企みがあることはわかる。何を企んでるかは知らん。
仕切り直された戦いを再開したのは、僕が先だった。
懐から【鳥魔叫奏】を取り出し服用する。追跡鋭化の効果は切れているはずの時間なので、遠慮なく砲声する。
多少はヒルダにも影響はあるだろうけど、向きと声量は調整した。
その分、効果も減衰しているけど・・・
集中を乱すだけなら十分だ。
「ーーーーーーーーーーッッ!!!」
「ぐぅっ!?」
目の前の精霊種が呻く。ヴェルフラムさんの時程の威力は無いけど、耳を抑えたことにより隙が出来た。
「ふっ!」
息を吐きながら近付く。中、遠距離用の武装は無いから直接後衛を狙うことは出来ない。
だから、魔法使いを攻撃するには前衛である戦士たちを抜く必要がある。
ドットイージスがあることを考えると、無理矢理横を通り抜けるのも危険だ。
先程の衝撃を考えると、経路にドットイージスを置かれただけで致命傷を負いかねない。
つまり、楽は出来ないということだ。
剣と槍を持っている精霊種にトンファーを振るう。
隙を作ったおかげでまだ攻撃魔法は飛んでこないが、ドットイージスはやはり発動された。
「つぅ・・・」
痛みを堪え連撃を仕掛ける。
先程同様、周囲の精霊種の数だけの攻撃を重ねた。が、しかし。
ガキィンッ!
ドットイージスとは違うどこか鈍い音と共に、トンファーが弾かれた。
「あーもう!やっぱりさっきより強化されてるなぁ!」
僕の攻撃を弾いたのは、戦士が振るった剣。こちらの攻撃に対応出来るようになったらしい。
僕は攻撃の威力を動きの勢いで増している関係上、途中で武器の軌道を変えることが出来ない。
それでもさっきまでは、相手の体勢から対応しにくい場所を狙って攻撃してたから通ってたんだけど・・・
強化される精霊種の数が減ったことによるものか、あるいは時間が経って強化状態に慣れてきたのか。
近接戦闘のレベルが高くなっている。
そもそも攻撃の予知ができるのだから、速度と力が足りているなら魔法に頼らないで弾くなり避けるなりした方が良いわけだし。
更に厄介なことに。
「炎よ、弾けろ!」
「っと、危なっ。」
後衛の精霊種が混乱から回復し、攻撃魔法を撃ってきた。『炎弾』か。
炎の弾丸、あるいは爆弾。高い指向性と威力を持ち、制御が簡単な優秀な攻撃魔法だ。とはいえ、追尾性能は無く回避は容易。
ただし床などに着弾した後に広範囲に炎が広がるのでそこだけは注意が必要だ。
「玉座の間が火の海になりそうだけどいいんですか、女王さま?」
「いらぬ心配じゃな。己が灰になる事を恐れた方が良いのではないかのぅ。」
「さようですか、っと。」
今度は剣と槍を躱す。
完全に向こうの隊列が整ってしまったみたいだ。
やっぱりと言うべきか、【鳥魔叫奏】は何の役にも立たなかったなぁ。
「これはちょっと、面倒だな。」
精霊種の戦闘力自体は、あの時の鬼神どころかヴァンクやバーレンにも遠く及ばない。
力はヴァンクに劣り、技術はバーレンに劣る。
こちらの連撃に対応してることは確かだけど、そこから自身の攻撃に繋げることは出来ていない。
だけど。世界の全ての存在が脅威となる僕の場合、個別の戦闘力なんて正直全部変わらない。
例えば相手の戦力が百だろうが千だろうが、凄い強いってことしかわからない。
ていうか、剣だの槍だの、武器を使っている時点で相手が非力でも直撃すれば普通に死ぬ。
まあ何が言いたいかというと。
とても強い個よりも、それなりの強さの群集の方が僕にとって脅威度が高い。
「さっきより数は減ってるんだけどなぁ。あーもう、ここまでの強化すると負担も大きいんじゃないですか?」
唸りながら女王に水を向ける。
「さて、どうじゃろうな?」
「流石に話してはくれないか。期待はしてなかったけど。」
会話する間にも、精霊種の攻撃は止まない。
先程の理性がない攻撃に比べると多少は技術があるように見えるけど、フェイントも無いし急所を執拗に狙ってくるから避けるのは簡単だ。
やはり、厄介なのは魔法。
炎弾だけでなく、氷や風といった単純な攻撃魔法。他にも追尾性能のある水塊や閃光、毒の煙といった妨害魔法も使ってくる。
そのせいで、かなり行動を制限されている。
「攻撃の威力は足りてる・・・不足しているのは速度か。」
この辺りが、擬似悪魔化の限界だろう。
僕は一度距離をとる。それでも構わず攻撃魔法が飛んでくるが、可能な限り小さい動きで回避する。
そして生まれた若干の時間を利用して、首にかけていた音響頭角を起動した。
音が脳に響き渡り、体があの感覚を思い出す。
「・・・〜〜♪」
知らず、鼻歌がこぼれる。
