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10-2:真樹VS蘭小路

「レディーース、アンド、ジェントルメェェン!!

今宵はキョウトから熱い試合をお届けするぜ!」

「「「YEAHHHHHHHHHHHH!!!!」」」


地下のライブハウスだった場所は、引き続き熱狂に包まれている。

ただし、その熱は先ほどまでとは少々種類が違う。


可愛らしいアイドルを応援するための熱ではなく、美しい女戦士(ヴァルキリー)たちによる戦いを見届けようとする熱。

あるいは、そんな美女たちをその手で汚してやらんとする、邪な熱意。


いずれにせよ、これから現れる女達は、その熱狂の真っただ中に立たねばならない。

果たして、今日の舞台に立つのは何者か。

観客たちの視線も熱くなっていくのだった。


「そして、今日のこの試合はV.G.Hubのライブストリームで生配信だ!

特別会員の皆さまには、会場にいなくても試合の様子をお届けするぜ!

ここで勝ち上がった子は、一気に全国に名が知られることになるな!」


V.G.Hubでは試験運用中である生放送機能。

現在はいくつかの試合をピックアップして、放送されることになっている。

そんな配信試合の1つに、今回の試合も組み込まれていた。


なんせ、今話題の若手選手が出場するのだ。

運営本部の速攻決断の元、この試合は生放送で配信されることとなった。


「さぁ、それでは本日戦う奴らのご入場!!

まずは噂のあの子がご登場だ!!

ミト・コロシアム所属の女子校生女戦士(ヴァルキリー)、『猫耳闘士』真樹ィ!!

エキスパート昇格を賭けて、遥々キョウトまでやってきたぜ!!!」

「「「うおおおおおおおおおおっ!!!!」」」


ステージ左端の袖から出てきて、部屋中央のステージへ歩いてくるのは、学生服風のコスチュームを着た美少女。

悠々と歩いてくる姿は戦士として確かな風格を見せているが、頭につけた猫耳が可愛らしさを助長する。


「うおぉーー、ピース5(ファイブ)キタコレ!!!」

「JK!JK!」

「いやー、間近で見ると結構スタイル良っ!」

「ミニスカJK!…あ、スパッツ履いてる」

「梨花ちゃんと同じとこなんだよな。あの子も歌ったりしねぇかなー?」


相も変わらずの観客の欲望剝き出しな声援を受けながら、真樹はステージへと進んでいく。

男達の下衆な熱視線を向けられることにも慣れたもので、このくらいで緊張することはない。


とはいえ、今回もアウェーでの戦いである。

おまけに、前回のイズモでの敗戦からの評価も響いているのだろう。


自分は今、また負けることを期待されている。

またこの身を弄ばれるのを期待されている。

会場の雰囲気から、そんな空気を感じ取るのだった。


「迎え撃つは、キョウトのダンサー&ニンジャ!!

