9-9:神氣ってみな、飛ぶぞ!
自分の中から、強い衝動が湧き上がってくる。
力が、溢れてくる…!
戦いたい!
戦いたい!
強くなりたい!
もっと強くなりたい!
勝ちたい!
勝 ち た い !
心の中から響く己の声を聞きながら、真樹は戦闘態勢を構える。
身体中から黄金色に輝く光を放ちながら立つ姿は、まるで漫画の登場人物。
スーパーなパワーアップを遂げたことは、傍から見ても分かるであろう。
心なしか、黒の猫耳カチューシャですら光っているように見えた。
身体から溢れ出るほどの神氣。
その姿を見た瑠璃亜は、優しく微笑みながら戦闘態勢を取る。
「それじゃあ、第2ラウンドと行きましょうか。
レディ、ゴーー!」
瑠璃亜の優しい言葉の合図と共に、真樹は瞬時に瑠璃亜の目の前へと走り出す。
「うぉっ!?」
走り出した真樹は思わず困惑の声を上げる。
そのスピードは、これまでとは桁違いの速さ。
一筋の光だけを残して、まさに一瞬で、真樹は瑠璃亜との距離を詰めた。
走り出した瞬間にはもう、目の前に相手がいた。
「くっ……うおおっ!!」
そんな自身のスピードに困惑したまま、瑠璃亜の元へ飛び込んでしまった真樹。
だが、身体の衝動が赴くままに拳を振るう。
黄金の光に包まれた拳が、瑠璃亜へと向かっていく。
バシッ!
だが、真樹の高速パンチを、瑠璃亜はなんなく受け止めてみせた。
真樹の右手を受け止めた瑠璃亜の右手からも、白い光が溢れ、輝いている。
直感的に分かる。
これが瑠璃亜の神氣。
必要な個所にだけ、必要な分だけ光を放ち、真樹の攻撃を見事に防いでみせたのだ。
「くすっ……まだまだ自分の力に振り回されてるわよ」
真樹へと問いかける瑠璃亜は、余裕たっぷりといった表情だ。
とはいえ、無理もない。
真樹の神氣は、つい先ほど覚醒したばかり。
今はただ、自分の中から湧き上がる衝動のままに力を振るっているだけ。
それをコントロールする術を持っていないのだ。
だが、瑠璃亜は決して気を抜かない。
真樹の表情を見れば明らかだった。
彼女の顔は真剣そのもの。
力の奔流に耐えられず吠える獣でも、力が溢れる高揚感を抑えられない狂者の顔でもない。
戦いに真剣に向き合う、戦士の目そのもの。
真樹は今まさに、戦いながら自分の衝動を制御しようとしているのだ。
未知の力であっても、これは間違いなく真樹自身の力。
使いこなすには、実際に自分で使ってみるしかない。
きっとそれが本能的に分かっているのだろう。
「てぃやあああ、柳流し・流星!!」
構えを変えた真樹は、得意の連撃を放つ。
左手、右足、右手、左手、右足、もっかい右足、左手。
右手、左足、左手、右足、右足、左手……!
左手、右足、右手、左手、右足、もう一度右足、左手!
右手、左手、右足、左足、左手、右足、もう一度右足!
これまでとは明確に速く、鋭く、多く攻撃を放つ。
真樹の手足がまるで閃光となって、次々と瑠璃亜に襲い掛かる。
「いいね……私も使っていかないと、押し切られちゃうわね!」
瑠璃亜がニヤリと笑う。
そして、だんだんと、瑠璃亜の身体も輝いていく。
瑠璃亜の身体からも、輝く光が溢れていった。
真樹と同様に、神氣の力を身体に纏った状態へとなったのだ。
バシッ!バシッ!
バシバシバシバシ…………!
バシバシバシバシバシバシバシ…………!
無数に放たれる閃光、そのすべてを瑠璃亜は捌く。
鋭い光をはたき落すかのように、その全てを的確にいなしていく。
溢れる神氣の光を纏った手足を凄まじい速度で動かし、真樹の攻撃を全て捌いていくのだ。
だが、真樹は更に攻撃の手を進めるべく前に出る。
瑠璃亜に神氣を使わせた。
彼女の奥の手であろう力を引き出したのだ。
自分は間違いなく、彼女のいる領域に近づいている。
その高揚感が、真樹の足を、手を、突き動かす!
「まだまだああぁ!!
松葉桜花砲・黄金!!!」
真樹の右手から、黄金色の光がひときわ強く溢れていく。
華奢に見える真樹の拳に黄金の光に集まり、巨大な塊となって纏わっていく!
