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金曜日はふわふわ

 なんかここだけ人多くね?



 俺ははっきり言って座りたい。

 とりあえずおっさん。コロナ怖いのはわかるが対角で前に座って窓側に荷物置くな。

 そこのおばさん、そのぬいぐるみはなんだ。


 口には出さない俺紳士。多分。



 大阪環状線今宮駅は大和路線と南海電鉄につながる駅だ。

 近くにはドンキ。あと世界の大温泉な蒸気の匂い。いや串カツかな?


 一人席に鎮座し窓外を肴に早くもストロング缶とファミチキで決めてるおじさん。守りたいこの笑顔。



 その対面に座っているのは金髪を思わせる編み込みが入った布と、一見地味なデザインながらラメの入ったマスク、首筋からお腹側までふわふわなドレープついたスカート、ゆったりしたベルトにシースルードレスとパンツルックのお姉さん? 女の子?


 彼女は『fashion 世界服飾大図鑑』をガン見している。

 どん。後ろをギター持ったにいちゃんが通る。よろけてつい彼女の席の持ち手を握る。



『ごめんなさい!』


 いやいや。いいよ。謝るのが彼女の方なのはムカつくけど。



 ぼくは手振りでそのカップルに返し、目線で席の女の子に『ごめん。怖くなかった?』と告げる。

 大丈夫。そう返事があった気がした。


 彼女の視線はぼくの目からぼくの手元にあるリサ・エルドリッチの『ヴィジュアル版化粧の世界: 化粧と化粧品の物語』に移る。



「化粧とかに興味あるの?」



 いかん!?

 同類を求めてしまうオタの本能が憎い!?


 すっと伸びた彼女の背筋が少し前に。綺麗な礼だ。



 全然顔はわかんないけど、多分目元で笑ってくれたらしい。


 とりあえずだまる。


 この本は現役トップメイクアップアーティストが化粧史やそのやり方をビジュアル解説してくれる稀有な本だ。図書館の期日は明日。早く読まねばならぬ。



 電車は動き出し、大阪駅にゆっくり進む。



 余談だが新今宮から南海線に乗る時、エレベーターもエスカレーターも存在しないので関空に向かうときどえらい目に遭ったり、間違えて大和路線に行ってしまう被害者は後を絶たない。阪堺線が分からなかったりもする。


 たまに外国人のカバンを抱えてうおおお!とのぼる親切なおっさんおばさんがいる。これが大阪である。

 知らなければ泥棒にしか見えない。よその国なら事案だ。



 最近の中国系進出に伴い綺麗になったと言われる新今宮のごちゃごちゃした光景から大阪駅までのやっぱりごちゃごちゃした光景を横目に、やっと明るくなってきた春の空を肴に僕は読書する。

 バックパッカーの聖地がコロナの影響もあり、地下鉄動物園前から飛田新地方面はベトナム系進出で活気付いているらしいとは先日読んだ地方紙の記事。


 となりのにいちゃんのイヤホン、音漏れしてる。

 あっ。席空いた。


 にいちゃんが座ってねえちゃん立ってる。おまそれ逆やろ。なんて言わない。

 対面にいたお母さんが『お姉さん。彼氏の向かいに座りな』と席を立つ。


 惚れてしまうやろおばちゃん!

 俺は空いた席に座ろうとしたが『お姉さん、こっち』と荷物置いて確保した席に彼女を導く。


 もう一回本を取り出して……でかいし重いし、だからいいのだけど……全身布に包んだ彼女と目が合った。


「新しいコンパクト版じゃなくてでかい方だね」


 思ったことが声に出るぼくのばかばか。


 こくりと彼女の首だけが動く。


 でかい方は独自の記事があるし、コンパクト版は小物特集があって両方見応えがあるのだ。


 なんか気まずい。


 でもまあ、趣味が似ているひとっていいよね。


 ガタンゴトンというほど大阪環状線は線路劣悪ではない。

 乗り換え間違えていつのまにか奈良とか京都とか和歌山に行くことはあるけど。


 なんか酔っ払いがういーと背中に乗ってくるので彼女の席の取手掴んで全力ガード。


 まだ春だからもうすぐ暗くなる。

 でもまあ、そのうち明るくなる。


 きっとね。



 今週も皆様お疲れ様でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >リサ・エルドリッチの『ヴィジュアル版化粧の世界: 化粧と化粧品の物語』 >この本は現役トップメイクアップアーティストが化粧史やそのやり方をビジュアル解説してくれる稀有な本だ。 ほう…! …
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