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ハンバーグ

作者: 楠井 仁

小さい頃から僕と妹は親戚中をたらい回しにされていた。



交通事故で死んだ両親は、とても優しく心温まる家庭を築いていた。

いつも仕事で忙しい父さんは休日にはいつも一緒にゲームで遊んでくれたり、ベタだけどキャッチボールなんかもしてくれた。母さんは家事を手伝うといつも「ありがとう」と優しく頭を撫でてくれ、何かお祝いすることがあると夕食にはいつも大きめのハンバーグが作ってくれた。


結婚記念日にはいつも、父さんは空色の便箋を母さんはレモン色の便箋を使い、お互いに感謝の言葉を綴った手紙を送りあっていた。

暇さえあれば手紙を読み返し照れまくっている両親を見ていて、子供ながらに呆れていたのを覚えている。


新婚でもないのにいつも手を繋いで外出するような2人。自然と僕と妹も真似して手を繋いで歩くようになっていた。


ある日の休日、僕が幼稚園のかけっこで1位をとったお祝いにいつもよりも大きいハンバーグを作ってもらうことになっていた。両親は少し足りなかったひき肉を買いに出かけ、その間僕は妹の面倒を見る。


お兄ちゃんだからね、妹と2人でお留守番なんてへっちゃら!今日はいつもと違ってもっと大きいハンバーグが食べられる!


そんな思いを胸に両親の帰りを待った。

しかし、両親は帰ってこなかった。


飲酒をした挙句にスマホを見ながらの脇見運転をしていたトラックが、信号待ちしていた両親を目掛けて突っ込んだらしい。


警察から両親が亡くなったという連絡を貰った時、僕は気が狂うかと思った。


いつもの大きさのハンバーグならひき肉は足りていたはずだったんだ。


両親が買い物に出かける必要もなかった。


()()()()()()()()()()()()()()()


僕はもうハンバーグを食べられなくなってしまった。



両親は駆け落ちをして行方をくらませていたロクデナシと扱われていたため、その子供である僕たちも親戚中から疎ましく思われていたようだ。


ある人は差別をし、ある人は暴力を振るい、またある人は僕たちをいないものとして扱っていた。


自分の子供に悪影響があるかも知れないと蔑む人や、補助金目当てに引き取ろうとする人だっていた。


今引き取ってくれている人達は補助金が目当てだったようだが、国から支給されないとわかると妹を玩具のように扱い僕の事は奴隷として扱うようになった。


妹は『女の子らしさ』を強要され、1日に何度も着せ替えられたり、ピアノやバレエなど複数の習い事をやらされていた。多少上手くいかなくても、アイツらは『天才だ』『天使のようだ』と甘やかしまくっていた。


それに引き換え僕は、少しでも家事が滞ってしまうとすぐに罵声や体罰が飛んできた。人格否定は当たり前。すれ違うだけで嫌な顔をされることもあった。体罰も腕や足ではなく、他からは見えにくいお腹や背中を中心にされていた。

児童相談所を警戒して最低限の食事と入浴を許可されたが、とても心休まるものではなかった。

食べられないのをわかっていてハンバーグを出されたことも何度もあった。


そんな日々に嫌気がさした僕は、徐々に塞ぎ込み自分の感情を上手く表現できなくなってしまっていた。


「大丈夫だよ!これからもっと幸せになれるはずだから!」


妹は甘やかされすぎてワガママな性格になったりせず、いつもと変わらない笑顔でいてくれていた。


自分だってあいつらにお人形のような扱いをされているのに。


痛いはずなのに


苦しいはずなのに


嫌なはずなのに


ずっと笑顔で僕のそばに居てくれた。


その小さな体で精一杯僕を抱きしめてくれた。


それだけで僕は救われていた。

この子のために生きていきたいと願うようになっていた。


今は歯を食いしばってでも耐えていつか――――


いつか2人だけでも暮らしていけるように頑張ろう。


そう誓い、幼少期を過ごしていた。



僕が13歳、妹が10歳の時に突然転機が訪れた。


なんでも養子として引き取りたいと申し出てくれた人が現れたらしい。


相手は裕福な家庭だが跡取りに恵まれず途方に暮れていた所に、僕たちの存在を知って親戚たちに願い出たそうだ。


この環境から一緒に抜け出せると妹は心の底から喜んでいた。

その異様な程の喜びようを見て、その家族は少し訝しげな顔をしていた気がするが見て見ぬふりをする。


その夜は大変だった。いつまでもベッドの上ではしゃぐ妹をあやしていたからだ。そのおかげでいつもよりも2時間ほど寝る時間が遅くなってしまった。

けれどあの親戚たちから離れることが出来るのはとても良い事のはずだ。


これでようやく妹を幸せにすることが出来る。今まで支えてきて貰った分、僕が妹を幸せにするんだ。そう頭の中で考えている内にいつの間にか寝てしまっていた。



養子の話を聞いてから2年が経った。15歳になった僕はもうあの時の家にはいない。別の人に引き取って貰いその人の家で暮らしている。

ただ妹とは一緒に暮らしていない。2年前のあの日、あの家族が迎えにきたのは妹だけだったようだ。


いやこう言うのは語弊がある。正しくは()()()()()()()()()()()()()()()()だけだ。

あいつらは家事を請け負う奴隷がいなくなるのが嫌だったのか、僕の存在をひた隠しにし話を進めていた。


しかし、妹を引き取った家族が妹を通じて僕の存在と扱われ方を知り警察に通報。僕はすぐに保護されることとなった。

僕を虐待していた家族は丸ごと塀の中に送られることになったらしい。そして僕は父の妹、つまり叔母に引き取られたということだ。


どうやら僕たち兄妹をよく思っていなかったのは母方の親族であり、父方の親族はそもそも両親が亡くなった事さえ知らされていなかったようだ。


あの親戚たちから解放されて、ようやく初めて墓参りに来ることが出来た。随分と遅れた事を両親に怒られそうだけどきっと許してくれるだろう。


少し長い階段をあがっている最中に僕を待っていた1人の少女が居た。

その少女の手を握る。少女も握り返してくる。


そのまま2人で階段をあがり両親の墓まで歩いた。

2人の遺骨は父方の親戚が引き取ってお墓に入れてくれていた。

お墓は綺麗に掃除され、大事にされていることがよくわかった。

僕と少女はそれぞれ両親に向けて、感謝の言葉をしたためた空色の便箋とレモン色の便箋を2人にお供えした。


父さん、母さん。遅くなっちゃってごめんね?色々と大変だったけど、これからはもう大丈夫。今まで本当にありがとう。これからもずっと見守っててね。


「さて!」

少女が勢いよく立ち上がる。


「お腹すいちゃった!お兄ちゃんは何が食べたい?」

「そうだな。ハンバーグが食べたいな」


僕はようやく笑うことが出来た。

この作品を読んでくださり本当にありがとうございます。

この作品は私が高校生の頃に作った短編をリメイクした物になっています。

当時は原稿用紙2枚分しか書けていなかったのに、自分が納得する形にしようとしたらこんなに書くことが出来るんだと驚いていますwww

何か物語を作るということはやはり楽しいですね。そのために沢山調べ、自分に知識を詰め込む事もまた物語を作る醍醐味なのかな?と感じました。

『何処かのサイトに投稿して自分の作品を見てもらう』という事が初めてなので、この後書きを書いていてとてもドキドキしております。

まだまだ勉強が足らないと痛感するところが多々あります。

これからも精進して行きたいと思います。

よろしくお願いしますm(_ _)m

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