『ジュリアナ太夫』蘭小路!!」


実況が宣言した途端、突如として会場内に音楽が流れ始めた。


「さぁ、今宵は楽しんでいってもらいましょうなぁ!!」

「「「YEAAHHHAAAAAAAAAAAAAHHHHH!!!」」」


右袖から現れたのは、ラメの激しい服に身を包んだ妙齢の女性。

手に扇子を持ち、音と共に腰をくねらせるバブリーダンスを披露しながら、蘭小路は悠々と歩いてくる。

身体が揺れるたび、その豊満な胸とお尻も揺れるのを、観客に見せつけていくのだった。


「来たぜーー!!蘭小路ーー!!」

「姐さん、やっちゃってくだせーー!!」

「熟女!熟女!」

「エロいぜババァ!」

「誰だババァっつったの!?せめてマダムにしときなさいなっ!!」

「「「FOOOOOOOOOOOOO!!!」」」


どさくさ紛れな観客の暴言に、蘭小路の方も思わず突っ込みを入れる。

とはいえ、これはキョウト・コロシアムでは日常的なものらしい。

蘭小路の返答に、むしろ観客席は大盛り上がりである。


「まったく、観客どもは相も変わらずおバカさんが多いですなぁ。

そうは思いまへん、猫耳闘士はん?」

「そ、そうですかね……えっちな人は多いと思います」


急に話を振られた真樹は、しどろもどろになりながら答えた。

生放送中ということもあって、失言しないようにと頑張って配慮した言い方に思わず笑いが起きる。


「おほほ、初心うぶやねぇ。

放送で見とる皆さんも、この可愛い顔が見たいんとちゃいますか?」


蘭小路は観客に語り掛けるように言葉を放つ。

ステージの奥には生配信用の画面が映されたスクリーンがある。

そこには、配信のコメントが流れる仕組みになっていた。


『さすが、分かってる』

『真樹ちゃんprpr』

『真樹ちゃんの敗北シーン期待』


などと言った文字が、スクリーン上を横切っていくのが見えた。


「そうや、キョウトが初めての子もいるからちゃんと説明しとこか。

まぁ、見たら分かるやろ?

このキョウト・コロシアムのリングは、観客席がかなり近い。

おまけに、席もステージより若干低めに作られとる。

えっちなお客さんには、絶好の視点やね」

「あぅ……」


くすくす笑いながら説明する蘭小路に、真樹は思わず顔を赤らめて唸る。


元がライブステージということもあってか、蘭小路の言う通りバトルフィールドと観客席がかなり近い。

観客席の最前列ならば、フィールドをやや見上げる形で観戦することになる。

女の子をやや下から眺めることが出来る位置関係。

身も蓋もない言い方をするならば、とても『覗きやすい』配置なのである。

いつも通りの恰好とはいえ、スパッツを履いてきて良かったと安堵する真樹であった。


「まぁ覇氣でも何でも使おてええよ?

リングに近いと危ないっていうのは、お客さんも承知やからね。

わざとでも無い限り、観客席に流れ弾が行っても文句は言われへん。

ここはそういう場所やからな」


覇氣使いである真樹が、松葉破のような氣弾技を持っていることは既に知られている。

これだけ観客席が近いと流れ弾が当たる可能性があったのだが、どうやらそのことは観客には織り込み済みなようだ。


逆をいえば、そういった危険すらもスリルとして味わえるような者が、観客席にもいるということ。

ちらりと客席を見てみると確かに、ただ試合を見たいというより、すぐにでも戦いに行けそうな逞しい男性がちらほらと見える。


「まぁ、ヴァルキリーゲームズならば戦いの最中に、観客席に吹っ飛ばされることもようあるわな。

どさくさ紛れのお触りくらい起こるから、せいぜい落っこちないことやね」


扇子を口に当て、おほほと笑う蘭小路。


バトル中にリングアウトになったとしても、選手がダウンか降参しない限り試合は続く。

ただし、その間に観客からの『ちょっかい』がありえるというのが、このキョウト・コロシアムの特徴であった。


煽るように話しながらもちゃんと説明してくれる辺り、根っこは人が良いのかと考える真樹であった。


「さぁさぁ、お待ちかね!

BETの時間だぜ!

新米女子校生ファイターと、ベテランダンサーのファイター。

最低金額は5000(エン)、レギュレーションはTOP7だ!

どっちが負けると思うか、張り切って賭けてくれい!!」


実況の煽りと共にBETが開始され、観客達は支給された端末を操作しだした。

どちらが負けると思うのか、そして敗者にどれだけの金額を賭けるのか。

この試合の敗者に、自ら手を出すべきなのか。

観客達は自分の欲望に従って、己の判断を端末に打ち込んでいく。


観客は席に付随してあるデバイスを操作するが、操作パネルはミトのものと比べても随分と薄い。

こういった技術面でも、やはり最新鋭の環境なのだろうと感想を持つ真樹であった。


そうこうするうちに、観客達の動きも落ち着いてくる。

どうやらBETが済んだようだ。


「おーしおし、BETが出揃ったぜ!

人気の比率で言えば、やはり真樹の方に傾いたな。

流石は注目の若手、なかなかいい金額を出されているぜ!

