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7-2:軍魔の若武者

ミト・コロシアム内、アドバンスリングのある会場の端。

修行を中断した真樹と梨花は、新たな挑戦者・裕と向き合っていた。


真樹は、先ほどの裕と梨花の会話の中で気になった点を聞いていく。


「梨花さん、さっき魔境グンマって、言ってましたよね……?」

「まーね。裕ちゃん、後ろに下げてるのって、キミの得物なんだよね?」

「うん。ボクの相棒だよ」


ポニテ美少女の裕は、肩から下げていた袋から中身を取り出した。


「薙刀?」


袋から取り出されたのは長い棒、その先に木製の刃がついている。

形は紛れもなく薙刀だった。


「ほほー、薙刀使いなんだねー、裕ちゃんは。

ふむふむ…先っぽは木刀になってるわけね」

「本物の刃を扱うには、ボクはまだ未熟だからね。

でも、だからと言って負ける気はないよ」


少し距離を取った裕は、木刀の薙刀を構えて軽く振ってみせる。

ふぉんっと音と共に振るわれ、振るわれた風圧が真樹の髪をなでる。


なるほど、武器を使った武術に詳しくない真樹でも、彼女が一太刀振るっただけで相当に戦い慣れていることは分かった。


「ほうほう、真樹ちゃんとデビュー時期はそう変わらないんだ。

魔境と呼ばれるグンマ・コロシアムで戦い抜いてきたのなら、確かに大型新人の一人と言えそうだね☆」


裕の戦績を確認していた梨花がうんうんと唸っていた。

一体どんな場所なのかと、真樹は冷や汗をかく。



魔境・軍魔グンマ

仁奔国(二ホン)という国の中でも、昔ながらの文化が色濃く根付いており、時に異国に来たのかと錯覚することもあるという。

故に、魔境グンマだの秘境の地グンマーなどとネット上でネタにされることもあるのだが、ことヴァルキリーゲームズにおいては、少し違った意味がある。


「グンマ・コロシアムと言えば、武器使いの女戦士ヴァルキリー達の聖地なんだよねー、何故か」


ヴァルキリーゲームズでは武器の使用も認められている。

運営が許可を出したものであれば使用可能。

場合によっては、剣などの刃物も許されている。

己の肉体だけでなく、武器を使って戦う者達は『武器使い』と呼ばれているのだ。


そしてグンマ・コロシアムでは、この武器使いが非常に多く所属している。

美少女剣士やら棒術お姉さんやら鞭使いの女王様やら、多彩な武器を持つ女戦士ヴァルキリーが日々しのぎを削っているのだ。

忍者の隠れ里があるだの、現代の侍が生きる場所だの、日々色々な噂が飛び交っているのだが、ともかく現代の裏社会で生きる武器の使い手たちは、何故か導かれるようにグンマに集まってしまう性質があるのだった。


これが、魔境と呼ばれるほどカオスぶりを生んでいる。


まず、素手同士と違って、武器同士の相性がある。

槍は剣に強い、といった感じで武器の相性差が生まれやすく、これが実力差やキャリアをひっくり返すことも多い。

もちろん、苦手な相手に対しても対策している熟練者もいるので、武器相性で不利と思われても勝つことはある。

加えて、世界中に存在する数多の武器すべてに精通している人なんてそうはいない。

勝ち続けるには自身の身体能力に加えて、膨大な知識量も問われるだろう。


こうした複雑な相性が絡むことにより、グンマ・コロシアムでは勝敗の予想が非常に困難と言われているのだ。


また、武器を扱うが故に選手の怪我も多い。

いくら殺しが御法度のヴァルキリーゲームズといえど、殺傷を目的とした武器を扱う者がいる以上、怪我のリスクは常に付きまとう。

誰かが療養で離脱したりしている間にまた新人が現れたりと、とにかく選手の入れ替わりが激しいのだ。

これも、試合の予想を立てづらいことに拍車を掛けていた。


選手としては怪我と相性に阻まれ、勝ち続けることが厳しいことから。

観客にとっては、数多の相性が絡み合うゆえに勝敗の予想が非常に難しいことから。

畏怖と敬意を込めて、グンマ・コロシアムは『魔境』と呼ばれているのだった。



そんな魔境からやってきた若き女武者は、ひゅんひゅんと自在に薙刀を振るう。

軽く演舞をしてみせた裕は、最後にびしっと木製の刃を真樹に向けた。


「ボクは天地無縫流の裕!

