6-9:真樹VS沙耶
「レディィィィス、アァンド、ジェントルメェェン!!
お待たせしたぜの最終日!
最後の最後に立ち会うのは!!
皆さんお待ちかね!!
今年の夜九祭で、いまだ負けなしの女子校生ファイターズ!!
猫耳闘士・真樹と、月光王女・沙耶の、直接対決だぁぁ!!」
「「「YEAAAAAAAAAAAAAAHHHHH!!!」」」
ヤクシマ・コロシアムの最も大きなリングで、大歓声が上がる。
初戦でも使われたこのリングは、開会式の時以上の盛り上がりを見せていた。
プールサイドに立つ2人の美少女に、熱い視線が注がれている。
カラフルなボーダーが入った白水着を着た、猫耳少女の真樹。
ゴージャスな金ピカビキニを着た、狐耳お嬢様の沙耶。
大注目だった2人の試合は、なんと最終日の一番最後に回されていたのだった。
『君たちの決戦、一番最後に回したいのだが、どうかね?』
これを提案したのは言わずもがな、この島のオーナーである黒獅子会長である。
最終日といえど、いくつもの試合がある。
祭の大トリともなれば、注目度は抜群だ。
運営としても賭けによる稼ぎを狙うのであれば、出来るだけ目立つ試合を作るようにするものだ。
そして、今最も注目されている選手が真樹と沙耶なのは、島にいる誰もが認識している。
だからこそ、最も盛り上がる大トリの試合に持っていくのは、ある意味当然と言えた。
『おーっほっほっほ!
ぜひお願い致しますわ!
最高の舞台で、わたくしの勇姿を世に知らしめるのです!』
『知らしめるはともかく…
沙耶ちゃんと最高の舞台で戦いたいっていうのは同感かな』
沙耶はもちろん、真樹もあっさりと承諾した。
その後、会長の鶴の一声で、2人の試合は一番最後となったのだった。
真夏の空が次第に暗くなる中、コロシアムは綺麗にライトアップされていった。
プールサイドに佇む2人は、ゆっくりと闘志を燃やしていく。
(大山ちゃん、大丈夫かな?)
真樹は観客席を軽く見渡してみる。
多くの女戦士が見物に来ている中、大山や梨花の姿は見えない。
大山と葵の試合は、真樹達の試合の直前に組まれていた。
しかも、試合を行うリングが異なるので、バス移動をしないといけない場所にいる。
おそらくそろそろ試合が終わる頃だろうが、どんなに急いでも真樹の試合開始までには間に合わないだろう。
そちらの結果はまだ分からない。
そして、もう一方のリングでは、梨花と実琴の試合が行われているはずだ。
これまで運営に徹していたはずの2人が、一体どういう心境の変化があったのか不明だが…
こちらも突然のバトルが実現した注目試合ということで、トリの直前に組まれていた。
(…今は集中しないと!)
気にはなるが、今は仲間達の心配をしている場合ではない。
これから挑むのは、間違いなく今までで一番激しい戦いになるはずだ。
軽く手を握ってみる。
思い通りの力が入る、身体に疲れは感じない。
これまで連戦で戦ってきた疲れは無い。
昨日の時点で9勝を上げた真樹は、昼間は心身を休めることに徹していた。
ありがたいことに、ここは温泉もマッサージも完備しているリゾートホテル。
リフレッシュをするためのサービスも超一流である。
露天風呂に浸かり、美味しいご飯を食べ、全身マッサージを受けながら休息する。
6日分の疲れを一気にほぐし、最高のコンディションでこの試合に臨んでいる。
もっとも、それは相手も同じ。
ものの見事に隣のベッドで沙耶がマッサージを受けていたのには、思わず2人して笑ってしまったものである。
リゾートホテルも十分満喫できた。
後はここで勝利すれば、最高の形で島から帰れる。
「体調は最高。天気も快晴。
お互い、全力で戦えるね」
「当然ですわ!
つまらない試合で終わっては、銀狐の…
いや、わたくし達の名折れですわ!」
お互いにニッと笑い合う。
これほど楽しみな試合は他にない。
「そういえば、昔は川で手合わせしたものでしたわね」
「もう、子供の頃の話じゃない」
「あの頃は真樹さんも泳げなくて、水に入るのを怖がってましたわよね?」
「今は平気だしっ!ていうか、水に入りたがらなかったのは沙耶ちゃんもじゃない!
川仕事は庶民の仕事ですわーとか言っちゃって!」
「そ、それこそ子供の頃の話でしょう!?」
ふとこぼした沙耶の言葉から、昔話にも思わず花が咲いてしまう。
戦いの直前だというのに、緊張は感じられない。
だが、それでいいのかもしれない。
共に道場で修行したあの頃から、一番の親友であり最大のライバルなのは変わってない。
そんな相手と最高の舞台で戦える。
それがなんだか嬉しくなってくる。
そうこうするうちに、プールに橋が掛かっていく。
真樹と沙耶は、仲良く一緒にリングインしていくのだった。
「今度は負けない!
正々堂々、勝負だよっ沙耶ちゃん!」
「改めて言われるまでもありませんわ!
今日こそ、ボッコボコにしてやりますわよっ!」
リングに乗った美少女2人は、闘志をむき出しにして向かい合った。
「さぁ、BETの時間だぜ!
ラストの試合ってことで、特別にレギュレーションはTOP10だ!
10連勝という大記録を目の前にして、屈辱に濡れてしまうのはどちらか!
最後の最後で水着を失っちまうのはどちらか!
