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10-3:高みへの扉

「えー、今回の真樹ちゃんの賞金、4120万4000(エン)ー!

いきなりアウェーの試合ならこんなものか。

思ったより伸びなかったが、それでも相変わらず新人が出せる金額じゃねぇな」

「ありがとうございます!」


ステージに残った真樹に対して、賞金が支払われていく。

小切手が入った封筒を手渡されて、真樹は恭しく礼をした。


「それに、この強さならエキスパートにも十分上がれるだろうよ!

けど、金額の割には試合があっさりしすぎちまったな…」


賞金授与に観客席からは歓声と拍手が聞こえてくるが、今までと比べると今一つ盛り上がりが欠けていた。


なんせこの試合は、今日一番の注目試合と銘打たれていたのだ。

だが、いざ試合が始まるとあまりにも呆気なく勝敗が決してしまった。

圧倒的な強さを見せつけた真樹を賞賛すべきなのだろうが、いかんせん決着が早すぎて、真樹がどう凄いのか解説することも難しい。


おまけにこの試合は、裏社会では生放送でお届けされている。

ライブ感ならではの盛り上がりにも欠けてしまったので、興行的にはちょっと困ったことになった。


己の右手を眺めているこの猫耳少女は、短い休暇の間に何か修行をしてきたのだろうか。

この猫耳少女の力は、そんじょそこらの女戦士(ヴァルキリー)では止められない。

それだけは、この試合を見ていた多くの観客にも伝わったが。


真樹と話しながらも、どうにかして実況が盛り上げようと頑張っていた、その時だった。




「ほぉ……ここまで強くなったか、猫耳闘士」


この微妙な空気を変えるように、澄んだ低い女性の声が聞こえてきた。

声を上げたその人物は、観客席から立ち上がるとすたすたとステージ傍まで歩いてくる。

サングラスをかけたレディスーツ姿の女性に、真樹は見覚えがあった。


「あれ………………雅さん?」


真樹の言葉に反応した女性はニッと笑うと、そのサングラスを外した。

ベリーショートにした茶髪、左右で色が異なるオッドアイ。

端正で中性的な顔立ちから、ぱっと見ただけは男性にも見えるが、出るところはしっかり出ているイケメン女子。


泣く子も黙る三都(ミト)の警部にして、エキスパートクラスの女戦士ヴァルキリー、雅がそこに立っていたのだった。


雅はそのままステージに上がってきた。

突然の乱入者に、なんだなんだと会場がざわつき始める。


「おおっとぉ、乱入者だ!

なんとこれは、ミトのエキスパートクラス、雅だぞ!?

随分と久しぶりに現れたが、一体何の用だぁ!?」


実況の言葉に会場がざわめく。

裏社会に理解がある人物とはいえ、雅はれっきとした警察官である。

後ろ暗い者からすれば、極力近づかれたくない人物には違いない。


そんな人物が、あまりにも堂々とステージの上に乗り込んできたことに、真樹も戸惑いを隠せない。


「雅さん、なんでここに!?」

「ふむ、ちょっとした捜査で姜都キョウトに来ていたのだが、どうにもすれ違いが発生したようでな。

会おうとした人に会えなかったんだ。

それで、気晴らしに試合を見に来たのだが……」

「気晴らしで警察の人が見に来ていい場所じゃない気がしますけど…」


今更ながら、三都の警察の風紀は大丈夫なのだろうかと心配になる。

いや、この雅がいるからむしろ三都は平和なのだと理解もしているけども。


「ふふ、そう硬いことを言うな。

今の試合を見ていたが、どうやら私たちが思っているよりもずっと強くなったようだな」


真樹の指摘に対して不敵に笑いながら、雅は真樹の傍まで近づいていった。

そして、そのままずいっと顔を近づけて、真樹にだけ聞こえるような声で話しかけた。


「…神氣か。

そこまで来るとは大したものだ。

これでは、蘭小路では荷が重かったろう」

「っ!?」


見抜かれていることに驚く真樹。

雅はその反応を楽しむように笑うと、今度はちゃんと距離を取って話をしだす。


「そのくらいは分かるさ。

私とて女戦士ヴァルキリーだからな。

それだけの力を持っていれば、持て余しもするか…」


くすくすと雅は笑う。

何事にも余裕で対応する、大人の女性という雰囲気が滲み出ていた。


雅の指摘については、真樹も思うところがある。

正直、自分の力を持て余しているという実感はあった。


今の試合、蘭小路の攻撃が迫ったと思った時から、急激に思考がクリアになった。


これも神氣のせいだろうか?

それを宿している『支配者の器』とかいう欲望の力なのだろうか?

