6-14:帰りの航路
「それじゃ、お世話になりましたー☆」
梨花のにこやかな声が、夜九島の港によく通った。
港には、この島に来た時と同じフェリーが停泊している。
ヴァルキリーゲームズの関係者だけが乗れる特別便。
7日ぶりに姿を現したこの船に乗れば、この島から帰ることになる。
長かった祭が終わり、いよいよこの島から去る時だ。
港には真樹と大山、梨花に加えて、沙耶と実琴も一緒にいる。
来た時は黄金のヘリコプターだった銀狐グループの2人であるが、帰りは真樹達と同じフェリーで帰るようだ。
「うむ。
君達の活躍には、私達も随分と楽しませてもらった。
これからの活躍にも期待してるよ」
逞しい声と共に挨拶をかわすのは、黒獅子グループのレオ会長。
夜九祭を盛り上げた立役者である真樹達を、会長自らわざわざ見送りに来ていたのだ。
その隣には、彼の秘書である茜と葵もいた。
「あーっはっはっはっは!
今回は引き下がってやるけど、アンタ達にはいつか絶対リベンジしてやるんだからね!」
びしっと真樹に指差す茜は、疲れも感じさせず元気いっぱいだ。
茜のこの島での7日間は、選手たちの中で恐らく一番壮絶だったはずなのだが、それをまったく感じさせない。
底なしの体力というのもあながち間違いではないのだろう。
「アタイの方も同じだな。アンタには必ずリベンジしてみせるぜ!」
「せいぜい頑張ってください。
この先は今まで以上に厳しくなっていくでしょうがね」
自分が敗北した相手へ闘志を見せる大山に、葵は変わらず冷静に返した。
しかし、突き放すようにも、どこか期待しているようにも見える。
彼女なりに、大山のことを意識しているようだ。
「あ、私も。いつか葵さんに挑戦したいです!」
「貴女の昨日の戦い、映像で拝見させていただきましたわ。
ですが、貴女を下すのはわたくしです!」
「光栄ですね。いずれまた、次の機会に」
「こらっ、あたしを無視するなーっ!!」
真樹と沙耶も、葵に注目している。
葵は今回の夜九祭で唯一、負けることなく島を出れる女戦士。
真樹達とはまた違う意味で、大きく注目を浴びることになった選手だ。
さまざまな面で、真樹達より一歩先に行っている人物。
言い換えれば、挑戦し甲斐のある相手である。
横で騒ぐ茜はともかく、また一人戦いたい相手が出来た真樹であった。
「いやー、まだまだやる気満々って感じで、観る側としては嬉しいねぇ」
にこやかに言うのは、我らが天敵のヤミト。
彼もまた、黒獅子会長と共に港へ来ていたのだった。
「うへぇ……」
「性懲りも無く……」
青年の顔を見て、即座に苦い顔をする真樹と沙耶。
最終日のペナルティでは勝者の権利を獲得し、見事に2人へ忘れ得ぬ傷をつけてくれた男。
何かと縁があるとはいえ、この男にだけは妙な敵愾心が生まれてしまうのだった。
「っつか、アンタも同じ船で帰るのかよ?」
「そうしたいのは山々なんだけどねぇ。
この後、黒獅子会長と商談しなきゃいけないんだ。
裏はもちろん、表の仕事も大事だからねぇ」
大山の質問に、ヤミトは悠々と答える。
その言葉に少しホッとする真樹と沙耶であった。
「にひひ、真樹ちゃん達も昨夜は色々あったみたいだしねぇ」
「お泊まり会をした甲斐はありましたかね?」
「「ふぐぅっ!!」」
「なになに、何の話だい?」
「アンタは知らんでいいことだよっ!」
梨花と実琴のからかいに、思わず顔を赤らめる真樹と沙耶。
興味深そうにヤミトが聞いてくるが、大山が声を荒げて阻止するのだった。
真樹たちは昨夜、反省会も兼ねてV.G.Hubでヤクシマ・コロシアムでの試合を見返していた。
それ自体は実りのある物だったのだが、うっかりペナルティのシーンまで見てしまい、大変な目にあったのである。
当分、あの動画サイトは見ないようにしようと心に決めた真樹達であった。
昨日までは淫靡な空気に包まれていた島も、今朝は静かなもの。
ホテルのロビーにあったスクリーンには、女戦士達の裸体の映像ではなく、この島の観光案内のVTRが流れていた。
街のあちこちで見かけたスクリーンも撤去され、代わりに観光名所やお土産のノボリが各地に置かれていた。
まるで夢から覚めたかのように、この島は元の観光地としての顔へと変わっていたのだった。
「にしても、やっぱりイカついケースだねぇ」
ヤミトは話題を変えて、真樹たちの荷物に注目した。
