4-4:お嬢様の戦う理由
「にゃるほどね、王坂にも大型新人が現れたって噂は聞いてたけど、この子のことだったのね」
「つか、ここまであのリムジンで来たのか……?」
大山が少しズレた感想を持った横で、梨花は納得するように頷く。
今年はヴァルキリーゲームズでも、例年にないほど新人が多数参戦しており、しかも粒揃いだという話だ。
現に、ミト・コロシアムでは真樹と大山という大型新人がいる。
他のコロシアムに、彼女らとも張り合える新人がいないとは限らなかったのだ。
中でも、王坂に現れた新人女戦士の噂は梨花も耳にしていた。
突如現れて、話題を掻っ攫っていった若い娘がいると。
メイドの言葉を信じるのならば、この沙耶お嬢様は真樹とほぼ同格の人気を誇っていることになる。
確かに容姿の面でいえば、真樹とは雰囲気が違えど、美少女と言って差し支えない。
キリっとした気の強そうな女子校生、しかもかなりのお嬢様。
『手を出したい』男は多くいるだろうなというのは予想できた。
「さ、沙耶ちゃん!
ヴァルキリーゲームズがどういうとこか分かってるの!?
結構偉い立場なんでしょ、沙耶ちゃんって!」
「もちろん承知ですわ。
ちなみに、貴女と同じくまだ無敗ですわよ」
旧友が女戦士と知って、さすがの真樹も慌てる。
しかし、沙耶の方は悠々と返すのだった。
あのゲームの敗者がどうなるのか、それを分かった上で挑んでいるのだと。
言わば上級国民と言える彼女に対しても容赦がない、そんなことは分かっているのだと。
その上で、未だに負けたことがないという。
彼女もまた、裏社会で戦っていくだけの実力を示してきたのだ。
「ご心配なく、真樹様。
お嬢様にも、お嬢様なりの覚悟があってヴァルキリーゲームズに挑んでおります。
決して、金持ちお嬢様の道楽でやっているわけではございません」
「当然ですわっ!
あらゆる勝負において勝者たるのが銀狐の者である証ですもの!」
真樹の動揺を見かねたのか、メイドの方が補足する。
国を動かすほどの大企業グループ。
その跡取りである以上、ある種の帝王学も叩き込まれているのだろう。
それが、裏社会であるヴァルキリーゲームズにおいても通用するのかは分からない。
ただ、沙耶自身は女戦士であることに、かなり自信があるようだった。
が……
「政治や経済では姉上方には叶いませんから、裏社会から銀狐を操ろうという薄っぺらい自尊心の表れでございますので」
「ちょっと!!人聞きの悪い言い方をしないでください!!」
あっという間に威厳が崩れた。
このメイドさんは、主人であるお嬢様を弄るのが得意技らしい。
その姿に毒気を抜かれたのか、思わず大山が言葉に出す。
「国を代表する巨大グループのお嬢様が、女戦士なんかやってんのか」
正直なところ、素直に驚いたというのが大山の本音であった。
あのゲームに集まる女性というのは、自分達のような格闘好きか、一攫千金を狙っている者、あるいは色欲に飢えた人種ばかりと思っていたからだ。
まさしくお嬢様という沙耶には、そのいずれにも当てはまらないように思えた。
大山の疑問は、真樹や梨花、ヤミトらも同じように思ったのだろう。
彼らの視線を感じた沙耶は、声のトーンを落として話を続ける。
「……こほん。
我が銀狐グループは、戦前の銀狐財閥を母体とする組織です。
そして現在、裏社会と呼ばれる秘密裏な組織の数々は、銀狐を含めたいくつもの財閥が出資して出来たもの。
ヴァルキリーゲームズは、わたくし達とも浅からぬ縁があるのです」
沙耶の言葉を聞いて、真樹と大山は梨花へと顔を向けた。
実際に運営に携わっている梨花ならば、その当たりの事情に詳しそうだったからだ。
「確かにうちみたいなゲームなら、この国のお偉いさん方とは大体付き合いがあると思っていいんじゃないかな。
でないと、国の各地に秘密の闘技場なんて作れないでしょ。
もちろん、大っぴらには出来ないけどね~」
肩をすくめて解説する梨花の態度は、沙耶の言葉を肯定するようだった。
このゲームの裏には、国内でも多大な影響を持つグループが関わっている。
それも複数。
改めて、裏社会というものの闇の深さを垣間見た気がした真樹達。
「わたくしは銀狐に関わる者として、今後グループ内でも影響力を持っていかなくてはなりません。
それは表社会だけでなく、ヴァルキリーゲームズをはじめとした裏社会も含めます。