さぁ、それに見合う実力は見せられるのか!?」


流石に『手を出したい』のはどちらかと言われたら、若い子の方に傾くのは自然であった。

とはいえ、蘭小路の方も長くヴァルキリーゲームズで戦ってきた実力者。

一部ではオワコンなどと囁かれているようだが、それでも熱心なファンは付いているのだった。


「よし、それじゃあそろそろ始めるぜ!?

準備はいいか!?」


実況のセリフと共に、真樹はすぅぅっと息を吸う。

身体中に覇氣を巡らせる。

どんな相手だろうと油断はしない、集中力を高めて相手に向かい合う。


蘭小路も構えるが、扇子を口に当てたまま不敵に笑うのみ。

だが、向けられている闘志は本物。


互いの闘争心のぶつけ合いが、闘いの緊張感をステージ上に作り出していく。




そして、その緊張が最高に高まってきたところで、実況は合図を出した。


「レディーーーーー、ゴーー!!」


開始の合図とともに、真樹は一歩だけ後ろに下がり、相手をよく観察する。


ここ最近は開幕から無闇に突っ込んでいって、そのまま相手に主導権を握られるということが多かった。

ヴァルキリーゲームズで戦い始めた頃のように、落ち着いて戦うことが出来るようにする。

それが、今回真樹が自分に課した課題だった。


神氣を宿した自分の中では、常に戦いたいという衝動が湧き上がっている。

前へ前へと殴りに行きたがる自分の心を、勝ちたいという欲望で上書きする。

相手はエキスパートクラスの猛者、闇雲に戦って勝てる相手ではない。

ただ殴りたい、戦いたいではなく、勝ちたいという気持ちを強く持つ。


それが、真樹の心を落ち着けていた。

僅か1秒にも満たない時間の中でも、真樹は自分の中とも向き合っていた。


神氣使いは、戦闘中にもこれをこなさないといけないのだろう。

だが、これが出来ないと女戦士ヴァルキリーとして更に上へ行けないだろう、という謎の確信があった。


心を落ち着けて、冷静に勝ち筋を探る。

どくんどくんと胸が高鳴るが、その衝動に乗っかりはしない。

落ち着いて相手の動きを探っていく。


もっとも、そんな様子見を待ってくれるほど、対戦相手は優しくない。


「来ないなら、こっちも行きますぇ」


蘭小路は真樹が突っ込んでこないと見るや、持っていた扇子を真上に放り投げた。

いきなり自分の武器を放り投げる行動に、真樹は思わず動揺してしまう。


「西織が言うてたやろ?

扇子と柔術を組み合わせた、まったく新しい格闘技を使うと」


その瞬間、扇子の数が増えた!


「え!?」


蘭小路の頭上にあった扇子がくるりと広がると、突然同じものが空中に出現したのだ。

それも、何個も何個も!


(まるで忍者の、分身の術…!

そっちが増えるの!?)


呆気に取られてる間に、扇子が約20個ほどになっていた。

それらが皆、広がった状態で空中にある。


「これが扇子柔術奥義!

舞閃嵐空陣ブセンランクウジンや!!」


そう言って蘭小路が腕を振るうと、空中にある全ての扇子が、回転しながら真樹に向かって飛んできた!


(柔道関係あった!?)


