隣を歩いていた女性が突然「ぶっ殺す!」と叫んで走り出した
日記です。
地下鉄へ続く階段を降りていると、隣を歩いていた女性が突然「ぶっ殺す!」と叫んで後ろに走っていきました。その場にいた全員が立ち止まり、彼女が走っていった方を見ていました。
彼女はちょうど私がいる位置、彼女が「ぶっ殺す!」と発言した場所の真上でおじさんと言い争いを始めました。このおじさんは階段を降り始める頃に一瞬目に入った記憶があります。その時は肘をついてスマホをいじっていたはずです。マスクはしていませんでした。
「死にてぇのか!」
「すみません!」
女性はまだ怒っています。おじさんが謝っているということは、おじさんは何かしたのでしょうか。女性は何に怒っているのでしょうか。
「なぁ、どういうつもりなんだ! あぁ? なぁ!」
見た感じ大学生くらいの大人しそうな女性ですが、とんでもない言葉遣いで、ものすごい剣幕で怒っています。おじさん、あなたはいったいなにをしてしまったんですか。
「死ねオラァ!」
女性がおじさんを殴りました。まさに全力のパンチと言う感じで、鈍い音がしました。おじさんは手で頬を抑えています。女性は拳をもう片方の手でさすっています。人を殴り慣れていないのでしょうか。そんな人にここまでさせるなんて、おじさんなにやったの⋯⋯
「地獄に落ちろ!!!!!!!」
恐らく彼女はおじさんを蹴りました。私の位置からだと胸から上くらいしか見えないので、詳しくは分かりません。
「うぅ!」
おじさんが倒れ込みました。金的でも蹴られたのでしょうか。
あれ、ちょっと待って、めっちゃいい匂いしてきた。鰻みたいな匂いが⋯⋯どこかの店の仕込みでも始まったのでしょうか。
周りを見渡すと、私の後ろにいたお兄さんが2人を見ながらうな丼を食べていました。恐らくすき家のものと思われます。
私は「マジで!?!?!?!?」と思いました。先日生で見た手品よりもビックリしたと思います。立ち止まっているせいで予定より遅れたから食べているのでしょうか。地下鉄への階段で上を見ながらうな丼を食べているスーツ姿の男性が今までいたでしょうか。
私が驚いている間も女性はおじさんへの暴行を続けていました。
「おい、警察呼んだ方が良くないか?」
「すぐそこにあるしな」
「早く警察警察!」
上にいる人たちが騒ぎ始めました。私は「騒ぎ始めるの遅っ」と心の中で呟きました。ここはとても大きな駅なので、構内に交番があるのです。50メートルほどの距離なので、すぐに駆けつけてくれると思います。
「いえ、大丈夫ですので⋯⋯警察は呼ばないでください⋯⋯」
おじさんが死にそうな声で言っています。いや呼ぶでしょ。どういう理由で呼ばないっていう考えになるのよ。
「大丈夫です、警察はいいです。もう気が済みましたから。ぺっ! ぺっ!」
女性はそう言っておじさんに唾を吐くとその場を離れ、階段を下り始めました。先程女性が通った道が空いていたため、彼女はそこを通って私の隣まで来ました。
「あの、いったい何があったんですか?」
私は勇気を出して聞いてみました。この機会を逃せば、私は気になりすぎて6年は眠れなくなるでしょう。
「あいつが上から唾吐いたんですよ、けっこうな量を」
「え!?」
「なんか首が冷たいなと思って上を見たら、あいつが笑ってヨダレを垂らしてたんですよ。その後も何回か唾吐いてましたよ、ほら」
そう言って女性は私の肩を指さしました。カッターシャツが少し濡れています。私は指で布地をこすり、臭いを嗅いでみました。とても黄色い臭いがします。私も殺意が湧きました。
「お互い災難でしたね、それでは」
女性は去っていきました。これが事実は小説よりも奇なりというやつか、と私は思いました。
あのおじさんはそのうちぶっ殺されると思います。気分によっては私も殺してしまうかもしれません。めっちゃ腹立ちますからね、あれ。
※脚色ありです。