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8-11:真樹VSカグヤ

歓声が響く地下コロシアムに、向き合う女性2人が降り立った。


セーラー服に身を包んだ猫耳少女・真樹と、巫女服に身を包んだ黒髪女性・カグヤ。

真樹の天明戦、3戦目は同じミト・コロシアムの大先輩に挑む形になった。


真樹は、つい先ほど担架で運ばれた大山のことを想う。

友の分まで……なんていう感傷に浸ってばかりはいられない。


敗北した彼女へのペナルティは後回しとされ、真樹は『お預けの権利』によって、大山の分のリスクを背負った上でカグヤと戦わなくてはならなくなったのだ。


「改めて、レディースアァンドジェントルメェン!!

天明戦3戦目!

期待のニューヒロインが、同じミトの大先輩に挑むぜ!」


リングの外の実況席から叫ぶ男の声が、マイクを通してコロシアム中に響き渡る。


「しかもだ!

カグヤ様といえば、マスタークラス!

この国全ての女戦士ヴァルキリーの中で、トップ10のうちの1人に数えられている!

間違いなく最強格の相手に、新米ちゃんには為す術はあるのかぁ!?」


煽ってくる。

当然のように、真樹の敗北を煽ってくる。


ヴァルキリーゲームズでは、戦績によってクラスが決まる。

強さ、美しさ、人気、諸々を考慮して所属クラスが決められるのだ。


ある程度の稼ぎが期待できる選手は、どんどんクラスが上がっていく。

そして、クラスが上がればそれだけの実力や経験があると見做され、一度上がったクラスが早々下がることはない。


ただし、それはエキスパートクラスまでの話。

最上位であるマスタークラスは、少々事情が異なる。


このマスタークラスだけは、10人という人数枠が決められているのだ。


容姿・実力ともに、紛れもなくこの国の裏社会を代表することになる、最高に美しくて、最強の女戦士ヴァルキリー10人。

そんな女性たちに与えられる称号が、マスタークラスなのである。


また、マスタークラスでは強さがはっきりと順位付けされているのも特徴だ。

誰もが憧れる美貌を持っていることは大前提。

その上で、コロシアムの戦士としての実力がしっかりと明示されているのだ。


ミトではナンバー3であるカグヤは、マスタークラスのナンバー5。

つまり、全国で5位の実力者だ。


そんな大物相手に、今年デビューしたばかりの新人が挑む。

普通ならあり得ない対戦カードだが、それが起こり得るのが天明戦というルールの面白さだ。


「それじゃあ、さっそくBETといくぜ!」


実況の宣言と共に、コロシアム中の視線が注がれているのを真樹は感じ取っていた。


当然ながら、この試合で期待されるのは、ジャイアントキリングする新米の大活躍……ではなく。

圧倒的な力の前に為す術もなく敗れ、その身を晒すことになる若い娘の姿の方だ。


今の自分は、まな板の上の鯉。

そんな風に思われているのだろう。



だからといって、大人しく食われるつもりはない。

元より、真樹の目標はチャンピオン。

この国の女戦士ヴァルキリーのトップである。


カグヤのことも、いずれは越えねばならない相手。

そんな相手と、早々と戦うことが出来るのだ。


強者と戦い、更に強くなる。

胸が高鳴り、鼓動が早くなる。

早く戦いたいと、ワクワクが止まらないだろう。




…今までの真樹だったなら。


(何で…?

なんでこんなにワクワクしないんだろう…?)


強者と戦える喜びは確かに感じている。

しかし、かつてのヤクシマの時のような身体の熱さは感じない。


本気でぶつからなくてはならないという気持ちは同じはずなのに、沙耶と戦った時とは明らかに何かが違う。



何かが、自分の胸の高鳴りを邪魔している。


今までにない感覚に困惑する真樹。

そんな新米の様子を、熟練の達人であるカグヤが見逃すはずもなく。


「うふふ、可愛いわねぇ貴女。

そんなに緊張しなくていいのに♡」


妖艶な巫女であるカグヤは、ニコニコと微笑みかけてくる。


「ここに来て怖気付いちゃったかしら?

それとも……」


カグヤの言葉に、真樹の身体はぴくりとなる。



怖がっている?

私が?



…その言葉に合点がいった。


負ければその身を弄ばれる非道なゲームであることは承知していたつもりだった。

だが、このイズモ・コロシアムで起きたことは、かつてないほど理不尽な出来事の連続だ。


負ければ拷問に近しい目に遭うこと。

傷ついた友と戦わされたこと。

遥か格上の相手と戦わねばならないこと。

友の分までリスクを背負わねばならないこと。


何より今。

会場にいる者全てが、自分の敗北を期待していること。

自分が無様に敗れ、壊される様を期待する会場の空気に、飲まれかけているのだ。



「ふぅーーっ………ふんっ!」



ぱあぁぁんっ!


