6-2:黒獅子グループ
夜九島にたどり着いた一行は、ホテルへと向かった。
真樹達は島にいる間、港から少し離れた丘に立っているホテルに宿泊することになる。
ビーチを一望出来る、リゾートホテルであった。
ヤミトとも別れた女戦士3人は、予約していた部屋へと通された。
ベッドが3つあるのに十分広く感じられる部屋。
部屋の豪華さにやや委縮する真樹と大山であった。
窓から見える景色は既に夕方になっており、オレンジ色に光る海が輝いている。
明日から7日間、この島はヴァルキリーゲームズのお祭りとなる。
このゲーム独特の、欲望渦巻く格闘大会という空気が島全体に広がるのだ。
男達に狙われるという危機感を感じながらも、新たな戦いに期待を膨らませる真樹と大山。
せっかくの遠征なのだ、出来ることなら実のあるものにしたいものだ。
「荷物を置いたら、こっちのコロシアムのオーナーに挨拶に行くからね~」
そう梨花に誘われる形で、真樹達も再び部屋を出る。
フロントでオーナーに挨拶を伺う旨を伝えると、少し待つように言われたのだった。
ホテルのロビーもまた豪華な作りであり、真樹はなんだか落ち着かない。
田舎育ちなのが分かる一幕に梨花は苦笑しつつ、案内人が来るのを待つのだった。
すると……
「あーーっはっはっはっは!!
あんた達がミト・コロシアムからやってきた期待の新人たちね!!」
一人の女性が高笑いと共に現れたのだ。
燃えるような赤い髪をサイドテールにした女性。
緑がかった立派なレディスーツを着ている大人な女性だが、くりっとした目は幼さも感じさせる。
格調高いホテルのスタッフなのだろうが、それにしては言動がなんだかバカっぽいが。
「な、なんだこいつ……」
「こいつとは失礼ね!!
この茜様が直々に挨拶に来てるのよ!
敬いなさいな!!」
どこかで聞いたようなやり取りである。
茜と名乗った女性は、真樹をびしっと指差した。
「あんたが噂の猫耳闘士ね!
いくらミト最強の新人と言えども、このヤクシマ・コロシアムは甘くはないわ!!
この茜様が番人として直々に「てぃっ!」ほぎゃっ!?」
真樹への挑発の最中で、茜は急に悶絶しだした。
いつの間にか、茜の隣にもう一人の女性が立っていたのだ。
現れるまで、まったく気配を感じられなかった。
新たに現れた女性は、透き通るような水色の髪をセミロングにしており、紫のスーツを着ている。
眼鏡をかけた顔にはキリッとした目があり、いかにも真面目で堅物そうな印象を受ける。
いきなり茜の首筋に手刀をかました彼女は、倒れて呻く茜を無視して真樹達に恭しく礼をする。
「ミト・コロシアムの梨花様、真樹様、大山様ですね。
うちのバカが失礼しました。
黒獅子グループ、会長秘書の葵と申します。
会長がお会いになるそうです。
どうぞ、付いてきてください」
そのままスタスタとホテルを歩き始める葵。
「あの……ほっといていいんですか、あの人」
「ご心配なく。あの程度はいつものことですので」
思わず茜について聞いた真樹に、葵はそっけなく答えるのみであった。
「やぁ、よく来てくれたね」
葵に案内されて、一際豪華な一室に通された真樹達。
ホテルのスイートルームの奥にあるソファに座っていたのは、獅子のような男であった。
「梨花君は久しぶりだな。
アイドルとしての曲もいつも聞かせてもらっているよ。
表の方も、裏の方もね」
「ご無沙汰してます、黒獅子のオジサマ♡」
テレビで見た通りの、獅子のような顔立ちの男がいた。
スーツ越しでも分かるがっしりとした体格だが、フランクに話す姿は親しみやすさも感じられる。
梨花の方も和やかに挨拶をするのだった。
