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仕事が順調すぎると不安になる人もいる

沈黙の平原は危険地帯だ、と言われてはいた。

僕は正直よく分かっていなかったけど、探索を始めてすぐその意味を理解した。


ドスン・・・ドスン・・・


「おおー・・・やっぱりでっかいなぁ」

「なにを呑気に感心しているんですか!迎撃しますよ!」


沈黙の平原に来て一時間もしないうちに、僕達は既に3回も魔導兵器・・・ゴーレムと接敵していた。


重たい音を響かせながら動く姿に最初は流石に驚いたけど、3回目ともなれば多少は観察する余裕も出てくる。


ゴーレムは無機物で出来た巨人、といった感じの見た目をしていた。

その見た目に違わず無生物なようで、攻撃の前兆が読み取りにくいことこの上ない。

筋肉の動きも無ければ、動作を脳で統括している訳でもないから判断から実行までのタイムラグもほぼゼロ。

おまけに痛みも感じないし新陳代謝も無いので【人造死霊】も効果がない。まあ効いたとしても今持ってないんだけど。


まあともかく、無生物相手に単純な強化薬では効果が微妙だ。擬似悪魔化では攻撃に合わせるので精一杯だろう。神殺権や深層励起:神殺権なら対応出来るだろうけど、毎回そんなの使ってたら僕がもたない。


一人で旅をしていた時は、こういう相手からは基本的に逃げてきた。

素材が欲しい時とか、敵対した相手がけしかけてくるとかじゃ無い限り戦うメリットが無い。

意思がないか僕を軽んじることも無いしね。


で、じゃあ今はどうしてるか、っていうと・・・


「ふっ!!」

ーーーーッパァン!!


およそ固いものを殴ってるとは思えない音を出しながら繰り出されるヒルダの拳を受け、ゴーレムの体の半分以上が消し飛ぶ。

そして残った部分も、すぐに砂になって風に運ばれて行った。


・・・そう、さっきからヒルダが一撃の元に全て粉砕しているのだ。

僕の出る幕とかない。一応対抗できるようにはしておいたんだけど、これは僕が出しゃばっても邪魔にしかならない。


「ふう・・・弱いとはいえ、こうも何度も出てこられるのは面倒ですね。」

「あはは、倒しても何も得られないのがまたね。」


多分ゴーレムも弱くはないんだろうけど、鬼神種は流石に相手が悪すぎる。

神の名を持つ上位種は、それだけ格が違う。

それに、ヒルダはより強大な相手と戦う想定をしていたから鍛練も怠っていない。

彼女の動きは僕の目から見ても洗練されてる・・・と、思う。

この世界を探しても、彼女とまともに戦える者はそういないだろうね。わかってたけどすごいなぁ。


「でも、本当に沈黙の平原は素材が沢山あるんだね。まだ来たばっかりだし、僕の知らない素材は少ししか採ってないのに、もう普通のバックパックだったらいっぱいになるくらいの素材が集まったよ。」

「ふふっ、やっぱりこの鞄を使って良かったでしょう?」

「そ、そうだね。うん、ありがとね、ヒルダ」


多分ヒルダにとって、あのカバンは自分の物というより二人の物っていう認識なんだろう。

これに限らず、今後も協力していこう。


・・・まあ、今のところ僕ほとんど役に立ってないけど。

普通の素材収集は僕の知識が基本になるけど、霊的素材はヒルダの眼が頼りになる。


「なんか、頼ってばっかりで申し訳ないなぁ。」

「気にしないで下さい。そもそもこの依頼もあなたが交渉した結果ですし、役に立っていないと言うなら昨日の私もそうです。私には戦うことぐらいしか出来ないのです、その面では存分に頼って下さい。」


そう言って機嫌良さそうにヒルダは笑う。うん、彼女がそう言うなら存分に頼らせて貰おう。


「わかった、そうさせてもらうよ。・・・よしっ、じゃあ気合い入れて依頼を続けよう!」

「ええ、頑張りましょう!」


僕も笑顔を返し、ヒルダが答えてくれる。そのことに言葉にできない嬉しさを感じながら、僕たちは依頼を進めていった。





「・・・うん、十分かな。撤収しよう。」


しばらく素材を集めて、昼御飯を食べたすぐ後。僕はヒルダにそう言った。


「え、もうですか?まだ日は高いですし、容量にも余裕はありますが・・・」

「そうなんだけど、今日は初日だからね。どの素材にどれだけの需要があるのかとかわからないから、今日はさっさと戻ってそれを確認したい。あと、今回の成果によってはレオニールさんにもっと細かい指定と報酬の上乗せを交渉したい。」

