3-7:覇氣使い部
「いやー、それにしても真樹ちゃん。
もしやと思ったけど覇氣使い、それも放出までイケる使い手だったとはねぇ」
大山をひとしきりからかって満足したのか、梨花は真樹のことへと話題を変えた。
「こりゃ、ノービスクラスじゃ相手にならないかもなぁ~。
下手したら次のアドバンスクラスでも、いいとこまで一気に行けちゃうかも?」
先の試合で真樹が見せた、松葉破という技。
覇氣使いというだけでも珍しいというのに、その中でも更に修練を積んだ者にしか会得出来ない技を習得している。
その事実が、真樹が単なるルーキーに留まらない実力を持っていることを示していた。
「でも、瑠璃亜さんとかにはまだ敵わないですよ」
「そりゃそうでしょー。
エキスパートとかマスタークラスとかになると、それくらいのことは当たり前って人がゴロゴロいるからね~」
「!」
真樹の謙遜に、梨花は笑って答える。
覇氣だけじゃない。
表の格闘技には出てこない、世間には秘匿された特殊な技の使い手達。
そういった、世に出てこない技を持つ者達が集まってくるのが、裏社会。
まるで隠すことへの鬱憤を晴らすかのように、行き場を求めてくる者達が集うのが地下闘技場というわけだ。
この先も、未知の戦い方をする選手もいるだろう。
それを知った真樹の顔が若干緩んだことを、梨花は見逃さなかった。
強い人と戦えるという期待、自らを高めることが出来る興奮。
それが表情に出ていた。
やはり彼女は戦士なのだろう。
およそ『女の子』らしくないといえるが、そんな女を歓迎するのがヴァルキリーゲームズというものだ。
「なぁ、覇氣ってどういうものなんだ?」
試合の形勢を大きく変えたあの技に、大山も興味を示していた。
大山にとっては初めて体験した、裏の戦闘技術。
この細い手足のどこに、あれだけの力が込められていたのか、興味は尽きなかった。
「うーん、なんて説明したらいいか……
自分の中に力を巡らせてるっていうか。
命を燃やしてる感じっていうか?」
なんだか要領を得ない真樹の答えだが、真樹自身も若干困っていた。
父から、覇氣とは命の力という表現で教えてもらったのだが、改めて人に説明するとなると難しい。
覇氣の基本は、自らの中にあるエネルギーを身体に巡らせ、身体を強化するものだ。
中国武術には『気功』というものがあるが、それをより実戦的にしたもの、と漠然と考えていた。
彼女は幼い頃から叩き込まれた甲斐あって、10にも満たない歳の頃から、日常的に覇氣を操れるようになっていたのだ。
身体のどこかに覇氣を使うことは、感覚的にすぐ出来てしまうのである。
「アタイでも、その覇氣ってのは使えるのか?」
「訓練次第じゃな~い?
普通のスポーツとは一つ次元を超えた特訓になるだろうけど」
大山の目が真剣になっているのを見て、梨花が答える。
だが、その答え方を見て、真樹は梨花に対して1つの確信をぶつけた。
「梨花さんも、もしかしなくても覇氣が使えますよね?」
「えっ、最弱キャラじゃなかったのか?」
「あっ!?コラ、勝手に教えちゃダメだぞ☆」
ジト目で聞く真樹の言葉に梨花はおどけてみせ、大山は驚く。
ビギナークラスで対戦した時に手加減してるのは分かったが、彼女もまた覇氣を使えるらしい。
どのレベルかまでは分からないところが、彼女の底知れなさを感じさせる。
「頼む、梨花先輩!
