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4-8:六花の如く

ギラギラとした瞳で睨み合いながらリング上で向き合う先輩2人。

お互いに余裕を持った笑みを見せているものの、空気が震えるほどの闘志をむき出しにしていた。

久しぶりの対決に、思わず心が躍ってしまうのだ。


「うふふ。

パンチラ上等、服裂け上等。

戦いに恥じらいなど不要!

…などと言っていたアナタが、随分と可愛らしい格好をするようになりましたわね。

だいぶ恥じらいを覚えたようで」

「アンタこそ笑顔が似合うようになったじゃない、実琴ちゃん。

前はいかにも無表情な感じで、アタシはあんさつしゃーって感じだったのにね~」


今の互いの姿は、お互い過去に戦った時とは大きく異なる。

纏う雰囲気も、衣装も、かつてコロシアムを沸かせた時とは違う。


「くすくす、色々と経験もすれば少しは変わりますわ」

「色々と、ね」


だが、それはこのコロシアムで様々な経験を積んだから。

過酷なゲームで生き残ってきたという事実。

そして、そこで戦い続けるだけの闘志が消えていないという現実。


互いにニヤリと笑う梨花と実琴。

まだお互いにライバルでいられるという現実が、互いの心に火をつける。

この火を燃やさずに女戦士ヴァルキリーなどやらいでか。



直後……




びゅんっ!!



