6-12:モヤモヤするなら反省会ですわっ!
さぁぁぁっと、湯を浴びる音がお風呂場に響く。
ホテルの大浴場に備え付けられたシャワーを浴びる真樹。
すぐ隣には、同じように沈黙したまま身体を洗う沙耶がいる。
お互い顔を赤らめたまま、無言でシャワーを浴び続けていた。
ヤクシマ・コロシアム最終戦。
ライバル同士の大一番は、引き分けという結果に終わってしまった。
引き分けは、賞金はもらえるが、ペナルティも受ける。
それがヴァルキリーゲームズのルールである。
水着は剥ぎ取られ、カラダは弄ばれ、その姿は島中の者達に撮影された。
きっと自分達の身体は、皆の今晩のオカズにでもされてしまうのだろう。
ヴァルキリーゲームズに参加する以上、恥辱を受ける覚悟はしてきたつもりだ。
だが、いざ受けるとなると、やはり恥ずかしいし屈辱的なもの。
またしても仲良くペナルティ、2人一緒に裸を晒すことになるとは。
なんだかんだ言っても、2人はまだ10代の少女である。
さすがに、大多数の者の前に胸を曝け出して平然としていられるほど成熟はしていない。
思い出すだけで恥ずかしさが込み上げてきて、身体が熱くなってしまう。
しかも試合の決まり手が、足を滑らせて一緒にプールへ滑落というもの。
お互い体力が限界だったとはいえ、なんとも間抜けな決着になってしまった。
直前まで確かに追い詰めていただけに、真樹としては悔しくて仕方がない。
「……まだまだ、私は未熟だなぁ」
「ふん……」
真樹はシャワーを浴びたまま、ポツリと呟いた。
戦闘能力は決して沙耶には負けていない。
しかし実戦の経験は未だ浅く、予想外の事態へ対処できないことが浮き彫りになったのだ。
短い真樹の言葉に、沙耶は鼻だけで返事をするのだった。
プライドの高い彼女は表立って認めないだろうが、きっと同じように未熟さを痛感しているのだろう。
身体を洗い終えた2人は、ほとんど無言のまま一緒に湯船に浸かった。
温かい温泉が、戦いで疲れた身体を癒してくれる。
真樹はふぅっと息を吐いた後、ちらりと沙耶の方を見てみた。
すると、髪をかき上げる沙耶と目が合った。
(また沙耶ちゃんとキスしちゃったんだよね……)
脳裏に蘇る、舌を絡め合う感触。
ヤミトの提案により、バナナボートの上で接吻をかわし合ったことを思い出してしまう。
それどころか、水着を脱がし合うようなことまで……
(いやいや、あれはペナルティの一環であって、男達を楽しませるために仕方なくやっただけで!
別に沙耶ちゃんが可愛いとか色っぽいとかそんな話じゃなくて!
いや、沙耶ちゃんは普通に可愛いんだけど……!)
恥辱と欲情がぐちゃぐちゃと心の中で入り混じっていく。
自分の中の感情に思考が追い付いていない。
「……どうかしまして?」
「はぇっ!?」
無言なのにコロコロ表情が変わるのを心配したか、沙耶がじっと見つめてくる。
思わず目を逸らしてしまった真樹だが、その視線はそのまま沙耶の身体にいってしまう。
水面から顔を出した、よく発育した北半球。
湯の中に見える見事な脚線美。
女子校生という肩書きが煽情的な響きに聞こえてしまう、美しい身体。
そんなカラダの沙耶と、今日は一緒にくんずほぐれつなことをしたわけで……
(って、何を考えてるんだ私はぁぁっ!!)
ばしゃあんっ!!
