3-2:真樹VS大山
「レディィィス、アァァンド、ジェントルメェェェン!!
今宵も熱い闘いをお届けするぜェ!!
今日の試合は皆さんお待ちかねぇ!!
先日ノービスクラスに上がったばかりの、新米同士の直接対決だァ!!」
「「FOOOOOOOOOOOOO!!!」」
実況のナレーションに、会場から歓声が上がる。
地下に張り巡らされた道の先にある、ヴァルキリーゲームズの会場。
今日の注目の試合は、ここノービスクラスの会場で行われる。
新米たちが本格的に戦うことになる、ノービスクラス。
このクラスで使われるのもビギナークラスと同様、ロープで囲まれたリングだ。
ただし、ビギナークラスのものよりも少し広く、闘いのフィールドが広がっている。
また、それに伴って会場となる部屋も大きくなっていて、観客の動員数も相応に上がっているのだ。
クラスが上がるほど、より大人数に見られ、賭けてもらえる。
クラスが上がるほど賞金額が上がりやすくなるのも、そういう理屈というわけだ。
「お前らも期待してたんだるぉ、若い子同士が火花を散らし合う様を!
そんなご期待に沿えるよう、名乗りを上げた奴らがいるぜ!
拍手と声援で迎えてやってくれ!!」
「「うおおおおおおおおお!!!!」」
その言葉に会場が盛り上がる。
ビギナークラスより広くなったとはいえ、100人入るかどうかの地下闘技場である。
観客の叫びが反響し、ノービスコロシアムはかなりの熱気に包まれていた。
元々、ノービスクラスというのは新米の登竜門的なものである。
まだまだ無名の女戦士達が、名と顔を売っていく場所。
それ故に、ノービスクラスの試合をわざわざ観戦していくのは、よっぽどヴァルキリーゲームズを気に入っているコアな観客というものが多かった。
観客がまばらな試合など、珍しくもなかったのだ。
ところが、今日に限っては珍しく満員である。
ここ最近、何かと話題のミト・コロシアムの新米たち。
その直接対決とあって、噂の新人女戦士達を一目見よう、あわよくば…
と考えるヴァルキリーゲームズのファンが押し寄せたのだ。
「まずはァ、ビギナークラスの賞金最高額の記録を更新!
50万の女子校生!!
デビュー当初から大注目の可憐な花!
だが、この細腕からは想像できないパンチ力の持ち主だ!!
可愛い花には大砲がある!?
猫耳闘士・真樹ィィぃィィ!!!」
(うわぁ、持ち上げられてるなぁ……)
やや緊張した面持ちで、猫耳セーラー服の女戦士が姿を現す。
その途端に、会場からは大歓声が上がる。
「「うおおおおおおおおお!!!!」」
「マキちゃあああああん!!」
「猫耳まりああああああああじゅ!!」
「女子校生……じゅるり」
「今日も腹パン期待してるぜーー!!」
多くの男達が、真樹の姿を見て声を上げる。
相変わらず応援に下衆な意図が込められているが、ここにいる多くの観客が、ビギナークラスでのデビュー戦から追いかけているファンだ。
彼女の可憐さと、その強さに惚れ込んだ者達である。
デビュー間もない短期間でしっかりとファンを付けてきた真樹は、確かに期待の新人と言えた。
「対するは、表のプロレス界から殴り込み!!
強さを求めて地下へとやってきた燃える女子大生!!
セクシーボディにあんまり見惚れるなよ!?
あっという間に捻って、投げられて、締められちまうぜ!!
