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ビセア  作者: クルッポー
準備編
33/48

31話 魔法風呂

陽が傾き、赤い斜陽に家々が染まり出した頃、話を切り、少女が控えめな視線でこちらを見やる


「…あのね?私…2人がいいならお泊まり会がしたいなぁ…って…流石にだめだよね…」


ルゥが申し訳なさそうにシイナを見る。その目からシイナは拒否の念を受け取ったのだろう


少し、悲しげな表情に変わる


「私は大丈夫だよ。なんならはい喜んでって感じだし」


パァーとシイナの顔が明るくなる


「本当!?じゃ、じゃあーー」


コンコンーー


部屋の扉が叩かれる


シイナが入室を許可すると、困った顔をした執事が現れた


「失礼します。リュウカ様…あなたの保護者らしき者がやって参りましたが…確認して貰えませんか?」


「え…?誰だ?」


俺の唯一の保護者はアレだし該当する人物が見当たらない。というか、ここに来る事を誰一人として伝えていないため、頭のイカれたストーカーという仮説が立ってくる


部屋を抜け、門まで向かうとーー


アズサ姉さんがそこにいた


「だからぁ、ここにリュウカさんが居ると思うんですよぉ。少ぉしだけ、入れさせてください」


「いや、不審者は入れられないです」


なぜ居場所が割れたのか、そんな疑念すら吹っ飛ぶほど羞恥心が勝った


まるで悪酔いしてダル絡みをしている親戚でも見ているかのようであった


「えーっとアズサ姉さん…なぜここに…?」


「あぁ、いました。ほら、帰りますよぉ」


門を抜けアズサ姉さんに相対すると、体の進行方向を変えられ、背中を押し進まされた


押される間際、シイナの方を首だけ振り向くと、何が起きたのか、と呆気に取られて驚きの表情で顔が固まっていた


そのまま、ろくに別れの挨拶も告げずにシイナ邸を後にした


「ちょっ、ちょっ!いきなりなに!?」


「今宵は3つ浮かぶ月が満ちます。リュウカさんの気配が部屋から感じなくてですねぇ、探しましたよ」


それはーー


感謝しなくてはな

いや、お泊まり会する予定が立ちそうだったし…まぁ感謝しなくてはな




これは転生してから暫く立った頃の話だ


図書館のスタッフルームの扉を三度叩く


「アズサ姉さんいる?」


俺が扉にそう問いかけると、扉が開き、深紫色の髪がぬるっと這い出てくる


この頭から這い出る挙動はアズサ姉さんだ


「いますよぉ〜どうしたんですかぁ?」


「今日もご飯とお話ししたいなって」


「今日も楽しに来たんじゃないんですかぁ?まぁ、いいんですけどねぇ」


目を瞑り、困ったように、しかし嬉しいのか少し口角が上がる


中に入り、アズサ姉さん手作りの料理を食べる


「アズサ姉さんの昔話、聞きたいな」


アズサ姉さんがよく話してくれるのが昔話で、全部嘘だ。しかし、その嘘の話が面白いので最近は度々訪れては、全てその話を聞いている


「そうですねぇ…巨人族に産まれた悲しき巨人というのは如何でしょうか?」


俺が興味深そうに聞きたいと伝えるとアズサ姉さんは話を掘り下げ始める


「その巨人はですねぇ。身長が小さいんです。成人しても赤子並なんですよ。しかし彼女には他の巨人に勝るほどの強大な筋力があったのです。周りの巨人達を負かして行くもんですから、それはそれは、傲慢になりましてねぇ」


「それでそれで!?結局どうなっちゃうの!?」


俺は焦って先の展開を聞いてしまう。ダメな聞き手の代表例だ


「その傲慢さを悉く折られた巨人は今は改心中です。つまらないことこの上ないです」


アズサ姉さんは最後の一言と同時に胸の上で手を叩く

話は終わりという意味だ


異世界は娯楽が少ないもんで、こういった小噺すらもけっこう面白いものだ


「あぁそうでした。リュウカさん」


「はい?」


「今宵は3つ浮かぶ月が満ちます。なので、送りますよ」


3つの月?確かに空に浮かんでるけど何かあんのか?