真樹の拳が、どでかい黄金の玉で覆われているようであった。
「おっと、これはちょっとマズいわね…!」
「うおおおおりゃああああああああああっ!!!!」
今できる力を出来る限り右手に込めて、瑠璃亜に向かって一直線に放つ。
「絶望壁!!……むっ!?」
瑠璃亜は神氣で光の壁を作りだし、真樹の黄金の拳を受け止めた。
だが、そこで瑠璃亜はすぐに気付く。
光の壁が、押されていると。
この壁では受け止めきれないと。
「りゃああああああああああああああああああああ!!!」
チャンピオンの絶対的な壁を、正面から全力の力押しで叩き壊す。
真樹は今、そのために力を使っているのだと。
パリィィィィン!!
覇氣の壁が壊れる音が響く。
神氣同士のぶつかり合いで発生したエネルギーが、突風となって周囲に吹き荒れていった。
「おっとぉっ!?」
その勢いと共に瑠璃亜は後方へ吹っ飛ばされていく。
そして、その後方で轟々と流れている滝の中へと飛ばされていった。
ばしゃあああああん!!
滝は派手な音を立てて水しぶきを上げる。
恐らくは滝の裏にある壁まで、瑠璃亜は吹っ飛んでいっただろう。
「はぁ……はぁ……うぅ…はぁ……!」
黄金の光で身体を纏ったままの真樹は、拳を突き出したまま滝を見る。
(やった…?)
確かに手応えがあった。
さっきまではまったく手も足も出なかった瑠璃亜に、間違いなく一撃をかましてやったのだ。
自分は確かに、覇氣より進化した力を手にした。
今までよりも、確実に強くなったことを実感できた。
しかし……
復路雫の滝は、何事も無かったかのように轟々と流れ続ける。
だが、その奥にいるであろう瑠璃亜が、出てこない。
もしかして、自分はとんでもないことをしてしまったのではないか?
真樹が内心焦りが出てきたところ……
どぱあああああああぁぁん!!
突如、滝が爆発した。
そこから、何かが飛び出してきた。
滝の中から、強烈な力を放って、瑠璃亜が現れたのだ。
「凄い……」
真樹は思わずつぶやく。
現れた瑠璃亜もまた、黄金色の光で全身を包んでいた。
そして、その身一つで、宙に浮いていた。
神氣の力で宙に浮かび、真樹のことを見下ろしていたのだ。
まるで戦女神。
力強さと美しさを兼ね備えた、見る者を一瞬で圧倒する女神。
常人では見ただけで平伏してしまいそうな、そんな雰囲気を感じ取る。
「いいわね。
私も、もうちょっと力を振るいたくなっちゃう!」
現れた瑠璃亜は、笑っていた。
自分に並び立とうとする、若き戦士を歓迎するかのように。
それを見て、真樹もニッと笑う。
憧れの人が、こんなもので終わるわけがない。
それが分かって、つい笑みがこぼれる。
「へへ……!」
「いいわね、その眼。
チャンピオンを目指すなら、そうこなくっちゃ!」
真樹の不敵な笑みを宣戦布告と受け取った瑠璃亜は、背後の滝を指差す。
「それじゃあ、もっと上のステージにおいでよ!!」
瑠璃亜は言うが早いか、滝の上へと飛んでいく。
段々になっている滝の上階へ、瑠璃亜はあっという間に飛んでいく。
彼女に追いつくには、自分も飛ぶしかない。
真樹もまた、滝に向かって駆け出し、勢いよく跳躍する。
「でっ……うわっ!?」
地面を蹴り上げた瞬間、真樹の身体は空高く上がっていく。
滝の2段目を超えて、3段目の地へ。
神氣を纏った体は、何十メートルとあるであろう高さを、一瞬で飛び上がれる跳躍力を手にしていた。
確かにこれは、人を超えた力であろうと実感する。
内心少し焦りながらも、空中で体勢を立て直した真樹は、そのまま滝の3段目へと着地する。
「うふふ、まだまだ神氣を身体に馴染ませるには時間がかかりそうね」
上から声がする。
全部で4段ある復路雫の滝、その最上階。
真樹がいる場所の更に上の段から、瑠璃亜が見下ろしていた。
彼女は、一度の跳躍であそこまで飛んだのだろうか。
「まだまだ、本気はここからよ」
瑠璃亜は、そこから更に跳躍する。
滝の上へ、更に宙へと飛んでいく。
そして、遥か上空で静止してみせた。
まるで女神かのように空中に浮かんで、真樹を見下ろしていた。
宙に浮かぶ力は、恐らくは舞空の応用だろう。
覇氣の力を足から放ち、空中へ飛び上がる術は真樹も持っている。
これを極限まで極めれば、空を自由に飛ぶことさえ出来るというのか。
あれが、女戦士の頂点…!
「神氣を使えば、こういうことだって出来る。
さぁ、もっと高みまでおいでよ!
神氣ってみな、飛ぶぞ!」
言われるまでもない!
あの場所は、自分の目指す場所!
あの高さまで、届きたい!!
真樹は全身の力を足に集中させる。
空を飛べ!天まで届け!
憧れの人がいる、あそこまで!
