6-7:狐襲来!
ホテルのエントランスから出たヤミトと葵に付いていくと、駐車場の先へとやってきた。
そこにはアスファルトで覆われた巨大な広場があり、巨大な円と大きくHと書かれたマークが描かれていた。
もしかしてと真樹が考えていると、突如として『バババババッ』と大きな音が聞こえてくる。
空を見上げると、一台のヘリコプターが降りてくるのが見えた。
しかも、全身金色というなんともド派手なヘリコプターである。
いかにも成金趣味といった機体には、狐を模したマークが銀色で描かれていた。
もしや……と真樹は妙な予感がよぎる。
「おーほっほっほ!到着ですわー!」
聞き覚えのある声と共に、1人の女子が着陸したヘリから飛び降りてくる。
予想通り、真樹にとって親友でありライバルでもあるお嬢様、沙耶が乗っていたのだ。
「沙耶ちゃん!?」
「あら真樹さん、ご機嫌よう。
さっそく会えるとは幸運ですわ!」
「ご無沙汰しております、真樹さん」
沙耶に続いて、彼女の護衛兼メイドである実琴も降りてきた。
2人とも動きやすそうな私服であるが、それでもどこか高級品らしい服装を身に着けていた。
とはいえ、お嬢様な制服やメイド服でない沙耶と実琴をみるのはなんだか新鮮である。
そんな新たな来訪者に向かって、葵が前に出て挨拶する。
「王坂コロシアムの沙耶様、実琴様ですね。
ようこそ、ヤクシマ・コロシアムへ」
「黒獅子の方ですわね。よろしくお願いしますわ」
恭しく礼をする沙耶と実琴。
その所作からも、育ちの良さがよく分かる。
しかし、そんなセレブな2人がわざわざこの島にやってきたということは…
「もしかして、沙耶ちゃん達も?」
「当然、夜九祭に参加するために遥々やってきたのですわ!」
先程までの恭しい態度を崩し、どーんと胸を張って真樹に応える沙耶。
ついさっきまで、似たような動作をする人物と戦ってきた真樹は思わず苦笑する。
自信家というのは、皆こんな感じなのだろうか。
「本当は昨日から参加の予定だったのですが、どうしても仕事の都合がつかず。
スケジュール管理が相変わらずガバガバでございまして」
「ちょっと!!余計なことは言わなくていいんです!」
実琴の暴露からの沙耶の突っ込み。
いつも通りの主従漫才じみたやり取りだ。
まぁ、銀狐グループの跡取り候補となれば、忙しいのも無理はないのだろうが。
「この夜九祭は、期間中なら途中参加もアリなんだよ。
最初は20人くらいいたけど、たぶんもっと人数は増えるだろうね」
ヤミトが補足する。
この島で行われている催しに、わざわざ好き好んで乗り込む者というのは、それなりにいるようだ。
島へ来るには特別なフェリーのチケットを手に入れるのが通例だが、沙耶達のように自前の機体で訪れることも認められている。
きっと他にも、この欲望渦巻く島にやってくる者は現れるだろう。
「それよりも真樹さん、聞きましたわよ!
この夜九祭で10連勝を狙っているそうね?」
「うん…っていうか、そんなに噂になってるの?」
「貴女がチャンピオンに憧れているというのは、もはや周知の事実ってものですわ」
新人で最も注目度が高い真樹。
当然ながら、真樹のことを目標に、あるいはライバル視している女戦士は多いのだ。
今年デビューの新人たちはもちろんのこと、アドバンスクラスに最近上がってきた者達の中にも。
「ですが!わたくしが来た以上、そうはさせませんわ!
この夜九祭で目立つのはわたくし!
わたくしこそ、この祭で華々しく駆け上がってみせますわ!」
もちろん、沙耶もその一人。
むしろ、これまでただ一人真樹と互角に戦った選手なだけあって、対抗心は人一倍あるのだった。
「実はお嬢様も10連勝を狙っていたのです。
初日に堂々と宣言するつもりが、ご自身は出遅れた上に真樹さんの話題が先に出回ってしまいましたから」
「そこっ、余計なことは言わなくていいの!」
実琴の茶々に突っ込みを返す沙耶。
しかし、どうやら沙耶も同じように高い目標を立ててきたようだ。
真樹に対抗するには、これくらいの目標を掲げねばと考えたのだろうか。
あるいは、裏社会での銀狐グループの地位を高める意味で、現チャンピオンの残した記録に挑む気でいたのかもしれない。
この祭での戦いに、新たな強敵が立ち塞がった。
緊張と共に、どこか嬉しさも込み上げてくる。
本気で競い合えるライバルの登場に、真樹の心は熱く高鳴っているのだった。
「お、いたいた!
