5-3:悪爆乳(仮)の熱戦
通路を歩く間に、神無月はカグヤから色々なことを聞き出すことが出来た。
ここが、ヴァルキリーゲームズと呼ばれる地下闘技場であること。
特別な力を持った女性だけが選手として参加できること。
試合に勝てば賞金を得られるが、負ければちょっとした罰ゲームが待っていること。
そんな話を聞いているうちに、通用口から観客席へと出た神無月とカグヤ。
そこそこの広さを持つ、アドバンスクラス向けのリングだ。
本来であれば、賭けに参加しない客は試合を見ることは出来ないという。
「けどま、私の関係者ってことなら大丈夫でしょ」
そう言って空いている席へと誘う巫女さん。
ヴァルキリーゲームズの関係者であれば、特例で試合を自由に見ることが出来るのだ。
誘われるままにカグヤの隣に座った神無月は、賭け代金を支払わなくて済んだことに少しだけホッとする。
なけなしの給料は、特撮グッズ代に回したいのだから。
着席した神無月は、改めて会場を見回す。
試合は既に始まっており、中央のリングでは2人の大柄な女性が戦っていた。
「おらああっっ!!」
全身赤のコーディネートをしたマスクレスラーの女性が、対戦相手に殴りかかる。
黄色のレスリングコスチュームに身を包んだ対戦相手は、その拳をがしっと掴んでいた。
力と力のぶつかり合い、組み合うような形になっている。
「大山の渾身の拳を受け止めた!!
マスクレスラー対決、クルミは先輩の意地を見せることが出来るのか!
それとも、大山もまた大型新人だと見せつけることになるのか!!」
実況の声が響き、会場が沸いていく。
リングでヒートアップする女性達だが、そのコスチュームは神無月からすればなかなかに過激なものだ。
薄いトップスに、短いショートパンツ。
その肉感がはっきりと分かるような煽情的なコスチュームを身に纏っている。
どちらも胸と尻が大きな女性であり、男達の視線を集めてしまうのも無理はないと思った。
だが、そのセクシーさをかなぐり捨てるような、鬼気迫る迫力の殴り合いが展開されていた。
(あ、あの爆乳は……間違いないです!!)
炎が描かれた赤いコスチュームに身を包んでいる方の女性には既視感があった。
マスクで顔を隠しているものの、体型と声に覚えがあった。
自分が尾行していた女子ヒールレスラー。
彼女が言っていた試合とはやはり、ここのことだったのだろう。
(むむむ……まさか本当に悪のレスラーだったとは!
となると、もう一人の子も……)
そう考えた神無月は、熱気あふれる悪爆乳(仮)達の試合を横目に、観客席を見回す。
歓声や怒号を上げる男達に混じって、端っこの方に女の子が座っているのを見つけた。
間違いない、自分が尾行していたもう一人の女子校生だ。
制服を変え、何故か猫耳をつけた女子が、拳を握りしめて試合を食い入るように見つめている。
この会場では、女性はコスプレするルールでもあるのだろうか。
隣のカグヤも巫女の格好をしているし。
自分の婦警服もそう思われているのだろうか。
いかにも悪な場所にも関わらず、観客達は特段気にしていないようだ。
この場では都合がいいが、それはそれで複雑だ。
警察を軽く見すぎているのではなかろうか、ここの人達は。
そんな考えがよぎった時、試合の方で動きがあった。
「っしゃあ、新技行くぜ!!」
炎の赤レスラーの、気合の入った掛け声と共に強烈なパンチが相手に入る。
その瞬間、一瞬だけ彼女の身体が光ったような気がした。
赤い方はそのまま、よろけた相手を腰からガシッと掴む。
「なっ……!?」
次の瞬間、神無月は仰天する。
赤い悪爆乳は、対戦相手を思いっきり宙へと放り投げたのだ。
ぐぉんっと生身1つで空中へ放り上げられる黄色レスラー。
アニメか、もしくはワイヤーアクションかと思うかのような、常識的には考えられない吹っ飛び方。
神無月の驚きはそこで止まらない。
「おらぁぁぁっ!!」
赤爆乳もまた、空中にいる相手を追いかけるようにジャンプで飛び上がったのだ。
トンデモな跳躍力を見せる赤レスラーは、そのまま空中で相手を掴んだ。
頭を下にした相手を、手足でガッチリとホールド。
更にそこから、ぐるぐると回転しだしたのだ。
「ファイアァァドライバァァァ!!!」
どこぉぉん!!
そのまま落下し、対戦相手をリングに叩きつけたのだ。
かなりの高さからの、回転パイルドライバー。
超人的な技を見せつけたのだ。
「くぁ……」
頭から強烈に叩きつけられた黄色レスラーは、そのまま倒れ込んでしまった。
ぐったりとなった相手の上に、更に覆いかぶさる赤レスラー。
その悪爆乳で相手を押さえつけて、身動きを取れなくしていく。
「大山の強烈な必殺技が炸裂ぅ!!
おいおい、いつの間にか超人レスラーになっちまったぜこの爆乳娘!!
クルミちゃん、動けないかぁ!?
カウント取るぜ、いいんだな!?」
実況の声が響き、会場から歓声が上がる。
期待に満ちた目が、リング上の2人の娘に注がれる。
「3!2!1!」
カウントが進んでいく。
そして……
「0!!