「真樹君と大山君は、初めましてだな。
黒獅子グループの会長を務めている、レオという者だ。
もっとも、ここではヤクシマ・コロシアムのオーナーと名乗った方がよいかもしれないがね」
「は、初めまして!」
「どうもっす」
「はは、そう緊張しなくてもいい。
ここでは私も、キミ達女戦士を応援する人間の一人に過ぎないからね」
緊張するなというのも無理がある。
なんせメディア露出も多い有名人でもあり、国でも5本の指に入る大企業のお偉いさんである。
直に会ったことで分かる、やり手な男であるというオーラも感じさせた。
「ちょっとー!!置いてくなんてひどいわよー!!」
「おわっ、さっきの!」
レオへの挨拶の最中、いきなりドアが開けられて茜が入ってきた。
スイーツルームへの闖入者に、真樹と大山も驚く。
「ほう、既に面識があるのかね?」
「先程、勝手にミトの皆様に絡んでおりましたので。
すみません、締めが足らなかったようです」
「こら葵!!さっきはよくもやってくれたわねぎゃっ!?」
「お客様の前です、お静かに」
乱入者に再び手刀をかます葵。
茜はまたしても倒れて蹲る。
「ははは、騒がしくてすまないね。
紹介しよう、私の秘書を務めている葵君と茜君だ。
どちらも今回の夜九祭に参加することになっている」
「は、はぁ……」
冷静そうな葵はともかく、この騒がしい茜もまた秘書の一人らしい。
しかも、どうやらこの2人も女戦士としてコロシアムに立つようだ。
「ハカタの赤青コンビだねー。
去年デビューした中では結構目立ってた方じゃないかな。
今はどっちもアドバンスクラスだっけ?」
元々、黒獅子グループは九洲の羽賀田を拠点とする企業である。
その本拠である街にはハカタ・コロシアムがあり、レオはそこのオーナーでもある。
彼が直接雇っている葵と茜は、ハカタ・コロシアム所属の女戦士。
昨年デビューして、その対照的な存在感から人気を博していたのだ。
「うむ、その通りだ。
私としても、今売り出し中の女戦士ということになるな。
そこでだ、ミトの諸君に頼みたいことがある。
特に真樹君、キミにだ」
「私ですか?」
急に名指しされて、緊張する真樹。
「明日行われる、夜九祭の記念すべき第1戦。
真樹君と茜君に務めてもらいたいのだが、どうかね?」
レオが提案したのは、大会の一番最初の試合を、真樹VS茜にしたいということだ。
大会最初の試合ということで、もちろん注目度は高いだろう。
「現在最も注目度の高い真樹君と、昨年最も騒がせた茜君の対決。
大会を盛り上げるには最適だと思うのだよ。
どちらもアドバンスクラス、実力的も恐らく拮抗しているだろうから、いい試合になると思うがね」
「どうかね?」と改めて聞くレオ会長。
それに対し真樹は…
「やります!」
「即答かよ、やっぱ」
「にゃはは、相変わらずだね~」
勝負を申し込まれたのなら受けて立つ。
チャンピオンを目指す者として、挑まれた勝負は堂々と受けて立つつもりである。
それに、実力も拮抗していると言われたなら、ぜひとも戦ってみたい。
もう一段階強くなる機会があるならぜひとも挑戦したい。
そんなバトル好きの欲求に素直に従った真樹は、初戦で戦うことを即引き受けたのだった。
「あーっはっはっは!!
いい度胸じゃない!!
あたしにボコられて辱めを受けても知らないからね、覚悟しときなさーい!!」
悶絶から復活した茜がすぐさま胸を張る。
その横で葵が頭を抱えていた。
普段からこんな調子なのだろう、手刀程度では懲りない女性なようだ。
だが、ある意味タフな人とも取れる。
「よろしくお願いします。いい試合にしましょう」
「いいわよいいわよ、よろしくしちゃう!
