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4-11:ライバルとして

さぁぁ…っとお湯が出る音を聞きながら、ぼんやりとしたままシャワーを浴びる。

少し強めの勢いがあるシャワーを身体に浴びながら、真樹の中で色々な感情が渦巻いていた。


引き分けたことによるペナルティ。

観客達に見られながらの、初めての辱め。


このゲームに参加する以上、いつかはこうなる可能性はあった。

分かってはいたはずだが、本当に今日はペナルティを受けてしまったんだと自覚する。


身体を隅々まで洗ってから、浴槽へと向かっていくと、そこには既に身体を洗い終え、ゆったりとしていた梨花がいた。


「よっ、お疲れ様♪」


今回一緒に戦ったパートナーは、すっかりいつものにこやかな顔だ。


「にひひ、どうだった?初めてのペナルティは?」

「う……」


梨花の言葉に顔を赤くする。


覚悟はしてたはずだ。

勝てなければ辱めを受けるゲームであると、分かった上でこれまで戦ってきたはずだ。

だが、自分の初めての経験が、まさかあんなことになるとは……


「うー……」

「にゃっはっは、顔真っ赤。

いやー、ウブだねー、初々しいねー。

よいぞよいぞ~♪」


親父感丸出しで梨花がからかう。


そこへ、2つの足音が近づいてきた。

同じようにこの大浴場へ来ている者達がいるのだ。


「「あ…」」


やってきたのは、同じようにシャワーを浴びていた沙耶と実琴。

今回戦った対戦相手にして、ライバル。

そして、一緒に初めてのペナルティを受けることになった人物達である。


目が合った真樹と沙耶は、思わず固まってしまう。


「おや、そっちもお風呂―?」

「ええ。お邪魔いたしますわ」


その横で、実琴は何の気もないように湯船に浸かり、梨花と話し始める。

先輩たちはとっくにオトナの階段を登ってしまっているのだ。

このくらいでいちいち動揺するような、初心な女ではない。


「「………………」」


だが、真樹達はそうもいかない。

お互い、顔を見て赤くして見合ってしまう。

なんせ…


「あらあらお嬢様方。いくら"初めて"のお相手だからって、そんなに見つめあってしまうなんてお熱いですわね☆」

「「んなぁっ!?」」


実琴の言葉に、真樹も沙耶も思わず声を上げてしまう。

何せ、ファーストキスをした相手である。

何も思わない方が無理だというものだ


「わ、わたくしはそんな、そのような想いを抱いたりなどしてませんわ!!

ただ、どうすればこの者を這いつくばらせられるか考えてただけですわ!!」

「わ、私だってそうだよっ!

どうすれば次は沙耶の攻撃を捌けるか考えてただけだよっ!!」

「はいはい、そういうことにしておきましょう。

さぁお嬢様、冷える前に浸かりましょう」


女性同士で、しかもさっきまで殴り合った相手と接吻するなど、これまでの自分達の常識では考えられなかったことで。

なんとか必死に否定しようと言い訳を考える新米達に、思わず微笑んでしまう実琴。

実に初々しい関係で羨ましい限りである。


ともあれ、実琴に促されるように沙耶も湯に浸かる。

バトル後のお楽しみ、4人でのお風呂会話の始まりである。


「それにしても沙耶ちゃん、いつの間にあんなに強くなったの?

それにあの戦い方、うちの空手だけじゃないよね?」


放っておくと梨花達が延々と自分達をからかいそうだったので、真樹は強引に格闘の話を切り出した。

実際、真樹はずっと気になっていたのだ。

かつて道場で共に修行した頃から、随分と時間が経っている。

その間に、沙耶はいったいどこでこれだけの力を身に着けてきたのか。


「ふふん、銀狐流マーシャルアーツですわ。

様々な流派の格闘技を取り入れて昇華させてきた、我が銀狐の一族秘伝のものです」


調子が戻ってきたのか、高飛車気味な口調で自慢する沙耶。

だが、そこには大きな影響力を持つ家の娘であるという、確かな自負があった。


銀狐グループはこの国でも長い歴史を持つ一族が率いている。

この国の表と裏、双方から動かしてきた一族の一つと言ってもいい。

表向きは様々な企業を率いる巨大グループとして、裏ではいくつもの秘密組織を擁するシンジケートとして。

そこで裏の側に属することを決めた沙耶は、一族と関わりのある格闘技を一通り叩き込まれてきたのだ。


真樹の父が開いていた道場には、グループ関係者の勧めで通っていたのである。

もっとも、覇氣などの裏の闘法については、道場から去った後に知ったのだが。


「真樹さんの御父上もそうでしたが、裏の武術というのは奥深いものでした。

わたくしにとっては、世界が広がる気分でしたわ」

「それは……ちょっと分かるかな。このゲームに来るとね」


表の世界では決して拝めない技の数々。

漫画や映画の世界だと思っていた、超人じみた人々の存在。


真樹と沙耶は、そんなトンデモ世界があることを知って委縮するどころか、むしろ一線を越えて足を踏み入れたのだ。

どちらも、己の夢、あるいは野望ともいえるものを秘めて。


今日の結果を見て、自分達はまだまだこの裏社会では新米だと痛感させられた。

だが、だからといって引く気も毛頭無いのだった。


「いやー、しかし結局決着はつかなかったねー」

「戦いもですが…賞金も、ですね」


ニマニマとする梨花と実琴。

その言葉に、思わず『う~ん……』と唸る後輩ズであった。




『そういや忘れてたぜ。

今回の賞金だが、両チームの賭け金合計を2で割って……

平均、350万6700燕!

