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3-5:新米対決、決着


「いやーー、すげぇ試合だったぜ!

パワフルなオンナノコ達による、プライドを賭けた闘い!

これでこそヴァルキリーゲームズ!」


大歓声に包まれながら、新人対決は終わりを迎えた。

実況が叫ぶ中、リングに立っているのは、猫耳をつけた女子校生ファイター、真樹。

炎の覆面レスラー女子大生、大山はリングに倒れ込んでしまったままだ。

本気の戦いを見届けた観客達からは、歓声と拍手が上がり続ける。


勝者への惜しみない賛辞と、敗者へ向けられた期待。

それらが入り混じった熱気が、会場を覆いつくす。

試合が終わった時にこそ、観客の満足度が分かるというものだ。


この試合は、観客達にも女戦士ヴァルキリー達の熱意が伝わったことだろう。

彼女たちは真剣に戦うからこそ、見る者を魅了する。

その身体を狙われると分かっていながら、なおも己の信じた道を突き進もうとする強き乙女。

だからこそ観客はみな、いつのまにか魅せられてしまうのだ。


新人同士だからこその、粗削りだが熱くぶつかれる試合。

これをやりきった真樹と大山は、今後も注目されることだろう。

観客を魅了し、試合を盛り上げたという点で見れば、今回の試合は十分成功と言えた。


(まー、まさかこのレベルの『覇氣使い』がいきなり現れるとは思わなかったけどよ)


若干の冷や汗をかきつつ、実況はマイクを真樹に向ける。


「まずは勝者・真樹、おめでとう!!

どうだ、新人同士で本気で戦ってみた感想は?」

「そ、そうですね……強かったです。

正直、かなり危なかったです…」


やや緊張しながらも、真樹は正直に答える。

実際、真樹は1回ダウンを取られている。

かなり強引に押し戻せたからよかったものの、真樹は早くも『とっておき』を使うことになってしまった。


勝ったとはいえ、反省点の多い試合だ。

しかもその多くは、相手を侮っていたからという点に集約されてしまう。

大山の強気さ、頑丈さ、投げと締め技の精度など。

これらを低く見積もっていたからこそ、あそこまで追い込まれたのだ。

これでは綾のことを笑えない。


「まだまだ私には経験が足りていない。

そのことを痛感しました」

「はは、まぁ『覇氣使い』が普通の奴と戦ったら、無事じゃ済まねぇからな。

手加減してんのはしょうがねぇさ」

「それでも、慢心してたのは事実です。

もっと頑張らないと…!」


ぐっと拳を握りながらインタビューに答える真樹。

その姿は、真面目な学生としか見えない。


「はは……参ったぜ。

そこまで謙虚にされちゃ、立つ瀬がねぇ」

「おー、起きたか大山。

どうだ、裏社会の戦いの場は?」


倒れ込んでた大山が目を覚ました。

といっても、まだ立ち上がれないようで、リングの上にどかっと座る格好になる。


「……凄かったな。

アタイが知ってる格闘技とは全然違う。

これが、本気で勝ちに行くってことなんだなって」


大山は座り込んだまま、真樹のことを見上げる。


表のプロレスリングは、どちらかというとお互いの技を見せ合うショーの意味合いが強い。

それはそれでキライではないが、自分は本当に強いのか試したくなった。

そんな時に知ったのだ。

互いの実力を本気でぶつけ合う、現代の闘技場の存在を。


「くくっ、表の世界に帰りたくなったか?」

「まさか!

こんなすげー世界があるんだって、本気で感動してんだ!

このままタダでは帰れねぇよ!」


そこで飛び込んでみた勝負の世界は、自分の想像以上に熱い場所であった。

自分の知らない技の使い手。

本気で戦い合う場所だからこそ生まれる熱気。


自分が求める、熱い戦いが出来る場所がここにある。

なのに、このまま何も出来ずに逃げ帰るなんて真似は出来ない。


ようやく体力が戻ってきたのか、大山はよろよろと立ち上がった。

そして真樹に向き直る。


「今日は楽しかったぜ。

今回はアンタに負けちまったが、アタイはもっと強くなる。

その時は、リベンジを受けてくれよ?」

「はい、もちろん!