風が舞う。



地下だというのに、確かに起きた風。

そして一瞬の後、梨花と実琴は、リングの中央で組み合っていた。



リングの外にいた真樹と沙耶は驚愕する。

驚いたのは、その速さ。

まるで、瞬間移動でもしたかのような2人の速さ。


梨花が一瞬でリング中央に移動し、実琴の左に移動して手刀を食らわせようとしたのだ。

対する実琴も、一瞬のうちに中央に移動してそれを受け止めていた。


「うふふふふふ♡」

「あっはははは☆」


笑う2人は、次々と瞬間移動しまくる。

左端にいたかと思えば、次の瞬間には右端へ。

そのたびに体勢が変わる2人。


あまりにも速すぎる移動をしながら戦っている。

その事態を理解するのに、時間が掛かった観客は多いだろう。


時々、一瞬だけ止まる時がある。


梨花が蹴りで足を上げたと思えば、その足を手で絡め取る実琴。

実琴が首筋に向かって手を伸ばしてると思えば、逆にその腕を掴む梨花。

まるで止め絵のように組み合った瞬間があったと思えば、次の一瞬では別の場所でまた絡み合っている。


移動するたびに風が舞い、リングはさながら嵐の中にいるようだ。

先輩二人は今まさに、リングに嵐を巻き起こしていたのだった。


そんな中、観客達の中には、だんだんと2人の速さに慣れてきた者もいた。

そこで気付くのだ。

超人的な速さでのやり合いの中でも、やはり2人は女戦士ヴァルキリーらしい戦い方をしていた。


実琴の手刀が綺麗に放たれ、梨花の肩に掠る。

ぴっと肩から衣装がはだけ、レモンイエローの上の下着がはだけてしまう。

だが、その程度では梨花は止まらない。


梨花の蹴りがまた、実琴のスカートに引っかかった。

鋭い蹴りはそのままスカートを少し破っていき、実琴の紺の下着がチラ見えしてしまう。

だが、その程度では実琴は止まらない。


互いに辱めようとする戦い方、そしてそれをまるで気にしない精神力との戦いだった。


「っはは、いいじゃんいいじゃん♪」

「まだまだ、終わりませんわ!」


2人の動きが更に速くなる。

ひゅっひゅっひゅっと動く2人の姿が、だんだんとうっすらとなっていく。


観客達も目を見開く。

残像が見えるのだ。

速すぎた2人のスピードは、ついに観客達の目には何人もの梨花と実琴がリングに出現しているように見えるほどになっていた。

だが、それだけでない。



「……あれ、なんか、空飛んでない…?」



観客の誰かがつぶやいた。


2人が互いに組合って、一瞬だけ止まる瞬間がある。

その様子から何が起きているのか、必死で推測する観客達であったが。


梨花と実琴が、空中で殴り合っている。

そうとしか表現できなかった。


次々と出現する2人の分身は、リング上だけでなく空中にも現れだしたのだ。

3次元的に展開される戦いを、呆然と見つめる観客達。


互いの攻撃は掠る様にヒットし、2人の衣装が少しずつ壊れていく。

まるで花びらでも舞っているかのように、破けた衣装の欠片がリングの上に散っていく。

だが、2人はそんなものを気にしないで、戦いを続けていた。

観客達に分かるのは、超人二人が戦っていることと、やり合うたびに段々エロい姿になっていっているということだけだろう。


一方、リングの外にいた真樹と沙耶は、必死になって梨花と実琴の動きを追っていた。

武術家としてなんとか2人の速度を捉えてることは出来ている。

超高速で展開される戦いを、なんとか目で追うことは出来ていた。


だが、それでも理解が追いつかない。



梨花と実琴は、どう見ても空中を蹴っているようにしか見えないのだ。



何もない空中で空気を蹴り飛び上がる、まさに空中ジャンプ。

猛スピードで展開される中で、空を足場にして多次元的に戦う2人。


「……もしかして、これも覇氣の放出で?」


真樹はようやく、その技の正体に気が付いた。

自分の松葉破と同じ、覇氣の放出。

体内で作られたエネルギーを、身体の外にも影響を与えられるようにする覇氣の秘奥義。


梨花たちはそれを脚で使っている。

空気を蹴る様に放つことで、その反動で移動しているのだ。

それも、何発も何発も。


有り余る体力を惜しみなく使い、空をも戦いの舞台にしてしまう。


「梨花さん……凄い」


真樹は本気で驚いていた。

真樹はまだ、この領域にいけていない。


初めて見せる梨花の本気モードは、想像以上に自分の遥か先に行っていたのだ。



「なるほどなるほど、さすがですわ。

でも、ここまでです」


突如、実琴の動きが止まった。

リング端のポールの上に着地して、体勢を低くする。

手もポールについて、トカゲを思わせる低姿勢へ。

はだけた衣装でこの姿勢では大変に欲情をそそる格好なのであるが、実琴は一切意に介さない。

ギラリと獲物を狙う姿は、獰猛なワニのようにも、狡猾な蛇のようにも見えた。

その異様な迫力に、観客達でさえ固唾を飲んで見守ってしまう。


蛇鋭千寿じゃえいせんじゅ!!」


空中にいた梨花に向かって、再び飛び出した実琴。

その途中で実琴は突如、空中で分身した。


「おわっと!?」


空中でいきなり敵の数が増えたことに、一瞬戸惑った梨花。

その一瞬が命取りだった。

たくさんの実琴が、一斉に空を蹴り迫ってくる。


「捕まえましたわ」

「ぐっ……!?」


たくさんの残像の手が迫る中、本物の実琴の手はいつの間にか、梨花の首をしっかりと掴んでいた。

そのままリングへ急降下!

梨花は実琴に首を掴まれたまま、リングに叩きつけられてしまう。


「かはっ……!」


どこぉぉんと頭から叩きつけられては、いかに覇気で身体を強化していようと、無傷ではいられまい。


「実琴の技が決まった!

このまま抑えつけられたら、カウント取るぞ!」

「梨花さん!!」


今のは間違いなく大ダメージが入ったろう。

真樹は思わず声を上げてしまう。


「……くっ」


リング中央で首を抑えつけられたまま、仰向けに倒れていた梨花。

自分の首を絞める実琴が乗っかったままだ。

紛れもなくピンチ。

いつものビギナークラスの試験なら、ここでさっさとギブアップするだろう。


だが、梨花の目に入った真樹の姿が、それを思いとどまらせる。

今の自分はアドバンスクラスの女戦士ヴァルキリーなのだと思い起こさせる。


(いやー、ヤバいね。

後輩にあんな目ぇされちゃ、先輩としてカッコつかないじゃんね!)


梨花の目は、まだ死んでいない。

自分の首を掴む実琴の腕を、両手で掴み返す!