すげーだろ、350万の女子校生にパワーアップだぜ!』


ペナルティが終わったところで、思い出したように実況が賞金について話し出したのだ。

確かにいつもは、両者に賭けられた金額を言うのが通例だった。


実況の煽りに、思わず真樹と沙耶も目を合わせたものである。

元々人気があった先輩たちの分を加えたとしても、今回の賭け金額は異常に高かったのだ。


確かに、真樹と沙耶のことを狙っていた者はたくさんいたはずだ。

しかし、ただでさえ300人規模のコロシアムが満員の中で、どれだけの者達が大金を賭けてきたのか。

女子校生が背負うには随分と大きな金額が肩書になったものである。


しかし、賞金の平均ということは、賭けられた金額には差があるはずで。

つまり、賭けられた金額のどっちかは多いわけで。


『それで、わたくしと真樹さん、結局どっちが多かったんでしょう?』


沙耶は少し前のめり気味に聞いてみた。

ここまでナンバー2扱いされてきたのだ、せめて賭け金額だけでも上を行きたいのだろう。

だが…


『おぅ、それなんだがな……言わねー方が面白そうだな!!

ま、どっちも同じくらい人気だったとだけ言っておく!!』

『『ちょっと!!』』


実況の答えに、思わず真樹も沙耶も突っ込んでしまった。


どっちが人気かを図る上で、賞金額は分かりやすい評価点。

だが、結局どっちが上なのか、教えない方が面白そうだと実況は判断したのだった。

残念ながら2人への正確な賭け金額は教えてもらえそうにない。


『ただまぁ、こんだけの金額が稼げるんだ。

まず間違いなく、どっちもアドバンスクラスに上がれるんじゃねぇか?

これからも猫耳闘士と月光王女の活躍が見れるのを、色々な意味で期待してるぜ?』




「にひひ、ヤミト君もしっかりカメラを構えてたし、そのうち真樹ちゃん達もV.G.Hubで人気になっちゃうかもね~」

「まぁ、あの男のことですから。

あの手この手で盛り上げるのでしょうけどね」


梨花の言葉に、『うぐぅ……』と唸る真樹と沙耶。

今日の試合の発端になっただけでなく、今日のペナルティでとんでもない指示を出してきた青年。

おまけにペナルティの間、しっかりとビデオカメラを構えていた男である。

イケメンには違いないが、女の子を辱めることに長けた男であるのも間違いなかった。


顔が良いからと油断すると酷い目に遭うという、ある意味貴重な経験をさせてもらった。

今後は色々な意味で警戒しないといけないだろう。


実際、梨花と実琴の予想通り、真樹と沙耶のペナルティの動画が凄まじい勢いで伸びていき、2人はヴァルキリーゲームズ界隈で一躍有名人となってしまうのだが。

それを本人たちが知るのは、もう少し先の話である。


「まーでも、どっちもまだまだ女戦士ヴァルキリーを続ける気があるみたいでよかったよ」

「うふふ、ワタクシ達が見出した子ですもの。

簡単に脱落されたら、面白くないですわ」


梨花達が満足そうに言うのを聞いて、真樹と沙耶はまた正面から向き合っていた。

湯船の温かさで顔は赤くなってるものの、さっきまで感じていた情とは違う気持ちが沸いていた。


確かに初めてのペナルティを一緒に受けて、どこか連帯感すら感じていた。

だがそれでも、自分達はお互いに戦う相手であり続けるに違いない。

梨花の言う通り、このまま舞台を降りる気はさらさらなかった。


「まだまだ頑張ろうね、沙耶ちゃん!今度は絶対負けないんだから!」

「ふん!その言葉、そっくりそのまま返しますわ!」


そう言って、お互いにニッと笑い合うのだった。


試合は引き分けとはいえ、ゲームとしては負けともいえる。

初めての敗北で、お互い色んなものを失った。


だが、同時に確かに得られたものがある。

淫らで無慈悲なこの闘技場に共に挑む、ライバルという存在を。




長湯するとのぼせそうだからと、真樹と沙耶が一足早く浴場から出て行ったあと。


「いやー、いいね~。ライバルってのは♪」

「これからどうなるか、見物ですわね」


残った梨花と実琴も、ライバル同士として話に花を咲かせていた。

その後も久々の邂逅を懐かしむように雑談していたが、2人は徐々に運営としての顔へと移っていく。


「……で、あの子達、どうなると思う?」

「まだ分かりませんわね。

昇り詰めるか、それとも堕ちるか……どちらにもなりえるでしょう」

「まー、ここからが本当のスタートラインってことかね~」


ヴァルキリーゲームズの酸いも甘いも知っている先輩たちは、後輩達の行く末を憂う。

このゲームは決して楽な道ではないと、文字通り身を以て知っている2人である。


それでもせめて、若い子には自分達の信じる道を進んでほしいと願うのだった。


「さーて、アドバンスに上がるんなら、また新たな舞台を用意しないとね~♪」


人気急上昇の新米たちの戦いを更に盛り上げるべく、また他の新米たちも輝ける場所を見つけるべく。

梨花は先々のプランを頭で練り始めるのだった。


というわけで、4章終了です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

初めてのペナルティを経験した真樹達は、この後どんな道を歩むことになるのか。

引き続きお楽しみいただければ幸いです。


4章が長くなっちゃったので、次は少し軽めにやりたいですね。

5章は警察介入…?の予定。お楽しみに。


あと、トップページで章分けを行いました。

なんとなく、自分の整理用に。

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