猫耳闘士・真樹殿、ぜひ貴女と手合わせ願いたい!」


真っ直ぐに闘志をぶつけられて、真樹の中にも熱き火が灯る。

同年代の女戦士ヴァルキリーで、しかも自分とは全く違う戦い方をするであろう少女。

ぜひとも戦ってみたい相手なのは間違いない。


「それはもちろん!……けど、その前に」


裕の闘志にはもちろん全力で応えるつもりだ。

だが、その前にひとつ聞いておかねばならないことがある。


「……私が泥棒猫ってのは、どういうことでしょう?」



ぴくっ。



その瞬間、裕の表情が硬くなった。

先程までの凛とした武者の顔の中から、確かな敵意を感じた。

だが、すぐにその敵意を向けた顔から、落ち込んだ表情に変わる。


「……だって、彼のお気に入りなんだもん」


しゅんとなった裕は、少し頬を膨らませて答えた。


「……はい?」

「彼よ!ヤミト君!

彼の最近のお気に入りなんでしょ、貴女!」

「…………ふぇぇ!?」


まさか、ここでまたあの悪魔イケメンのことを聞くことになるとは。


青メッシュが目立つ若者で、真樹達ともそう年齢は変わらないであろう動画投稿者。

なぜか最近、真樹のことを気に入っているという、ヴァルキリーゲームズ常連客の青年。

しかし、このゲームの常連客ということは、女の子を辱めることに長けている男ということでもある。


実際、彼が絡んでくると大体恥ずかしい目に遭うので、真樹は彼に対してはこと警戒している。


「裕ちゃんはヤミト君とどんな関係ー?」


真樹が気まずそうにしているのを傍目でニヤニヤしながら、助け舟を出すように梨花が聞いてみた。


「お、幼馴染、だよ……」


その裕は、顔を赤らめつつ口ごもった。


どうやら昔からの仲らしいが、どうにも一言で言い表せるほど単純な仲でもないようだ。

彼のことが気になってしょうがないが、それをどうにも素直に認めることが出来ない。

そんな様子だった。


「ほほー、彼も隅におけませんなー☆

その彼は夜九島で大層お楽しみしてたけど」


そう言う梨花の顔は、非常にニヤニヤとしていた。


実際、彼はヤクシマ・コロシアムでも、色んな試合で賭けに勝っては女の子達を辱めまくっていた。

勝敗を見事に当ててペナルティの権利を当てては、カメラ片手に女戦士ヴァルキリー達を弄んでいく。

おまけに彼は動画をバズらせるのが上手く、彼に目をつけられた女性は辱められた映像を思いっきり拡散されてしまうのだ。

その筆頭はもちろん真樹と沙耶である。


おまけに彼はラブホテルにも泊まって、心折れた女戦士ヴァルキリー達とも夜のお楽しみしてたことを梨花は知っている。


「うぐ……そりゃ、ヤミト君はとにかく女の子をすぐ食べに行っちゃう奴だし。

馬鹿みたいにお金稼いだと思ったら、信じらんないくらい散財もするけど……!」


さすがに裕も、彼が常連客としてあちこちの女の子にちょっかいを掛けてるのは承知してるらしい。


「…けど、本当は強くて優しいんだから!