思わず頭を抱えた真樹は、そのまま顔面を湯船に叩きつけた。
無言でジロジロ見たかと思えば、突然温泉に全身ダイブ。
沙耶からすれば、どう見ても奇行にしか見えない。
「ちょ、ちょっと!?大丈夫ですの!?」
「……いやごめん、なんか我を見失ってた」
水面から顔を上げた真樹の、憂いを帯びた表情。
それが、今度は沙耶の心をくすぐった。
不意打ちで見せたライバルの表情に不覚にもドキリとしてしまい、沙耶も思わず動揺する。
「……そ、そういえば随分と今日は静かですわね」
「そ、そうだね。いつもはもっと人がいるのに」
強引に話題を変えた沙耶に真樹も同調する。
そして改めて浴場を見渡してみた。
このホテルに泊まっている女性は、ほぼ全員が女戦士である。
女湯は戦いを終えた者達が集まる憩いの場。
毎晩このお風呂には、戦いを終えた者達が身体を洗い、癒すためにくるのだが。
最後の試合の後だからだろうか。
最終日である今日は、試合の数が少なかったせいだろうか。
今、この大浴場には真樹と沙耶の2人しかいなかった。
「……ふたりきり」
真樹がぽつりと呟いた。
そのまま、お互いに見つめ合う。
…なんだか、自然と顔が赤くなっていった。
「……な、何を考えているんですの!?」
「何も考えてないよっ!?」
思わず身体を隠しながら身を引く沙耶と、慌てて弁明する真樹。
それが余計に、妙な空気を作り出してしまっている。
お互いに顔を真っ赤にしていく。
お互いについ、相手のことを意識し合ってしまう。
温泉なのに感じる変な空気に、あまりにもいたたまれなくなってしまい……
ばしゃばっしゃあんっ!!
2人して湯船に顔面を叩きつけた。
「はーっ、はーっ、と、とりあえず落ち着きましょう?」
「そ、そうだね……」
湯船から顔を上げた沙耶の提案に同調する真樹。
とはいえ、一度意識してしまった以上は、簡単に頭からは払えないもので。
「修行、修行を思い出せ……!」
真樹は思わず湯船の中で脚を組み、手を合わせて座り込んだ。
胡坐をかいた脚と、卵型に合わせた手。
いわゆる座禅の姿勢である。
ごちゃごちゃとする頭で思いついた、あらゆる雑念を払う方法。
それを見た沙耶も、同じような体勢を組む。
「「心頭滅却、心頭滅却……」」
果たして効果があるのかは分からないが、急に温泉の中で座禅を始めた2人。
しかも何故か、心頭滅却を唱えながら。
湯の中で暖まりながらブツブツ唱えつつ、身動き一つしない。
傍から見ればなんとも言えない奇行ではあるものの、当人達はどうにか落ち着きを取り戻すことは出来たのだった。
その後。
十分に身体が温まったこともあり、無事に温泉から上がった真樹と沙耶。
脱衣所で服を着替えラフな私服となった真樹が、ロッカーから財布などの貴重品を取り出そうとした、その時だった。
まるで狙ったかのように、スマートフォンに着信が掛かってきた。
画面に表示された発信者は梨花である。
『あっ、真樹ちゃん?
よかった~、行く前に連絡出来て』
「梨花さん?」
『とりあえず試合、お疲れ様~。
まー、色々と思うことはあるだろうけど、今日はゆっくり休んでね』
「え、あ、はい」
試合のことを労う梨花だが、話しぶりからして本題は別にあるようだ。
『ま、それはともかく、急な連絡なんだけどさ~。
今日、アタシは部屋に帰らないからね~♪』
「はい?」
真樹と大山、梨花の3人は同じ部屋に泊まっている。
しかし今日は部屋に戻ってこないつもりらしい。
どういうことだろうか。
そういえば今日は実琴と試合をしていたはずだ。
祭の間、運営に徹していたはずであったが、今日になって急に試合をすることになった先輩2人。
そこで何かあったのだろうか?
『ま、無事に夜九祭も終わったってことで。
ちょっくら実琴と一緒に別館に遊びに行くことになってね~』
「ぶっ!?」
この島に来てから何度目だろうか。
予想外の話に、真樹は思わず噴き出してしまった。
真樹のリアクションに、沙耶も思わず目を向ける。
「ちょっ、ちょっと待ってください、別館って…!」
『そ。ラブホテルの方。ちょいと男漁りでもしてくるわ~♪』
「はいぃ!?それも、実琴さんと一緒にですか!?」
どうやら梨花と実琴は、このあと別館に泊まるつもりらしい。
しかしヤクシマの別館とは、より刺激的な夜を求める観客が泊まるラブホテル。
そこに女戦士として泊まるということは、試合より熱~い夜を求める男達のお相手をするということでもある。
いったい何がどうしてそうなった!?
