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9-1:電車に揺られて

ガタンゴトンと程良い揺れが、絶妙に眠気を誘う電車の座席。

窓の外に映るのは、田畑がゆっくりと流れていく景色。

街から離れて田舎の線路を進む列車は、慌ただしい都会とは全く違うスピード感で走っていく。

そんな列車の数少ない乗客に、一人の黒髪の少女がいるのだった。


朝早くから在来線に乗って三都ミトを離れた真樹は、人の少ない列車の座席でぼんやりと外を眺めていた。


夏休み中とはいえ平日で、しかもまだ日が昇り始める朝っぱら。

おまけに、首都に向かうのとは逆の下り列車。

乗客は僅か数人と少なく、荷物を横の座席に置いていても特に咎められないほどだ。


真樹の横には大き目のリュックサックが置かれている。

モスグリーンを基調としたリュックは、山登り用かと思わせるほど妙に大きくゴツい。

隣に座る可憐な少女とは、少々ミスマッチのような印象を受ける。


コロシアムの外である以上、真樹ももちろん私服姿である。

薄いピンクのシャツに、水色のハーフパンツ、黒のソックスに運動靴。

山登り用のリュックとセットで見ると、夏休みでちょっとキャンプに向かう女の子といった風貌だろうか。

ただ、真樹の健康的な肉体は服の上からでもよく分かる。

細い手足を半袖半ズボンから見せつけ、どうしても薄着だと女性的なシルエットは浮かんで見えてしまう。


朝早くから出勤しているであろう男性客が、時折チラチラと視線を向けてくるのを感じていた。

そんな視線に気づく度に、真樹はつい考えてしまうのである。


いきなり電車の中で襲われたりしないだろうか?

自分のカラダは、今もどこからか狙われているのではないか?

痴漢がいきなり手を向けてきたりしてしまうのではないか?


1人でボーっと考えていると、どうしても淫らな発想が頭に浮かんでしまう。

そして、以前なら考えもしなかったことを考えるようになってしまった自分に戸惑うのだ。


そもそも、そんな風に見られること自体、自意識過剰なんじゃないかとも思う。

しかし、ヴァルキリーゲームズという裏の闘技場に出入りする身である以上、その身は常に狙われているとも言えた。


自分の惨めな負け姿は、V.G.Hubというサイトで今も誰かに見られてしまっているだろう。

そこで自分のことを知った誰かが、いきなり近づいてきてセクハラしてくる可能性だってゼロではないのだ。

ヤクシマの帰りの船でいきなりナンパされ、そのまま身体を触られた時のことをつい思い出してしまう。


(落ち着け私…!

今は表社会にいるんだから、痴漢がいたらぶっ飛ばしちゃっていいんだから!

ってか、そんなに痴漢がゴロゴロと日常にいるわけないから!)


妙な考えが頭に浮かんでしまう自分に、頭の中でツッコミを入れる。

最近はずっとこんな調子だ。

何かにつけて、自分は男に襲われるんじゃないか、と考えてしまう。

そしてその度に、そんな考えを繰り出してしまう自分に嫌気が差すのだ。


自分はこんなに、変な想像を繰り返すような女の子だったろうか。


戦うことが大好きで、身体を鍛えることをずっと喜びとしてきたのに、最近は普段の修行さえ、どこか身が入らない感じがしている。

このままでは、今後のヴァルキリーゲームズでの戦いにも支障をきたすだろう。


梨花の勧めで休暇を取ることを決めた真樹は、一度自分の故郷に戻ることを決心した。

そこからの行動は素早く、必要と思われるものを揃えていった。

それでも、荷造りするのに丸一日掛かってしまった。


なんせこの荷物には、数日泊まるための衣類のほか、僅かばかりの食糧、調理器具やら寝袋やらまで積まれているのだから。

キャンプ用だとしても、単なるレジャー用と呼ぶには少々物々しい荷物量であった。

しかし、こんな大荷物になってしまったのには理由がある。



自分の場合、実家に戻るというのは決して、家族が待つ家に戻ることでは無い。



故に、何があってもいいような用意をする必要があった。


一応、どこで寝泊まりするかの候補は決めている。

このアウトドアな荷物も、もしかしたら無駄になるかもしれない。

それでも、まるでキャンプに行くかのような、下手したら野宿でもするのではないかというような荷物を抱えて、私服の女子校生は電車に揺られているのであった。


(お父さん……)


こてん、と真樹は自分の荷物に寄りかかる。

眠そうに、どこか憂いを帯びた表情で、山登り用リュックに寄りかかる女の子。

そんな妙に絵になるポーズのせいで、チラチラと他の乗客から目を向けらているのを感じながら、真樹は早朝の列車に揺られていくのであった。





こんな朝早くに、わざわざ田舎の方へ逆戻りしていく者も少ないだろう。

駅に止まるたびに乗客はどんどんと少なくなっていく。


目的の駅に到着する頃には、真樹のいる車両の客は自分だけになっていた。


火太刀ヒタチの里~、火太刀の里~」


ローカルならではの、どこか気の抜けたアナウンスを背に、真樹は電車を降りていく。

簡単なホームだけの簡素な駅。

まさしくど田舎といってもいい駅を降り、田畑が並ぶ土地を見る。


故郷である火太刀の里は、変わらずのどかな空気感を出している。

この国には巨大な電化製品メーカーがあるが、その名前の由来となっている地がこんな田舎だと知る者は少ない。

都会から戻ると、まるで昔にタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。

そのくらい、よく言えば『古き良き時代の雰囲気』、悪く言えば『ど田舎』な土地なのだ。


このまま駅から続いている通りを進んでいけば、人の集まる町に出る。

とはいえ、真樹の目的地はそこではない。


あえて町とは逆の、山へ向かう道へと歩き出す。

駅の裏手にある大きな山。

そこが真樹が長年暮らしていた、生まれ育った故郷なのだ。


バスなども通ってないため、地元の者でさえ滅多に行かないような山道を、真樹は慣れた足取りで進んでいく。

大きな荷物を背負っているが、この程度なら修行にもならない。

かつてこの山道を、たくさんの石を背負ったままダッシュで登らされた時に比べたら天国である。


それでも、真樹の足取りは進むたびにどんどん重くなっていく。

気持ちが段々落ち込んでいくのが自分でも分かる。


20分は歩いただろうか、ちょうど坂がひと段落する。

この坂を登り切れば、そこは自分がかつて暮らしていた場所だ。

この先にあるのは…………




「ぁ……」


"それ"を見た時、思わずか細い声が漏れた。


この辺り一帯の土地は、かつては真樹の父が所有していた土地。

この坂を登れば道場を兼ねた自宅があり、弟子達と共に修行した広々とした庭があり、その奥に見える山ですら、修行場所として好きに活用できる場所だった。


ここらの山一帯は全て、真樹の家の流派である極心流(ゴクシンリュウ)空手道場の敷地だった。




それが今は、全てが高いフェンスに囲まれているのだった。


大変お待たせしました。

9章の開始です。

最近執筆出来てなかったので、リハビリがてら、ちょっと短めですが。

少しずつモノづくりペースを治していきたいですね。


15000PV突破、感謝!

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