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長々と問答する必要は無いのでさっさとはじめよう

為政者の住居という物に入るのは、実は初めてでは無い。・・・招待されてかはともかく。


前を歩く精霊種の男性を見る。

口調は粗暴だが、立ち居振る舞いは意外な程に洗練されている。

まず単純に姿勢がいい。頭から足まで1本の棒が通っているような・・・うん、ろくにマナーとか学んだことない身で偉そうなことは言わないでおこう。

あとは、迷いのない足取りがどことなく気品を感じさせる。


あの時の他の精霊種に対する様子からもわかってたけど、かなりの位にあるのは確かだ。


「いやー、しかし立派な物ですね。まさか、樹に隣接させる形でこれほどの建造物を作るなんて。」

「・・・のんびり世間話するほど、俺たちは仲良かったか?」

「いいじゃないですか、相互理解は会話からですよ?」

「チッ、口の減らねえ・・・」


なんか口を開く度に神経を逆撫でている気がするなあ。

そんなつもりないのに。


仕方が無いので会話を諦めて周りをよく見てみる。


追跡鋭化の効果も切れてきたのではっきりとは言えないけど・・・この建物、僕達以外の気配が全くしない。気配、すなわち音や振動。生命体のしての音がほとんど無いのは精霊種だからおかしくないけど、生活音まで全くないのは不自然だ。

本当に、一人もいないんだろう。


「・・・女王にはもうお前たちのことを報告している。特に何も言ってなかったが、何事もなく終わりはしないだろう。」

「なにごともなかったら僕達が来た意味が全く無いですけどね。」

「俺の前でそれを言うか?ったく、豪胆なのか、ただの馬鹿なのか・・・」


おっと、流石に迂闊だったかな?


