17話 体に巡るもの
「おやおやぁ?魔法…使えましたかぁ?」
あまりの無感情さにモヤモヤしていたら後ろから声をかけられた。
「えっ誰…あ、図書館の館長だ。」
「あらぁ。聞かれちゃってましたか。うふふ、私のことはアズサって呼んでくださいねぇ。」
声をかけてきたのは艶やかなお姉さん…あらためアズサさんだった。
「いやぁ、まだ鑑定しかやってないんですよね…あ!でも魔力を増やすやつはやりました。」
「おや、ということはあの冗談には引っかかりましたね。」
アズサさんはくすくすと笑う
「はい。兄がキレてました。」
「それはすみませんねぇ。あれ、私が書いた本なんですよ。」
「え」
アズサさん本書いてるのか!だから館長になれた…?
俺たちは一緒に体を洗うことになった。
シャワールームにはシャワーは無く…ややこしいな。ま、いいや。
シャワールームには一本の水の流れる道があり、そこから桶を使って水を掬うシステムのようだ。
その道に沿って椅子が並べられてあり、俺たちは適当な席に腰掛けた。
石鹸も存在しており、木の容器に液体の洗剤が入っていて、それを手に垂らして洗うようだ。
桶で掬った水を頭にかけ、洗剤を手で泡立てて頭に乗せる。
ム…男の時と同じ要領でやると全然洗えない…
いいや、髪の汚れはお湯だけで大体取れるって言うし、流しちゃお。
「苦戦してますねぇ。髪、洗ってあげましょうか?」
神現る。なんとありがたい!
アズサさんの手が俺の髪に入ってきた。
頭全体をマッサージするような優しい手つきでシャンプーを泡立る。
…気持ちいい…というか心地よい。男の俺の洗い方とは全く異なり、美容師の洗い方そのものであった。
女の人は毎回これするのか…大変だなぁ。
「魔力増幅トレーニングは上手くいきましたかぁ?あれ、難しいんですよねぇ。」
危うく寝かけていた俺の耳元でアズサさんはそう囁く
「うひょい!」
くすぐったさと驚きが相まって変な声が出てしまった。
「うふふ、面白い方ですねぇ」
「……上手くいってない…かも」
「ですよねぇ。やっぱりギ回自分の魔力の限界を越える体験をした方がいいと思うんですよぉ。体験してみます?」
ギ回とは一回ということだ。
体験ってどうするんだろ…まぁ減るもんでもないだろうしやろ。
「したいです!お願いします」
「では一旦こちらに向いてもらって…」
今髪を洗うのを一旦切り上げ、アズサさんのいる方向に振り向いた。
「失礼しますね」
俺の胸に手がそっと置かれた……!?
っ!!!
次の瞬間、体に何かが入りこんで身体中を駆け巡った。
熱い。体全体がじんじんと熱を発し全く止む気配がない。
何が起こったのかもわからず、熱い…熱い…ただ熱い
思わず体が仰け反りそうになるが
「動かないでくださいねぇ」
という言葉でなんとか我慢した。
「はい!終わりましたよ〜」
アズサさんはそういうと触れていた手をそっと離した。
その直後、さっきまでの熱が嘘のように引いていく…
「どうでしたか〜?魔力がたくさん流れる感覚、なんとなく分かりましたぁ?」
…これが魔力が自分の限界を越える感覚…
まるでサウナに入った後のようにすっきりする。
「なんとなく、分かった気がします…」
「それは良かったですねぇ、やる甲斐がありました。」
「ありがとうございました!アズサさん…いやっ!アズサ姉さん!」
「あらあらお姉さんですか。嬉しいですねぇ。」
アズサ姉さんは両頬に手を乗せてのらりくらりと体を揺らして嬉しさを表現してくれた。
「あぁあと、謝らないといけないことがありましてぇ。」
謝るって…俺は何もされてないと思うが…
「実はぁ、あなたの…そういえばあなたのお名前を聞いていませんでしたねぇ。」
自分の名前!?待て何だっけな…確か…
「えーっと……リュウカ…と申します」
「リュウカさん!素敵な名前ですねぇ。」
「それでその謝らなきゃいけないことって…」
「そうそう、リュウカさんの魔力量を多く見積り過ぎてしまってですねぇ。今、リュウカさんの体内の魔力の経路がボロボロなんですよ。もちろんすぐ治るんですけど数日は魔力が使えなくなります。」
数日ぐらいなら何も問題はないな。
「リュウカさんの魔力は格段に増えるんですけどぉ、魔力の総量が増える時って体力が消費されるんです。なのでその分たくさん食べてください。」
それも何も問題は…あるわ。
オレ、カネ、ナイ
「お腹が空いてどうしようもないときは私の元に訪れてくださいねぇ。いつもあそこで寝て…お仕事してるので。」
今本音が出そうだったぞ?
この後、アズサ姉さんに背中も流してもらった。
面倒ぐさがりな人なのに意外と面倒見が良いんだよなぁ。
ちなみにアズサ姉さんとは分かれた。
だってあの人水風呂に直行するんだもん!
俺は水風呂が苦手なんだよ!
1番広い浴槽に浸かることにした。
湯の下の床が思ったよりもゴツゴツとしているが…適度にツボが押されて気持ちいな。
…子供の体の時点でツボが効くとかあるか?
と思い足裏を強く押してみるが…全く痛くない。
さっきの気持ちよさは幻?
まぁ幻を見るぐらい気持ちいいという———
っっっ!!!痛ってーーーー!!!!
左ふくらはぎの膝と踵の中点の少し上のところを横から押した瞬間、ありえない程の痛みが生じた。
訳が分からない。なんでここを押したら痛いんだ!
痛みのあまり、左の痛みから避けようと右に大きく揺れてバランスを崩してしまった。
しまっ———
次の瞬間にはバシャッと意外にも小さな音を立てて顔を水中に沈めていた。
人はパニックになると5センチ程の水深でも溺れるらしい。
パニックに陥った俺は座ってでも顔の出るぐらいの湯で溺れてしまった。
——まずいっ!おぼれ———




