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ビセア  作者: クルッポー
準備編
36/48

34話 ツテ

木々を掻き分け、樹海を駆ける

いつぞやに通った道を頭で想起しつつ、たまに見える少し窪んだ道標を元に小石を避け、傾斜を下る


天候は急変し、ぽつりぽつりと、次第にざぁざぁと木越しにこの身を濡らしていく


疲れて歩いていると川のせせらぎが耳に入って来たため、苦言を呈す膝に鞭を打って駆ける

木々を抜け、川に差し当たると、呼吸を整えるように走りをやめ、歩み始める


息が切れてちゃ、格好が付かないもんな


川を岩と岩の間を滑りそうになりながらも跳ねて超えると、洞窟の中に入っていく


雨音は不思議と聞こえなくなり、代わりに少女の掠れた啜り泣きが洞窟に響く

少女は服を泥だらけにし、その服を更に濡らすよう体育座りでうずくまっていた


「ルゥ………迎えに、来たよ」


慎重に言葉を選びながら少女に言葉を投げかける


少女は啜り泣きをピタリとやめこちらに意識を向ける


強い子だ


でも


弱い子だ


「あの…いや……辛かったな。大変だったな。苦しかったな。悲しかったな。ルゥの事が全部分かるなんて、そんな無責任な事は言えないけど…言えないけど、その苦しみを一緒に感じて、負担を減らしてやることは出来る」


「…うるさい」


掠れた、小さな声が耳に届く


「お母さんに…あんなこと…悲しかったよな」


「うるさい…」


掠れた、しかし今度は先程よりも大きい声が耳に届く


「愛せないのに嫌いになれ切れなくて、やっぱり心のどこかでは愛を期待して…辛かったよな」


「うるさいうるさいうるさいうるさい!!!」


頭だけを少し下げ、何も聞こえないように、音を掻き消すように絶叫する

それでも構わず、俺は言葉を淡々とはき続ける


「…今まで…ほんっとう…大変だったな」


「もううるさい!!!お前なんか呼んでない!!!」


俺は静かに告げる


「じゃあなんで私にここを教えたの?」


喉をキュっと鳴らし、押し黙る


「ここはルゥが1人で泣けるとっておきの場所だった筈。誰にも邪魔されず、誰にも聞こえないルゥだけの場所だった筈」


ルゥは応えない

否、応えられない


「ルゥは助けて欲しかったんじゃないの?」


「…ち…がーー」


「ここを教えたってことは私に助けて欲しかったってことでしょ!」


俺は自分の思いをはっきりと伝えてやる

こんな大切な場面で有耶無耶にして良い訳がない


「……そう……助けて…欲しかった」


ぽつり、ぽつりと心の内をはき始める


「助けて欲しかった…私を助けて欲しかった…お母さんを正気に戻してくれる…そんな人を待った…待ってた…」


ルゥは再び服を濡らし始める


「来なかった…誰も…幸せな家族だって…誰も…誰も…」


俺はゆっくりと近づいていく


「あなたは…私を助けてくれるの?」


そっと優しく、包み込むように抱きしめる


「あなたを抱きしめてあげることが出来る」


「あなたを受け入れてあげることが出来る」


「あなたを助けることは出来ないかもしれない。でも、あなたを助けたいっていう気持ちは本当。それは、受け取ってはもらえないかな?」


少女は抱きしめられたまま体の向きを変え、抱きしめ返して来る

胸に顔を埋め、声を上げて涙を流す


服を濡らしたって構わないんだ

だってもう濡れているから

あなたの涙が誰かに知られる事はないんだ

だから、安心して欲しい、この時は全てを委ねて欲しい

全部、受け止めてあげるから


ひとしきり泣くと泣き疲れたのか、俺の胸の中ですやすやと眠り始めた

俺はこの愛おしい少女の頭を膝の上に乗せ、サラサラとした髪の毛をしきりに撫でてやる


一体どれほど時間が経ったのだろうか

一体どれほど魔物が来ないことを祈ったろうか

パチリとルゥは目を開ける

そしてこちらを見たかと思うと、体を起こす

自分で始めておきながらやっと立てると思って立ち上がるとーー


ルゥは俺に抱きついて来た


「リュウカ、リュウカ、大好き、リュウカ、私のもの、私だけの大好きなひと」


急な変わり身に少し驚いたが、きっとこの少女は愛に飢えていたんだと思う

子供の駄々を拒否して何が大人なのだろうか

少なくとも俺はそんな大人になった覚えはない


それにルゥのことは全部受け入れると決めたんだ

喜んで受け入れよう


なんだかんだ自分よりも若干身長の高いルゥの頭を撫でてやる

しばらくハグが続いたことは言うまでもないだろう


それでは1つ


魔物が怖い



命からがらとは無縁に魔樹海を抜けていって1つ分かったことがある


ルゥめっちゃ強い

いや、火球作成の時点でなんかコイツ強くねー?とは思っていたんだが…


魔物がワンパンだぜ?


こう…風魔法を使って…スパパンッと…「リュウカは私が守る!」って…


ありがたいことこの上ないね


大浴場で冷えた体を温めて、奮発して買ったコーヒー牛乳をグビグビと平らげる


いやー、この世界にも珈琲あって助かるわぁ

子供の体だから眠るのはしょうがないが、大人になっていったら珈琲を愛飲するんだろうなぁ、と前世でカフェイン中毒者になりかけていた姿を想像していると


先に風呂から出ていたルゥが抱きついてきた

ほんと、風呂場では大変だった


隙あらば抱きついて来るし、せっかく泡を流したのに泡だらけの体で抱きついて来るしで…


ほんとっ!ありがとうございます!


湯で体をほっかほかにしながら、俺たちは夜の街を歩く


「明日は学校休んじゃおっか」


やはり地球の頃よりも綺麗に光る星々を眺めながら、言葉を天に向かってはく


「どうして?」


「いやさ、やることいっぱいあるし、何より…お母さんとケリつけないと」


ルゥの表情が険しくなる


「そのまま居なくなるのはいただけない。せめて別れを告げるだけでもしなきゃいけない。今まで育ててくれた恩は、それが薄汚れてても、感謝しなくちゃいけない」


今のルゥには酷かも知れないが、ルゥもきっと親を嫌いになりきった訳ではないんだ

どんなに失望しても、どんなに絶望しても


「取り敢えず、今日は一緒に寝よっか。私のベットは子供には大きすぎるしさ」


「うれしい」


ルゥは風魔法で荷篭を浮かせて、俺に抱きついて来た



家に着くと、階段を登り、自室のドアノブに手をかける

部屋に入ると炎魔法を使い、部屋全体を明るくする

そしてそれを蝋に移して、魔法を止めた


蝋、豚、魔方陣…いつもおもうんだが、ここは生贄所か何処かなのか?

そんな疑問を振り切り、絶対に強盗が逃げ去って行きそうな良い部屋だろうと自分に言い聞かせる


「さ、もう寝よう」


子供の俺にはもう遅い時間だ


ルゥは俺がベットに入るのに続いてベットに入って来て、互いの膝を絡ませてくる

眠気が限界まで達した俺に何かを反応する程の意識はなく、ぽつりと一言、その言葉を考えるのだけで精一杯だった


「…私の家に住まない…?」


多分、天井裏にはかなりのスペースが予測でき、天井をこじ開ければ天井裏に住むことも可能だと思われる


「いいの!?」


ルゥは顔を上げて俺と見つめ合う


「それって同棲…大好き…愛してる」

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