やるべきことが明確になり、その間は身体が軽かった。


扇子を全部叩き落せ!

そして、蘭小路をぶっ飛ばせ!


己の中の衝動の赴くままに行動出来た、自分でも驚くほどの集中力。


間違いなく、この力は自分が神氣を一部引き出したことで出た力。

この力をもっと使いこなしたいという思いは、確かにあった。



そして、そんな真樹の心をまるで見透かしたように、雅は提案する。



「なぁ真樹。

もしよければ、私と戦ってみないか?」

「……えっ!?」

「なあぁぁぁぁにいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」


予想外の提案に、真樹も、実況も、会場も驚く。


「お前さんは修行の成果を見せたい…いや、新たな力の獲得のために、その力を振るう場を求めている。

より高みを目指すため、より高い壁を望んでいる。

そうだな?」

「は、はい…!」


あまりにも堂の入った雅の言葉に、真樹は素直に答えてしまう。


「どの道、暇を持て余していたのだが……

試合を見ていたら、なんだか私も熱くなってしまってね。

私ならば、その力を使っても十分にいい試合が出来るだろう」


雅の言葉に反応したのは実況だった。


「な、な、なんとぉーー!!

雅が真樹に対して挑戦を申し込んできた!!

これは凄いぞ!?

なんといっても『男前の雅』といえば、元・マスタークラス!

裏社会でも間違いなく、トップクラスの世界を知っている人物だ!」

「元・マスタークラス!?」


実況の発した言葉に、今度は真樹が驚く番だった。


女戦士ヴァルキリーは強さや人気に応じて、クラスが振り分けられている。

基本的に上がったクラスが下がるということはない。


ただし、最上位であるマスタークラスは例外だ。

このクラスには最大10名という人数制限があり、更に強さによって明確に順位が決められている。

つまり、マスタークラスの所属には、入れ替わりがあるのだ。


「なに、最近は表の業務ばっかりしていて、試合にはほとんど出れてなかったんだ。

クラスにこだわりはないが……

たまには身体を動かさんと鈍るからな」


雅は苦笑しながら謙遜する。

現在はエキスパートクラスにいるということは、彼女はかつて誰かに負けて追い落とされたということだ。


だが、一度はヴァルキリーゲームズの最上位の世界に足を踏み入れた人物なのは間違いない。

当然、エキスパートクラスの中で見れば、トップクラスの強者であることも確実だろう。


「さて、どうする?」

「ぜひ、お願いします!!」


雅の問いに、もはや食い気味と言えるほどの早さで真樹は即答した。


チャンピオンを目指している真樹にとって、今まさに欲している相手だ。

神氣を知っていて、それでもなお戦いを申し込んでくるほどの猛者。

何より、マスタークラスの世界を知る者。


彼女と戦うことは、この先へ進むための大きな糧になるに違いない。

こんな絶好の機会、逃したくはなかった。


「いいだろう、では手配してくれたまえ!」


指パッチンで近くのスタッフに指示をする姿が決まってる。

そして、改めて真樹に向き合い、宣言する。


「『猫耳闘士』真樹よ。

お前が望む高みへの扉。

この『ラストバーサーカー』雅が請け負おう!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」


突如決まった新たな試合に、会場は一気に沸き立つのだった。


雅の堂々とした宣戦布告に、真樹は真正面から睨み返す。


片や、元マスタークラスにして激レア選手である雅。

対するは、たった今エキスパートクラスに上がる資格を得たばかりの超新星、真樹。


果たしてこの試合はどうなってしまうのか。

冷え冷えだった生放送のコメントも、一気に加速していくのだった。


「おぉぉ、いきなりとんでもない展開になったが……

なんと本部から承認が降りたぜ!

このあと、2時間後に真樹VS雅の試合が始まるぜ!!

お見逃しなく、だ!!」


流石に今すぐ試合というわけにはいかなかったようだ。

だが2時間もあれば、この話題はすぐにヴァルキリーゲームズ界隈を駆け巡るだろう。

次の試合は、更に注目を浴びることになるに違いない。


それでも、勝ち上がってみせる。

真樹はふんすと鼻息荒く、気合を入れ直すのだった。




「じゃ、2人にはいったん裏に行って試合の準備をしてもらうとして……

準備が出来るまで、蘭小路のペナルティをお楽しみくださいー」

「ちょっ、扱いが雑すぎひん!?」


もちろん、敗者への洗礼も忘れることなく。

観客席で倒れてた蘭小路も、ぞんざいな扱いに思わず起きて突っ込みを入れるのだった。


作者が早く次の試合を書きたがっているので、蘭小路のペナルティシーンは超控えめでいきます。

すまぬ。

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