転生
まだ昼を回ったくらいの時間、二階堂 志は今日の負けた金額を計算しながら家路に着いていた。裏のカジノへ通うのはやめたとはいえ、パチンコでも出費は馬鹿にならない。これで借金を返す金もなくなった。信号機が嘲笑う。彼にとっては慣れたことである。
絡んでくる信号機をシカトして帰った玄関を抜けると、狭い部屋が更に物や塵に圧縮された空間の中央にロープの輪が垂れ下がっている。しかし、彼にその輪に首をかける勇気はなかった。その理由はひとえに「苦しそうだから」である。そうはいっても、彼の空っぽの決意は変わらない。
「苦しまずに死にたい」
彼は帰ってきて何をするでもなく、そう言ってまた玄関を抜けていく。
近所のビルの屋上に侵入した。その辺の倫理観はとうに欠落していた。誰に迷惑をかけるでもないしいいじゃないか。そんなことを思いながら道路側の端に立つ。一瞬躊躇った後、彼は背中からそのからだを地面に叩きつけた。思ってみれば家族、友人には大変な迷惑をかけたものである。そんなことを初めて思ってみる。
そろそろ死んだだろうか?しかし意識はある。
目を開けると、あたりは真っ白。目の前に羽の生えた短髪の女がっ立ってどこかを見ている。例によって服も真っ白である。
「天....使....? ってことは天国行きか?フフッ、てっきり地獄かと思ってたよ」
そう言うと女は倒れている男に気づき、笑顔を見せた。
「天国でも地獄でもないよ。あなた、どっちにも行く価値がないもの」
「あ?」
否定はできないが頭にはくる。
「あはは、ごめんなさい。あなたの人生は正真正銘の『無』、なろう小説でも類を見ないくらいだよ。だから天国とも地獄とも決められないの。まあ、個人的には地獄が良かったかな。『無』ほど迷惑なものないもの」
この天使、かなり饒舌である。
「それにあなたがあまりに『無』だから担当天使の私があなたにもう一度人生を与えなきゃになっちゃったじゃない。この命令逆らったら消えちゃうのよね。ま、そこまでルール厳しいわけじゃないから18歳くらいからスタートでいいかな」
「え? ちょっと待って言ってることがよく分からないぞ....」
「まーまー、あなたにピッタリの世界を見つけたの!」
そう聞こえたかと思うと、彼はまたも意識を失ってしまった。
目覚めるとそこには、モダンな建築が立ち並び、人々は前世で言うところの人種が入り交じっているようであった。見上げると、遠くには高い塀がそびえ立ったいる。どうやら塀の内側らしい。
「塀の中がピッタリか。フフッ、確かにな」
「そうじゃないよ。ここではあなたの唯一の才能、ギャンブルの才能を活かせるの! ステキでしょ!」
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