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選択肢は無数にある。ただ、一つの方針に従えば自ずと一つに定まる

シャクシャラでは、それなりに多くの人と関わってきたし、借りもまあまあ作ってきた。


この辺りの常識も知らず、身元を保証する人も物もない。

シャクシャラの治安を考えれば、こんな怪しい人物はそうそう居ないだろう。

にも関わらず、多くの人が僕たちを助けてくれた。ここは、実にいい街だ。


助けられたならば、その恩は返さないとならない。少なくとも僕は、受けた恩に報いることのできる人間でありたいと常に思ってる。


故に。シャクシャラと、そこに住む人々に危機が迫るというのならば。出来うる限りのことはする。

例え、精霊種と直接争うことになっても。


・・・責任が生じない範囲で、だけど。





沢山の荷物を抱えて宿に戻る。重さはともかく、かさばって歩きにくい。特に流れで買ったデュランダル・レプリカが持ちにくくて仕方ない。


「ただいまー・・・よっ、と。」


部屋に戻り、とりあえず買ってきたものを置く。あーすっきりした。


「おかえりなさい、シルヴァ。・・・なんだか、随分と色々買ってきたようですね。というか・・・なんですか、その剣。」


ヒルダが僕を出迎えてくれる。部屋の奥に視線を向けると、ミレイユが眠っている。


ヒルダの言葉に苦笑しながら、僕は降ろした荷物の中からデュランダル・レプリカを取り出しヒルダに渡す。


「ちょっとした流れで買ってみたんだけど・・・なかなか面白そうな武器だよ。少し見てみてよ。」

「流れでって・・・こんな豪奢な剣、かなり高かったのではないですか?」

「それがそうでも無いんだよね。普通の剣に比べたら高いけど、転移貿易施設にあるものとしては破格の安さだよ。」

「そう、なのですか。まあ、シルヴァがそう言うのならそうなのでしょう。」


ヒルダは剣を手に取りしげしげと眺める。


「これは・・・ふむ、不壊属性のついた剣ですか。それに、上位元素との親和性も非常に高い。」

「さすが、見ただけでわかるんだね・・・って言うか、不壊属性って言葉があるんだ。」


そういえば確かに、シモンさんも絶対に壊れない強度があるって言っていた。


「不壊属性は、素材に関係なく上位元素の力で強度を上げられた物につく属性です。例えば、シルヴァの持っているあの黒い旋棍も不壊属性が付いていますよ?」

「え、そうなんだ。ただ硬いもので作られただけだと思ってたよ。」

「不壊属性は素材に依存しない、上位元素を用いて後付けで付与されるものですからね。私の『神成(かむな)り』などを用いたりしたら別ですが・・・基本的には『壊れない』という特性を物質以上の要素として対象に与えているのです。」


はーそんなものがあるんだ。

ていうかこのトンファー、そんな凄い特性があったんだ。師匠から貰ったものだけど、全然知らなかった。そんなこと師匠言ってなかったし。


「その旋棍はむしろ、素材自体は柔軟性に富んだものですね。そのおかげで、攻撃時の反動がかなり軽減されているはずです。」

「へぇー・・・とにかく単純に硬い素材で出来てるもんだと思ってたよ。」


でも確かに言われてみれば、硬いもので硬いものをぶっ叩いたら腕に全部衝撃来てえらいことになるよね。


「その点で言えばこの剣をシルヴァが使うことはおすすめ出来ませんね。これは素材がかなり硬いものですから、下手に扱うと自分の腕の骨が折れる・・・というか、砕けるでしょうね。」

「怖っ。」


腕の骨が砕けでもしたら、治っても後遺症が残る可能性もあるし。僕は回復魔法も効果がないから、怪我には本当に気をつけないと。


しかし、もともと使う気なんて無かったけど・・・

この剣、いよいよどうしよう。


「ちなみにヒルダ、この剣使う?」

「心遣いは嬉しいのですが・・・恐らく、むしろ戦力低下になるかと。私は剣の訓練はしてきていませんし。」

「だよねぇ・・・」


絶対に壊れない、なんていったらヒルダの体だってそうだ。不壊属性ってのは上位元素によるものだっていうし、異能とか権能なら多分壊せる。それがさっきヒルダの言っていた『神成り』なら別、ということだろう。