「くぁっ……!」


今度は実琴の方が思わず声を上げた。

覇氣を込めた梨花の両手の握りは、想像以上に力が入っていたのだ。

ぎしぎしと音を立てていく腕に、たまらず実琴も首から手を離してしまった。

その力の緩みを見逃さず、梨花は実琴を蹴り上げて脱出する。

実琴も無理に押さえることはせず、一度距離を取った。


「相変わらずの馬鹿力、その身体のどこにこれだけあるのか」

「げほげほっ……いやぁ、アタシよりパワーある子はいくらでもいるでしょ」


きっちりと手跡がついてしまった腕をぷらぷらと振る実琴に対し、起き上がった梨花は視線だけで訴える。

うちの後輩は、アタシよりやべーよ、と。


「んじゃ、アタシも超必殺技、見せちゃおうかな…☆」


今度は梨花が攻める番だ。

ゆらりと身体を揺らしていく梨花。

そして……



梨花の姿が消えた。



「これは……くっ!!」


次の瞬間には、実琴の身体が揺れた。

左肩を殴られたようだ。

だが、その姿がまったく見えなかった。


「速い…!」


ここまで互角の速さで戦ってきた梨花と実琴。

だが、そんな実琴ですら目で追えなくなるほど、更に速くなる梨花。


「くっ……っ……」


見渡すと、梨花の分身がリング上に多数。

お返しとばかりに次々と向かってくる。


実琴はそれらをいなしていくが、すぐに気付いた。

これらはすべて残像。

梨花の本体がどこにもいないことに。


「……しまった!?」


梨花がどこにいるのか気付いた実琴は、すぐに上を向いた。



ここは地下施設。

当然、頭上には天井がある。

実琴の真上には、天井に足をついている梨花がいたのだ。



天井を蹴り、勢いよく落下してくる梨花は身体に回転を加えていく。

回転と共にふわりと広がるスカートが、まるで花のように見えた。


六花彗星りっかすいせい!!」


分身で目くらました後、頭上から来る大技。

最大スピードで、回転を加えた垂直急降下攻撃による拳。

梨花の最大の必殺技が、実琴の身体を捉えていた。


「まだまだぁ!!」


実琴はあえて、それを迎え撃った。

落ちてくる梨花に向かって抜き手を放つ!


実琴の抜き手は、確かに梨花の頬を掠った。

だが、梨花は回転で実琴の攻撃を逸らしながら、拳を身体に叩き込む。


「ぐはっ!?」

「だああああああっ!!!」


どこぉぉんっと音を立てて、リングが揺れる。

今度は梨花の大技が決まった。

梨花の拳で、実琴を叩きつける格好になったのだ。


「実琴!?」


今度は沙耶が叫ぶ番だった。


僅かの間をおいて、観客達はどうなったかを理解する。

リングの上には実琴が倒れ込んでおり、すぐ傍に肩で息をする梨花が立っている。

それが意味することを理解する。


「ああっと、梨花の必殺技が直撃!

実琴立てないか!?

立てなければカウントを取るぞ!?」


実琴がダウン。

その事実に、観客達の期待が高まっていく。


「3!2!1!」

「ちょっと、実琴!?」


沙耶が焦りの声を出す中、無慈悲にカウントは進んでいく。

その時、沙耶は確かに見た。


(申し訳ありません、お嬢様……)


実琴の口が、そう動いたのを。


「0!

WINNER、☆リリカ☆ーーー!!!

なんとなんと、最弱アイドルが月影従者シャドウメイドを下したー!!」


実況が高らかに叫ぶ。

先輩対決は梨花の勝利に終わったのだ。




…と、思われたが。



「いやぁ……それはちと……違うかなぁ……」


実琴を見下ろしていた梨花がふらついた。

ぼんやりとした表情で、チラリと真樹の方を向く。


(ごめんねぇ、実琴ちゃんとの戦いで、マジで使い切っちゃったわ。

せっかく久しぶりに熱くなれたのに、引き分けが精一杯とはね~……

ま、あとは頑張ってちょ……♪)


そのまま梨花も倒れ込んでしまったのだ。

実琴に重なる様に倒れ込む梨花。


「おわっとぉ、梨花も倒れたぞ!?

さっきのダメージが効いてきたのか!?

このまま起きなきゃカウント取るぞ!!」

「梨花さん!?」


真樹の声も聞こえない様子で、ぐったりと動かない梨花。


「3!2!1!」


起き上がる気配はまったくない。

そのままカウントは進んでいき……


「0!

な、なんと梨花までもノックアウト!!

先輩組が、ダブルノックアウトで脱落になります!!」


この結果に、観客からも歓声が上がる。

リング中央に倒れ込むのは、下着も丸見えになるほどボロボロの衣装になった2人。

仲良く気を失ってしまった先輩組は、ここで脱落となったのだ。


スタッフの黒服達がリングに上がり、2人を運び出した。

後輩達はそれぞれの先輩の元へと駆け寄っていく。


「くっ……」


担架で運ばれていく梨花を見て、真樹は直感で感じた。

彼女は手加減なんてしていない、と。

引き分けに持ち込んだら手を抜くと言ってはいたが、さっきまでの彼女は間違いなく本気だった。

本気で戦って、ようやく引き分けたのだ。

本気で、もう立ち上がる気力が無いのだ。


それは実琴の方も同じなのだろう。

沙耶も担架の上の実琴を一瞥した後、すぐにリングへと向かっていった。

彼女もまた、本気で戦った結果倒れたのだと理解したのだ。



先輩たちは本気で戦った。

ならば、自分達がすべきことは……


場外で視線をかわしあった真樹と沙耶は、ほとんど無言のままリングへと上がっていく。


「さぁさぁ、先輩たちの意志を引き継いで、大型新人対決も大詰めになるぞ!!」



向き合う後輩2人。

2人の想いはどちらも同じ。



『負けたくない』。



同じ想いを抱えた新米2人が、ついにぶつかるのだった。


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