望まれぬ少女の記憶
ーーー夢を、見ていた。
偽りの微睡みのなかで、記憶がぼんやりと流れている。
楽しかった思い出なんて、ひとつも無い。
わたしの記憶は、いつだって灰色だ。
わたしの目に映る全ての物は、確かに色鮮やかなはずなのに。
まるであの童話の少女のように、何もかもが灰に変わっていくようだ。
愛も未来も。願いも希望も。
わたしにとっては、本の中の存在と同じ。
頭の中にしかない、つくりものなんだ。
少しづつ、少しづつ。
心が、腐っていくのがわかる。
少しづつ、少しづつ。
体が、壊れていくのがわかる。
聞こえてくるのは、失望の言葉。
聞こえてくるのは、非難の言葉。
本の中では、悪者にしかかけられない言葉。
それがむき出しの刃となって、わたしの心に突き刺さる。
悪いのはわたしなんだ。
だからお母さんも、みんなも、わたしを責めるんだ。
起きているのか、眠っているのか。
生きているのか、死んでいるのか。
思考さえもままならなくなり、自分がどうなっているのかわからない。
もはや、誰の言葉も聞こえない。
誰もわたしに興味が無い。
何も出来ないその日々に。
意識は既に、はっきりしない。
いつからか、どこからか。
何かの声が聞こえてくる。
ーー忌まわしき血を継ぐ者よ。
やめて。
ーー出来損ないの人形よ。
言わないで。
ーーお前は、誰にも望まれない。
これ以上、わたしを責めないで。
ーー愛も希望も、お前が手にすることは無い。
全部、わかってるから。何も、求めないから。
ーーその命に、なんの価値がある?
お願いだから、放っておいて。
ーーただ惨めに這いつくばって、永らえる意味はなんだ?
知らない。わたしには何もわからない。
ーーその孤独に耐えることで、お前は何を得られる?
だって、誰も教えてくれないから。生まれた意味も、生きる価値も。
ーーならば教えてやろう。お前に自身に価値はない。ただ、その器には使い道がある。
わたしは何も知らない。
ーーよこせ、その器を。
死に方さえも、わたしにはわからない。
ーー虚ろなるその身を、我が依代としてやろう。
愛してほしい、なんて言わないから。
お願い。誰か、わたしを終わらせて。




