5-4:正義感のカタマリ
「えーと…つまり私達を尾行して警察の方が来てしまったと?」
ヴァルキリーゲームズの事務室にて。
やいのやいのと騒ぐ神無月から、なんとか事情を聞き出した梨花とカグヤ。
その2人に呼び出された真樹はぽかんとしながら、睨んでいる神無月を見た。
確かに見覚えのある婦警さんである。
あの時公園から逃げた人が、まさかここまで追ってくるとは。
「うぅ……すみません」
「いやー、攻めてるわけじゃないんだけどね。
今回はむしろ、表側からのイレギュラーだから♪」
トラブルを呼び込んでしまったことに委縮する真樹に対し、別にいいと手を振って言う梨花。
「さっきも説明したけど、一応警察からも黙認されてるんだよねぇ、ココ」
梨花は確認するように神無月に言う。
この闘技場はいくつかの条件の元に存続が黙認されている場所。
いち警察官の判断で潰せるようなところではないのだが。
「むむ…!
だったらなおさら見逃せないですよ!
この正義の警察官・神無月巡査に、賄賂も裏取引も通じないのですよ!」
聞く耳持たずで警棒を振り回す神無月。
正義感のカタマリのような婦警さんに、言葉での説得は難しそうである。
「なるほどねー…
警察のお偉いさんから、跳ねっかえりの新人がいるから気をつけろと言われてたんだけどねぇ」
梨花は苦笑するしかない。
ソツが無いエリートさんの忠告が、今まさに現実になっているのだ。
「こんな怪しげな闘技場、即刻潰してやるですよ!」
怒り心頭といった感じの神無月は、このまま全員を捕らえようとする勢いだ。
女戦士達の実力を知っている者ならば、無謀としか思えない話である。
だが残念ながら、無知と無謀はリンクするのが世の常である。
神無月はそのまま、後から現れた真樹へと視線を向ける。
「それに……
こんな年端も行かない子をこんな戦いの場に連れ込むなど、絶対に見過ごせないのです!
この場で補導して、二度とこんな場所に来なくなるよう更生させてやるですよ!!」
「なっ…!?」
真樹へ向けて、びしっと警棒を突き付ける。
その物言いに真樹は大層驚き、梨花とカグヤは思わず顔を見合わせる。
そもそも神無月が乗り込んだのは、悪い組織に若い女子校生の真樹が連れ込まれているように見えたからだ。
なるほど、確かに真樹は何もしていなければ、大人しい女子校生といった風貌だ。
素朴で純真そうに見えるというのは、運営やファンの間の共通見解であり、それが人気の理由になっている。
爆乳マッスルな大山とセットであるところを見ると、不良なお姉さんに悪い地下組織に連れてこられたように見えるのか。
とはいえ、コロシアム禁止を一方的に言い渡されては、真樹とて黙ってはいられない。
珍しく、真樹はむっとした表情で神無月を睨み返した。
「ごめんなさい。
私、自分の意思でこのコロシアムに来てるんです。
それを邪魔をするというのなら、相手になります!」
自分にはやりたいことがある。
こんなところで、夢を遮られるわけにはいかない。
自らの道を遮る者がいるのなら、己が力で押し通るのみ。
礼儀正しく言いながらもファイティングポーズを取る真樹に、梨花は思わず苦笑する。
この婦警さんは、バトル好きな彼女の地雷を踏んでしまったのだと。
「むむむ……既に悪に洗脳されてるのですね!
ならば、正義の味方として見過ごすわけにもいかないのです!
この場で保護して、施設送りですよ!!」
その神無月は、とんでもないことを言い出した。
彼女からすれば、真樹は既に悪の闘技場の空気に毒されてるように見えるのだろう。
あながち間違っていないところがなんとも言えない。
己が夢のために戦いたい者と、職務として止めたい者。
どちらにも信念があり、それが明確に対立している。
今すぐこの場で殴り合いが始まりそうなほど、互いに闘志を高めていっている。
事務所で暴れられては迷惑極まりないと梨花が口を開こうとしたとき…
それよりも早く、カグヤが口を開いた。
「うふふ、ならばこういうのはどうかしら?
これからリングで戦って、その子に勝ったら連れ帰ってもいいわよ?