真樹~、ここにいたか!……げっ!?」
ホテルの方から、大山が数人の女性を連れてやってきた。
真樹に気付いて近づいてきたが、天敵がいることに気付き、思わず足を止めてしまう。
「ひどいな~、みんな僕を見るととりあえず引いちゃって」
「自業自得じゃないかな……」
ヤミトのへらっとする態度に、真樹は呆れる。
この男、顔はイケメンの癖に女性を辱める術をしっかりと心得ている。
そのせいで、やたらと女戦士達には印象深く残ってしまうのである。
「大山ちゃん、試合終わったんだ。
ごめんね、疲れちゃって試合見れてないんだ。
どうだった?」
「もち、アタイも勝利してきたぜ!」
ぐっと親指を立てる。
どうやら大山も無事、今日の試合に勝利できたようだ。
後で詳しく聞いてみよう。
「っていうか、銀狐のお嬢様じゃねぇか。
もしかして、アンタらも参戦するのか?」
「ふふ、当然ですわ!
これだけ大きな催しに、銀狐が参加しないなどありえませんもの!」
「もっとも、今回はお嬢様だけの参加になりますが。
ワタクシは運営のお手伝いに回りますわ」
「あ、そうなんだ…」
「ふふ、申し訳ありません真樹様。
ワタクシへの挑戦は、また別の機会にということで」
どうやら実琴は不参加のつもりらしい。
梨花と同じく、運営のヘルプに来たのだろう。
確かにこのメイドさん、護衛以外の仕事もそつなくこなせそうである。
リベンジの機会を逃して残念がる真樹だが、大山と一緒にやってきた女性たちへと視線を移す。
「ところで、後ろの人達はどうしたの?」
「ん、おぉ。
コロシアムやホテルで、真樹に挑みたいってやつらと知り合ってな。
さっそく挨拶したいってんで連れてきたんだが、まずかったか?」
姉御肌な大山は、コロシアムとホテルにいる間に、早くも仲良くなった女戦士がいるらしい。
「へへ、初戦で大注目だったからな、アンタ!
ぜひとも挑戦したくてね!」
「うちもぜひ、お近づきになりとぉてなぁ」
「そっちのお友達も女戦士かぁ?
一緒にこの島のプールに沈めてやんよぉ!」
キャップを被ったボーイッシュな女の子に、はんなりと話す妙齢の女性。
なんだかガラの悪いお姉さんまで。
水着ではなく私服に着替えていたが、確かに開会式で見覚えのある者達だ。
どうやら皆、この島でも注目株となった真樹に挑みたいらしい。
「うふふ、真樹さんやわたくしが、そんな有象無象にやられると思いまして?」
挑戦者たちに対し、沙耶は自信満々に挑発する。
「あぁ!?舐めてんのかお嬢様!?」
「へー、そういうアンタは確か、真樹ちゃんにずっと後れを取ってるっていう銀狐の人じゃない?」
「後れは取ってませんわ!!互角ですわ互角!!」
早くも一触即発になっていく沙耶と、名前も知らない挑戦者たち。
「あわわ、沙耶ちゃんさすがに失礼すぎるよ」
「あらまぁ、うろたえなはって。それでも注目度ナンバーワンの新人なんやろか」
「あぅ……」
真樹はいきなりの修羅場にヒヤヒヤしているが、はんなりな女性もまた真樹を挑発する。
普段の真樹は、大人しい女子校生にしか見えないのだ。
もっとも、それゆえに侮られることも多々あるのだが。
あっという間に、真樹と沙耶VS挑戦者たちという構図になってしまった。
血の気の大きさは、さすがは女戦士といったところか。
「あはは、それじゃあこういうのはどう?