真樹と大山、そして沙耶の側には、それぞれ持ってきたバッグの他に、重々しい銀のアタッシュケースがそれぞれに添えられている。
女の子達の旅行カバンに紛れた場違い感満載のこのケースには、彼女達の賞金が入っている。
身分証であるカードキーの返却と共に賞金を引き出したのだが、このヤクシマでも相変わらず現金払いであった。
数千万もの現ナマをさすがにそのまま鞄に入れるわけにもいかず、すぐに売店でアタッシュケースを購入(こういう事態も予想されてたのか、普通に売っていた)し、それに入れる羽目になったのだった。
「ふふふ……♪」
賞金の話が出て、沙耶は少し得意げである。
今回の夜九祭で手に入れた賞金総額は、真樹が2337万6000燕。
対して沙耶が2338万2000燕だった。
ほとんど誤差範囲ではあるが、総額は沙耶の方が若干上回ったのである。
これまで何かと真樹に次ぐ二番手扱いされがちだったこともあり、ちょっとでも勝ってると思うと、自然に笑みが溢れるのであった。
余談だが、大山は763万5000燕である。
「おっと、そろそろ時間だねー」
ぼーっと汽笛が鳴る。
いよいよ搭乗時間が迫ってきた。
女戦士一同は荷物を持ってフェリーに乗り込む。
「さよなら夜九島」
様々な思いを込めて、真樹は一言呟いたのだった。
「いやー、なかなか面白かったねー。
見所いっぱいだったよー」
遠く水平線へと進んでいく船を見送ったヤミトの言葉に、黒獅子会長が同意して頷いた。
「ふむ、君のお気に入りはどの子かな?」
「やっぱり真樹ちゃんかなぁー。
強くて可愛い、しかも純粋。何者にも染まる可能性の塊。
追いかけ甲斐があるからねえ。
沙耶お嬢様も捨て難いけど」
ニコニコとするヤミトの返答に、レオもふっと笑う。
「ふむ、では期待するとしようか。
色々な意味で」
「色々な意味で、ね」
様々な思惑を秘めてニヤリと笑うヤミトとレオ。
そんな男どもの顔を見て、葵はため息をつくのだった。
ニヤケ面だったヤミトだが、顔を切り替えて次の話題を切り出す。
男達にとっても、ヴァルキリーゲームズをきっかけに表社会の繋がりを持つ場合があるのだ。
女のカラダを目的にする、ただ欲望に従うだけの男ばかりなはずはない。
強大な企業グループの会長相手と直接話せる機会、これを利用しない手はない。
「それじゃー、次の話もしましょうか。
うちの格闘団体のことなんですけどー」
「プルートーンとか言ったか。それについては………」
離れ孤島での秘かな商談は続いていくのだった。
「いやー、色々あったねー。
どうだったよ、初の遠征は♪」
一方、フェリーの甲板では真樹達が集まっていた。
荷物をそれぞれロッカーに預け、身軽になった真樹・梨花・大山・沙耶・実琴はデッキで談笑していた。
話題はもちろん、先ほどまでいた島での思い出。
真樹達新米にとっては初めての遠征、話題はこと尽きないだろう。
「はい、すごくいい経験になりました!」
梨花のざっくりとした質問に、真樹は笑顔で答えた。
事実である。
『王羅』の使い手と出会い、覇氣の新たな使い方を覚えられた。
親友にして最大のライバルと、再び激突できた。
島での戦いを通して、間違いなく強くなれた実感はあった。
「ほほう…いい経験、ねぇ♪」
「た、他意は無いですからっ!」
ニヨニヨ顔の梨花が詰め寄り、真樹は顔を赤くする。
バトル以外にも、色々な経験をしてしまったのは確かだ。
それはもう、色々と。
「おっ、マキサヤじゃね?」
「大山ちゃんもいるじゃーん?」
しばらく談笑を続けた真樹達だったが、突然声をかける男たちが現れた。
いかにもチャラ男ですといった感じの男3人が近づいてくる。
「俺たち、マキちゃん達のファンなんだよ~!」
「最後の試合、滅茶苦茶スゴかったよー!」
「あ、俺は大山ちゃんの方見に行ってたんだー。最後めっちゃ熱かったよ~」
「ふぇ、へっ……!?」
男達の勢いに困惑する真樹ら新米たち。
馴れ馴れしく寄ってくる男達であるが、ファンであるというのなら無下には出来ない。
「え、えーと……ありがとうございます」
「いやー、やっぱ実物は可愛いじゃん!」
「もっと俺らとお話してくれねぇ?」
「へっ!?え、えーと……」
ぐいぐいと来るナンパ男達。
この手の輩の扱いに慣れていない真樹達は戸惑ってしまう。
「なんなら食事でもどうだい?