私も、凄く楽しかった!」


差し出された手に、真樹もまた熱く握り返す。

本気で戦ったからこそ感じ取れる、お互いの熱意。

熱く握手を交わす2人に、観客席からも歓声が上がるのだった。


「さて、熱い友情シーンも美しいが、一応ゲームはまだ終わってないんでね。

とりあえず、まずは賞金授与といくか」


2人の様子を見てから、実況が仕切り直す。

ある意味、このゲームの本番はこれからなのだ。


「真樹には62万7300エン

思ったよりは伸びなかったな?

まぁ、大山の方にも期待が掛かってたみたいだから、こんなものかもしれねぇな。

それでも、新米としちゃ上々な金額だぜ」

「ありがとうございます」


真樹がいつものように、恭しく封筒を受け取る。

50万の女子校生という肩書がついていた今回の試合。

もしかしたら100万以上いくのではと予想した客もいたようだが、さすがにそこまでうまく上がるわけではなかったようだ。

真樹もまた、まだまだ自分は上がる余地があるのだと気合を入れ直す。


このゲームにおいて、強さは価値だ。

誰も手が出せないような強い者こそ、欲しがる観客というのは現れる。

『普通では手を出せない女』という価値が、そのまま観客にとっての欲望を掻き立てるのだ。


「ちなみに大山の方は、賭け金の合計は43万5700エン

こっちもなかなかだな、ビギナークラスの時からえらく伸びたもんだ。

だがこれはある意味、大山の方が負けるかもと考えた連中が多いってことでもあるからな」

「…だな。アタイはまだまだこれからだ!」


真樹とマッチメイクした時から、大山の方にも期待が高まっていた。

ただ、このゲームにおいて観客からの人気というのは、必ずしも強さへの期待とは限らない。

むしろ、負けると思う方に賭けられるというのが通説。

今回の賭け金の多さは、真樹より弱いと思われていたことに起因すると実況は分析していた。

そして、観客の判断は正しかったことが既に実証されてしまっている。


大山はその評価を正直に受け取った。

表のプロレスの評価は、ここでは全く意味をなさない。

自分はまだ、この裏の闘技場に足を踏み入れたばかりの新米に過ぎない。

だからこそ、燃える。

ここで戦えば、本当に強くなれると思うから。



「…えっと、大丈夫なの?」


真樹が近寄ってきてこっそりと耳打ちする。

その言葉の意味を理解して、大山は少し顔を赤くする。

このゲームの敗者には、この後にもう一仕事あるのだ。


「……まぁ、正直ちと怖いけど、覚悟の上だからな。

気にしないでくれ。

ってか、見る気なのか」

「えぇ、まぁ……」

「はは、アンタって変わってるな」


ペナルティをちゃんと見届けるという、真樹なりの礼儀の仕方。

確かに女子としては少し変わっているかもしれない。

だが、そもそもが裏社会。

変わってる奴の方が多いのだろうと、気にしないことにした。


「いつかアンタを負かしてやるさ。

その時は、アンタの負け様を見届けてやるよ」


二ッと笑った大山は、あえて声のボリュームを上げて宣言した。

これならばきっと、観客にも聞こえただろう。


「…うん、でも負けないよ!

私ももっと、強くなって先に行くから!」


大山の言葉に、真樹も力強く答える。

もう一度、本気でぶつかり合える日を楽しみにして。


「熱い激闘を制した猫耳闘士・真樹!

彼女の道はまだまだ続くぜ!