前に使った時は凄いイラついてたからそんな気分にならなかったけど・・・
もともと、好きな音を登録してあるので勝手に気分が上がる。こんな状況でも、というよりこんな状況だからこそ。
油断や慣れではなく、余裕は必要だ。
「よし・・・一応警告しておくけど、さっきまでと同じとは思わないでね。さっきから手加減はしてないけど、これからはほんとに死にかねないよ。」
深層励起:神殺権
実際に使用した時よりは効果は劣るけど、それでも擬似悪魔化以上に身体機能と脳機能を強化する。
継続時間が安定しないのと、現状ではこれ以上の効果を発揮出来る物がない事実上の奥の手だったからここまで使ってこなかったけど・・・
擬似悪魔化がろくに通用しない以上、温存しても仕方ない。
「ほう・・・雰囲気が変わったな。魂の色が澱みおった。どんな外法を使った?」
少しだけ興味を引かれたような表情で女王が問うてくる。ちなみに今は声を聞くのも大変だったりする。耳元で音を流してるわけだしね。
「あはは、外法だなんて心外ですね。これはむしろ、摂理に従い不条理を砕く現実の証明。人間がもつ力を限界まで活かすために造り上げた、反逆の刃だ。」
まあ、今使ってるのはあくまで擬似的な効果の再現だから厳密には違うけどね。
・・・ていうか、魂の色が澱んだ、か。わかってたけど深層励起でも神殺権は体を壊すらしい。
さて、あんまり長持ちしないし時間は無駄に出来ない。
やることはずっと変わらない。近付いて殴る、それだけだ。
「ふぅ・・・」
一瞬呼吸を整え。
「ッ!」
全身の筋肉を連動させ、一歩目から最高速で動き出す。
呼吸を持たない精霊種からは、隙を見つけるのが難しい。先程の攻撃に対応されたのは、僕が相手の虚を突ききれなかったことも原因の一つだろう。
だからもう、単純に速度で圧倒するしかない。
今なら二本のトンファーを完璧に扱える。攻撃速度は、先程の比では無い。
数回の甲高い音。この速度でも、ドットイージスならば対応出来るらしい。相手を認識してさえいれば、視界の外にも張れるようだ。
だけど。
「ふっ!」
「ッ・・・!?」
使い切らせればいいだけだ。
そして今度はもう、対応出来るような速度ではない。
トンファーを顔面に叩きつけられた精霊種が呻きながら崩れ落ちる。
威力が高すぎて、もはや体ごと吹き飛ぶ前に顔が消し飛んだ。とはいえそこは精霊種。一瞬後には傷一つない状態に戻った。ただしそれは見た目だけの話だ。
倒れた精霊種は今にも消えそうな程に霞んでいる。
結構な力を誇示したつもりだけど、やはり戦士たちは怯まない。
仕方ない、結局殲滅するしかないのか。
どうにも、操られてる感あってやりにくいんだよなぁ・・・
「・・・まあ、即死してないし大丈夫か。」
「相手の気遣いとは余裕じゃのう。」
「あなたが直接来ても良いんですよ、女王さま?」
「妾に触れたくば、その者たちを降してみせよ。慈悲も容赦もなくな。」
うわー、この感じ明らかになにか企んでるよ。
例えば精霊種を攻撃することで、後ろの巨大水晶に負の力みたいなのが溜まるとか・・・すごいありそう。
だからといって、戦闘をやめることは出来ない。そもそも今ある懸念も、あくまで想像に過ぎないし。
「・・・あぁもう、踊らされてあげますよ!」
勝手に悪い想像を膨らまして動けなくなるのはあまりに愚かだ。
もし本当に何か企んでいたら、その時に対処するしかない。
先程は威嚇も兼ねる意味で一番前にいた精霊種しか攻撃して無いから、まだ沢山敵は残っている。
断続的に襲ってくる攻撃魔法を避け続けるのにも疲れてきたし、まだ女王が残っている事を考えるとここで深層励起の時間を使い切る訳にはいかない。
幸い、攻撃が通用することは確認済みだ。
正気でない相手を倒すのは、少し心苦しいけど・・・
まあそこは、精霊種の生命力と強化の効果を信じるしかないか、うん。
と、炎弾と追尾してくる水塊が迫って来る。
お、丁度いい。
僕は水塊の軌道を誘導し、炎弾にぶつけた。
水蒸気が爆発的に広がり、精霊種の一部が蒸気に巻き込まれる。
もちろん高温の蒸気に焼かれては適わないので、僕は既に距離をとっている。
さて、効果の程は・・・
「ぐおぉっ!?」
数人の精霊種がのたうち回っている。
人種よりは環境の変化に強いとはいえ、瞬間的な高温は流石に耐えられなかったらしい。
・・・っていうか、やはり判断力がかなり制限されてるっぽいかな。
普通の魔法使いや戦士だったら、そもそも炎弾と水塊をぶつけるようなことも、蒸気に触れる範囲に入ったりしない。
若干哀れに思いつつ、生まれた隙を狙って戦士を全て戦闘不能にする。