ここまで勝ち続けたオンナノコ達に敬意を表して、張り切って賭けてくれぃ!」
実況の煽りに、観客達にも熱が入る。
ヤクシマでのレギュレーションでは基本TOP7であったが、特例として人数が変更されている。
注目度が高まった試合を更に盛り上げるべく、サービスとしてペナルティ参加者を増やすことを黒獅子会長が即決したのだった。
ここまでの試合でも勝ち続けて、かなりの賞金を稼いだ2人ではあるが、一試合で貰える金額は100万少々という展開が続いていた。
しかし、長かった祭もこれが最後。
何よりこの島に来ている女の子達の中では、トップクラスに強くて、そして若い美少女女戦士である。
熱狂の渦の中心にいる猫耳と狐耳の女子校生には、色々な意味で熱視線が向けられているのだった。
「うおぉ、BETが出揃ったようだが…
ハハッ、これは凄いぞ!
お前らそんなに若い子を楽しみたいか!?だが分かる!
堂々と女子校生の艶姿を撮れる機会は今しかないからな!!」
「あぅ…」
実況の煽りに、思わず真樹は腕で胸を隠す動作をしてしまう。
そういうゲームだと分かっていても、カラダが狙われているのだと感じると、やっぱり恥ずかしいものなのだ。
もっとも、そんなポーズをしたら、男どもの欲情を煽るだけなのだが。
「あらあら、試合中に脱げて力が出ない、なんてオチはごめんですわよ?」
「そ、そんなことにはならないよっ!ってか、沙耶ちゃんは平気なの?」
「わたくしが負けるなどありえませんから!
おーっほっほっほ!」
ゴージャスお嬢様は余裕綽々といったところか。
むしろ腰に手を当てて胸を張り、堂々と佇んでいた。
確かにこの程度で怯んでいてはこの試合には勝てないと、真樹は気合いを入れ直す。
「それじゃあ、そろそろ始めるぜ!」
いよいよ試合が始まる。
コロシアムの空気も、一気に緊張感のあるものに変わっていった。
「すこぉぉ……」
真樹は呼吸を整え、覇氣を練り上げる。
ただし、身体を巡る覇氣はいつものものとは違う。
「ふぅぅ……」
沙耶の方も身体に覇氣を巡らせているだろう。
初っ端から、激しい打ち合いになりそうだ。
「ヤクシマ・コロシアム、最終戦!
レディィィィーーッ!!
ゴーーーーッ!!!」
試合が始まってすぐ、観客達の目にも分かる変化が起きた。
「葉衣・松葉破!」
真樹の両手が光り輝いているのだ。
ぎゅっとした握り拳を包むように光が溢れている。
まるで光で出来たグローブを身につけたようだった。
ヤクシマでの戦いで身につけた、新しい力。
茜との戦いを経て知った、覇氣の放出による強大なエネルギーを直接身に纏う闘法。
茜の王羅を見よう見まねで再現しようとして編み出した、自分だけの技。
「松葉桜花砲!!」
真樹はそのまま真っ直ぐに沙耶へ向かっていき、光り輝く拳を打ち出す。
光に包まれた拳が沙耶へと向かう。
輝く右ストレートが相手に向かっていく。
が……
「月兎龍撃閃!!」
沙耶はその腕に、右足のキックで対抗した。
真樹のパンチに合わせるように、右足で回し蹴りを放つ。
そして、互いの拳と脚が触れた瞬間…!
どこおぉぉっ!!!
ぶおおおおぉぉっっ!!
何かがぶつかる衝撃音と共に、リングに突風が吹き荒れる。
まるで2人の攻撃によって、嵐でも生み出されたかのようだった。
観客達が思わず目を覆う。
だが、リングにいる2人はお互いに弾かれて距離を取りつつも、すぐに体勢を立て直す。
「やっぱり…!」
「貴女に出来て、わたくしに出来ないことはありませんわ!」
真樹は沙耶の技の正体に気付く。
いや、むしろ予想通りであった。
沙耶の綺麗な足には、同じように覇氣のエネルギーが纏われていた。
キラキラと輝く覇氣のブーツとでも言えばいいのだろうか。
沙耶もまた、ヤクシマでの戦いを経て、独自の覇氣の使い方を身につけていたのだった。
身体から放出した覇氣を光の弾として打ち出す、松葉破や月兎拳という技。
これらは覇氣をエネルギーの塊として放出するもので、放たれた氣弾には力が渦巻いている。
今までは氣弾として飛ばしていたが、実は身体から離れてからはエネルギーがどんどん減衰してしまうのだ。
飛び道具として牽制には使えるが、遠くから放ってもトドメの一撃にはなりにくいものであった。
このエネルギーを飛ばすのではなく、装備のように体に纏う。
その上で、元々強力であったパンチやキックを放つ。
強大なエネルギーを身体に纏ったまま強烈なパンチやキックに乗っけることで、威力を大幅に上げるという新技だ。
その威力は相当なものだ。
相殺された衝撃で周囲に突風を起こすほど、強大なエネルギー同士がぶつかったわけだ。
キラキラと手足を輝かせる少女達は、リングの上で堂々と向かい合う。
真樹も沙耶も、思わずニッと笑みが溢れる。
どちらも間違いなく、女戦士としてまた一段強くなっているのは間違いないのだから。
だからこそ、勝ちたい。
「絶対負けない!!」
「勝つのは、わたくしですわ!!」
少女達の咆哮が、夜のプールに響くのだった。