幸いというか、表向きのグループの運営には、経営に強い姉上方がおります。
ならばわたくしは、裏社会の側で影響のある人間になろうと考えたのです」
なんだかキナ臭い話になってきた。
あのゲームは、単にお金持ち達が女の身体目当てで賭けるためだけに来てるわけじゃない。
更にその裏で、様々な駆け引きが行われている。
その一端が見え隠れして、目を丸くする真樹と大山。
「いま、裏社会で最も活性化しているのがヴァルキリーゲームズなのです。
多くの新人が現れ、まさしく群雄割拠の時代。
欲望の名のもとに、大金が平気で動く興行です。
ここでお金を手に入れたいと思うのは、何も女戦士に限った話ではないのですよ」
「ま、運営やる以上お金が絡むからねー。
そりゃ、お金を一番持ってるところが、一番思い通りに社会を動かせるわな~」
沙耶の言葉に梨花が補足を入れる。
ヴァルキリーゲームズの変わった特徴は、リングに上がった勝者には賭けられた賞金が払われ、負けた者に賭けられたお金は運営に回るというシステム。
賭けをしている観客側は、どうやってもお金を失うように出来ているのだ。
もちろん、女の子を弄ぶペナルティの権利という景品があるから成立するのだが、これだって確実に手に入るものではない。
それに、いくら絶世の美女を用意できたとしても、観客には好みというものがあり、その価値は大きく左右されるだろう。
しかし、国内に多大な影響力を持つお嬢様。
そのネームバリューがついたらどうか。
そんなお嬢様と、お近づきになるきっかけになるとしたらどうか。
ペナルティというものに、ただ女の子を弄ぶ以上の価値がついたらどうなるか。
世のお金持ち達は考えるのだ。
このゲームを通して、新たな儲けを手にすることは出来ないか、と。
表社会にも影響力を持つ力やコネクションを手に入れられないか、と。
それは、観客側に限った話ではない。
出場する女戦士とて、その例外ではない。
トップクラスともなれば、日々億単位の額が動くこのゲーム。
表社会に迷惑を掛けないという原則があるとしても、ここに出場することで社会に出る影響はゼロではない。
やりようによっては、この国のパワーバランスをひっくり返す可能性もゼロではない。
「ヴァルキリーゲームズは様々な思惑が動く、国内勢力の縮図みたいになっているのですよ。
この状況で影響力のある人間になるためには、ヴァルキリーゲームズで勝ち上がるのが最も手っ取り早い。
幸い、わたくしは格闘技についても自信ありますしね」
「あ……」
真樹はふと、ある可能性に思い至った。
沙耶の自信の源がどこにあるのか。
彼女は同門、共に修行した間柄。
ありえないと思いつつも、その可能性は十分に考えられた。
沙耶が、何を習得しているのか。
「ヤミトさんとは以前から懇意にさせていただいていたので、今回この場所を教えていただいたのです。
まさか直接、真樹さん達とお会いできるとは思いませんでしたが」
そうは言っているが、やはり沙耶は真樹に会いに来たのだろう。
いずれ避けられない相手であると確信して。
ついでに、このヤミトという男も改めてお金持ちなんだなと再確認できた。
根っからのお嬢様である沙耶と繋がりがあるというのだ、お金持ち同士の何らかの縁があるのだろうと予想できた。
「やはり、来てみてよかったですわ。
わたくしにはわたくしの、あのゲームで勝ち上がる目的がある。
今日はその宣戦布告をしにきた、とでも思っていただければ」
真っ直ぐに真樹を見据える沙耶。
その姿に、真樹は少し身震いしてしまう。
沙耶は、大企業のお嬢さまという立場を背負って戦っている。
その身体には、ただのお嬢様、ただの女子校生以上の価値を背負っている。
それでも、負けたら淫らな罰ゲームが待つこのゲームに立っている。
覚悟を以て、ヴァルキリーゲームズに挑んでいるのだ。
果たして自分は、彼女の覚悟よりも強い覚悟を持っているだろうか。
ただ単に、最強の座を欲している自分は、彼女の覚悟に勝てるだろうか。
「あら、どうしました真樹さん。
まさか怖気づいた、とは言いませんよね?」
「誰が!…はっ」
沙耶の言葉に、むっとなって相手を見て気付く。
すっと沙耶の手が動いたのを見て、真樹も同じく手を動かした。
2人はお互いに腕を振るう。
……ぱぁん!
