3-4:とっておき
「へえぇっ、まだあるのか。どんだけだよ!」
真樹のとっておき宣言を受けて、大山もまた気合を入れ直す。
互いに立ち上がり、睨み合う。
だが、その動きが鈍い。
「あんだけ叩きつけられて、無事ってのも変な話だ。
実はやせ我慢してんじゃねぇか?」
「そっちこそ、実は結構フラフラなんじゃないの?」
大山の挑発に、真樹もまた挑発で返す。
ジャイアントスイングの遠心力そのままに床に叩きつけ、その後に思いっきり締め付けた。
真樹は平気そうに笑っているが、まったくのノーダメージとは思えない。
一方の大山も、それまでに真樹のパンチやキックをかなり食らっていて、徐々に負担は蓄積されているはず。
「へっ、どうやら次で決めるしかねぇようだな!」
お互い、かなりのダメージを負っているのは間違いない。
どうやらそろそろ決着の時のようだ。
それを感じ取り、互いに構える。
「ん…?」
「すぅぅぅぅ………はぁぁぁぁ……!」
大山は、真樹の様子がおかしいことに気付く。
真樹は目を閉じ、そのまま深呼吸を始めたのだ。
そこから動く様子はなく、立って構えたまま寝てるようにも見えた。
「突っ立ってるとは、余裕だなぁぁ!!!」
このタイミングで瞑想とは、随分と余裕のあることだ。
そう判断した大山は、渾身の拳をかますべく真樹に迫る。
気迫に満ちた表情で、大山が真樹に向かって一撃をかまそうとしていた。
(もう少し取っておきたかったけど……
どの道、いつかはバレるよね。
なら…!)
一方、真樹はもう一度集中し、覇氣を練り直す。
体内の神秘、命の力とも呼べる覇氣。
身体中に巡らせていた覇氣を、再び手に集中させる。
今までとは違う、特別な練り方をした覇氣。
身体を強化するための力ではない。
「っ!?」
大山は異変に気付く。
真樹の右手が、うっすらと光っていたからだ。
「ごめんね」
真樹はそのまま右手を引く。
手の平を開き、掌底の構え。
ただし、その手には光が溢れ、まるで炎が揺らめいているように見える。
そして、真樹はその技を放つ。
「松葉破!!」
真樹の右手から溢れてくる光がひと固まりとなっていく。
そして、それが真樹の掌底によって押し出され、まっすぐ大山に飛んでいった。
真樹の拳大ほどの大きさの光の弾が、かなりの速さで飛んでいく。
「うおああっ!!?」
その光の固まりが、大山の胸に直撃した。
技を受けた大山は、そのまま吹っ飛ばされてロープに引っかかった。
「な、なんだぁ!?
破が出たぞ、破がっ!!
波動的な何かが使えるのか、この猫耳はぁぁぁ!!?」
実況も驚く。
今の真樹の技は、まさしく漫画かゲームでしか見ないような技。
自身の覇氣をエネルギー弾にして飛ばしたのだ。
トンデモ技の登場に、観客席も大いに沸き立つ。
観客席で見ていた梨花も目を見開いていた。
「ほっほう、覇氣を練るだけじゃなく、放出まで出来るとは!
マジで大物の素質ありじゃん!」
『覇氣使い』の多くは、覇氣を身体に巡らせて身体能力を強化して戦う。
だが、その先の段階があることを知る者は少ない。
自らの覇氣を身体の外に放出し、自分以外のものに影響を与える。
それが、『覇氣使い』の第2段階。
ここに到達するには、長い修練と高いセンスを必要とするはずだ。
しかし、真樹はこの歳で既にその段階にいる。
この試合、既に地力の差が出ていると梨花は考えるのだった。
「飛び道具とか、マジかよ…!」
技を食らった大山は、真樹に向き直りながら胸をさする。
まるで真樹のパンチを食らったかのような痛みだった。
シンプルな話だ。
近づくと投げられてしまうのならば、近づかずに勝てばいい。
普通の格闘家ならば出来ないだろう。
だが、真樹にはあるのだ。
近づかずに戦う方法が。
「…まだだぁっ!
まだ、アタイは倒れてねぇぞ!!」
なるほど天敵だ。
こんな技の使い手、表のプロレス界じゃまず出会えない。
だが、まだ自分は立っている。
まだ戦える。
これで終わりになんてさせない!
…そう思った大山の視線の先には、もう一度構えている真樹がいた。
彼女もまた真剣勝負をしているのだ。
ここで終わらせる気でいるのだ。
「私はまだ、先へ行く…!!」
さっきよりも力を込めて。
真樹の両手から光が溢れ、その光る手を合わせるようにする。
二つの光の弾が合わさり、さらにまばゆく光っていく。
その光は、更に更に大きくなっていく。
「極・松葉破!!!!」
両手から放たれた光は、巨大な球となって飛んでいく。
大山の身体を覆うような、人間大サイズのエネルギー弾が大山を襲う。
「く……うおおおおっ!!」
大山は目の前に腕をクロスさせ、防御の構えをする。
まるで巨人の拳で殴られてるかのような、猪か何かが突っ込んできたかのような。
強い衝撃が大山を襲う。
だが、残る力を振り絞って、その光の弾を受け止めたのだ。
光の弾はなおも前に進もうとしている。
その力をモロに受けている腕、必死に踏ん張る足。
ゴリゴリと体力が削られるような痛みがする。
だが、やがて光の弾は力を失ったかのように霧散していった。
「ま、まだ……」
大技を受けきった。
やりきった。
「…!?」
…そう思った瞬間に気付く。
腕をクロスした自分の目の前に、真樹がいたことに。
「はああっ、桜花砲!!」
「ぐふおおぉぉっ!?」
それは、真樹なりの礼儀だったのだろうか。
それとも、意地を見せるためだったのだろうか。
飛び道具技を使った彼女が、トドメに選んだのは至近距離用の技。
大山が極・松葉破を受けている間に目の前に接近し、ガラ空きだった腹筋に正拳突き。
最初に受け止められた技を、きっちりとクリーンヒットさせたのだった。
「ぐ……あ……」
防御の意識を腕に回していた大山は、腹筋に力を入れるのが間に合わなかった。
ただでさえ大技を受け止めるのに手足に力を込めていて、体力がほとんど残っていなかった。
その一瞬の隙を綺麗に捉えられ、腹の痛みが全身を巡る。
身体から力が抜けていく。
これまでに蓄積されたダメージが、一気にのしかかってきたのだ。
ふらりと身体が揺れ、そのまま倒れ込んでしまった。
「お、大山が倒れた!!
ダウンだ!!
カウント入ります!!」
大山がうつ伏せで倒れたのを見て、実況がカウントを取り始める。
その様子を、真樹はただ見下ろすのみ。
「3!」
「くっ……」
大山は倒れたままだ。
なんとか立ち上がろうと、もがいてはいる。
「2!」
「くそっ……まだ……」
意識はある。
声も上げている。
まだ諦めてはいない。
「1!」
「ちくしょう……」
しかし、もう限界だ。
身体にまるで力が入らない。
結局、起き上がれないまま…
「0!
WINNER、真樹ーーー!!
新人対決、激闘を制したのは猫耳闘士だぁ!!!」
「「うおおおおおおおおおおおっ!!!!」」
勝敗は決した。
大技飛び交う試合だったことに、大興奮の観客達。
2人の娘の激闘を称え、大歓声が上がるのだった。