WINNER、大山ァァァ!!」
「おっしゃあああああ!!!!」
勝者は決まった。
炎のヒールレスラーは立ち上がり、歓喜の雄叫びを上げるのだった。
「ふぅん、あの子も『覇氣』を使えるのね。
まだまだ粗削りだけど、実戦で使えるくらいには仕上げてきたってとこかしら」
「なななな、なんですかアレは!?」
冷静に勝負を分析していたカグヤに、神無月は開いた口が塞がらない。
「あら、裏の戦いを見たのは初めて?
これくらいのことは日常茶飯事よ。
あの子は新人ちゃんだから、これでもまだまだ下の方よ」
「っていうか、あっちの人は大丈夫なんですか!?」
「大丈夫じゃない?
死んだりしてないから大丈夫よ。
もし本気で死にそうな攻撃だったら止めてたでしょうし」
リングに突っ伏している敗者の方を指差す神無月だが、カグヤはどこ吹く風である。
事実、負けたクルミはのそのそと上体を起こしたのだ。
「ったぁぁ……効いたぁ……
今年の新人はどうなってんだぁ…?」
「へへっ、アイツに置いてかれるわけにもいかねぇんでな」
雷が描かれたマスクを脱いだクルミは、素直に負けを認めた。
なんとか起き上がったクルミは大山と握手をかわし、健闘を称え合う。
そんな両者を実況が労った。
「いやー、熱いレスラー対決だったぜ!
さて、まずは賞金だな。
大山には68万2000燕が支払われるぜ!」
「うーん……アイツと比べるとまだまだって感じがするぜ」
「いや、ノービスでこれは普通にスゲー数字だからな?
アレが規格外なだけだからな?」
10万超えれば人気と言われるノービスクラスで、その6倍以上の賞金を稼いでいるのだ。
大山も十分、大型新人と言っていいレベルである。
例年ならば。
ただ、今年はその35倍というおかしな数字を叩き出している超新星が2人もいるのだ。
そんな奴の1人が身近にいるからこそ、大山の身も引き締まる。
「ともあれ、クルミに勝って賞金も60万越え!
間違いなくアドバンスクラスに昇格出来るだろうよ!
つか、アドバンスならこれくらいが普通だからな、いやマジで」
今日の試合は、大山のクラス昇格を賭けた試合でもあったのだ。
クルミもまたアドバンスクラスの女戦士。
上位クラスを下す実力は本物であると示した大山は、アドバンスクラスと認められるだろう。
最も、あの超新星と同じクラスだと言われても実感は湧かない。
あちらは戦績がまだ足りないだけで、実力だけなら更に上に行っているのだ。
まだまだ距離は遠いと感じながらも、追いかけるつもりでいる。
「はは、まだまだやる気満々って感じだね」
「おう。アタイはまだまだ強くなる!
アイツにリベンジするまで、アタイはやるぜぇ!!」
「「うおおおおおおおおっ!!」」
さすがはレスラーというべきか、マイクパフォーマンスで会場を沸かせる。
大山は腕を振りながら観客達にアピールしつつ、リングを降りていった。
「さーて、勝者への賞金授与が終わったところで……
お楽しみの時間だぜぇ?
クルミちゃんも、覚悟はいいかぁ?」
「……くぅ、久しぶりだなぁ、この感じ」
ニタニタと笑う実況に、悔しそうに項垂れるクルミ。
黒服に連れられてきた、5人の男がリングへと上がる。
そして、彼らはクルミの豊満な肉体へと手を伸ばしていくのだった。
「なななななな……!?」
神無月は、顔を真っ赤にして固まる。
視線の先は、リングの上で行われている淫らなショー。
「ふぁ……んああっ♡」
敗者となったクルミへ、さっきまで観客だった男達が手を伸ばす。
豊満な胸が、張りのある尻が、無遠慮な男達に触られていく。
クルミは抵抗することなく揉み揉みされ、甘い声を上げていく。
「こ、これは……!?」
「そりゃ、ヴァルキリーゲームズだもの。
負けたらペナルティ、エッチな罰ゲームを受けちゃうの♡」
神無月の反応が面白いのか、ニヤニヤと笑うカグヤ。
その神無月は、心中穏やかではない。
(悪!!悪!!悪ですよ!!
女を殴り合いの場に出して、負けたら辱める!!
女を食い物にする、とんでもない悪の組織ですよ!!)
まさか、こんなアダルティなゲームが実在していようとは!
しかも、この国では禁止されているはずの賭け事まで行われているではないか!
こんな悪の闘技場、正義の警察官として見過ごすわけにはいかない!
この場にいる全員取り締まる!
そのつもりで、笛を取り出そうとして…
「さて、何か用かな?
警察のおねーさん?」
がしっと肩を掴まれた。
振り返るといつの間にか、アイドル服を来たピンクのツインテール娘がいた。
華奢な身体からは想像できない力で掴まれて、肩はまったく動かせない。
更に、もう片方の肩は隣に座っていたカグヤが掴んでいた。
「とりあえず、裏で詳しく話を聞きましょーか?」
ニコニコと笑うツインテール娘・梨花の笑顔を見て、神無月は確信する。
自分は今、とんでもない悪の組織に乗り込んでいるのだ、と。