どっちが注目選手か、ハッキリさせようじゃないの!」
微妙に噛み合わない話をしながらも、互いに闘志をぶつけ合う真樹と茜。
どうやら最初のカードは決まったようだ。
「なら、アタイの相手はそっちの眼鏡がしてくれんのか?」
大山は、もう一人の秘書へと顔を向ける。
こちらも女戦士ならば、勝負をしてくれると思ったのだが。
「……何故、格下相手と戦わねばならないのです?」
「な、なんだとっ!?」
「私は無駄なことは嫌いです。
上へ行くのに、無駄な時間を使う気はありません」
冷たくあしらわれてしまう。
あまりにそっけない態度に、さすがに火が付く大山。
さすがに見かねたレオが苦笑交じりに間に入る。
「気を悪くしないでくれたまえ。
彼女は徹底した合理主義者なのだよ。
秘書としては助かるのだがね……冷たく見えてしまうのは申し訳ない」
「まぁ、そっちの青秘書さんは赤い方より結構出来そうだねー。
多分、エキスパート昇格間近って感じ?」
「ちょっとー、葵の方が強そうとか聞き捨てならないわよー!?」
「さすがだな梨花君。
確かに葵君は昇格間近だ。
彼女は慎重派なんだが、その分析眼は確かだ。
誰にでも特攻する茜君と違って」
「ちょっと、会長ー!?」
騒ぐ茜を余所に、梨花とレオ会長が談話を続ける。
「まー、ある意味正しい行動じゃない?
格上且つ、自分が勝てると睨んだ相手としか戦わないってのは。
自分の身体を大事にしつつ、最短距離で自分の評価を上げていくのなら、葵ちゃんの考え方が正道だね」
梨花は葵の考え方にも理解を示す。
クラスを上げて自分の評価を高めることを目的にしているのであれば、基本的に自分より評価の低い相手と戦うことのメリットはあまりない。
大山はついこの間、アドバンスクラスに昇格したばかりである。
葵から見れば格下に見えるのも、無理からぬことだ。
「つまり、アタイが戦うに値する相手だと示せればいいんだな?」
「出来るものなら」
明らかな挑発に闘志を燃やしていく大山。
眼鏡をくいっと上げる葵は、表情を変えずに真っ直ぐ大山を見つめ返すのだった。
「ふむ……葵君の流儀を蔑ろにするつもりはないが、挑戦してくる相手を誰も彼も無視するのもどうかと思うがね」
「……では、こうしましょう。
この大会の間に、5連勝を上げてください。
そうすれば、試合に応じて差し上げます」
レオに促された葵は、戦いに応じる条件を提示するのだった。
そこに、梨花が補足を入れる。
「夜九祭は明日から7日間行われるんだけど、その間なら何回戦ってもいいんだよ。
選手同士が互いに同意した上で申請すれば、コロシアムが試合を段取りしてくれるの。
賞金を沢山稼いだり、クラス昇格のための戦績を求めるなら、色んな人に勝負を掛けた方がいいね。
あ、同じ相手と戦うことはダメだけどね。
女戦士はたくさん来るだろうから、対戦相手を探すことには困らないと思うよ。
まぁ、戦ってくれる相手を探して交渉するのも含めて、己の力量を測る機会にはなるかもね」
この島で出会う女戦士は、みなライバル。
これまではコロシアムに委ねられていたマッチングを、自分の意思で行うことが出来るのだ。
どんな相手に勝負を申し込んでも構わない。
ただし、受けるかどうかは人それぞれ。
葵のように条件を満たさないと戦ってくれない人もいるということだ。
加えて、相手の力量を見る判断力も問われる。
もしも実力が遥か上の相手に無謀に挑んでしまえば、呆気なく敗北を喫することになるだろう。
「この大会にはアドバンスクラス以上しか参加できないからね~。
上がったばかりの大山ちゃんは、今この島で最低ランクだと思った方がいいね」
「……つまり、ここで勝ちまくっていけばアンタが戦うに値すると示せるってわけだ」
「そういうことです」
梨花の助言に闘志を燃やす大山。
大山は完全にターゲットを葵に定めたようだ。
葵の出した条件は、5連勝。
負けることなく、5人の相手を探し出して勝たなくてはいけない。
「大山ちゃん、やる気だね」
「おうよ。分かりやすい目標が出来たもんだぜ。
今回のアタイのターゲットは、アイツだ」
やる気に満ちている大山を、真樹は少し羨ましく思う。
そんな真樹の様子を察したのか、レオ会長が口を開いた。
「ふむ……では、真樹君達がもっと燃えるような話をしよう。
かつてこの島で脅威の記録を立てた、瑠璃亜君のことだ」