これからも応援してやってくれ!!」

「「うおおおおおおおっ!!」」



実況の煽りに湧く観客席。

その歓声に見送られながら、真樹はリングを降りるのだった。




「ふぅ……」


リングに残された大山はため息1つ。

熱い戦いが出来た満足感と、戦いが終わった清々しさと、負けた悔しさが入り混じった、複雑な感情。


そんな大山のいるリングに、黒服に案内された男達が上がってくる。


今回のペナルティの参加者たち。

大山に賭けていた者の中で、賭け金が多い上位5名。

今からこの男達に、自分の身体を弄ばれることになる。



正直にいえば怖い。

何せ自分は、本当に男性との縁が無かったのだ。

どんな目に合ってしまうのか、正直想像の域を出ない。

これからのことを考えて、うっすらと涙が浮かんでしまう。


だが、それがルールであると分かってて、このゲームに飛び込んだのだ。

今更それから逃げるような、カッコ悪い真似はしたくない。


覚悟は決まった。

涙をぬぐって再び戦士の目となった大山は、リングの中央に堂々と仁王立ちして男達を迎えたのだった。





「おつかれ~♪」


観客席には、さりげなく端の席を確保している梨花がいた。

なぜかその隣には、真樹の分まで席を開けていた。

今日の試合は満員だったはずなのに…

まぁ、気にしても仕方ないだろうと考え、真樹は空いている席に座る。


「いやー、いい試合だったよ。

真樹ちゃんも、大山ちゃんも、今後が楽しみだね~」

「ありがとうございます」


梨花の評価に礼を返す真樹。

だが、どこか覇気がない生返事だ。


「ふむふむ、まだまだチャンピオンには遠いなぁ、とか考えてる?」

「えぇ。さすがに分かりますか」

「うん、バレバレ。

けどね、そんなの普通じゃん?」


目標にはまだまだ遠い。

そのことに対し、少し思い悩んでいる様子の真樹。

だが、むしろ遠いのは当たり前なのだ。


そんな簡単にたどり着けるような、安い称号ではない。


それでも、その道を進もうとしている覚悟は感じ取れる。

だから、梨花に出来るのは背中を押すことだけだ。


「覚悟が決まってるんなら、一歩一歩進んでいけばいいだけだよ♪」


笑顔で言う梨花に、真樹も頷く。

自分の覚悟は、どこまで通じるのだろうか。

それでも、前に進むと決めたのだ。

このゲームを勝ち上がっていく、その気持ちは揺らいでいない。

へこたれてなんかいられないと、気持ちを落ち着ける真樹であった。


「にひひ、まぁ大山ちゃんも今回でだいぶ覚悟決まったみたいだけどね」


真樹が持ち直したのを見た梨花は、ニンマリとした笑みを浮かべる。




リングの中央には、男達に囲まれた大山が、腕を組んで堂々と仁王立ちしているのが見えた。

そして、大山は宣言する。


「アタイはレスラーだ、どんな攻撃も受け止めるのが信条だ!

掛かってこい男ども!!

生半可な攻めをするってんなら、むしろアタイが抱いてやるぞ!」



(……漢女だわ!)


あれが、覚悟を決めた女子ということなのだろうか。

これからペナルティを受けるというのに、あまりにも堂々と立つ。

その姿が、なんだかカッコよく見えた。










…が。



「じゃ、遠慮なく」

「ひゃああんっ!」


髪に青いメッシュを入れた青年が、大山の正面からあまりにも堂々と胸をつついた。

そして、ちょっとつつかれただけで、大山は蹲ってしまったのだった。


縮こまった女鹿と化した大山に、獣たちがジリジリとにじり寄る。

男達が大山の身体に触れ、取り押さえていく。

そして…



「ひゃ、それは……あああああん!!」


男達の手によって、大山のマスクが脱がされていく。

素顔を晒すことになり、レスラー女子は甘い声を上げるのだった。




「いやー、即落ち。お約束だけどやっぱいいねー」


そんな光景を眺め、ニヤニヤとしながら梨花は呑気に言うのだった。


「真樹ちゃんもいつか、可愛い悲鳴を上げる日が来るのかな~?」


ニコニコ笑顔でいう梨花に、真樹は苦笑して応えるしか無かったのだった。


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