空中で何かが弾けたような音がして、真樹と沙耶の間で突風が吹き荒れる。
「覇氣!?」
ぶわっと風が吹く中で、慌ててスカートを抑えながらも、大山は真樹達の方を見やる。
何が起こったのか、今の大山なら分かる。
覇氣の放出によるエネルギー弾が互いに放たれ、空中でぶつかって破裂した。
真樹が片手で松葉破を撃つと同時に、沙耶も何か技を飛ばしたのだ。
「沙耶ちゃん、いつの間に覇氣を…」
「貴女に出来て、わたくしに出来ないことなどありませんわ」
道場秘伝の、表には出ていない裏の闘法。
どうやって調べたのかは分からないが、いつの間にか沙耶は覇氣を習得していた。
やはりというべきか、沙耶もまた真樹と同等の『覇氣の放出』が出来る覇氣使いだったのだ。
「ふふ、やはり貴女はわたくしにとって最大の壁となりそうですわね」
「お互い様だよ。まさか、このゲームで再会するなんてね」
お互い、覇氣使いとして修行を怠っていなかったことは、今の一発で把握できた。
ニッと笑う沙耶に、むっとなる真樹。
それぞれに戦う理由はあれど、いま感じている気持ちは一緒だった。
『負けたくない』。
姉妹弟子であり、ライバル。
このヴァルキリーゲームズで勝ち上がるにあたって、決して避けることが出来ない相手。
そんな関係であると再確認したのだ。
「いやー、それならいっそ正式にぶつかってみたらどうだい?」
すると、ここまで様子を見守っていたヤミトが、にこやかな笑顔を浮かべて提案する。
まるで見計らったかのように。
「王坂からの刺客!大型新人同士の対決!
どうかな、梨花ちゃん。
真樹ちゃんのアドバンスクラス昇格を盛り上げたいんでしょ?」
「むっ……確かに、今一番話題が作れるカードかも」
ヤミトの提案に、梨花は目をキラリと輝かせる。
今、ミト・コロシアムとして欲しいのは、真樹の強さを盛り上げる話題性だ。
その点、対戦相手としてはこの上ない条件である。
元々同門で顔見知りであり、どちらも覇氣使い。
おまけに戦績も人気もほぼ互角。
まさに今、欲していた相手ではある。
「あーでも、昇格戦なら上位クラスの人を相手にしないと」
だが、それだけでは足りない。
クラス昇格のためのルールとして、上位クラスの人を相手にしないといけない。
上位クラスで戦っていけることを示さなくてはいけないのだ。
だが、ヤミトはこの点についてもアイディアを巡らせていた。
「いるじゃない、上位クラスがさ」
ヤミトが視線を動かす。
その先にいるのは、沙耶の隣でにこやかに佇むメイドさん。
「うげぇ……」
梨花は露骨に嫌な顔をする。
ヤミトの狙いが分かったからだ。
「あら実琴。貴女はあちらの方と知り合いですの?」
「ええ、それはもう。デビュー当時、ワタクシと張り合ったライバルでございますわ」
実琴と呼ばれたメイドは、ニコニコ顔で梨花を見る。
「久しぶりに、貴女の本気を見せてみてはどうでしょう?
うちのお嬢様のためにも、ぜひお願いしますわ」
「うぐぅ……」
実琴の提案に、梨花は苦虫を噛んだように唸る。
「なんだか、話が見えないんだが」
事情が分からず蚊帳の外だった大山がぼやく。
それを聞いたヤミトは、すかさず説明。
「あのメイドさんはね、アドバンスの更に上、エキスパートクラスに属してる女戦士なんだよ。
そして、そんな彼女と張り合える梨花ちゃんも、実はエキスパートクラスにいけるほどの実力者なんだよね。
まぁ、本人はずっと手抜きしてて、ビギナークラスの門番やってたりするけど。
それでも、正式にはアドバンスクラスじゃなかったっけ?」
それを聞いて、うぐぅと唸りながら頭を抱える梨花。
そうなのだ。
コロシアム最弱というイメージがついている梨花であるが、ビギナークラスの門番役はあくまで運営としての仕事。
彼女の正式な所属クラスは、アドバンスクラスなのである。
もっとも、その肩書すら忘れてる観客が多いのだが。
しかし、梨花がノービスクラスよりも上の人間ならば、すべて話は変わってくる。
「…ようやく話が見えてきた」
「なるほど、面白そうですわね」
真樹と沙耶も、ヤミトの言いたいことを察した。
つまり彼が言いたいことは……
「真樹ちゃん&梨花ちゃん VS 沙耶ちゃん&実琴ちゃん!
真樹ちゃんと沙耶ちゃんのクラス昇格を賭けて、コロシアムの先輩後輩で組んだタッグマッチを提案するよ!」