なんならその子から、コロシアムの参加資格を取り上げてもいいわ」
「なっ!?」
カグヤが神無月に提案してきたのは、真樹からすればとんでもないものだ。
この婦警さんに勝てなければ、このコロシアムからリタイアという内容である。
いきなり女戦士として大一番である。
「代わりに、負けたらこの場は大人しく退散。
以後、私達を捕らえるようなことはしない。どう?」
「むむ……」
カグヤの提案に、神無月も思わず唸る。
わざわざ悪の闘技場側の言うことを聞くのは癪だが、ここで勝てば堂々とかよわい女子校生を連れて帰れる。
考えを巡らせる神無月に、カグヤは更に追い打ちをかける。
「その子にすら勝てないような刑事さんでは、私達を捕らえるのは無理よ。
ここは闘技場。
やりたいことがあるなら、力を示さないとね♪」
カグヤはニコリと妖艶に笑う。
美しさの中に底知れなさを見せるカグヤを、真っ向から睨み返す神無月。
なるほど、無謀だけど意志は非常に強い婦警さんなのは間違いない。
「ちょっと、カグヤ~?」
「分からせた方が早いわよ?
どっちにも、ね」
梨花が訝し気に聞いてくるが、カグヤはどこ吹く風。
運営としては色々と問題が起こるので、契約していない者をリングに上げることは避けたい。
だが、カグヤの言うことにも一理ある。
神無月には、裏社会の力を直で味わってもらった方が早そうだ。
そして真樹にも。
裏社会に関わるということが、時に真っ当に生きる人間と対立することもあるのだということを。
「あ、そうそう。
ヴァルキリーゲームズは一応、武器の使用も認められてるのよ。
銃火器はダメだけど、その特殊警棒ならオッケーじゃないかしら」
「…まーね。それなら使っていいよ」
カグヤはそのまま、武器について神無月に補足する。
チラリと警棒を観察した梨花も許可を出したのだった。
ヴァルキリーゲームズには様々な武術家が訪れる。
その中には、剣士だったり薙刀使いだったり、武器を使用する者もいたりする。
事前に申請すれば、武器の使用も可能なのだ。
なお、許可が下りるかは運営次第であり、それ以外の武器を使用したら制裁である。
「あと、真樹ちゃんは覇氣禁止ね」
「はい!?」
今度は真樹へと忠告を加えるカグヤ。
いきなり切り札を封じられて驚く真樹に、カグヤは近づいて耳打ちする。
「たぶん、あの子もそれなりに戦えるけど、あくまで表のレベルだから。
普通に覇氣込めたパンチなんかやったら、死んじゃうかもだから」
それを聞いて、なるほどと真樹は思い直す。
『覇氣』は、表には知られていない裏の闘法。
強化した腕で一般的な人間に使えば、最悪死に至るだろう。
真樹自身も大山と戦うまで、同じ理由で覇氣の使用を控えていたのだ。
最近覇氣使いと立て続けに会ってきたからか、危うく忘れるところだった。
ヴァルキリーゲームズでは殺しはご法度である。
真樹だって、自分から殺人者になんてなりたくない。
覇氣禁止で戦うこと自体は構わないが……
整理しよう。
相手は武器あり。
警棒を使用するとなれば、相手の方がリーチは長い。
それに対して、こちらは覇氣禁止。
裏の闘法を使わず、正規の格闘技だけで堂々と戦わなくてはならない。
またしてもハンデマッチ。
しかも、もし負ければ二度とコロシアムに立てなくなるかもしれない。
どう考えても真樹に不利な要素ばかりである。
「それでもやる?」
「…やります。
私の夢のためにも、こんなところで止まれないですから!」
それでも、真樹はこの困難を受け入れることを決めた。
ニコニコ顔のカグヤに、真樹は力強く頷いて答えたのだった。
裏社会が理不尽なのはいつものこと。
これくらい打ち破らなければ、自分の夢など叶わないだろうから。
真っ向から神無月を睨む真樹。
それを睨み返す神無月巡査。
お互いに視線でバチバチと火花を散らしている。
これはもう止められないだろうと判断した梨花は、「はぁ……」とため息をついた。
一応この場の決定権を持っているのは、運営側にいる梨花である。
若き女戦士と新米婦警の闘志を見たアイドルは、決断した。
「……ま、今日は大山ちゃん達の試合で終わりだから、リングも空いてるし。
無観客試合のエキシビジョンマッチってことならいいよ」
全年齢版は3000PV突破、感謝!
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
少し早いですが、これが年内最後の更新になります。
よいお年を!