ファイアーレスラー・大山ァァァァ!!!」
「おっしゃああああ!!!」
気合の入った雄叫びと共に会場入りしてきた、今回の対戦相手。
大山は、まさしくプロレスラーというコスチュームを纏って現れたのだった。
大きな胸を強調するようなトップスには、炎をあしらった意匠が施されている。
ショートパンツにもブーツにも同じように炎が描かれており、全体的に赤のイメージで統一している。
目元だけを隠すタイプのマスクを身に着け、そのマスクにも炎が描かれていた。
全身炎属性の衣装、まさしくファイアーレスラーの名に恥じない選手だ。
緊張しいの真樹に対し、大山は堂々と腕を上げ、観客にアピールしながら会場へと入っていく。
「「うおおおおおおおおお!!!!」」
「オオヤマあああああ!!」
「投げ!寝技!」
「おっぱい!おっぱい!」
「レスラーの本気見せてくれぇ!!!」
堂々と入場するこちらにも、既に固定ファンがついていた。
知名度はそこそこ、名前こそ別であるが、元々表の女子プロレス界にいた大山である。
かなりマニアックなファンが、大山がヴァルキリーゲームズに参加していると聞きつけ、追いかけてきたのだ。
ビギナークラスを潜り抜けた彼女には、真樹とはまた違ったファン層がついている。
彼女もまた、注目の新人女戦士なのだ。
「へへ……今日の闘い、楽しみで仕方なかったんだよな!」
「私もです。でも、絶対負けません!」
「ははっ、いいねぇ!
このピリピリとした緊張感!
アタイはやっぱり、こっちの方が好みみたいだ!」
会場が盛り上がる中、リングに上がった2人は互いに笑顔を向け合う。
だが、その表情には闘志がにじみ出ていた。
互いに技を見せつけるショーでもあるが、本気の殴り合いの場でもあるコロシアム。
本当に強い方が勝つ。
その舞台に立つことに、血が沸き立つのだ。
気合は十分。
その闘志は、観客席にも十分に伝わっている。
「さぁBETの時間だ!!
レギュレーションはTOP5!
ノービスクラスの初戦だから、最低金額は5000燕な!」
クラスが上がったことで、また賞金が上がっている。
観客動員数も増えているので、総額はもっと増えるだろう。
「ちなみに情報によると、どっちもオトコ経験は無いらしいぜ?
若い子と初めてのお楽しみをしたいなら、今日は絶好の賭け日和だ!」
「「「うおおおおおおおっ!!!」」」
「「うぅ…」」
実況の煽りに、2人して顔を赤くする。
お金を賭けてもらう以上、こういう煽りをされるのは仕方ない。
若く可憐な女子校生、しかし人気実力ナンバーワンの真樹か。
爆乳マッスルな女子大生、表の実績もある大山か。
どっちが負けるかで観客達は盛り上がる。
観客の人数が増えているということは、ペナルティに参加出来る倍率も高くなるということだ。
注目の新人に手を出すなら、相応の額を出さなければいけないだろう。
しかし、どちらも今後の注目株。
手を付けるなら今、と考える者がいてもおかしくはない。
そして、結果的に多くの観客がお金を落としていく。
欲望があるほど盛り上がる、因果なルールである。
「さぁさぁBETが出揃ったようだぜ!
ほほう、結構割れたな!
どっちもピチピチの新人だってのもあるが、女としてのタイプも違うもんな!
金額もなかなかと来た!
この賭け金額に見合うような、熱い戦いを期待してるぜ?」
実況の煽りに、真樹も大山も改めて向き直る。
所定の位置につき、気合を入れ直す。
「こぉぉぉぉ……」
真樹は改めて深呼吸、覇氣を全身に巡らせる。
手加減なんかするつもりはない。
恥じらいは負けた時までとっておく。
今はただ、目の前の相手を倒すことに集中する。
大山の方も拳を合わせ、手からコキリと音を鳴らす。
気合は十分、倒れなければ勝ちだ。
「よぉし、それじゃあそろそろ始めんぜ!!
レディィィィーーッ!!!
ゴーーーーッ!!」
ついに試合が始まった。
真樹はまず軽く後ろに下がって様子見、といこうとしたのだが……
「…?」
真樹はふと大山の様子に気付いて足を止めた。
観客達も不思議に思っただろう。
大山の方が、構えを解いて手招きしているのだ。
手の平を上にして、掛かってこいと挑発しているのである。
「へっ、アタイはレスラーだ。
プロレスではな、相手の攻撃を一発喰らうのが礼儀なんだよ。
1発撃たせてやるさ、かかってきな!」
「な、なんとォ!!
