


「服っ!リュウカちゃんの服!脱がせて洗って!!」


「シイナ様…脱がせるのは…少し…私めはリュウカ様のご入浴を勧めます」


「あ!確かに!お風呂入っちゃって!」


俺を抜きにして会話は続き、成されるがまま風呂場へと向かった俺は服を女性執事にすっぽ脱がされてほぼ無理矢理風呂場へと押し出された


ベタベタしていたし丁度いいか、と仕方なく感を醸し出しながら金持ちの風呂場に入れるぞぉ!と内心ウッキウキでいた


脱衣所の時点で俺の部屋よりも大きく、こんな必要か?と思うほどであった


横開きのドアを開けると、中央に円形の巨大な浴槽、それを囲むようなシャワースペースなどなど…

羨ましい限りであった


シャワースペースには既に人がおり、泡で目を瞑っているのか桶を弄り探しているシイナと同じ髪の少女であった


俺はシャワーヘッドを渡してやる


……シャワーヘッドだと?

つくづく分からなくなる

この世界の文明はどうなっているんだ?

どうしてこんなものがありながら文明が発達してないように見えるんだ?

意味が分からない、ここはゲームの世界ではない筈だ

そう信じたいだけでもあるが、実際街の大浴場にシャワーはない


…となると…これは魔法具か

聞いたことがある

A姉さんさんから聞いた話だ

魔法具とは魔石を動力源とした非日常的な道具のことで、俺が今まで見たことがあるのは鑑定板とギルド内の光源のみだ

曰く、魔法具はえらく珍しくえらく高価なためめったに世に出回らないらしい


王都に行くとちょくちょくあるのだそうだ


王都とかいう異世界チックな浪漫ワード

行くっきゃねぇよなぁ

いつか行こ


そういえばさっきの炭酸も魔法具の産物か。納得


「わ、ありがと」と少し驚愕が混じった感謝を述べると頭上に水を落とす


泡が退いたのか、目をパチリと開けこちらを見やると、その顔がミルミルと驚愕した顔になっていった


「あ、あ…あ、あな…あなたは…」


「あれ?いつぞやの」


口をあんぐりと開け固まっている少女は2年ぶりに会合したおしゃれな少女、レイナであった


……シイナ…レイナ……


まぁ…似てるか……


顔つきも確かに似てるし…


「え……うそ……リュウ…カ…ちゃん…」


「えーっと…お久しぶりです…シイナと姉妹だったんですね…」


この体からしたら年上だからだろうか、勝手に敬語が出てきてしまう


「うそ…うそ…また会えるなんて… 」


お互い、藪から棒な状況に驚愕と困惑と歓喜を反芻している


ここで会ったのも何かの縁だろうということで、身の上話でもするか


ちゃちゃっと体を洗い浴槽に向かうか


…というか数年ぶりのシャワーがとんでもない快感を与えてくる

万の粒から得る刺激、痒いところに手が届くかのような全能感


たまんね〜


「そういえばレイナさんはーー」


「さん付けは距離感じちゃうなぁ〜」


こちらをチラチラと見てくる。直せと言わんばかりの圧から避けるため「レイナちゃんは…」と訂正してみると、満足げに


「よろしい!」


と頷いた


「…レイナちゃんはどの学科に通ってるんですか?」


「剣技学科よ。剣と槍が主流でね、対魔物の授業が主なんだけど、たま〜に対人とかもやってるよ。それ以外は鍛錬…正直きっついわ…リュウカちゃんは?」


「魔法学科ですね。座学7割実技3割ってとこですかね」


「学科違うのね…残念」


レイナは心底残念そうに水面に泡をぶくぶくと浮かせる


そういえば言ってなかったけか

うちの学校には学科という制度が設けられており、…まぁいわゆる文理制度だ

3年生から分かれてカリキュラムに学科別授業が組み込まれる

そのため、同じ教室に剣技学科の人間もいるが、同じ学科で固まった席順になるのだ


そしてっ!あの金髪野郎から離れられるのが確定していたわけだ!

しかもクラスまで違う!乱数の女神が俺に微笑んだのだっ!


レイナが残念そうにしていたのは、学科別交流が近頃あるからだ


学科別交流とは、学年の境を超えた授業のことで上級生の能力を見て下級生が参考にする特別授業のことだ


「学科別交流は残念ですけど、私はシイナの友達ですよ?いつでも会えますって」


「そうね……いや、やっぱり学科違くてよかったかも…」


最後、ぼそっと呟いた小言は俺には届かないつもりだったようだが、思いっきり聞こえていた


「どうしてですか…?」


「えっ!?あれ、聞こえちゃってたのね……これ代々伝わってるものなんだけどね。学科別交流って別名公開処刑日って言われているの」


「公開処刑…」


「そう…やっぱり剣も魔法も才能ありきなところあるじゃない?だから、上級生が下級生に打ち負かされることがザラにあるのよ」


「公開処刑だ…」


「私弱いから…下級生に負けちゃうのを見られるのは恥ずかしいわ」


「恐ろしいですね…」


その後も何気に会話は弾み、風呂を出ても会話は続いていた


玄関先の大広間に差し掛かり、レイナの父がここの階段を転げ落ちた話を聞いているとーー


ガチャリ


ーーと玄関の扉が開いた


そこには丁度話題の中心であったレイナの父親の姿があり、軍服のような服で体を着飾っていた


「お父さま!帰って来れたんだ!!」


父親とわかるや否や、階段を駆け降りてその背筋の良い体に抱き付きにいった

レイナの父親はシワのない綺麗に仕上がった服をまるで気にせずシワを織り込み、レイナの背丈に合わせてしゃがみ込んだ


「ただいまレイナ、また背伸びたな。それと…お友達かな?」


飛びついたレイナをしっかりと受け止め、俺が質問に頷くと感極まったのか涙を浮かべた


「友達が少なかったお前が…家に招くほどの仲を2人もつくるなんて…パパ嬉しくて泣いちゃう!」


威厳がありそうな顔つきを隠すほどの優しいオーラはこの人がいい親であることを十二分に伝えてくる


「旦那様。パパはおやめくださいといつも…」


「えぇ〜?だってパパはパパなんだからいいだろう?なぁレイナ」


「なんでもいいかな」


「柔軟な子に育ってパパ嬉しいぞぉ〜!」


……親バカかもしれない


抱きつくことをやめて階段を降りたこちらに帰ってきたレイナに俺は彼について聞くことにした


「お父さんのご職業は…?」


「お父さまは近衛騎士団の上官を務めているの。なかなか家に帰って来れないらしくて、半年に一回しか帰って来ないの」


とんでもないエリートだった


「家に帰ってきたら毎日遊びを誘ってきて、仕事に戻る日が来てもなかなか戻ろうとしないのよね」


とんでもない親バカだった

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