真樹は内心突っ込みつつ、覇氣を集中させて飛んでくる扇子に備える。


真樹は驚いてはいたが、一応は柔道が関係がある。

蘭小路は覇氣使いとして、空気を掴むという力を手に入れている。

自分の近く限定ではあるが、何もない空間そのものを掴んで投げると、空気を弾のように投げることが出来るのだ。

そこに、自分が学んでいた柔道を混ぜることで、空気投げという技に昇華させた。

見えない手で相手を掴むことはもちろん、自身の武器を投げることも可能になっていた。


加えて、宴会芸として身に付けた増殖手品を応用していた。

誰にも気づかれないように、持ち物を一気に出現させるトリックだ。


おまけに、彼女の武器でもあるこの扇子は、戦闘用に作られた鉄扇。

扇子の頭についているふわふわは、正確には細かい針。

これが高速回転しながら飛んでいくことで、強烈な刃を持った飛び道具に変化するのだ。


現代に生きる忍者の隠し芸武器ともいえる、仕込み扇子。

これが20個、真樹を切り裂かんと迫っていた。



真樹には、その武器の正体までは分からない。

だが、本物の刃を使った仕込み武器が、自身を襲っているのだけは瞬時に理解できた。


まずはこれを乗り越えなければ、エキスパートには上がれない。

そう考えた瞬間、真樹の中にある欲望が疼き出す。


どくん、と胸が大きく鼓動する。

戦うぞ、という衝動が身体から溢れてくる。


「すぅぅ……」


真樹は落ち着いて身体に覇氣を集中させる。

深呼吸をして、身体中に覇氣のエネルギーを通していく。


その手に、その足に、光が宿っていく。

自身の身体から、光が溢れていく。


「はああぁっ!!」


そして、向かってきた扇子を1つ、パンチで殴り落とした。


ぱきん、という音がして鉄扇は綺麗に砕けていった。


「せいっ、はっ、はっ、はぁっ!!」


続けて、飛んでくる扇子の刃を片っ端から攻撃していく。

覇氣の光で覆われた拳で、足で、殴り飛ばし、蹴っ飛ばす!


ぱきぱき、ぱきんっ!


凄まじいスピードで動いて、次々と向かってくる扇子を次々と撃ち落としていく。

丈夫な鉄であることも、殺傷能力がある刃物であることもいとわず、己の体1つでぶっ壊していく。


そしてとうとう、20個目の扇子も、ぱきんという音と共に拳で砕かれていった。


「は……?」


たくさん飛び道具が飛んでくるなら、全部撃ち落としてしまえばいい。

あまりにも華麗すぎる、そして正面突破すぎる防御法に、蘭小路も呆気にとられてしまう。




その一瞬を、真樹は見逃さない。


真樹はその瞬間、蘭小路の元へダッシュ!

その速度は、イズモで戦っていた時とは比べ物にならない速度。

文字通り一瞬で、蘭小路の目の前へと移動した。


「いっ!?」

「………………」


驚く蘭小路が見た真樹のその表情は、無。


勝つこと以外考えていない、真剣そのものの戦士の顔。


「うぉっ……」

「松葉桜花砲!!」

「どぼぉえぇぇっ!?」


蘭小路がリアクションを取る間もなく、真樹は己の右手に覇氣の光を集中させ、大技を放った。

光り輝く右手による強烈な腹パンが、容赦なく蘭小路に突き刺さるのだった。


直撃を食らった蘭小路は、そのまま観客席へとぶっ飛んでいく。

何人かの観客を巻き込みながら、蘭小路は観客席を転がっていった。


やがて動きが止まった蘭小路は、大の字で倒れ込んでしまうのだった。


「あいええええぇぇ、はやすぎぃっ!?

蘭小路、ダウンです!

強烈なのが入ったが、これは立てないかぁ!?」


実況がまくし立てるが、蘭小路はまるで反応がない。

完全に気を失っているようだった。


「オーケー、カウント入るぞ!?

3!……2!」


カウントダウンが始まる。

だが、蘭小路はまったく動く気配がない。

誰もが、この試合の結末を予感する。


「……1!……0!!

あ、圧勝!!

真樹の圧勝だーー!!」

「「「お、おぉ……」」」


あまりにも呆気なく、真樹の勝利が決まった。


試合が始まってから、まだ2分と経っていない。

観客席からも、歓声よりも困惑の声の方が上がってしまう。


あまりに早すぎる決着に、観客も盛り上げどころを失ってしまっていた。


『いや、放送事故だろコレ……』


生放送を見ていた誰かのコメントが、スクリーンにむなしく表示されるのであった。


遊女の最上級が花魁で、芸者の最上級が太夫であると、この話を書いてる最中に初めて知りました。

蘭小路はポジション的にはどっちにも取れますね。


キャラ名や二つ名は割とノリで決めてます。

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