ここまではあくまで準備で、本番はこれから。時間かかりすぎとか言わない
始めの準備をするのにどれだけ時間をかけてるのか、と思われるかもしれない。
しかし、未知の場所で準備を怠るのはさすがにリスキーだし、何よりせっかくヒルダと街を回れるのに必要なことだけするのは味気ない。
準備にかこつけてデートをしたのは認める。でもそんな僕を誰が責められるだろうか。
・・・いやまあ、本当に誰も責めはしないんだけども。強いて言えば、僕自身が少し遊び過ぎたかと反省している。
ということで。しばらくは勤勉に働くつもりだ。今後のために必用な物は全て揃って・・・は、いないけどとりあえず活動できる基盤は整った。まずお金を稼ぎながら色々な強化薬を作れるような素材を集めないと。
それに、せっかくの未知の場所だ。新しい薬の開発にも着手したい。
とまあ、そんなことを考えながら。
僕は今日もまたヒルダと共に仲介所を訪れていた。
今日は依頼を受けて『沈黙の平原』を多少探索する予定だ。どれだけの頻度でゴーレムとかち合うのかわからないけど、それもやってみないとわからないしね。
ちなみにヒルダは例のローブと戦闘服だ。街中ならともかく、体を動かすからには丈夫な服じゃないといけないからね。
「おはようございまーす。フォーリスですけど、指名依頼的なもの来てますか?」
今日もまた羊人のお姉さんがいたので声をかける。
「あ、フォーリス様にオルクス様、おはようございます。ええ、駐留軍のレオニール隊長から素材の納品依頼が来ていますよ。」
うん、さすがレオニールさんは仕事が早い。
「じゃあそれを受注しますね。ちなみに詳しい内容はどうなってます?」
「受注なさってから聞くのですね・・・」
お姉さんはどこか呆れたようにそう言う。そりゃ受けるよ、わざわざ指名依頼を出させるようなことしたんだから。
「で、では今回の指名依頼の内容について確認させていただきます。依頼内容は沈黙の平原での素材採集及び納品です。報酬は納品された素材の質と量から決める完全出来高制となります。」
「ほうほう。」
「つまり、細かい部分は受注者の裁量に委ねられますので無理はなさらないでください。」
それはもちろんそのつもりだ。
「また、今回は指名依頼であること、そして沈黙の平原の危険度を加味して報酬が上乗せされます。単純に買い取りカウンターで売却するよりも高額になりますので、帰還後は必ずこちらの受付カウンターまで報告をしに来てください。仮に納品対象で無いものがありましても、こちらで適正価格で買い取らせていただきますのでご安心ください。」
「わかりました。」
まあ、僕の知識とヒルダの目があればある程度は問題なく集められると思う。こちらの植生はまだわからないことも多いけど、全くの未知ってわけでもない。
「じゃ、いってきます。とりあえず今日は初日なので日帰りでいってきますー」
「はい、お気をつけて。」
軽い挨拶を済ませて、僕たちは出発する。・・・そういえば、結局ヒルダ一言も喋らなかったなぁ。どうにも彼女は人見知りをするタイプみたいだけど、今後は少しずつ慣れていけばいいかな。無理はさせないけど。
シャクシャラの門を出る。
今日は日帰りなので荷物は最低限で、ほとんどピクニック気分だ。
「あー言い天気だね。今からお昼が楽しみだよ。」
「シルヴァ、気を抜きすぎですよ。未知の危険があるかもしれないのですからもっと警戒をしないと・・・」
ヒルダが呆れたような目で見てくるけど、当然警戒はしている。
ていうか、僕はどれだけ気を抜こうとしても勝手に五感が色々なものを感知する。寝てる時でさえそうなのだから、起きてる時は言うまでもない。
「あはは、心配しないでも警戒は怠っていないよ。それに、僕じゃどうしようも無いことが起きたらヒルダが助けてくれるでしょ?」
「それは・・・そうですが。」
気勢を削がれた様子のヒルダ。今の彼女は十分な休息と栄養補給により体力・・・生命力もしっかり回復している。まあ、『神成り』はまだ使えないと思うけど。
それに、ヒルダにはああ言ったけど僕は必要以上にヒルダに頼る気は無い。どうしようもない時には迷わず助けを求めるけど、彼女に依存するようになったら終わりだ。
「じゃ、行こうか。今日のところは僕のバックパックに入る量を目安にするから」
「え?その、昨日の鞄を使えばもっとたくさん持って帰れるのでは?」
「うーん、それはそうなんだけど・・・」
なんというか、感情的にそれは気が進まない。せっかくプレゼントとして贈ったのにそれを依頼で使うのは・・・
ヒルダはきっと気にしないだろうけど、ね。僕のしょうもないこだわりだ。
「・・・なにか、妙な気を遣ってませんか?」
「い、いやそんな・・・」
「せっかく買ったのです、使わないと勿体ないです。私の私物だけいれていても容量が無駄になるでしょうし・・・。それに、些細な事ですがシルヴァの役にたちたいのです。」
そう言われてしまうと、拒否するのも忍びない。
「・・・うん、わかった。納品の時にも手間をかけるけど、よろしくね。」
「そのくらい手間ではありませんよ。」
そう言って笑うヒルダに、僕は改めてひとり旅では無いことを実感した。
ああ、誰かと一緒に何かをするのって楽しいなぁ。
僕は久しぶりに、そんなことを思った。
・・・久しぶりって言うか初めてでは?
とも思ったけど、それ以上考えても無駄に悲しくなるだけな気がしたのでやめておいた。