「あはは、今のは忘れてください。」

「本当に巫山戯た野郎だ。・・・まあいい、お前の言葉に真面目に反応すんのが間違いだったな。」


結構酷いことを言われた気がする。

僕としては彼自身に対してほとんど悪感情を抱いていないから、この程度で腹を立てたりしないけど。


これ以上話をしても怒らせるだけな気がしたので、僕は仕方なく会話をあきらめる。

そして、今度は興味深そうに周りを見渡しているヒルダに話しかける。


「里の場所の秘境具合は鬼人の里も似たようなものだったけど、建物の感じとかは大分違うね。」

「そうですね。私は詳しくないので、細かいところはわかりませんが・・・それでも、私の故郷は祭事に使うような施設以外は割と雑な造りでしたから新鮮な気分です。」

「シャクシャラとも大分違うしね。」

「私もあの里では長でしたが、住居はもっと小さいものでしたし、少し気圧されてしまいますね。」


取り留めのない会話を始める僕達を、先導する彼は微妙な視線で見る。

「なんでそんなに普通に雑談出来んだよ・・・お前らがどんだけ実力に自信あんのかは知らねえけど、ここは一応敵地じゃねえのか?」

「ここが敵地になるかどうかは、あなた方の女王様次第ですよ。」

「・・・挑戦的だな。」


僕の言葉に、彼はため息混じりに呟く。どこか苦笑気味なのは苛立ちを超えていっそ呆れたのか。


「その余裕がはったりじゃねえ事を祈ってるよ。・・・さあ、着いたぞ。」


足を止める。目の前には、荘厳な装飾が施された巨大な扉。

見るからに支配者の居る部屋っぽいなぁ。


「案内してくれてありがとうございました。あなたも一緒に行きます?」

「なんでお前が誘うんだよ。良いから黙ってついてこい。」


そう言って、彼はノックもせずに扉を開ける。

女王がいるはずなのに、その手つきに躊躇は無い。


ふむ、ではおふざけはここまでだ。いや、別にふざけてるつもりは(そんなに)なかったけど。


後ろを振り向き、緊張した様子のミレイユの髪を撫でる。

そしてそのまま小さく耳打ちする。


「ミレイユ、ここからは絶対にヒルダから離れないでね。例え相手に何を言われても、僕に何があっても。」

「え・・・?」


返答を待たず、僕は開いた扉の中に進む。

ここから先は、僕が頑張るところだ。




部屋に入ってまず目に付いたのは、見るからに禍々しい巨大な宝玉だった。

黒、紫、青、灰・・・それらの色が混ざり会いながら変化し続けており、見ているだけで気分が悪くなりそうだ。


そして、その宝玉の前の椅子に気だるそうに座る一人の女性。

見た目は若く、艶のある緑の髪が特徴的だ。表情や雰囲気はともかく、外見はミレイユに似ている。


間違いなく、彼女が精霊種の女王だろう。


「ふぅ・・・よくぞ来た、と言っておこうかのぅ。もっとも、ぬしらが妾の望む客とも思えんが。」


その雰囲気に違わず、さして興味もなさそうにそういう女王。

僕は1歩前に出て、にこやかに口を開く。


「どうも初めまして、精霊種の女王さま。少人数での来訪(・・・・・・・)で失礼します。」

「ほぅ・・・?なるほど、この里を見つけるだけはある。愚者では無いようだのう。」


僕の挨拶がわりの揺さぶりに、少しだけ興味を引かれたようにこちらに視線を向けてくる女王。


「そこな人種、名は?」

「これは失礼しました。僕はシルヴァ・フォーリスと申します。こちらは妻のヒルダです。」


いつも通りに自己紹介する。でも、内心では結構驚いている。

精霊種の女王ともある存在が、人種である僕の名前を聞いてくるとは思わなかった。


僕の言葉を受け、ヒルダも無言で会釈する。

女王はヒルダを見ると、面倒そうにため息をつく。


「鬼神、か。まったく、やはり大人しく娘を渡しに来たのではないようじゃな。」

「別にヒルダは武力要員として連れてきたわけじゃないですよ。ただまあ・・・」


僕は笑顔の質を変える。人畜無害な微笑みから、不敵で挑戦的な物へ。


「ミレイユを渡す気が無いのは確かですけどね。」

「はぁ・・・先の言葉は取り消す必要がありそうじゃ。」


女王は僕の言葉に心底面倒くさそうに先程よりも深いため息をつき。

なんの意志を感じさせない瞳で吐き捨てる。


「所詮は人種。やはり道理もわからぬ愚か者じゃな。」

「あはは、街から家畜をさらってる方たちに道理を説かれたくはないですね。まあ、その意味もなかったわけですが。」

「無駄に回る口じゃ。」


突然張り詰める空気に、ヒルダが表面上は無表情で、しかし明らかに混乱した様子で僕に問いかけてくる。


「い、いきなりどうしてこうなったのですか?というか正直、今の一連のやり取りも意味が分からなかったのですが・・・!シルヴァ、もっと事前に説明してもいいのではないですか?」

「あー・・・それもそうだね、ごめん。」


ヒルダに謝りながら、僕は擬似悪魔化を服用する。


「でも、のんびり説明してる暇もなさそうだから・・・話は、動きながらしようか。」

「はぁ・・・仕方ありませんね。ミレイユ、私にしっかりとくっついていて下さい。」


僕の言葉に、ヒルダはため息混じりに頷く。そして、意識を切り替えた。


明らかにこの場で最強であるヒルダが戦闘体勢をとる。しかし、その事に対して女王は慌てた様子を見せない。


「ずいぶんと余裕ですね。やはり、何か隠し球があるみたいだ。」

「隠してなどおらんがの。ぬしらがこの場に来た時より動いておる。」


ふむ、なるほど。僕は何も感じなかったけど、既に何かをされていたのか。

つまり、上位元素を用いた何かを。

もう一度ヒルダを見る。見た感じ、なにか不調を感じている様子はないけれど・・・


「ヒルダ、何か違和感ある?」

「今のところ、何も感じませんが・・・」


ヒルダも感じていないとなると、何かあったとしてもそこまで致命的なものではないだろう。

一応可能性としては、こちらの戦闘力を下げる何らかの呪法があるかと思ってたけど、そうじゃないみたいだ。


その他に考えられるとすれば・・・


「一定範囲内の指定存在の強化、とかかなぁ。」


相手の弱体をしないのであれば、味方側の強化が一番ありそうだ。

この空間内に限り、精霊種の全能力を強化するとか・・・うん、凄くありそう。


「この部屋に、すごい勢いで精霊種が集まっているみたいだし。」

「・・・はあ、まったく、厄介な奴らが来たものじゃな。かの街の凡百共のほうが余程与しやすいわ。」


女王の様子を見るに、その通りみたいだ。

ちらりと、僕達をここに連れてきた彼を見る。今は背を壁に預けて動きを見せていないけど・・・恐らく、精霊種側の最高戦力は彼だ。


この空間に限れば、恐らくヒルダに匹敵する。ヒルダがミレイユを守るという条件の上だけど。


「ヒルダは彼を警戒してて。今回の場合、ミレイユが相手の手に落ちたら僕たちの負けだからね。」

「ええ、承知しています。しかし、わかってはいましたが・・・到底、油断できる相手では無いようですね。」


ヒルダも、彼が最大の脅威と認めているみたいだ。


僕は改めて女王に向き直る。精霊種の気配は、既に大量に集まっている。

擬似悪魔化はもう十分な効果を発揮出来る状態だ。

いつでも、戦える。


「さて、そろそろ役者も揃いそうだし・・・はじめますか、女王さま?」

「・・・はぁ、まったく人種というものはこれだから好かぬ。節操なく他種族と繋がることもそうじゃが・・・時折、ぬしのような想定外が現れおる。」


ため息混じりのその言葉を、僕はまた意外に感じる。

なんか思ったより高評価?

少なくとも、侮られている感じはしない。


「まこと強き魂の色を持ち、しかし上位元素の気配は感じぬ。ぬしのような者は初めて見るが・・・かつてより、型にはまらぬ者は愚者か英雄か、あるいはその両方と決まっておる。」

「じゃあ僕は愚者ですね。英雄なんて器じゃない。」

「ふん、その余裕、気に食わぬ。・・・もはや問答は無駄じゃな。もとより、我らの選択は決まっておる。その娘を渡さぬと言うのであれば・・・」


女王は、その瞳に明確な敵意をのせてこちらを睨む。


「ぬしらを降して、奪い取るまでじゃ。」


女王のその言葉を皮切りに。

大量の精霊種が部屋になだれ込んでくる。


「うわ、こんなに居たんだ・・・ヒルダ、ミレイユを守ることと、彼の警戒に集中して!他の精霊種は・・・僕が引き受ける!」

「ええ、お任せ下さい!シルヴァも気をつけて!」


襲いかかってくる精霊種に、僕は自分から向かっていく。ミレイユから離れるが問題は無い。有象無象がいくら集まろうと、いくら強化されようとヒルダの敵ではないことは向こうも分かっているはず。

だとすれば、権能持ちの邪魔になるようなことはしないだろう。


故に、今ここに居る全ての精霊種の狙いは僕。仮にそうでないとしても。


戦力分散が愚の骨頂であることを、わからせてやればいいだけだ。


僕は懐からトンファーを取り出すと、大量の精霊種に向かって駆け出す。

ああ・・・実際は数日ぶりのはずだけど、ずいぶんと久しぶりの戦闘のように感じる。

しかも相手は、初めて戦う種族である精霊種。


ミレイユには少し悪いけど。

僕の口角は否が応にも上がってしまった。


さあ、戦闘開始といこう。

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