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金曜日はふわわ  作者: 鴉野 兄貴


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金曜日はふわわ

 金曜日はふわわ。


 ふわわと揺蕩う気分を掌のビールに託し、のんびり帰路に着く。

 家に帰ってから呑め? やなこった。



 彼女の名前は『さぼてんばな』。僕の名前はコンヤ。



 なお、彼女の名前はぼくに発音が難しかったので『さぼちゃん』とマスターたちが呼んだことから定着した。


 最近の彼女は服飾科の単位を取りつつ、YouTubeチャンネルも持つようになっている。相変わらず動画内では喋らない。


 服飾やコスプレの腕も上げたがピアノがやたら上手いと判明した。さすがお嬢様。意外な特技である。


 余談だが彼女の動画チャンネルのマスコットはサボテンであり、建前ではサボテンが代弁していることになる。

(動画チャンネルのファンからはこのサボテン、勝手に『トゲ次郎』呼ばわりされている。なにそれ知らないへんなの)


 ファルコとピートはさぼちゃんの動画マスコットとして買ってきたサボテンを世話してくれる。

 二人はなにかとサボテンに話しかけるので『ノリダーかよ』とマスターたちが言う。これも意味不明。昔のドラマかなんからしい。


 まあ、お袋の関係者はいつもこんなのばかりだ。

 最近ビルが爆発しなくなっただけマシなのだ。


 ……そういえばこのサボテン、やたらでかくなってないか?



 大正琴を抱えて適当な駅で降りる。

 警察の人に叱られるか飽きるまで演奏し、別の駅に移動する。

 調子が良い時は歌も歌う。



 この時期は日当たりが良すぎるから、まだ曲がりなりに冷房のある明石駅や神戸のストリートピアノ前に姿を見せるけど、たまに病院のストリートピアノ前に立って演奏することもある。


 コスプレしたもこもこが一緒にピアノを弾いているときは『またおまえらか』と弾幕コメントが載る。ぼくはニコニコ派だしね。

 ちなみに未だにSHOWROOMアカウントも更新している。



 この間塚口駅のコインロッカー前を通るとその前で学生さんたちがいっぱい。



 二人で551頬張りながら思わず話しかけてしまうと大興奮された。


 見るとコインロッカー内に僕らを祀る祭壇ができている。うはぁ。


 聞くとSNSで共有して推し活しているらしい。


 何故インディーズの僕らに……たしかに二人分合わせたら1万ほどフォロワーいるけど。実数は六千くらいのはず。


 僕らの心臓には悪い事実だったが、『本人たち降臨!』と彼女らのアカウントはフォロワーを爆増させたらしい。

 あれ? フォロワーさん僕らより多くね?



 なんとなくその時、ファルコやローさんティアさんたちのために買った饅頭は全部学生さんたちにあげたのが関係あるのかな?


 マスターやピートの分? 全部やった。


 ところで551は何故あんなに並ぶようになったのか。僕には一時期のタピオカミルクティーやスターバックスみたいな一部の人がいうおしゃれなイメージが全くないぞ。自分では庶民感覚が抜けないと考えている僕は並んでまで買いたくない。迷惑である。

 食うために買う人、食べたという情報を書きたい人。世の中色々ふわふわわ。


 さぼちゃんは自分の分をもう少し確保して欲しかったらしくその日は静かにキレており、十三まで話しかけても無視された。まあ、男の格好だからと言うこともあるだろうが。

 彼女が僕の信条をわからないのと同様、僕も相変わらず彼女の判断基準がよくわからない。



 まあ、人それぞれだし。

 お袋に言わせれば『正義の反対は寛容』らしい。


 確かに僕は正義の味方だな。ははは。

 赤の他人の電車マナーが気になって仕方がない暇人だし。



 とりあえず痴漢は通報する。

 宝塚線は始発時間帯に携帯いじって学生の股間を撮影しているやついたんだよな。

 顔を映さないで撮るのがフェチにはいいのだろう。

 逆を言えば顔に自信が無くても撮られる。パンツの中身が見えてなくてもいい。見た目が女性でも油断できないのがムカッとくる。


 そのことを教えてくれた自称自転車屋さんは盗撮に気づいた時に彼と学生の間に立ってガードし、メモで教えたらしい。二重の意味で学生さん怖かったろうに。



 なんとなくモジモジするもこもこの小指に自分の小指をひっかけ、袖の中で小さく繋がったまま家に帰り、『豚まんはない。知らん人らにやった』と素直に告げたところピートが泣いたので仕方なく先日ファンからLINEギフトされたパパブブレのさくらミックスキャンディをやった。綺麗な飴に喜ぶ彼を素直にかわいいと思った。クソガキめ。