「え?報酬の上乗せはともかく、細かい指定を改めて聞くのですか?」

「そう。実は今回はむやみやたらと探し回ってたわけじゃないんだ。」


そう言って僕はバックパックから一枚の紙を取り出す。

ちなみにバックパックは、口の大きさの関係上ヒルダの鞄に入りきらなかった素材をいれているのでパンパンで重い。

でも、別にそれを理由に帰ろうと言ったんじゃない。


「これは沈黙の平原の地図だよ。出発する前に買っておいたんだ。」

「地図、ですか。私はよく見方がわかりませんが・・・」


まあ、そりゃそうだろうね。存在を知らない人だっている。


「今度また教えるよ。で、この地図をなんのために買ったかって言うと調査領域を記録しときたかったからなんだ。」

「調査領域を、記録?」

「うん。この沈黙の平原は危険地帯だけど調査はかなり進んでるみたいでね。」


ゴーレムは厄介だけど、それにさえ対抗出来れば他の脅威はない。駐留軍の人達が素材を回収していたことからも、別に前人未到ではない事が分かる。


「で、一部の区画は更に危険な場所としてこの地図にのってるんだよ。」

「危険・・・?」


ピンと来てない顔してるなぁ。


「気づいてたかも知れないけど、途中何度か異常にゴーレムに襲われた事があったでしょ?あれ実は、わざと地図の危険区域に入ってたんだ。」


ヒルダの戦闘力が分かったあと、僕は意図してその危険地帯に向かった。まあ、ヒルダにとっては誤差の範囲だろうけど。


「そうだったのですか・・・気づきませんでした。言われてみれば確かに途中、少し接敵する回数が多かった場所があったような・・・」

「あはは、まあそうだろうね。 で、その危険区域になんで入ったかって言うと、希少素材が無いか調べようと思ってね。期待通りいくつか僕も知ってる希少素材が見つかったよ。」


ついでに危険地帯の地形の詳細な調査も行ったけど、まあそれはおまけだ。


「・・・それと細かい指定を受けることにどのような関係があるのですか?」

「まず今回の成果で、危険地帯にも入れるっていう戦闘力と、希少な素材収集もできるだけの知識がある事を証明するんだ。」


僕達の実力はある程度分かってただろうけど、それと実績、信頼は別だ。

少なくとも僕が軍の人間なら、いくら強くても急に現れた存在に大きな依頼はしない。例えそれが納品依頼であってもだ。


「駐留軍の人が普通に入れる範囲のものを集めただけの相手に、高額すぎる報酬を渡すと内部から不満が出るからね。どれほどの需要があっても報酬額には限りがある。」

「・・・ああ!そこで私たちにしか出来ない、ということを全面に押し出して報酬増加を求めるのですね!」


腑に落ちた表情のヒルダ。大体はそんな感じだ。


「その通り。それと、依頼の細かい確認っていうのは、今日集めたものの中から中から重要度が高いものを聞くんだ。薬草とかの素材は最終的に法院に行くだろうから、早い段階から恩を売っておきたい。」


何故ならば。


「僕の薬を補充するのに必要な素材の中には買わなきゃいけない・・・素材収集では手に入らないものもあってね。だけど、大抵の場合素材そのものは買えない。」


薬を作るのは基本的に法院だけだ。別に独占してるとかじゃなくって、そうやって管理しないと危険な薬物が簡単に広まるからだ。


「そこで、法院と仲良くなる必要がある。信頼を得ることが出来れば、素材を売ってくれる・・・かも、しれない。」


こっちの法院がどうかは割と未知数だけど。


「まあ、その辺の確認を早めにしておきたくてね。別に重要な素材を聞くのは先でも良かったんだけど、もし代替素材とかが沈黙の平原で見つかったら恩を売る必要も無いかと思って探索を先にしたんだけど・・・残念ながら必要なものは集まらなかったよ」


これに関しては本当に残念だ。色々な素材が集まったけど、強化薬を作るには種類が少し足りない。簡単な治療薬くらいなら作れるけどね。


そんな感じの説明をヒルダにしたけど・・・


「・・・よく分かりませんが、シルヴァが考えてのことなら私に異論はありません。」


微妙な表情でそう言うヒルダ。うーん、僕はどうにも自分の事情を誰かに説明するのが下手みたいだ。


「とりあえず、シャクシャラに戻るのですね?」

「うん、そうだね。今から戻ればまだ日の高いうちに帰れるはず。」


ここに来るのに採集をしながらで3、4時間って所だったから真っ直ぐ戻れば2時間ほどでシャクシャラにつくかなぁ。


なんておもっていたら。


「え?何か帰りながらやることがあるのですか?」

「え・・・?いや、まっすぐ帰る予定だけど。」


すごく不思議そうな目で問いかけてくるヒルダに、僕も戸惑いながら答える。

どういう意図かつかみかねていたら。


ヒルダが、バックパックごと僕を抱え上げた。


え、ちょ、また!?


「ちょ、ちょっとヒルダ!?別に自分で歩けるよ!?」

「効率の問題です。ただ移動するだけならこちらのほうが速いですし。」


それはそうだけども・・・!


「重くはないので大丈夫です。シルヴァはバックパックを落とさないように気をつけてくださいね。」

「・・・ふう、わかった。お願いするよ。でも、シャクシャラの入り口から少し離れたところで下ろしてよ?」


別に悪いことではないんだけど、シンプルに恥ずかしい。


「・・・では、いきますよ!」

「ちょっとヒルダ?ごまかさな・・・」


僕が言いきる前に。


ヒルダは凄まじい加速で走り出した。

・・・うん、もうなるようにしかならないかな。


僕はヒルダに抱えられながら、諦めの多分に混じった目を浮かべながら、バックパックを落とさないようにしっかり抱えていた。





そのあと。20分足らずでシャクシャラについた。

結局、門の目の前までヒルダに抱えられていた僕を、道行く人が微妙な目で見ていたけど努めて気にしないことにした。


だって、ヒルダの頬も赤くなってたからね・・・なぜそんな無理を・・・

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