だとしたら、下手に長物を持つよりは徒手でやった方が良い。


「・・・ミレイユにあげようかな。杖のかわりにはなるでしょ。」

「なるほど・・・ありかもしれませんね。」

「え、本当に?適当に言ったんだけど。」


こんな無駄にでかい剣、邪魔にならない?いやまぁ、精霊種なら重さに振り回されることは無いだろうけど。


「初めて魔法を使うのであれば、杖は感覚を掴むのに有効です。魔力の親和性が低ければ逆効果になることもありますが・・・その剣ならば問題ないでしょう。むしろ、理想的ですらあります。」

「はー、そうなんだ。流石にそっち方面の知識はヒルダには及ばないなぁ。」


戦術的に対処できるように、ある程度勉強してはいるけど・・・

自分が使う想定は全くしていないからなぁ。使えないし。


「じゃあこれはミレイユにあげるとして・・・ヒルダ、ミレイユからなにか聞けた?」


話が逸れていたけど、本題はそれだ。


「そうですね・・・聞けたには、聞けたのですが・・・」

「その感じだと、ミレイユ自身もよく分かっていなかった感じかな?」

「ええ、その通りです。流石ですね。」


まあ、ミレイユの様子を見ればそのくらいは予想がつく。


「聞いた話を簡単にまとめますね。」

「うん、お願い。」

「結論から言うと、ミレイユは誰かに案内、というか誘導されてあの場所・・・私たちと出会った場所に着いたそうです。いつも通り部屋に居たら突然扉が開いて、どこかから聞こえてきた声に部屋から出るように促された、と。」


それはまた・・・


「閉じ込められていたところから出してあげたんだから、味方かもしれないけど・・・魔法の使えないミレイユを沈黙の平原に放置して行ったことを考えると、秘密裏に消したかった者だったかもしれない。」

「ええ、考えられますね。」


現在の情報では、確定はできない。

けど。ある程度、想像はできる。


「・・・あるいは、どっちでも良かったのかも。」

「え、それはどういう・・・」

「そもそも、なんでミレイユは閉じ込められてたんだと思う?もしかしたら、本人から聞いたかもしれないけど。」

「確か、母親にそこにいるよう言われたから・・・と言ってましたよね。その、『忌み子』だから、と。」


ふむ、この感じだとさっき聞いた事以上のことは聞いてないみたいかな。


「少し考えてみて思ったんだけどさ。忌み子だっていうのは閉じ込めておく理由にはならないよね。」

「・・・と言うと?」

「仮に汚点だと思っているなら放逐するなりすればいい。少なくとも、閉じ込めておく労力は無駄だし。」


精霊種だって、別に街で暮らしちゃいけない訳じゃない。

僕は1度ここでミレイユを確認する。彼女は先程と変わらず、規則正しい寝息をたてて眠っている。


「で、ここでミレイユの言葉を思い出してみようか。『我らの神の花嫁になる』、だったよね。これ、全く同じ言葉で生贄を捧げている集団を見たことあるんだよね。」

「い、生贄!?」

「ちょ、ヒルダ、声おっきい・・・!」


ミレイユが起きちゃうよ!