大きく息を吸った後、真樹は自分の頬を両手で引っ叩いた。

綺麗な音がコロシアム中に響き渡る。

地下ならではの反響で響く音が、会場の熱狂に水を刺す。


観客席の男どもも気付く。

真樹の表情が、怯える雌猫から戦士の顔へと変わっていっているのに。


「ありがとうございます、カグヤさん」

「あらあら、気合入り直しちゃった?」

「はいっ、今は全力で貴女に抗わせていただきます!」


覚悟を決めなおす。

自分は今、地下闘技場という世界に飛び込んでいるのだ。


理不尽を吹き飛ばしてこそ、賞金と名誉が与えられる。

それはヴァルキリーゲームズの大原則だ。

今回の遠征は、きっとそのことを改めて突きつけるためのものだったのだろう。


梨花が止めに入るほど理不尽な目に遭う。

もしも気後れすればあっけなく敗北し、今までの比ではない屈辱を与えられる。


それでも、更なる高みを目指すつもりなら、ここを乗り越えねばならない。


このコロシアムで、このヴァルキリーゲームズという舞台で、戦い抜くというのはそういうことだ。

いつだって、覚悟が決まっている姿を見せつけてやらなくてはいけないんだ。


「うっふふ、良いわねぇ。

覚悟を持った女の子は好きよ。

でも……」


真樹が戦士としての顔を見せたことに満足したカグヤの顔が、より恍惚とした表情に変わる。


「そんな子が堕ちていく様を見るのが大好きなのよねぇ、私♡」


興奮を隠せないカグヤが放つ威圧感を、真樹ははっきりと感じ取る。


この大先輩は今、自分を辱めるために戦おうとしている。

欲望の赴くままに、自分を弄んでやろうとしている、と。


「その覚悟が、ただの強がりでない事を祈るわ。

それじゃあ、そろそろ始まるかしら?」

「おう、BETが出揃ったようだぜ!

いやー分かってるとは思うが、真樹!

お前さん、圧倒的人気だぜ?」


実況の男の声が、コロシアム内に設置されたスピーカーから聞こえてくる。


「普通、アドバンスクラスで出るような額じゃねぇぜ?

さっきの香澄や大山といい、お前さんの影響力すげぇな!」


男の興奮する声からしても、賭けられた賞金額はかなりのものなのだろう。

それは即ち、自分の敗北に対しての期待の現れでもあるのだが。


ほぼ全ての男達が自分に対して大金を賭け、この場で真樹の身体を楽しんでやろうという欲望を持っているということ。

自身に向けられる獣欲が、これまでの戦いの比ではない。

観客席全てからも向けられる、期待よくぼうという名のプレッシャー。

これを跳ねのけて、達人級の相手と戦わなくてはいけないのだ。


「それじゃあ、そろそろ始まるぜっ!

『猫耳闘士』真樹VS『破戒の白巫女』カグヤ!

スーパールーキーの快進撃は、どこまで通じるっ!?」


実況の宣言と共に、真樹もカグヤも構える。

深呼吸し、身体に覇氣を巡らせる。


「レディィィィッ、ゴーーーーッ!!」


開始の合図と共に、真樹は飛び込んでいった。


「桜花砲!!」


先手必勝!

真っ先に、得意のストレートを打ち込む!






だが、その拳はカグヤの身体を捉えることはなかった。


「……普段なら、相手の様子を観察するところじゃないかしら」


カグヤは諭すように話す。


「あるいは、私がそう考えると読んでの、あえての奇襲パンチかしら?

それとも、やっぱり怖がってるから飛び出しちゃったのかしら?」

「くっ……」


カグヤの言葉に、真樹は悔しそうに顔をしかめる。


「どちらにせよ、これで通用すると思ってるなら、甘いわよ♡」


リング中央にいる2人の姿に、会場からもどよめきが起こる。


2人がぶつかったリング中央。

そこには……


真樹の必殺ストレートを、人差し指一本で止める。

そんな妖艶な巫女の姿があったのだった。


またまたお待たせしてすみません。

天命戦3戦目です!


最近、遊びたいゲームが多すぎて困る。

読みたい漫画、見たいアニメも増えすぎて困る。

小説も書きたい、仕事も終わらせたい、うまい飯食べに行きたい。

やりたいことが多すぎて困るね。

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