thank you(新旧)対決
この時間に電車に乗るといつもいる子がいる。
小学校の制服を着て児童文学を読んでいる。
この時間は座れる時もあるしないこともある。
なんとなく目配せ。
話したことはない。
だけど、対面席の奥が空いて入りづらい時、ぼくがほかのお客さんに話しかけてこの子に座ってもらったり、逆に席を詰めてもらったりしている。
音楽を聴きながら窓を見ると、反射で彼の顔がうつっている。
魔女の宅急便か。しかも6巻。キキがお母さんになる話だな。
お母さんになると子供の頃と意見が変わる。
魔女になりたい男の子のトトと魔女になるかどうか周囲を苛立たせるニニが出てくる。
魔女になれないが猫とは話せるトトがどう旅立つか、魔女になるかどうかで周りを苛立たせて結果的にトトが受ける親や周囲の関心を持っていくニニがどのように一人前になるか母親の立場で読むことができる。
ぼくは図書館の除籍本コーナーで手に入れた『図説手織機の研究』を読む。
満員電車のひといきれの中、かすかに香る古い紙の匂いが心地よい。
ボロいがあまり読む人がいなくてめくれていないページをたぐる。
チラチラ。視線を感じる。
『それ、面白い?』
そう問いたげな少年の視線に内心微笑む。
唇を少しぼくは舐めて……ページに唾をつけはしない。
ぼくは本のページをゆっくりと手繰る。
この本は在野研究家がまとめた世界の織物機や織物の技術をわかりやすく端的にまとめて織り方も簡単に紹介してくれるいい本である。織物機も原始的なものから近代まで図解してくれる。
(以下、図説手織機の研究 前田亮 著 終章から引用)
ーー本になる研究が始められたのは、詰まるところ普通の会社勤めをしていたおかげである。
それでもなぜ織機なのか、自分でもよく解らない。総て機械技術に関することを研究しているのに、機械を調べるときには、不思議に次々に有力な支援者が現れるのであった。ーー(引用終わり)
面白いかどうかはわかんないけど、面白いようにつまんない生き方をしていたらすごい面白いことをしているかもしれない。
ぼくらはただ本を読んでいるだけだが、案外この知識や感じたことが誰かの種になるかも知れない。
どうでもいい、気づかなかった何かに気づいていたら、それは魔法ではないか。
余談。
寝過ごしかけて彼につついて起こしてもらった。
大人として恥ずかしい。
そろそろ雨傘なくてもいけるかな?
ぼくは雨上がりの草の上でキラキラ光る道をつくって進む蝸牛に道を尋ねると空を仰ぐ。
どうやら今日はコレから晴れるらしい。