大山、攻撃を受け止める宣言!!
真樹の力を知っててやってるのか、だとしたらかなりの度胸だぞ!?」
実況の言葉に会場もざわめく。
当の真樹ですら躊躇するほどの、大胆な宣言だった。
「……いいんだね?」
「アンタのパンチ、どれほどのものか興味があるって言ったろ?
遠慮しなくていいぜ?」
真剣に問う真樹に、大山はニヤリと笑って答える。
そこまで言われては、乗らないわけにはいかない。
「後悔しないでよね!」
覇氣を集中、右手に力を込める。
一気に近づいて、得意の必殺技を放つ。
「はああああっ、桜花砲!!!」
どこぉぉっ!!
至近距離で放つ、全力の正拳突き。
それは確かに、大山の腹に入った。
が……
「………っ!?」
「なるほど……確かに痛いぜぇ……けど!」
大山の言葉に、真樹は驚愕する。
軽く顔を曇らせた大山だったが、受けきってみせた。
腹筋で防がれたのだ。
大山のコスチュームはへそ出しルック。
そこを的確についた腹パンだったのだが……
綺麗に割れた腹筋が、見事に真樹の腕を止めてみせたのだ。
そのまま大山は、真樹の肩をがしっと捕まえる。
「今度はこっちの番だ、まさか受けねぇとは言わねぇよな!!!」
「くっ……いいよ!受けて立とうじゃない!!」
大山の挑発に、真樹はあえて乗った。
武術家としての意地だろうか、戦力分析のためか。
いずれにせよ、彼女に負けたくなかったのだ。
覇氣全開、身体に巡らせる。
どこからでも来いと身構える真樹だったが…
「それじゃ、遠慮なく!」
「えっ、わっ……!?」
大山はそのまま真樹の身体を後ろに回し、彼女の腰に手を回す。
両腕でしっかり真樹の腰をクラッチ。
観客の中には、この時点で大山が出そうとしている技に気付いた者もいただろう。
「おらあああっ、ファイアースープレックス!!!」
「うわああああっ!?」
大山はそのまま真樹を持ち上げ、思いっきり身体を逸らす。
勢いをつけたまま放り投げ、真樹を頭から叩きつける。
いわゆるジャーマンスープレックスだ。
どごぉぉぉっん!!!
頭から落下した真樹は、派手に打ち付けられる。
リングに衝撃が走り、床が激しく揺れる。
「がっ……!」
「大山の技が決まったぁ!!
スカート全開、スパッツが綺麗に晒されてるぞ!!
ってか、頭からいったが大丈夫かぁ!!?」
大山に腰を掴まれたまま叩きつけられた真樹は、下半身を上にして派手に足を開いたままになってしまった。
いわゆる、まんぐり返りの状態である。
ド派手かつ色気も満載の大技炸裂に、会場も盛り上がりを見せていく。
ひょっとしたら今の一撃で勝負が決まったかと思った人もいただろう。
「くっ…!」
「おっと!」
だが、真樹はすぐさま手を床についた。
そのままくるくるとコマのように身体を回転させて、大山の腕を振り切る。
大山の方も、すぐに腕を離して真樹から離れた。
回転している真樹が、そのまま蹴りをかまそうとしていることに気付いたからだ。
逆立ちのまま回転していた真樹が、綺麗に体勢を戻していく。
蹴りを避けた大山も、起き上がって真樹に向き直った。
互いに体勢を整え、再び睨み合う両者。
「ったたた……危なかった。
私じゃなかったらヤバかったよ?」
「へぇぇ?
マジで頑丈なんだな、アンタ!」
頭をさすりながらの言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうな顔をする真樹。
その様子に、大山もまたニヤリと不敵に笑う。
笑顔とは本来、攻撃的なモノである。
強敵を前にする喜び。
バトル好きの娘2人は、お互いに笑顔を向け合うのだった。