もっと強くなれば、ボクだって、ボクだって……!」

「にひひ、つまり裕ちゃんは、『ヤミト君の一番』になるために、女戦士ヴァルキリーになったわけだ☆」

「~~~~~~っ!!」


梨花の言葉で、裕の顔が一気に赤くなっていく。


「はー…………」


なんということだ。

この子は、あの変態のために女戦士ヴァルキリーになったというのか。


戦う理由は人それぞれと言えど、思いもしなかった参戦理由に軽くショックを受ける真樹であった。


「僕がどうかしたかい?」

「ひゃっ!?」

「うひゃぁー!?」


聞き覚えのあるイケボイスが背後から聞こえてきて、思わず真樹と裕は悲鳴をあげる。

いつの間にか、件のイケメンが後ろに立っていたのだ。

まるで気配を察知できなかったことに驚く真樹は、思わず臨戦態勢を取ってしまう。


「おっとー、閉まってるリングにはお客さんは入れないよー?」

「いやいや、普通に開場時間だよ。普通に入ってきたってば」

「…ありゃホントだ」


梨花は関係者以外立ち入り禁止として追い返そうとしたが、このアドバンスクラスのリングはこの後、試合で使う予定である。

気の早いお客さんならば、もう客席に来る時間だ。

どうやらこの男も、そんなせっかちな観客だったらしい。


「は、はわわわわわわわ…………!」


突然の幼馴染の登場に、裕が狼狽しまくっている。

追いかけていた男が急に現れたせいか、裕は顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせていた。


「やぁ裕、久しぶりだね。

また武者修行かい?」

「な、なんでいるのぉ!!」


ヤミトの気安い挨拶に、裕は声を裏返らせ、薙刀で斬りかかっていった。

だが、慣れているのか、ヤミトはそれを軽々と避けていく。


「あっはは、相変わらず嫌われてるなぁー。

会うたびに斬り掛かってくるの、昔っから変わらないねー」

「うるさいうるさーい!」


ぶんぶんと薙刀を振るって追いかける裕と、猛烈な攻撃を避け続けるヤミト。

幼馴染なのはホントなのだろう、裕の攻撃にもヤミトの口答えにも遠慮してる様子はなかった。


「それで、もしかして裕も真樹ちゃんに挑戦?」

「そうみたいだねー。

敵意バリバリ出してたよー」


ひょいひょいと避けながらの飄々としたヤミトの質問。

それに答えたのは梨花だ。


「なーるほど、それは確かにいい試合になるかもねっ、…と!」

「……むぅ!」


ヤミトは大きく後退して、裕の渾身の突きを避けた。

激しい薙刀の攻撃も涼しい顔をして避けきってみせたヤミト。

裕の方はと言えば疲れたのか諦めたのか、突きの後は悔しそうな顔をして立ち止まった。

ヤミトに対して睨みを利かせたままではあったが。


裕が落ち着いたのを見届けたヤミトは、真樹へと視線を向け直した。


「裕は真樹ちゃんとか沙耶ちゃんとかと同じ新人。

そして同じく、ハイスピードでアドバンスまで上がった子だよ。

それでもって、魔境グンマで未だ負け知らず!

負け無しって意味では、真樹ちゃんと同格だね」


真樹としては少々複雑である。

二度もペナルティを経験しているので、あまり『負け無し』という感覚はないのだが、確かに戦績上は負けてはいない。


「ほへー、マキサヤクラスの大型新人がまだいたのね。

今年はホントに豊作だねー。

けど、それほどの子が、なんでヤクシマにいなかったの?」


梨花のもっともな疑問に、裕はまたしゅんとなる。


「……あちこち修行で出向いてたせいで、船のチケットを受け取れなかったから」

「あちゃー」


ヤクシマ・コロシアムは期間限定のお祭り企画であり、参戦するためのフェリーのチケットは特別な経路を使わなくては手に入れられない。

通常は所属コロシアムから手配されるのだが、裕は武者修行の旅に明け暮れた結果、グンマ・コロシアムから受け取り損ねてしまったのだという。

新人だった彼女はヤクシマの存在を知らなかったため、タイミング悪く島に行く機会を逃してしまったのだ。


「てなわけで、まさに隠れた大型新人ってわけ。

きっと、真樹ちゃんにとってもいい相手だと思うよ」


ヤミトはニコニコ顔で真樹に笑いかける。

憎たらしいほどのいい笑顔に、真樹は警戒度を上げる。

この男が試合を促しているということは、また何か企んでるかもしれない。


きっと自分や裕を辱める算段をしているのだろう。


それに、彼の幼馴染だという裕のことも気掛かりだ。


侍のような凛とした姿を見せたかと思えば、真樹を泥棒猫と呼ぶような嫉妬を見せ、かと思えばヤミトに対しては顔を真っ赤にしながら斬りかかる。

コロコロと表情が変わる彼女の性根が、今ひとつ計りにくい。



だが、それでも。



「色々と突っ込みたいことはあるけど……

勝負を挑まれたからには、受けなきゃ戦士じゃないよね!」


新たな戦いに胸が躍る。

自分の中の欲求に、真樹は素直に従った。


「裕さん、貴女の挑戦を受けます!

それでも、私は負けませんよ!」

「…こちらこそ、お手柔らかにお願いするよ!」


真樹の宣言に応えるように、裕もまた戦士の顔になっていく。

照れ隠ししている女の顔ではなく、凛とした女剣士の顔になっていた。


なんというか、忙しい人だなぁ…と思う真樹であった。


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