生贄なんて言葉を直接聞かせるのは良くないと思ったから、寝ていることを確認したのに。


視線をミレイユに向けるけど、起きた様子はない。


「ご、ごめんなさい・・・」

「いや、ミレイユも起きなかったし大丈夫だよ。・・・それで、さ。ミレイユを閉じ込めていた理由なんだけど、恐らく何かの禁術の触媒にする予定だったんじゃないかな。」


ミレイユは魔法が使えないみたいだけど、彼女自身は高い魔力適性を持った存在だ。


禁術の素材として、これ以上適した存在はそう居ない。


「なるほど・・・ありそうな話ではありますね。とても容認出来るものではないですが。」

「そこは同意だね。・・・で、ミレイユを解放した者の目的だけど。」


ヒルダは少し考えて口を開く。


「・・・禁術の行使を阻止すること、ですか?」

「まあ、あくまで想像だけどね。」


閉じ込められていたのは、必要な時に触媒にするため。そう考えれば、一応説明はつく。

そしてそうだとすれば、ミレイユが居なくなれば禁術は成立しなくなる。


「それだけが目的なら、ミレイユがそこから居なくなれば良い。最悪、沈黙の平原で命を落としても目的は達成出来る。」


とはいえ、直接殺さなかったことを考えれば、生かして逃がすつもりはあったのかもしれないけど。


「誰がやったのかは知らないけど、まあ間違いなく内部の存在だろうね。色々情報を集めてみたけど、精霊種の里の場所は分かっていないみたいだし。」


わかっていたら、とっくに駐留軍が対処してるだろう。

場所もはっきりしていない精霊種の里の、さらに禁術の重要要素を閉じ込めている場所に入れる者など、外部にいるとは考えづらい。


「もしかしたらさっきの彼かもしれないし、僕たちの全く知らない誰かかもしれない。それを断定するには情報が足りなすぎるし、気にしてもしかたないかな。まあ、協力できたら良いけど期待はできないと思う。」

「そう、ですね。・・・しかし、それならばどうします?その、今回の件から逃げる気は無いと言っていましたが・・・」


どうするって・・・ああ、まあ確かにミレイユを助けるだけならシャクシャラから離れるのが手っ取り早い。

実は『誓約』の件についても、あの後一人で考えて多少予想はついた。

多分、このまま離れてもすぐに大きな問題にはならないと思う、けど。


「解決、といくかはわからないけど・・・全部放り投げて居なくなるのは少し気が進まなくてね。それに、精霊種がミレイユを失ったからと言って禁術を諦めるとも限らない。」

「確かに・・・このまま去るのは、あまりに不義理というものですね。シャクシャラでの恩を、誰にも返せていませんし。」

「そういうこと。」

「しかし、肝心の精霊種の里の位置は結局わかっていませんが・・・ミレイユも、外から里に入る方法については知らないようでしたし。」


そこについては、一応考えがある。


「うまく行くかはわかんないけど、一つ試したいことがあるんだよね。」

「試したいこと?」

「『霊視水晶』、ってあったよね。あれ、使えないかな?」


僕たちがシャクシャラについてすぐに、仲介所で使ったあれだ。


「なるほど・・・悪くない案だとは思いますが、問題は私たちが使えるかどうかですね。今のシャクシャラで、あまりミレイユを連れ歩いたりしたくありませんし。」

「そこはほら、レオニールさんに頼ろうかなぁって。」


困った時のレオニールさんだ。それに、今回は今までのように遠回しではなく直接的に事件の解決に繋がるものだ。


あの人なら、嫌とは言わないだろう。


「とはいえ、流石に今はすごく忙しいだろうし・・・ミレイユの精神状態的にも少し日を置く必要があるだろうけどね。」


それに僕の事情で申し訳ないけど、薬を作るにも時間がかかる。少なくとも、献者寄与(エンジェルギフト)とかみたいに混ぜて完成とはいかない。


「希少素材の納品予定日をひとつの目安にして、その時の状況を見て考えるよ。それまでは・・・ミレイユの魔法の練習とかしてくれると嬉しいかな。」


魔力があるのだから、魔法が使えないはずは無い。何らかの理由があるんだと思う。


「最終的に里に乗り込む時にミレイユを連れていくかは決めてないけど・・・場合によっては、本人がいた方が良いかもしれないし。」

「しかし、危険ではありませんか?」

「ここに一人で残すよりは、僕たちの傍の方が安全だよ。」


警戒すべきなのが精霊種だけならともかく、例の一件でミレイユは間違いなくシャクシャラで敵認定されている。

下手したら、発見された段階で血気盛んな住人に襲われかねない。


「いずれにしろ、ヒルダには基本的にミレイユに付いていてもらうことになるかな。だから、精霊種の里には三人で行くか、僕一人で行くかになるね。」


駐留軍の人に協力を仰ぐことも出来なくは無いけど・・・僕が動きにくくなっちゃう事を考えると、あまりいい選択では無いとも思う。


「・・・分かりました。ミレイユの意志を聞いてからにはなりますが、私としては出来れば一緒に行きたいです。」


もちろん、ヒルダが一緒なら心強い。


「まあ、ミレイユが起きてからまた考えよう。とりあえず、今日はもう休もう。いっぱい遊んで疲れたしね。」


最後の一件で忘れかけてたけど、今日は朝早くから街を回ってたからね。

あと僕はまだご飯たべてないし。


とにかく今は、お風呂に入りたい。



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