「えっ!?」
憧れの人物の名前が出てきて、真樹は思わず声を上げてしまう。
「現チャンピオンの瑠璃亜君だがね、彼女が大きく名を上げたのはこの夜九祭が切っ掛けなのだ。
アドバンスクラスだった頃、彼女もまたこのヤクシマ・コロシアムに挑戦した。
そして、10連勝という記録を打ち立てていったのだ」
3日に1試合でさえハイペースと言われる女戦士の世界。
しかし、かつての瑠璃亜は7日間しかないこの島の大会で、1日1試合以上の超ハイペースで勝利を重ねていったのだ。
結果は10連勝、もちろん無敗のまま島を後にしている。
未だ破られたことのない、夜九祭の連勝記録であった。
「10連勝……」
真樹の瞳に炎が燃えているのは、誰の目にも明らかだった。
彼女もまた、この夜九祭での目標を固めていたのだった。
憧れの人と同じ、10連勝を狙うと。
「あ、そうだ。
ついでにリングの説明もしておかないと!」
「ふむ……葵君。モニターに映像を出してくれたまえ」
梨花の言葉にレオも同意したのか、葵に指示を出した。
「コロシアムは場所によってそれぞれ特徴が出るんだけど、このヤクシマは特に特殊なルールが多いからね~。
とりあえずミトとの違いは把握しといた方がいいね」
ミト・コロシアムでは、下位クラスではロープのリング、上位クラスは金網リングを使用する。
だが、これはあくまでミト・コロシアムでのルール。
ヤクシマ・コロシアムでは異なるリングが使用されているという。
その違いはあらかじめ知っていた方がいいという、梨花達の配慮であった。
何せ真樹は、明日一番の試合でいきなり戦うことになるのだから。
「どうぞ、こちらをご覧ください」
葵がリモコンを操作し、部屋に設置された大きなモニターに映像を映し出す。
そこには、今この島にあるリングの、生の映像が映し出されたのだ。
「うわぁっ…!」
「プールか……まさに夏のコロシアムって感じだな」
映し出されたのは、綺麗にライトアップされた夜のプール。
広い円形のプールの中央に、これまた円柱の柱が立っている。
あの上で戦うことになるのだろう。
まるで浮島のように、水に囲まれたリングになっているのだ。
「見ての通り、プールのど真ん中にフィールドがあってね。
もしプールに落ちちゃったら即失格!
全国でも珍しい、リングアウトが採用されているコロシアムなんだよ」
そういえばと真樹は思い起こす。
かつて戦った実琴は、リングの外から攻撃してきても特に咎められることが無かった。
ルール無用な裏社会ならではと思っていたのだが、あちらは単に場外に出ることが認められていただけなのだ。
今回は場外からの攻撃は出来ないと考えていいだろう。
「それと、この通り屋外にあるからね。
場合によっては天気も敵になるよ。
これもヤクシマだけの特徴だね」
広々とした開放感のあるコロシアムは、プールをぐるっと囲むように観客席が作られている。
そして屋根は観客席にだけあり、見上げれば綺麗な星空が見えている。
基本的にヴァルキリーゲームズのコロシアムは地下に作られている。
この島のように、屋外で試合が出来る場所は極めて貴重だ。
確かに新鮮な気持ちで戦えるだろう。
「そしてもう一つ。
このヤクシマ・コロシアムでの戦いでは、水着での試合が義務付けられているんだよ」
「そりゃ、プールなんだからそうなるんだろうな…」
大山がつぶやく。
梨花が水着を買うように勧めてきた理由がまさにこれだ。
舞台に見合うコスチュームとして、選手たちはみな、水着姿で戦うことになる。
真樹達もこの島に来る前に、梨花と一緒に水着を複数購入してきたのだ。
「あっ…!?」
「にひひ、気付いた?」
ニヤニヤと笑う梨花を見て、真樹はこのルールの意図に気が付いた。
何故、『複数』水着を買うことを勧めてきたのか、今になって分かった。
ヴァルキリーゲームズの試合では、衣装が破壊されることはよくある。
破けたり切られるようなことがあっても、選手が倒れない限り試合は止まらないのだ。
それは、布面積が少ない水着を着ていたとしても変わらない。
大きな危険をはらんでいることに、大山もようやく気が付いた。
つまり、こういうことである。
「この島でのルールを要約するとね。
どきっ♡女だらけの浮島バトル!
ポロリ上等の水着剥ぎデスマッチなのだー!」