アタイを覇氣使いとも戦えるぐらい鍛えて欲しい!」
「ほほぅ?」
大山は浴場で、土下座かと思うくらい頭を下げた。
その行動に、きらりと目が輝く梨花。
真樹と殴り合えた以上、大山の身体は常人以上の頑丈さを持つ。
体得できる素質はありそうだ。
しかし、覇氣は紛れもなく裏の技術。
生半可な特訓では体得できないだろう。
スポーツでオリンピックを目指すとか、そんな次元じゃない。
もっと本格的で実戦的な、まさしく人を超えるための『修行』になるだろう。
「だ~いぶ大変だと思うけど、本気?」
「…アタイはもっと強くなりたい。
このまま負けっぱなしでいられるか!」
気合に満ちた目で返す大山に、真樹も梨花も見つめ返す。
そこには確かに、強さを求める『女の覚悟』を感じるのだった。
「うーん……まぁ触りを教えるくらいならいいよ。
ただし、条件がある!」
「なんだ?」
ぽかんとする大山に、梨花はゆっくりと近づいていく。
湯船が波打ち、熱いお湯が浴場から溢れていく。
梨花はそのまま大山の後ろへと移動し、そして……
「うひゃああ!!?なっ、何を!?」
「いやー、男どもに揉まれてるのを見てたけどやっぱデカいねー。
名前通りの立派な山だ♡」
おっぱいを揉んだ。
湯船の中で繰り広げられる、執拗な胸への攻撃。
ばしゃばしゃと慌てる大山に、梨花はぴっとりとくっついて離れない。
「へあああっ!?
こ、これが何だとっ!?」
「これが条件。
たまにアタシに揉まれなさい♪」
「そ、そんなのっ、ひゃあん!?」
むにゅりと揉まれ、大山はびくりと身体を震わせる。
「いやいや、結構大事なんだよ?
氣の巡りを感じてもらうために、身体を触ることはいくらでもあるからね。
これくらいのことを軽く許すくらいじゃないと☆」
「あ、アンタ!た、楽しんでいるだろっ!?」
強くなりたくて、身体を賭けるゲームに参加してるというのに……
修行のための対価がまた身体だなんて……
いくら先輩でも、そんなに頻繁に身体を触らせていいわけがない。
「私、そんな風に身体を揉まれたことないけどなぁ…」
「ほらぁぁっ!!」
「にゃっはははは!」
真樹が突っ込みを入れてウソがばれたことで、梨花はようやく大山の乳揉みを辞めた。
「はーっ…はーっ…!」
「うんうん、男に揉みしだかれて屈辱と恥辱に塗れても、闘争心も恥じらいも忘れてない。
ごうかっく!女戦士としての素質は十分だね」
荒く呼吸する大山を見て、梨花は満足そうに笑う。
強く、そして美しい者でこそ女戦士。
淫らな罰ゲームを経てもなお、戦士としての意志も、女としての自覚も失っていない。
このゲームで戦い続ける覚悟をきちんと持っている。
そういう人材こそ求めているものだ。
これからもヴァルキリーゲームズで戦い続けていくこと。
それが、密かに梨花が求める条件だったのだ。
「いいよ、覇氣の特訓に付き合ってあげる♪」
「ほ、ホントか!?」
大山のぱぁっと顔が明るくなる。
彼女もまた、新しい扉を開こうとしていたのだった。
「なんなら、真樹ちゃんも一緒にやる?」
「ぜひ!」
「おろ、意外と早かったね返事」
梨花の言葉に、真樹は食い気味に答えた。
「私、父と瑠璃亜さん以外に覇氣が使える人と会ったことがないんです!
もっと強くなるためにも、一緒に特訓させてください!」
真樹もまた真剣だった。
このゲームで戦い抜くには、まだまだ力不足なのを痛感していた。
一緒に高め合える仲間がいるなら、こんなに心強いことはない。
真樹の目にも本気度を感じた梨花はまた、満足げに笑うのだった。
「おけおけー、それじゃあ覇氣特訓倶楽部、ここに結成ー!
しまってこー!」
「「おぉーーっ!!」」
その場のノリと勢いで、新たな活動が出来上がっていたのだった。
「にしても、覇氣の放出までイケる子かー。
うーむ……」
お風呂から上がり、更衣室へと戻る中。
梨花は、真樹のことで頭を悩ませていた。
強い子がいること自体は喜ばしい。
今の実力は申し分ないし、向上心に溢れている。
間違いなくこのゲームにおいて、スターになれる素質がある。
だがしかし、運営としてはひとつ問題がある。
(次の試合、誰を当てよう?)
更衣室で和気藹々と話す真樹と大山を見ながら、内心悩む梨花であった。
早いもので、これにて3章終了です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回4章は、ライバル登場…の予定。
1つの区切りになる予定ですので、引き続きお楽しみいただければ幸いです。
お盆休みにのんびりしたらストック切れたぁ……
こんな時こそ魔法の言葉!
※気の向くままの不定期更新です。
なので気楽にお待ちいただければ幸いです。