真樹ちゃんと沙耶ちゃん、どっちも10連勝を狙っているのならさ。
彼女達を蹴散らしていって、どっちも勝ち続けていけたら……
最後の10戦目で、互いにぶつかるっていうのは?」
まるで見計らったかのように、ヤミトが口を挟む。
ここに現れた挑戦者たちをはじめ、島にいる選手を相手に9連勝を目指す。
そして、お互いの10勝目を賭けて勝負する。
「おほほ、面白そうですわね!」
ヤミトの提案に、沙耶はあっさりと乗った。
ライバル同士の対決ならば、相応しい舞台があるべきだ。
有象無象を蹴散らし、最後まで勝ち続けた2人で直接対決。
その勝利を以て現チャンピオンに並ぶ大記録を達成となれば。
間違いなく大注目の試合になるだろう。
そこで華々しく勝利し、真樹に一歩遅れているという風潮をひっくり返す。
沙耶としては願ったり叶ったりである。
「真樹様は既に1勝上げられていますが」
「1日のハンデくらい、どうってことありませんわ!」
実琴の指摘にも堂々と答える沙耶。
残る6日間で10連勝を上げる気満々だ。
「やる気かおらぁ!」
「あたしを甘く見てると後悔するんだから!」
挑戦者たちも語気を荒げる。
彼女達からすれば、貴女達は踏み台ですと宣言されたに等しいのだ。
もちろん女戦士として、軽く見られるのは心外だ。
真樹と沙耶に対し、真っ直ぐ闘志をぶつけていく。
それを受けて、真樹もまた一歩前に出た。
「甘く見るつもりはないですが……
負ける気もありません!
沙耶ちゃん、皆さんも。
その挑戦、受けて立ちます!」
真樹もまた、戦士としての血が騒ぐのだろう。
挑戦してくる者を無下にする気はない。
自分の目標のためにも、彼女達の闘いの申し出を受けるのだった。
「では、さっそく申請いたしましょう。
さすがに今日はもう終了時間ですから、さっそく明日から試合と参りましょう。
葵様、申請手続きはそちらでも出来ますか?」
「……ええ。ご希望があればすぐにでも」
さっそくスタッフモードとなった実琴は、葵のノートPCを指出す。
試合の申請は、特定のスタッフが立ち合いの元、オンライン申請して予定表を組んでもらうことで成立する。
そして葵は、選手であると同時に申請が可能なスタッフでもあるのだ。
葵は慣れた様子でノートPCを開き、ヤクシマ・コロシアムの予定を調べ始めた。
「おほほ、お願いしますわ。
さぁ、一番手は誰ですの!?」
「おらぁ、やってやろうじゃねぇか!!」
「真樹、アンタはあたしが最初にぶっ飛ばすんだから!」
「…私の分もお願いできますか、葵さん」
「お任せください、真樹様」
やいのやいのと騒がしくなっていくヘリ発着場。
誰と誰がいつ戦うのか、ひと悶着おきながらも予定を組み上げていく。
「まったく……あっさりと乗せられてしまうとは」
ノートPCで予定表を整理しながら、チラリとヤミトの方を見る葵。
イケメンの一言に動かされ、あっさりとこのゲームで戦うことを決めてしまった女戦士達に対し、一人ため息をつくのだった。
その後、どうにか予定を組み終えて、それぞれにホテルへと戻っていった。
その最中。
「ところで、気になってたんだけど沙耶ちゃん」
「なんですの?」
「その犬耳、何?」
真樹はどうしても気になっていた点を沙耶に聞いた。
沙耶の頭に、獣耳のカチューシャがついているのである。
なんせヘリから降りてきたときから、ずっとこうなのだ。
「犬ではなく狐耳です。
猫耳の真樹さんに対抗するために、コスチュームの一つとして最近付け始めまして」
「そこっ!!余計なことを言わなくていいんですの!!」
とことんまで真樹をライバル視するあまり、狐耳まで付け始めた沙耶。
その様子に苦笑する真樹だが、自分も最近猫耳をつけてないと逆に落ち着かなくなっている。
私服の今は外しているのだが、この大会中は試合外でも猫耳を付けていようかと考え始める真樹であった。
早いもので、もうすぐ連載1周年ですってよ!
お仕事しながら書いてるのでどうしても拙いところはありますが、それでも読んでくださる方のおかげで頑張れております。
いつもお読みいただきありがとうございます。
しかし、1年掛けて、連載当初のプロットから半分も進んでいないとは……
物書きの大変さがよく分かるというものです。
これからもマイペースに続けていきますので、引き続きよろしくお願い致します。