ドットイージスを使う余裕も無かったみたいだ。
前衛を制圧しきった事を確認し、一度音響頭角を外す。ちなみに擬似悪魔化の効果はまだ残ってるので攻撃魔法には対応出来る。
僕は女王に声をかける。
「一応言っておきますけど・・・魔法使いだけでは僕を止められないですよ?」
「・・・そうじゃろうな。動ける者は負傷者を連れて撤退せよ。大儀であった。」
意外なほどあっさりと、女王は兵を引かせる。
部屋から去っていく精霊種を尻目に、気怠げな表情を変えぬまま女王は立ち上がる。
「本当に、よくやった。後は妾に任せるが良い。」
ようやく真打の登場ってところかな。
でも、ここでこのまま戦うのは良くない気がする。戦闘自体の主導権は渡してないけど、そもそも戦闘のきっかけが全て向こうからだ。
つまり、僕たちの撃退以外の何かしらの目論見がある可能性があったとしてもおかしくない。
ここまでも、違和感が多々あった。
まず最初に、魔法を使わずに近接戦闘をしてきたこと。
ここに来る前に権能持ちの彼が言っていた強敵への備え。それが、あの程度の身体強化だったこと。
そして、向こうが最後までなんの策も打ってこなかったことだ。
僕は警戒を解かず、女王に問う。
「ただ戦っても僕を倒せないのは最初の方にわかったはず。にも関わらず、魔法以外の遠距離攻撃をする訳でも無く妨害魔法も大したものを使って来なかった。これで何も企んでいないとしたらタダの馬鹿でしょう。そろそろその悪巧みを教えてくれてもいいんじゃないですか?」
「悪巧みとは人聞きのわるいのぅ。まあ、謀があることは否定はせんがな。さりとて、妾がぬしにそれを丁寧に説明してやる義理も無いじゃろう?」
「あはは、違いないですね。」
女王の言葉に、表面上は余裕を装う。
が、本当は結構焦ってる。
普通に考えれば、ここでヒルダに加勢してさっさと敵の最高戦力を潰すべきだ。
だけど参ったことに。
「ほれ、何を固まっておる?見事戦士たちを降したのじゃ。妾に触れる資格はあろうぞ。」
「光栄ですね・・・」
女王から視線を外せない。
精霊種だから、意識の間隙が読みにくいのはさっきからわかってたけど・・・
それを差し引いても、つけ込める隙がまるで見当たらない。
先程までの強化のように、自身に何かを仕込んでいるのか、あるいは。
精神その物が実態を持った種族の女王として、自らの意識を支配下に置く技術がずば抜けているのか。
前者ならまだいい。その仕込みを解決すればいいだけだ。
問題は後者の場合だ。
単純に強力な相手の場合、対策は限られる。
正面切って相手の技術を超えるか、何らかの手段で弱体化させるか。そんなところだ。
で、その対策が取れるかと聞かれたら。
正直、かなり微妙だ。
「・・・つかぬ事を聞きますけど、女王さまは何か権能をお持ちですか?」
「さて、どうじゃろうな?・・・と、はぐらかしてもいいのじゃが。まあ良い、答えてやろう。妾は権能は持っておらぬよ。ついでに言えば、呪力適性はなく、魔力の適性も我が里の英雄よりも低い。」
「随分と気前のいい情報開示ですね。」
里の英雄とは、間違いなく今戦っている権能持ちの彼のことだろう。
しかし、その情報を僕に教えるということは。
自身の上位元素に関する情報を知られても問題ない、ということなんだろう。
つまりあの異常な集中力は自前の物か。
・・・やってらんないなぁ、もう。
なんでこう強い中でも厄介なタイプがでてくるかな。肉体を持たないってだけでもいつもと勝手が違って大変なのに。
まあ仕方ない。黙って待ってても状況は好転しないし、このままではヒルダの援護にも動けない。
そして、ずっと受け身でいることは僕の性にもあわない。
「とりあえず・・・戦ってみますか。」
「来るか。受けてたとうぞ、シルヴァ・フォーリスよ。」
「・・・あ、そういえばあなたの名前を聞いていませんでしたね。教えて貰っても?」
ちゃんと戦う相手なら、名前くらい知っておきたい。鬼人の里でもそうしたし。
そう思って僕は女王に名を聞く。
と、彼女はそこで初めて心底愉快そうに笑った。
「くくっ、今更妾の名を聞くか。ふむ、そうじゃのう・・・」
そして笑みを浮かべたまま、どこからともなく武器を取り出した。
否、正確には武器ではない。女王が取り出したのは、無骨な手甲。
拳まで覆う、近接格闘にも使えるものだ。
その手甲を両腕にはめ、女王は構える。
予想もしてなかった格闘の構えに唖然とする僕。その表情がおかしかったのか、また女王は笑い。
「妾を倒せば、教えてやろう。」
爆発的な速度で、僕をその間合いに捉えた。