『いやー、試合前に売り言葉に買い言葉で、負けた方が別館泊まりって賭けをしちゃったんだけどね~。
今日の試合、ものの見事に引き分けちゃったんですわ~。
で、どうせなら一緒に男共引っ掛けて一杯やろうかって話してね~』
「一杯やるってレベルではない気もしますけど……」
どうやら梨花と実琴の試合結果も引き分けらしい。
あの2人も実力が拮抗してるのは知っているが、まさかあちらも同じような結果とは。
当然、賞金授与と共にペナルティを受けたはずだが、その上で更に別館泊まりまでするという。
発言が親父臭い梨花であるが、そこに悲観さはない。
えっちなことをされるかもしれないのに、むしろそれに嬉々として臨んでいってしまえる。
女戦士としての歴が長いせいか、慣れているのか余裕すら感じられるのだ。
相変わらずとんでもない胆力である。
真似していいのかは分からないが。
「ちょ、ちょっとお待ちください梨花さん!
実琴も一緒なのですか!?」
『そうですよ~、沙耶お嬢様。
もう別館前まで来てるんだけど、そちらには連絡行ってないんですか?』
梨花の言葉が聞こえたのか、沙耶が割り込んできた。
己の従者が勝手な行動をしているとなれば、さすがに黙ってられないだろう。
「来ていませんし、そもそもわたくし達の部屋の鍵は実琴が持ってるんですが」
『あり?そうなの?
お~い実琴~?』
さすがに梨花も気になったのか、電話の向こうでライバルを呼び掛けた。
すぐに電話の話し相手が変わる。
『申し訳ありませんお嬢様。
お嬢様は面倒なことはなんでも人任せにしてしまいますから、鍵を持たなかったのですね。
ちゃんとルームキーは2本用意されておりましたのに』
「ぐっ……!」
だが、実琴から返ってきたのは、主の失態をバラす言葉であった。
部屋に戻れないのは己のミスであると指摘され、言葉に詰まる沙耶。
『あー、真樹ちゃん。
もしよかったら、沙耶お嬢様を泊めてあげてくれない?
ルームサービスとかは好きに使っていいからさ』
『ワタクシ達、既にお呼ばれしていますから、そちらのホテルには戻れそうにありませんので♡』
「お呼ばれってなんなんですの……」
「私は別に大丈夫だけど……」
梨花と実琴が提案してきたのは、沙耶を真樹達の部屋に泊めることだった。
いくらセキュリティがしっかりしているホテルとはいえ、ここは欲望を滾らせた男達が蔓延る島である。
一人きりで部屋にいるのはよくない気がする。
『それとも、真樹ちゃん達もコッチ来る?
イケナイ一夜を共に過ごしちゃう?』
「「け、結構です!!」」
梨花のアブナイお誘いは丁重にお断りして、真樹は沙耶を連れて部屋へと戻るのだった。
そんなわけで、沙耶は真樹達の部屋に泊まることになった。
ついお風呂場のことを思い出して顔が赤くなる真樹だが、部屋には大山もいることだし変なことにはならないだろう。
邪な思考を振り払い、部屋の中へと招き入れた。
「ん……」
「「うぉっ……」」
だが、部屋に入った真樹達は思わず怯んでしまった。
大山がベッドの上で寝ていたのだ。
下着姿のままで。
水色の下着をつけた大山は、ベッドの上ですやすやと眠っていた。
掛け布団もかけず、ベッドの上で大の字に寝ている。
しかし大山といえば、真樹でさえ羨むスタイルの持ち主である。
大きな胸が、大山の呼吸に合わせて上下していた。
「そうだった、大山ちゃんいつもこういう格好だった」
「だ、大胆すぎますわ……」
大山は普段から、寝る時は下着だけのスタイルなのだ。
初めて一緒に泊まった時は、真樹もさすがに赤面したものである。
さすがに一週間も共にすれば慣れてくるかと思ったが、今日は頭がなんだか妙な思考になっている。
そんな時にこんな姿を見せつけられたら、また頭が変なことを考え出しかねない。
今まで一緒にいた真樹ですらそうなのだ。
今日初めて見た沙耶の方は、顔を耳まで真っ赤にしてしまう。
前言撤回、変なことになりかねない。
そんな困惑する2人をよそに、大山が目を覚ました。
ゆっくりと上体を起こした大山が、真樹達のことに気付く。
「ん、おぉ……戻ったか、真樹」
「あ、お疲れ。起こしちゃった?」
「いや、大丈夫だ。って、なんで銀狐のお嬢様がいんだ?」
「実はかくかくしかじかで……」
のそのそと起き上がった大山に事情を説明する。
大山も特に反対はせず、沙耶が泊まることを認めてくれた。
普段は梨花が寝ているベッドを、沙耶が使うことになったのだった。
「うーん、けどさすがにその格好は…」
「せめてバスローブくらい着てはいかがですか…」
「ははっ、女同士なんだから気にしなくていいだろ?」
少女達は大山の格好に赤面するが、当の本人は気にせずベッドの上に胡坐をかく。
姉御肌な彼女の格好に思わず赤面する真樹と沙耶。
綺麗な逆三角を描く股に視線が行きそうになる。
また邪な思考になってしまいそうだったので、沙耶が強引に話題を変えた。
「そ、そういえば、貴女の試合はどうなりましたの?