俺ら、奢るからさぁ!」
「あ、あぅ……」
それに、なぜか男達を前にして緊張してきた。
これまで無かったほど、男性に対して緊張感を感じてしまっているのだ。
ちらりと見ると、沙耶も大山も同じ感じらしい。
強気な2人が、男達のナンパに押され気味である。
「ほらほら、一緒に来ようぜ~」
「うひゃっ!?」
「ちょっ!?」
「う、うわっ……!」
男たちが肩に手をまわしてくる。
露骨なお触りを繰り出してくる男ども。
真樹に迫る男に至っては、どさくさまぎれに胸に手が触れていた。
こんな真昼間から堂々と迫ってくる男達に、少女たちの緊張がMAXになった、その時だった。
「はい、お触り入りましたー、粛清しまーす☆」
「いっちょ死んでみます?」
梨花と実琴がすっと、目にも止まらぬ瞬間移動で男たちの横に移動した。
「ぐげっ!?」
「ごふっ!?」
「オアァ!?」
そのまま、猛烈な速さで男どもを叩きのめしてしまった。
腕をひねり、首を絞め、股間を蹴り飛ばす。
あっという間に3体の敗者が出来上がるのだった。
「やー、ま~だお祭り気分が抜けきってないみたいだね~」
「勘違い野郎はどこにでも湧いて出てきますから」
男たちを見下ろす梨花たちはどこか呆れ顔。
少し考えた梨花と実琴は、呻く男達を持ち上げる。
「女戦士のカラダってのは、お安くないんだよね~♪」
何かを企んでるようなニコニコとした顔のまま、呻く男達を運ぶアイドルとメイド。
体格差をものともせず、そのまま甲板の端まで連れていき、そして……
「いっぺん、頭冷やしてこーい☆」
ぽ~いと、甲板から投げ捨てた。
あまりにも平然と、船から放り捨てたのだ。
「って、ええええええええ!?」
「ちょっ、死んだーー!?」
真樹と沙耶が、思わず甲板から身を乗り出して下を確認するほどだった。
大山に至っては、唖然として動けなかったほどである。
下の方でうすーく、ぼちゃんと音が聞こえてきた。
フェリーからの身投げだ、ワンチャン即死もあり得る。
とんでもない場面が出来上がってしまった。
だが、当の梨花と実琴は涼しい顔である。
「あはは、痴漢の心配するなんて優しいねー真樹ちゃん」
「いやその、助かりましたけど、さすがに船から捨てるのはやりすぎじゃ……」
「まーしょーがないかー。あ、船員さーん!
アホ3名落としちゃったんで、回収よろー☆」
梨花が声を掛けた船員が船の奥へと向かっていく。
だが、事情を察したのか特に咎めることもしなかった。
しばらくして、救命ボートが船のサイドから出動し、男達を回収しているのが確認できた。
その様子にホッとする真樹達であった。
あやうく殺人現場になりかけたフェリー。
さっきまでとは違うタイプの冷や汗が流れる中、梨花と実琴はニコニコとしていた。
「いやー、忘れてるかもしれないけどさ。
ペナルティやラブホテルで抵抗したら問題だけど、それ以外なら普通に殴り飛ばしちゃったりしていいんだからね?」
「普通には手を出せないからこそ、女戦士なのですから」
梨花達の言葉に『あっ…』となる新米たち。
裏社会に属する以上、その身は自分で守らなくてはならない。
そう、普段なら近づいてくる男を適当にあしらっていいのだ。
何なら適当に殴り飛ばして成敗してしまっていいのである。
ペナルティを経験したせいで、男達に迫られたら答えなくてはいけないと、無意識のうちに思ってしまったようだ。
どうもまだ、島の淫靡な空気が頭から抜け切れていないらしい。
「にひひ、それともあのまま触られたかった?」
ニヤニヤしながら聞いてくる梨花に、ぶんぶんと猛烈に首を横に振って答える3人の少女達であった。
(危ない危ない……気をつけないと)
真樹は大きく深呼吸をする。
性的イタズラに抵抗するどころか、受け入れてしまうような人間になってしまっては、運営の思う壺。
男達の欲望を打ち破ってこそ女戦士である。
実際にえっちい目に遭うのを経験して、このゲームの危険度も身に染みてきた。
だが、それでも叶えたい目標がある。
(憧れの人は、まだまだ遠いなぁ……)
成長している実感はあれど、目標の遠さもより見えてくる。
今回の祭でも、憧れの人の成績には届かなかった。
まだまだ自分は未熟なのだと痛感させられた。
それでも、諦める気にはならなかった。
(もっともっと、頑張らないとね!)
青い海を眺めながら、真樹は一人手を握り、決意を固めていく。
ひと夏の冒険はこれで終わり。
だけど、戦いの日々はまだまだ続いていくのだから。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
6章ヤクシマ編もこれで終了です。
長かった、当初の想定以上に!
次の7章はまた軽めに行く予定です。
ミトに帰ってきた真樹に待っていた次の挑戦者は、恋のライバル…?
お楽しみに。
以下、テンプレ。
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