 正直意地悪してすまんかった。味わって食え。


 グダグダ文句言いつつ弟のファルコへ恩着せがましく飴をやるピートよ。現実でツンデレしても可愛くないしややこしいやつ扱いされるから弟への態度は改めろ。



「あの子と仲悪いの?」

「悪縁だな。ここにきて、お袋たちに引き取られるきっかけにはなった」


「じゃ、私にも大切なひとだね。あとツンデレ? ってあなたとピートにも言えるわよ」

「おいおい……あのクソガキは調子付くとウザいぞ」



 歓声が上がる。


 久しぶりに帰国したお袋がビルまるごとあるボルタリング壁を見事なジャンプムーブで攻略したのだ。


 動画とってやいのやいの騒ぐスケボーやらスラックラインやトランポリンやらボルタリングを楽しむ利用者。


 観客目当てに私設公園内に出店している屋台で買ったホットドックとスミノフアイスを手にとりあえず義理の母(?)に拍手。


 あの人、なんでもつねり取れるし手足の裏の皮膚を吸盤みたいにできるから、ボルタリングどころかなにもついてないビルを楽々のぼってついでにビル清掃する動画を撮り、その動画を各企業CM用に自ら編集して売り込めるパフォーマーとしても有名なのだよな。



「あなたのお母さん、とても素敵なかたね。あのガモンがあの方のおかげで豊かで平和な国になろうとしているなんて信じられない」

「君の国だって良い国じゃないか。お姫様。なんてね」



 春ごろにみんなで梅仕事ついでに仕込んだ紫蘇ジュースが発酵してしゅわしゅわになっているのを氷を入れて飲むのが最近の彼女のお気に入り。


 余談だが松葉もサイダーや酒にできる。


 それらを販売するマスターが屋台でカレーを作りながら手を振っている。

 その下半身が裸なのを僕は知っている。

 見えないからいいけど、通報してやりたい。

 座っても立ちやがって。なに言ってるのか自分でもわからない。



 公安のおっちゃんが、なんかホームレス風態でゴミ拾いボランティアのふりをしていたから、義理の母を普段助けてくれているお礼にキンキンに冷えた紫蘇ジュースを渡しておく。いやというならゲロまずいゴーヤジュースにするぞ。



 本日は金曜日なり。世間様では明日から連休。


 相変わらず僕の周りは程よくトラブルはあるものの概ね平和である。



 よし。いくべ。


 僕はジャラジャラしたアクセサリーを鳴らしつつ、足元まであるミリタリ柄の緑に染めたカッターシャツを脱ぎ捨てる。


 陽光を浴びて白い肌を晒す。少し汗ばんでいたから心地よい。


「歌うなら飲まなきゃいいのに」

「適当に歌うからいいのだ。ふわふわ適当。これが僕の信条なのだ」



「キャストオフきたー!」

「セクシー!」


 彼女はため息をつくともこもこを脱ぎ捨て、アニメキャラクターのコスプレになる。

 一応、肌も顔も全部隠しているけど、密着がすごくて、それフェミズムのひとがキレて抗議してこない? なくらい過激である。顔はスケスケ布地だし頭は髪を模したベールだし。

(なんか君が僕以外に顔を晒すの、ムカつくのだけど)


 袖はちょっと広め。コードギアスかな?


 あと、お腹と胸と、特にフレアスカートの尻と股間だけピッチリする謎縫製技術を教えてほしい。


 カラカラと黒服さんが豪華なピアノを押してきた。謎の再登場である。



 酔い加減は好い加減。

 僕らの歌声と音楽は夏を彩る青葉の香りとともに穏やかな曲を奏でる。



 汗と熱気とカレーの香り、そして大音響の靴を皆が踏む音。


 あちこちで思い思いのパフォーマンスをする人たちが僕らの音と歌をBGMに楽しそうに太陽へ飛び立ち、その動画を撮っている。



 最後の旋律を終えると彼女の背中と僕の背中がぶつかる。

 お互いの背中が冷たく、どこか生ぬるくて心地よい。


 ピートがぽいっと客席から投げ込まれたビール缶のプルタブを開けるとシュワっと光の中に噴水のごとく涼気が吹き出し、僕らの胸元を濡らす。あいつめっちゃ振っていやがったな。下着が透けるだろが!


 ……僕のアクションに耐えて髪にくっついていた子猫に早速逆襲食らってる。ざまあない。呆れるとともに思わず笑ってしまう。


 残り僅かなビールを一気飲みし、『アンコール?』と客席に問うと、ファルコが『うん!』と返してくれた。愛いやつめ。



『アンコール! アンコール!』


 僕らは微笑み合うと、お互いの楽器を爪弾きだす。


 皆さま。明日も明後日もダラダラ平和に快適にクーラーつけて休日をお過ごしください。



 金曜日はふわわ。


(了)

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