あの黒獅子の秘書と戦ったのでしょう?」
真樹と沙耶の試合の前に、大山はあの葵と戦っていたはずだ。
ここまでヤクシマで一戦も戦ってこなかった、黒獅子グループのデキる方の秘書。
彼女がついに試合に出てくるとなって、こちらも大きく注目された試合だった。
試合結果が出る前に真樹達の試合が始まったため、結果はまだ知らないのだ。
だが、沙耶の質問に大山はズーンと項垂れてしまう。
「……負けちまったよ、完敗だ」
「そっか……」
その言葉で、おおよその心情は察した。
ヴァルキリーゲームズで試合に負けることの意味は複数ある。
真樹達もその意味を身をもって味わってきたばかりである。
「そっちはどうだったんだ……?」
「……引き分け」
「そうか……」
大山の質問に、真樹が言葉少なに答える。
大山もそれで、真樹達が何をされたのか察してくれたようだ。
祭の最終日にして、その身を晒すことになった少女3人の沈黙が続く。
「あーもう、辛気臭いのはダメですわっ!」
突然、沙耶が立ち上がった。
「負けたままで終わらないのなら、落ち込むより次をどうするか考える!
そう、反省会ですわっ!」
いつまでも暗い気持ちのままでいては、せっかくのお泊りも楽しさ半減である。
声高に宣言する沙耶は、自分のバッグからスマホを取り出したのだった。
「反省会はいいけど、どうするの?」
「試合を見返すんですのよ!わたくし、V.G.Hubのプレミアムパス登録してますもの」
「あのサイトのか……?」
V.G.Hubには、ヴァルキリーゲームズにまつわる様々な動画が集まる。
ほとんどは選手達が弄ばれるペナルティの動画だが、ちゃんと試合の映像も見ることが出来る。
表社会には出せない裏社会の選手ばかりゆえ、真っ当な場所では試合の映像を見ることが出来ないが、V.G.Hubならば可能だ。
しかし、プレミアムパスというのは聞き覚えがない。
きょとんとしていた真樹と大山に、沙耶が解説を加える。
「最近始めたようですの。登録しておけば、映像が見放題ですわ」
これも時代の流れということなのだろうか。
基本買い切りだったV.G.Hubも、どうやらサブスクリプション配信を始めたらしい。
一定額を払えば、サイトに上がる映像は見放題なのだという。
それでいいのか裏社会。
「月額100万燕ですけど」
「高ぇよ!!」
「ホントに、裏社会っぽい値段だね……」
金額はやはり、裏社会に入り浸れるほどのものがないと出来ないもののようだが。
ただ、ヴァルキリーゲームズで活躍する超人達の戦いが見放題となれば、むしろ安いのかもしれない。
「あ、ホラ。
大山さんと葵さんの試合、さっそく上がっておりますわよ」
スマホを操作する沙耶の言葉に、真樹は興味をそそられる。
大山を打ち倒した葵は、果たしてどんな戦いをするのか。
真樹と沙耶は興味津々である。
負けた当人である大山は苦い顔をしているが、特に止めはしなかった。
試合を見返すのは糧になるだろうと考えたのだろう。
ベッドの上に置かれたスマホで、3人は揃って映像を見ていくことにするのだった。