「やれる……やってみせる!」
一度姿勢を降ろした真樹は、身体からの輝きを強くする。
自分の中から溢れる神氣を、跳躍のために集中させる。
「でやああああああああああっ!!!」
そして、飛んだ。
3段目の滝から飛び上がり、4段目の滝を超え、その先の空を超えて……
そして、宙で待つ瑠璃亜の高さに届く。
いや、追い抜いた。
飛び上がった真樹は、笑顔で瑠璃亜を見下ろす。
瑠璃亜の頭上を取ったのだ!
「うおおおおおおおおおおっ!!!」
真樹は再び、右手に力を集中させる。
全身から溢れ出る神氣を右手に集め、ふたたび黄金の巨大な腕を形成する。
「これで、どうだあああああああっ!!!」
頭上を取った、渾身の一撃。
瑠璃亜を超える最大のチャンスに放つ、最大の一発。
待ち構える瑠璃亜は、真樹を見上げて、笑う。
「いいね……でも!」
まるでそれを待っていたと言わんばかりに、瑠璃亜は空中で体勢を変える。
くるりと身体を捻り、光り輝く足を上空に向ける。
「天極域!!」
「ぐはぁっ!?」
神氣を纏い、巨大な光の塊となった瑠璃亜の右脚が、真樹の身体に突き刺さる。
その勢いのまま、真樹は更に空中へ打ち上げられる。
瑠璃亜の足に纏われていた光は、弾けるように霧散した。
キックの直撃を受けて打ち上げられていく真樹は、身体から急速に力が抜けてしまう。
身体から溢れていた光も、儚く飛び散って消えていってしまう。
夜空に突然現れた光が散っていく様は、何も知らない者からすれば、まるで花火でもあったかのように見えただろう。
その花火の正体は、真樹の渾身のパンチを避けて、綺麗なカウンターを決めた瑠璃亜の蹴り上げ。
空中での綺麗なカウンターキックは、真樹の腹に直撃していたのだった。
そのまま瑠璃亜の神氣のエネルギーで吹っ飛ばされた真樹は、自身を纏っていた神氣を維持できず、光は無残に散っていく。
かくして真樹の渾身の一撃は、花火の如く儚く散ってしまったのだ。
たとえ空中で戦おうと、たとえ神氣を纏って巨大な力を振るおうと。
格闘家として、相手の読みの上を行く。
それが出来なければ、女戦士としては勝てないのだと示すかのように。
真樹はそのまま力を失い、空中で動きが止まってしまう。
それを見逃すほど、女戦士は甘くない。
「そしてぇ、地極域!!」
「がっ…!」
神氣を操り空中で身体を翻した瑠璃亜は、そのまま真樹へと近づき、容赦なく彼女の背を蹴り落とす。
かかと落としを背に受け、真樹はそのまま下へと叩き落されていった。
ざぱああああああんっ!!
派手な水しぶきを立てて、真樹は一番下段の滝壺に叩き落とされた。
女戦士の頂点にいる者は、天地すらも支配する。
それを見せつけるように、瑠璃亜はしばらく宙に佇むのであった。
静寂が山の中を訪れる。
先ほどまで激しい光を纏う攻防が繰り広げられたのに、今は滝が流れる音しか聞こえない。
「あら…!」
しばらく様子を見ていた瑠璃亜だったが、何かに気づき、すぐさま下へと飛んでいった。
滝壺に落ちた真樹が上がってくる様子は、ない。
ざぱああんっ!
瑠璃亜はそのまま、水の中へと突撃していく。
ざぱああんっ!
そしてもう一度、派手な水しぶきを立てて、水の中から現れた。
完全に気を失っていた真樹を抱えて。
「ふぅ、危ない危ない」
御姫様抱っこで抱え上げた猫耳少女は、どこか満足そうな顔をして眠っていたのだった。
命に別状はないだろうが、力を使い果たして眠っている。
神氣を使い果たし、瑠璃亜の一撃ももらったことで、しばらくはまともに動けないだろう。
あやうく溺れさせてしまうところだった。
「やれやれ、やっぱり危なっかしいわね。
まぁ、それが若い子の特権かしら?」
びしょ濡れのまま眠る真樹を抱える瑠璃亜は、ニコリとしたまま言う。
「うふふ、今回は私の勝ちね♪」
勝敗は決した。
誰にも見られることもなく行われた戦いは、チャンピオンの圧勝で終わった。
瑠璃亜は優しい顔のまま、真樹の髪を撫でる。
この若き戦士は、確かに1つ上のステージへ上がってきた。
そして、いずれは自分の元へたどり着くだろう。
それも、きっとそう遠くないうちに。
「~~~♪」
鼻歌交じりに、瑠璃亜は真樹を抱えて小屋へと戻っていくのだった。
これからの戦いに、胸を躍らせながら。
お待たせしました、続きです。
ヴァルキリーの当て漢字を頑なに女戦士と書いてきた甲斐はありましたかね。