「なんかヤバいの?」


「今宵は魔物が街に侵入してくるんですよ。街の結界が薄まるんですかねぇ。家に居れば襲われることはまずありませんから、安心してくださいねぇ」


あぁなるほど


そうゆうことか


そうゆうことだったんだ


俺が死んだあの日、空が綺麗だと思ったんだ

街に急に魔物が来たと思ったんだ

まさか、異世界生活初日にそんな日を引くとは


乱数の女神よ仕事してくれなんて思ったが、自分の能力を初期の初期に自覚できたんだ

逆に女神は仕事してくれたと捉えてもいいだろう


図書館のスタッフルームにある睡眠スペースでゴロゴロしながら時にアズサ姉さんと会話し、時に数瞬眠りこける。そんな怠惰な時間を謳歌した

睡眠スペースは、勿論アズサ姉さんが勝手に設けた場所だ。館長強し


「いやほんと、アズサ姉さんって妖艶さが相まってめっちゃいろっぺぇよなぁ」


独り言を呟いたつもりが案外と声が出てしまい、アズサ姉さんに聞こえてしまう


「…!…そう言ってくれると嬉しい限りですねぇ」


もういっそ聞こえてしまったのなら、今思った事は全て話してしまおう

確か、そんな感覚だったと思う


「あと、アズサ姉さんと一緒にいると安心するのか、ぐでぇってして怠惰な生き物になっちまうんだよなぁ」


「…うふふ。私の母性ってところですかねぇ」


「ほんとそれそれ」


眠たくなってくるし、これがやんごとなき母性の賜物なのか


「眠っても構いませよ。夕方ごろには起こしますから」


お、じゃあ…お言葉に……甘え………て…………



何時間寝ていたのだろうか

目を開けると窓の外はたいそう暗く、そして後頭部から腰に渡ってになにかがくっついており、後頭部が特に柔らかかった

腹には何かが巻き付いており、それはアズサ姉さんの腕だと悟った


これ、ミイラ取りがミイラになってら

頭をずらして後ろを見やると、俺を抱き枕としてアズサ姉さんはすぅすぅと寝音を立てて眠りこけており、後頭部に当たっているものは巨大な2つの母性だと分かる


…………よし!もうちょっとだけ、もうちょっとだけ寝よう


やがて再び意識は落ち、次起きた時は窓の外が明るくなっていた


朝だ


俺は夕方から朝まで延々と眠りこけていた訳だ

あとアズサ姉さんも


2度目覚めても変わらず感じる巨大な2つの母性を前に俺が思うことなど唯一つであった


業務不始末で叱られるんだろうなぁ


と、いう訳だ


アズサ姉さんの方を見やるとこちらに振り向き、あと声を漏らす


「そうでした。今日はもう大浴場は閉館してるんでした。困りましたねぇ」


アズサ姉さんは片腕を腹に組み、片腕の人差し指を自らの唇に押し当て、困り顔を披露する


「まじ!?…きちぃな…」


困った。風呂は俺の癒しの時間だ

それが奪われるとなると…

暴れるんじゃ無いだろうか


「私は魔法でなんとでもなるのですが…リュウカさんも魔法風呂、味わってみます?」


魔法風呂…なんとも興味が沸く言葉だ。味わわないはずもなかった


「では、私の家にでも向かいましょうか」


アズサ姉さんの家…

ワクワクも大きいが、一抹の不安もある

怠惰なのだ。アズサ姉さんは


怠惰なのだ


「さて、ここが私の家ですよ」


着いたかと思うと、そこは俺の隣の家だった


「あれ?アズサ姉さんお隣さんなの?」


俺が驚いて問うとアズサ姉さんは驚いたことに驚いたようだ


「知らなかったんですか?もう気づいているのかと思ってましたがねぇ」


じゃあ今日のくだりも家にいないのを心配してか…?

俺の居場所探知はきっと魔法を用いたのだろう

そうで無いはずがない


家に入れさせてもらうと、一面に広がるゴミ溜め


…では無くおしゃれな観葉植物だった


壁紙も塗装したのかおしゃれで、とにかく洒落ていた


「…ごめん…結構意外かも。ゴミ屋敷とばかり…」


「一時期そうだったのですが…片付けない方が面倒くさいんですよねぇ。片付けの時盛り上がっちゃいまして。その時した模様替えはそのままなんですよねぇ」


へぇ〜


アズサ姉さん美的センス抜群じゃん


「そうでした。お風呂に入りましょう。リュウカさん、まだ魔物はいない筈なのでダッシュで服を取りに行ってください」


おかのした

ということで爆速で着替えとタオルを持ってくると、リビングに水球を浮かしたアズサ姉さんがいた


「わーお。どうなってんの?」


「簡単ですよ。水魔法に熱魔法を重ねてお湯を作ります。そうしたら風魔法でお湯を空中に固定しましてねぇ。完成です」


おおかた予測はついていたが、机上の空論と実戦は表面には見えない致命的な差異がある


まず、複数の魔法を同時展開する。これが最初の鬼門。シンプルに難い

そして魔法の維持。魔力を常に均等に注がなければならない。魔力を大量に要する


「来ましたねぇ。一緒に入りましょうか。今回は自己調整した液体で満たしてみましたので、水中でも呼吸できまーー」


我慢出来なくなった俺は話途中に水中に突っ込んだ

最後聞こえた声を信じて肺に液を満たすとーー


苦しく…ない

なんなら開放感が凄い

体育座りで水中をプカプカと浮かんでいるとアズサ姉さんも入ってきた


アズサ姉さんに抱き抱えられると、体内に言葉を乗せた魔力が入ってくる

魔法ってそんなことも出来るのかと感心してしまう


『せっかちさんですねぇ』


なんの隔たりもなく、巨大な2つの母性を背中に感じる


そのまま暫くありのままにぷかぷか浮いた後、のぼせる前に水球から抜け出ると水球はみるみる内にキッチンのシンクに流れていく


流れ切ると今度は体に付着した水分が悉く消えていく


魔法による水が魔力に変わったのだ


「体を拭かなくていいので、魔法風呂は楽なんですよ。ただ、魔法維持が面倒なので普段使いはおすすめしませんねぇ」


用無しとなったタオルを玄関の荷篭に突っ込みその荷篭を持ってリビングに戻る

その時には既にソファにてアズサ姉さんは自堕落を極めていた


「アズサ姉さん、お願いなんだけど、私の服を洗ってもらえない?」


アズサ姉さんは数瞬思考に耽り、許諾した


魔法によって自分の体同様の洗い方で綺麗になる服達を見て、俺は人知れず魔法習得の熱意を増やした


「リュウカさん。提案なのですが…今宵私の家に泊まりませんか?あの日の抱き心地が忘れられないんですよ」


アズサ姉さんは抱き枕の素晴らしさに気がついたようだ


「自前で用意してみたんですが、やはり人の温かさには敵いませんねぇ」


俺はその日、大いなる母性を感じながら、1日を閉じた

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